テレビ撤去に動画封印…ASDの長女と妹の「タブレット戦争」を乗り越えたい!わが家のデジタルメディア環境調整記録
監修:室伏佑香
東京女子医科大学八千代医療センター 神経小児科/名古屋市立大学大学院 医学研究科 生殖・遺伝医学講座 新生児・小児医学 博士課程
頼りつつも距離を取りたい、デジタルメディアへの矛盾した気持ち
「子どもに動画を見せ過ぎているかも」と悩む方は多いと思います。
わが家も同じで、これまで何度もデジタルメディアとの“ほど良い距離感”を模索してきました。
「コンテンツの内容にもよる」「親の関わり方でも変わる」「親が管理することが大事」とはいいますが、子どもの年齢によっても関心や親子の関係性は変化するので、実際のところ親が完璧にコントロールし続けるのは至難の業のように私には思えます。
わが家も未だ試行錯誤の途中ですが、ここまでの過程がどなたかのヒントになるかもしれないと思い、わが家におけるメディア視聴の変遷を振り返ります。
テレビに頼っていた時期
わが家では、長女・まゆみが2歳になる頃からテレビ番組や動画を頻繁に見せるようになりました。
この数か月後にASD(自閉スペクトラム症)と知的障害(知的発達症)の診断が出るのですが、当時のまゆみはコミュニケーションが非常に難しく、一緒に遊びたくてもやりとりが成立しない状態でした。
働きかけに反応しないので必然的に独り遊びを見守る形になるのですが、一方で、まゆみは物への興味はとても強かったのです。
何でも触ったり口に入れたりするので、行く先々でまゆみの背中を追いかけ、危険があれば制止し、そのたびに癇癪を起こされ、消耗して帰る。そんな日々が続いていました。
ちょうどその頃、私は次女・あずさを妊娠中で体調が不安定だったこともあり、家の中ではリビングのテレビに頼る時間が増えていきました。一瞬たりとも目が離せないまゆみでしたが、メディアの視聴中はテレビの前でジッとしてくれるので、私も家事をしたり休憩したりすることができたのです。
一定時間見せたら目を休める、動画の後はふれあい遊びをする、寝る前の2時間は点けない、など一応のルールは設けていましたが、「2歳の子に動画を長いこと見せてしまっている……」という罪悪感はどうしてもありました。
「子どものデジタルメディア視聴は社会性の発達に影響する」といった話もあり、元より発達に遅れのあるまゆみに見せることへの不安も感じていましたが、それでも、“親子で安心・安全に過ごすためのツール”としての必要性が勝り、デジタルメディアは生活するために不可欠なものと捉えていました。
少し距離を置こうとした時期
その後も、一日のうち1~2時間ほど動画サイトやアニメ映画を見せる日常が続いていました。
変化があったのは、長女が年中、次女が2歳児クラスになった年です。
次女の成長とともに、少しずつ子どもたちの見たいものが食い違うようになったのです。
チャンネル争いの激化により、次女は怒り狂い、長女は爆泣き。子どもたちの動画タイムが親の休憩になるどころか、ストレスの種になってしまいました。
順番待ちを身につける良い機会かもしれない、とポジティブに捉えて何度も繰り返しルールを教えましたが、相手は知的障害(知的発達症)のあるASD(自閉スペクトラム症)の4歳児と、知的な遅れはなくともイヤイヤ期真っ盛りの2歳児です。まぁ無理でした、いろいろと……。
ある日とうとう私の方が爆発し、「こんなものがあるからいけないんだ‼」とリビングからテレビを撤去しました。
“撤去”といっても2階の一室に移動させただけで、視聴ルールとしては「テレビが見たかったら2階へ行こうね」というゆるい変更。
ただ、無料動画サイトの視聴はケンカに発展することが多かったので、移動したついでにアプリも厳選することにしました。使用するアプリは会員制のものだけにして、見てもいいのはプロの作った子ども向け作品だけ。
生活空間からテレビを切り離した効果はテキメンで、見たがる素振り自体がなくなり、子どもたちがテレビを見る時間は激減しました。
次の問題は、それまでテレビ視聴にあてていた時間をどう過ごすかです。
この頃、長女はASD(自閉スペクトラム症)の子どもによく見られるクレーン現象の全盛期で、意思表示をしようとするたびに物理的に私の手を借りにきていました。次女も「ママママ!ママママ!」と、常に二人にくっつかれている状態で、無策のままでは炊事もトイレもできません。
そこで、それまでテレビ台のあった場所にキッズデスクと学習用タブレットを置いてみました。
「なんだ、結局デジタル画面を見せるんじゃないか」と思われるかもしれませんが、単に動画を眺めていた頃とは明らかに子どもたちの反応が違いました。
好きなキャラクターが画面にいてくれるけれど、動画ほどのめり込まないせいか、大きなケンカにならないのです。
タブレット学習にも賛否はあると思いますが、自分で考えながら手を動かして進めていくだけでもわが家にとっては一歩前進。
これまで完全に受動的だったテレビタイムが、学習用タブレットのおかげで少し能動的なものに変わりました。
子どもたちが交代で取り組む姿を横目に私はキッチンで唐揚げを作れるようになり、ようやくわが家に平和が訪れたのでした。
小学校入学で崩れた平和
それから2年近くの間、学習用タブレットのおかげでリビングは穏やかになり、毎日の学習習慣もついて言うことなしでした。
たまに見たいものがあれば2階へ上がり、少しテレビを見たら食事やお風呂のタイミングで降りてくる。
わが家もやっとデジタルメディアと良い付き合い方ができるようになったと信じていました。
しかし長女が小学校に上がると、その様子が一変。長女が学習用タブレットに触りもしなくなったのです。
理由は、大好きだったキャラクターが画面から消えてしまったから。
小学生講座の新キャラクターに興味が持てず、タブレット教材への興味を失ってしまったのでした。
さらに環境の変化による疲れからか、まゆみは突然泣いたり怒ったりと情緒不安定になることも増えていました。
そして私は、タブレットでの動画視聴を解禁してしまったのです。私の古いiPadを使い、リビングで動画サイトを見ることを許しました。
この時の判断を、後に大後悔することになります。
二転三転の方針
その日から、「たぶれっとチョウダイ」と催促される日々が始まりました。
「ま、まゆみが要求を言葉でしゃべっとる‼」と喜んだのも束の間で、すぐにイライラのほうが勝るようになりました。
まゆみに見せるからには、あずさにも見せないと不公平になります。あっという間に、姉妹ゲンカの日々に逆戻りしてしまいました。
タブレットでの動画視聴は15分交代 トータルで1日1時間まで キッズ用アプリで見ること
親が管理して、ルールをしっかり守らせれば大丈夫。
最初はそう考えていたのですが、次第にそれも難しくなりました。
15分で自動的に切れるように設定すると、楽しんでいた動画がブツ切りになって大爆発。
ならばと、視覚支援用のタイマーを目安にしてなるべくキリの良いところで交代するようにしても、やはり機嫌は悪くなる。
交代する時に長女が切り替えられずに泣いてしまうと、次の番の次女が「うるさ~~~い‼」と怒ってまたケンカ。
その上、次女は私の目を盗んで少しずつタイマーの残り時間を増やしている始末……。
―――ダメだ。わが家にタブレット視聴は尚早であった。
私はリビングでの動画視聴を完全に取りやめる方向へ全力で舵を切りました。
子どもたちがどこまで理解できるかは分かりませんでしたが、「明日からタブレット視聴はできなくなります」と宣言し、どうしてそうするのかを説明しました。
次女はもちろん食い下がり、「明日から仲良く見るからぁ!」と泣いてお願いしてきましたが、「今日まで我慢してきたけど、ママにはタブレットがあることで家族の仲が悪くなってるように見える。それが耐えられないくらい悲しい。まゆみとあずさが譲り合いを覚えて『もう大丈夫だな』と思える日が来るまで、タブレットはサヨナラしよう」と伝えてデバイスを子どもの前から隠しました。
そもそもが私の判断ミスだったので、楽しんでいたものをいきなり制限してしまう申し訳なさはありましたが、ダラダラ視聴とケンカが習慣になってしまっている以上、少しずつフェードアウトさせるのは難しかったのです。
動画以外の楽しみを増やすために
動画視聴をなくす代わりに、子どもたちにとって楽しめる時間を増やそうと思いました。
まず取り入れたのは、外遊びの時間を増やすこと。
晴れた日の明るい時間帯は、できるだけ子どもを庭に出す。
わが家の庭には、単管パイプで組んだ簡易アスレチックや、小さいながらもいろいろ育てている畑があり、外に出さえすればしばらくは遊んでくれました。夏はビニールプールも活用し、庭で過ごす時間を増やしました。
大体の様子であればリビングの掃き出し窓から見えるので、家事をしながら見守ることもできます。
さらに、“一人でもできる室内遊び”を充実させるべく、おもちゃの見直しもしました。
まゆみには、「こういうの大好きだよね」とタッチペン絵本やピアノ絵本を新しく用意しました。自分から欲しいものを言えず、興味の幅も狭いまゆみなので、“確実に好きなもの”を増やす狙いです。
一方あずさは、その時々のブームがはっきりしているので、本人に聞きながら工作素材や文房具を追加しました。
また、あずさはまゆみが触らなくなった小学生講座の学習用タブレットで引き続き遊んでくれているので、動画視聴が禁止になった最初こそ抵抗したものの、割とすぐ納得して受け入れてくれました。
難しかったのはまゆみです。
まゆみが新しいおもちゃで遊び始めると、あずさも気になって奪いにいってしまうのです。
そこでまたケンカが起きてしまい、しかも引きさがるのはいつもまゆみでした。
あずさを諭そうにも、4歳(当時)のあずさは自制できる時ばかりではありません。
そのうち、まゆみはあずさの手の届かない場所におもちゃを隠すようになり、あずさの前では出そうとしなくなりました。
そして私の前に来て言うのです。
「たぶれっと、チョウダイ」
私は頭を抱えました。
自分の中のデジタルメディアの線引きを見直し、まゆみが真に必要としているものについて考えた話は、次の機会にお話しします。
執筆/にれ
デジタルメディアとの付き合い方について、ご家庭でのさまざまな工夫を共有してくださり、ありがとうございます。
発達特性のあるお子さんにとって、動画やタブレットは単なる娯楽ではなく、安心できる刺激や気持ちを落ち着ける手段になっていることもあります。一方で、切り替えの難しさやきょうだい間のトラブルにつながることもあるため、付き合い方に悩まれている親御さんはとても多いと思います。私自身も大変参考になりました。家族が心穏やかに、笑顔で過ごせる時間を保つこと、そしてそのために保護者の心身の健康が守られていることは、子どもの成長にとってとても大切だと思います。デジタルメディアは、使い方によっては学びや興味を広げるきっかけにもなりますし、ご家族が日々の生活を回したり、少し一息ついたりするための助けにもなります。子どもにとっても保護者にとっても安全で穏やかに過ごせる時間を作るために、メディアを上手に利用することは、決して悪いことではないと思います。
一方で、子どもの年齢や発達段階、興味の変化、きょうだい関係、家庭の状況によって、ちょうど良い距離感は変わっていきます。デジタルメディアとの付き合い方は、「一度ルールを決めたらずっと守る」というものではなく、その時々の子どもと家族の状態に合わせて見直していけると良いですよね。(監修:小児科医 室伏佑香先生)
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。