【京都観光のいま】日本屈指のクラフトジン。その裏には素材へのこだわりと生産者を大切にするクラフトマンシップがあった〜京都蒸溜所〜
「京都蒸溜所」は、京都産の柚子や玉露、赤しそなどのボタニカルを使用したクラフトジン「季の美」を製造するメーカーです。 京都市役所のほど近くにあるブランドハウスの「季の美House」では定期的にセミナーを行い、産地の背景、作り手の努力などを伝え、ジンを味わうことを通して京都の風土や文化も発信しています。京都市が推進する京都観光モラル事業の「持続可能な京都観光を推進する優良事業者」にも選ばれ、ますます注目を集めている「京都蒸溜所」。その取り組みについて取材しました。
日本におけるクラフトジン専門蒸溜所の草分け的存在
ジントニック、ジンライム、マティーニなど…。カクテルの定番とも言える、これらのお酒に使われているのがジンです。
ジンは発酵させたお酒からアルコール分を抽出した、いわゆる蒸溜酒に、ジュニパーベリーなどの植物で風味を加えたもの。近年、世界的にも人気が高まっていて、日本でもその土地の特性や名産品を活かした“クラフトジン”が各地で誕生しています。
(3人の創業者 画像提供:京都蒸溜所)
京都蒸溜所の創業は2015年。日本でまだ“クラフトジン”という言葉が珍しかった時期に、3人の創業者によって立ち上げられました。
彼らは東京で、20年以上にわたって世界の銘酒を日本へ輸入・販売してきたアルコールのプロフェッショナル。その経験を活かして、今度は日本のおいしいものを世界へ発信したい、日本ならではのジンをつくりたいとなったときに浮上したのが京都の地だったといいます。
(季の美Houseに飾られている蒸溜器)
「京都は長い歴史の中で育まれた技や、古い街の趣を大切にしながら常に新しいものを取り入れ、イノベーションを起こしてきました。それは日本人の、ものづくりの原点。そして今もそのクラフトマンシップが受け継がれ、逸品が生まれ続けている。その営みに創業者が感銘を受け、『京都蒸溜所』が目指すジンづくりの姿勢とも重なりました」と話すのは「京都蒸溜所」のブランドショップ「季の美House」マネージャーの竹村正弘さん。
上質なお茶の生産や盆地で育まれる作物、清らかな名水に恵まれた京都の高いポテンシャルも決め手となった、と振り返ります。
(「季の美House」マネージャー竹村正弘さん)
やがて京都市南区に建てた蒸溜所で、100種以上の材料をもとに試験的に蒸溜を繰り返し、オリジナルのジンを創作し始めました。
「おいしいだけじゃない、京都の文化や歴史が感じられる、他に類をみないジンをつくるためにも、まずは素材集めに奔走しました。縁もゆかりもない京都の土地でしたから、柚子が実っている農園を見つけては、飛び込みで“これ売ってください!”と、お願いしたり」と微笑む竹村さん。
「京都蒸溜所」の想い、情熱に共鳴してくださった農家さんからさらにご縁が広がり、現在の仕入れ先にもつながっていると話します。
京都産にこだわったクラフトジン。今や世界中にファン
(老舗の唐紙をボトルにあしらった「季の美 京都ドライジン」 画像提供:京都蒸溜所)
「京都蒸溜所」の代表銘柄「季の美 京都ドライジン」は、2016年に販売されて以降、国際的なジンの品評会で金賞を受賞するなど、今や世界70カ国以上に輸出する銘酒に成長しました。
その味わいにおいて大きな特徴と言えるのが京都の柚子と玉露、そして水といいます。
「京都蒸溜所」のジンは、ライス・スピリッツ(お米の蒸溜酒)をベースに、11種のボタニカル(草木根、果皮など)を漬け込み、丁寧に蒸溜を行っています。
そのボタニカルの中でもジンの製造に不可欠なジュニパーベリー(ヒノキ科の針葉樹「セイヨウネズ」の果実)と、香りや味わいをまとめる役割を担うオリスルートは海外産を使用していますが、それ以外については京都産の素材を基本としており、赤松、柚子、玉露、生姜、山椒、木の芽、笹、赤しそは京都産を使用しています。レモンは当初は京都産を使用していましたが、品質を最優先し安定した品質を確保できる広島産を現在は使用しているとのこと。
(京都府内でも様々なエリアの素材が使われています)
そして「京都蒸溜所」があえて “12種類目のボタニカル”と呼ぶのが伏見の名水です。老舗酒蔵・増田徳兵衛商店の仕込み水にも使われている天然の地下水をタンクローリーで工場へ直送し、濾過してブレンドしています。
伏見の水はまろやかな軟水と言われていますが、同酒蔵の地下水はほどよくミネラル分を含んでいるため、ドライジンならではのキリッとした飲み口に仕上がるそうです。
「『季の美 京都ドライジン』は、柚子などの爽やかな香りのあとに、すっきりとした甘みが広がります。これはライス・スピリッツの、米のほど良い甘みだけでなく、宇治の玉露の旨みも重なっているからなんです。また、こうした日本独自のボタニカルがピタッと融合するのは上質な水だからこそ」と竹村さん。
素材本来の香りや味わいをそのままジンに映し出すため、ボタニカル選びにも徹底してこだわっているとか。品質を最優先に厳選した素材を使用し、できる限り無農薬で栽培されたボタニカルを採用するなど、一つひとつの素材の個性を大切にしながら、「季の美」ならではの繊細で奥行きのある味わいを生み出しています。
(亀岡市に設立された新しい蒸溜所 画像提供:京都蒸溜所)
2025年に京都府亀岡市で稼働を開始した新蒸溜所は、旬のボタニカルを新鮮な状態で加工できることに加え、輸送時に排出される二酸化炭素を少しでも削減するため、高速道路のインターチェンジに近い立地を選定したそうです。
施設にはソーラーパネルを設置し、蒸溜をはじめとするすべての工程を電力で稼働させることで、完全カーボンニュートラルを実現しており、環境負荷の低減と品質の両立を目指した、次世代型の蒸溜所となっています。
(柚子狩りの責任者である蒸溜技師のウルフ・魁・ジョンさん 画像提供:京都蒸溜所)
材料においても、ジン製造に使わない柚子やレモンの果肉は別の事業者に依頼してシロップに加工してもらったり、化粧品の原料に活用してもらったり。使用した茶葉もコンポストで発酵・分解して堆肥にし、柚子農家へ持って行って利用してもらっているそうです。
「毎年、スタッフや蒸溜技師が柚子農家を訪れ、草刈りや収穫などを手伝っています。直接足を運び、話しながら一緒に作業することで、日々の苦労や努力が伝わってくる、見えてくるストーリーがあります。生産者さんとのコミュニケーションはとても大切にしていますね」。
環境への負荷をできるだけ軽減しながら、生産者との信頼関係、絆も育む。そうした姿勢が、クラフトジンのさらなる魅力へとつながっているようです。
おいしさを支える“背景”を伝えることも大切に
(季の美Houseに来るのが念願であった海外ファンも多いとか)
2020年6月、京都市役所エリアにオープンした「季の美House」は、「京都蒸溜所」の定番から限定ボトルの販売に加えて、オリジナルカクテルの提供や、ジンの歴史や製造工程を紹介する展示コーナー、セミナールームも併設するブランドショップです。
その建物は材木商を営んでいた築100年以上の京町家をリノベーションしたもので、外観の一文字瓦(いちもんじがわら)や虫籠窓(むしこまど)、鍾馗(しょうき)さんといった京町家の風情が活かされているのが特徴。ビジネス街に京都らしい景観を添えています。
(店内は洋風な佇まいですが、エントランスやバーカウンターの下には西陣織、壁紙にはボトルのデザインと同じ唐紙があしらわれ、京の伝統産業の技を随所に見ることができます。)
(左:和洋がミックスしたモダンなインテリア)
(右:さりげなく机に埋め込まれているのは西陣織の老舗織元 細尾で織られた西陣織)
「バーで提供する酒器の中には、宇治の焼き物職人さんに創作いただいたマティーニグラスがモチーフになった朝日焼もあって、その器でカクテルを提供するときは、抹茶をいただくように両手で器を持って飲んでみてください、と提案しています。海外のお客様はとても喜ばれますね」と竹村さん。
また、2階ではジンの定義や歴史の紹介、「京都蒸溜所」のジンづくりに欠かせない原材料や生産者などの写真がずらりと展示され、通常はなかなか見ることのできないクラフトジン製造の裏側を垣間見ることができます。
(ボタニカルそれぞれの香りを体感できるコーナーも)
さらにその奥には個室があり、英語または日本語によるテイスティングセミナーや、ボトルに金箔を押すワークショップなどが予約制で行われ、こちらも好評だそうです。
(金箔入りのジンのラベルを金箔で作成できます 画像提供:京都蒸溜所)
「セミナーやワークショップでは、『京都蒸溜所』独自の製法や、材料の説明はもちろん、その背景にある生産者の想いやこだわり、器をつくる職人の手仕事にもスポットを当て、紹介しています。私たちはジンを蒸溜して販売するだけでなく、そのバックボーンにある物語をお客様に伝えることも大切にしています」。
近年は、京都各地の店に立つバーテンダーさんを対象とした無料のセミナーを行ったり、鴨川で開催される納涼イベントに出店したり、その取り組みもますます広がりをみせているとか。
「将来的にはお客様もバーテンダーさんも、蒸溜技師もスタッフも、一緒になって柚子狩りへ出かける企画もやってみたいですね」と、竹村さんは笑顔で語ってくれました。
■リンク
◇【京都観光モラル】優良事例集 https://www.moral.kyokanko.or.jp/
◇京都蒸溜所ホームページ https://www.kinobigin.com/en/
記事を書いた人:五島 望
東京都生まれ、京都在住のライター・企画編集者。
京都精華大学人文学部卒業後、東京の出版社に漫画編集者等で勤務。29歳で再び京都へ戻り、編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。紙媒体、Web、アプリ、SNS運用など幅広く手掛ける。