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NODA・MAP『フェイクスピア』が開幕~想像を超える展開と演劇ならではのエネルギー

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NODA・MAP『フェイクスピア』舞台写真

2021年5月24日(月)、NODA・MAP『フェイクスピア』(作・演出 野田秀樹)が開幕した。4月に緊急事態宣言が出てGW開けに延長され心配される中、予定通り迎えた初日。想像し得ない展開と演劇ならではの表現は格別なエネルギーを手渡してくれた。

芝居の題名に「フェイク」がついてはいるけれど、野田秀樹は「嘘」をつかない。『フェイクスピア』は事前に明かされたわずかばかりの情報のひとつ「恐山」「イタコ」からほんとうに始まった。イタコ見習いの皆来アタイ(みならいあたい:白石加代子)のもとにやってくるふたりの人物mono(もの:高橋一生)と楽(たの:橋爪功)。アタイに口寄せをやってもらうために来たはずが、monoと楽のフェーズになってアタイの仕事は進まない。3人のなかなか本題にいかないやりとりは、白石、橋爪、高橋、三者三様の巧みな技によって目が離せない。事前に野田にインタビューした時、ここでさりげなく出てくる言葉があとあと重要になってくると語っていたが、オリジナルなものから引用されたものまで言葉が突風のように走り抜けていく。それと同時に、烏に扮したアンサンブルたちも素材とデザインが鮮烈な衣裳(ひびのこづえ)をなびかせ素早く駆けまわるものだから視覚も聴覚もあっちこっちと忙しい。時間も、場所も、年齢も、性別も、キャラクターも固定されることなく、ブレヒト幕がしゃーーっと舞台をシャッターするごとにたちまち切り替わっていく。まさに野田マジック。

まばたきも息継ぎも惜しんで目の前に起こっていることを追いかける。その中でmono がそっと抱えている箱の秘密は静かに立ち止まっている。高橋一生がその箱のように喧騒と静けさの間(はざま)を演じていた。高橋はNODA・MAP初参加である。映像の世界で繊細な感情表現に定評のある高橋は、舞台経験も豊富で、昨年は祝祭音楽劇『天保十二年のシェイクスピア』でダークヒーローを魅力的に演じていた。もともとスケボーが得意で運動神経が良い印象のある俳優で、そのスキルを映像で見る機会は少ないが、舞台こそ彼の身体能力を堪能できる機会である。今回は、身のこなしの俊敏さ、スローモーションにおける下半身の安定感などを発揮。その一方で、倒れたりうずくまったりしているときのなんともしなやかで儚い曲線が野田秀樹の詩的な世界にハマった。言葉数と動きのジャングルの奥の侵し難い澄んだ井戸水みたいなものに高橋はなっていた。照明(服部基)もいいのだろうけれど。舞台の上手のシテ柱(美術:堀尾幸男)によりかかり傍観しているところもじつに自然な一般男性というふうで、劇的な動きとナチュラルな動きを自由自在にやれるところは、長年、映像も演劇もやってきた経験の賜物であろう。

NODA・MAP『フェイクスピア』舞台写真 (撮影:篠山紀信)

この不思議な世界をひっかき回すのが、前田敦子である。元アイドル、今は映像の世界で俳優として活躍しているが、蜷川幸雄、岩松了、三浦大輔の舞台にも出演してきた。『フェイクスピア』では伝説のイタコ、星の王子様、白い烏の3役を演じ分け、要所要所に登場する。歩留まり考えず、のっけから全力で、いかにも虚構な衣装を着こなしそのキャラクターを堂々と演じきる、今、この瞬間だけ信じているみたいな様は、さすが元アイドル、しかも不動のセンターだっただけはある。決してパーフェクトではなく喉を痛めないように気をつけて〜とか心配になるところも含め、魅きつけてやまない。

いろんな風が巻き起こる中、白石加代子と橋爪功のベテラン勢の吹かす風はとりわけ強烈である。何かと若さが大事にされる世の中で演劇の良さのひとつは生きてきた時間が強みになることであり、このエイジレスのすばらしさをふたりが見せつけてくれた。『フェイクスピア』を見ていると実年齢なんて意味を成さない気がしてくるのだ。白石は年齢不詳のチャーミングさは不変だし、橋爪功も80歳だなんてそれこそ「嘘」でしょ?と思ってしまう。

「フェイクスピア」は「言葉」の物語で、フェイク(嘘)のはびこる世の中で「まこと」の言葉を探し求めていく登場人物を演じている俳優たちを見ていると、目の前にいる彼らの肉体(及び肉声)にこそ「まこと」が宿ると思え、どんな言葉で装飾しても歯が立たないと痛感する。そんな言葉の矛盾を嗤うかのように野田秀樹は大作家・シェイクスピアと謎のフェイクスピアの両方をボーダーレスに演じている。

シェイクスピアとフェイクスピア、フィクションとノンフィクション。何がほんとうで何が作りものなのか。先程なにげなく発されていたように感じた言葉はいつしかまったく違うものに変容する。「マクベス」の3人の魔女の鍋のようにあらゆるものをグツグツと煮込んで、具体的な出来事のなかにある普遍性を取り出して神話化していく作家の力が思いがけないクライマックスに突入していく瞬間は、とてつもない緊張感。劇場は真空のようになる。そう、この体験の行き着く先を言葉にすることは難しく、実際にこの目で見て、耳で聞いて、“体験してみて!としか言えないのである。

カーテンコールに登場した俳優たちはホッとしたように時々、顔を見合わせたり、客席に拍手を返したり手を振ったり、柔らかい雰囲気が漂った(野田だけはいつものごとく素に戻る余韻を残さないかのようにお辞儀の仕方が素早くそれはそれで良いなと思う)。今の時期、どうしてもコロナ禍が気にかかるが千秋楽まで完走してほしいとただただ祈る。

NODA・MAP『フェイクスピア』舞台写真 (撮影:篠山紀信)

公演初日を終えて発表された高橋一生と野田秀樹のコメントを以下に紹介する。

◎高橋一生コメント

劇場で稽古できる期間が結構しっかりあったこともあって、稽古でやってきたものをブレずにそのまま出すことができたかなと思います。カーテンコールで たくさんの拍手をいただいて、白石加代子さん、橋爪功さんと手を繋いだ瞬間、 温かかったんです。人と人との繋がりの素敵さを改めて実感した気がします。劇場でみんなで分かち合うその一体感も、肉体があってこそ。仮想の世界では味わえないものだと思います。ぜひ劇場で、この夢がまた夢に繋がっていくような複層的な不思議な世界を体感していただけたら。できることなら、僕も客席で観たいくらいです。劇場で初めて共有するという本来の楽しみ方で、味わっていただけたらと思います。

◎野田秀樹コメント

ほっとしたというのが、初日を終えたいちばんの感想です。久しぶりにストーリ ーを捨て置いたようなところがあるこの芝居がどう受け入れられるのか、いつも以上に全く見当がつかなかったので。お客さんの集中力がどんどん高まって いくのがわかって、非常に嬉しかったですね。一生をはじめ、みんなよくやってくれたので、とても感謝しています。稽古初日に「演劇の底力を見せてみたい」 と言ったんですが、それに近いことがやれたのかなと感じることができました。 たぶん、あまり観たことのない芝居だと思うので、SNSの感想をチェックしたりしないで、なるべく無で観てください。できれば、シェイクスピアすら知らずに観に来て欲しい(笑)。演劇の観客は、第三者ではなく当事者です。劇場でお待ちしています。

取材・文=木俣冬

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