「おずおず」「のっそり」…オ段のオノマトペのイメージとは? 言語学者・秋田喜美さんが日本語のオノマトペを徹底解剖!【NHK俳句】
「O」を含むオノマトペのイメージとは? 秋田喜美さんの解説を紹介!
「おずおず」「のっそり」「ろんろん」…オノマトペは擬態語や擬音語の総称です。
2025年度『NHK俳句』テキストに掲載の「オノマトペ解剖辞典」は、新書大賞2024(中央公論新社主催)で大賞を受賞した『言語の本質』の共著者で言語学者の秋田喜美さんによる連載です。
様々なオノマトペを俳句とともに徹底解剖するこの連載で、日本語への興味を深め、俳句作りのヒントも学んでみましょう。
今回は『NHK俳句』テキスト2026年2月号から、母音の「O」を含むオノマトペに宿るイメージを見ていきます。
母音 O を含むオノマトペ
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母音のみが異なるオノマトペのペアで、意味もペアになっているものはあるでしょうか? 意外と見つからないはずです。
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「たらたら」と「だらだら」は母音ではなく、子音の清濁のみが異なり、なおかついずれも液体が垂れる様子を表します。違うのは液体の量。「だらだら」のほうが多めです。
一方、母音のみが違うオノマトペを挙げてみると、「だらだら」と「でれでれ」は、片や液体を、片や締まりのない様子を表します。「たらたら」と「ちりちり」と「つるつる」も、それぞれ表す状況が随分違います。そんな中、「たらたら」と「とろとろ」は、いずれも液体の流れを表せるという点で、意味的にペアになっています。「だらだら」と「どろどろ」もそうです。実は、現代日本語では、ア段とオ段の間にだけ、いくらか体系的な対立関係が見られます。そのため、オ段の意味は、ア段と比べるとよくわかります。
ア段には大きなイメージが宿ります(十月号)。オ段のオノマトペは、ア段に比べ小さく控えめなイメージを持ちます。「たらたら/だらだら」が汗などが盛んに流れる様子を表すのに対し、「とろとろ/どろどろ」はシチューのような濃度の高い液体がゆっくり流れる様子を表します。「ぱきぱき」と「ぽきぽき」は、ともに硬い物体の破壊音ですが、「ぱきぱき」は板チョコなど平面的な広がりを持つ物体、「ぽきぽき」は枝など直線的に伸びる物体に使われます。ア段よりオ段が控えめなのは、AよりOのほうが口の開き方が小さいことによります。ただ、オ段が表す小ささは、イ段が表す小ささほどには小さくありません。「ぴきぴき」というオノマトペは一般的ではありませんが、もし破壊を表すなら、「ぽきぽき」よりも細い物体に使われるでしょう。
『NHK俳句』テキストでは、句例のオノマトペを解説しながら、オ段が持つ暗さや丸っこさといったイメージについても明らかにしていきます。
講師
秋田喜美(あきた・きみ)
1982年、愛知県生まれ。名古屋大学文学部准教授。専門は認知・心理言語学。著書・編書に『オノマトペの認知科学』『言語の本質――ことばはどう生まれ、進化したか』、Ideophones, Mimetics and Expressives など。
※掲載時の情報です
◆『NHK俳句』2026年2月号より「オノマトペ解剖辞典」
◆イラスト:川村 易
◆参考文献:『現代俳句擬音・擬態語辞典』(水庭進編・博友社)/『日本語のオノマトペ――音象徴と構造』(浜野祥子著・くろしお出版)/ Akita, K., McLean, B., Park, J., & Thompson, A. L. (2024). Iconicity mediates semantic networks of sound symbolism. The Journal of the Acoustical Society of America, 155. / Yamazaki, M. (1995). On the ablaut of onomatopoeia in the Altaic languages and Japanese. Tohoku Studies in Linguistics, 4.
◆トップ写真:rai/イメージマート(テキストへの掲載はありません)