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家族が「老人性うつ病」になったらやるべきこと。精神科医の和田秀樹先生が解説

毎日が発見ネット

家族が「老人性うつ病」になったらやるべきこと。精神科医の和田秀樹先生が解説

【こんな症状はうつ病かも
「食が細くなった」「表情がない」「着替えをしなくなった」などの症状が、同時期に複数起こる場合はうつ病を疑ってください。



この記事は月刊誌『毎日が発見』2024年1月号に掲載の情報です。


早期発見、早期治療が大切な二つの理由


今回は、親なり配偶者なり、きょうだいなりが、高齢者のうつ病が疑われる症状があったり、あるいは本当にその診断を受けた場合、家族はどう対応するといいのかを具体的に伝えたいと思います。


まず、医療機関にかかる前の話から。これまでも触れてきましたが、高齢者のうつ病は、意外に見つけにくく、病院を受診する人が少ない病気であることを頭に置いておいてください。


例えば、「食が細くなってきた」「夜中に何回も目を覚ます」「表情がぼんやりしている」といった症状がある場合、中高年までなら、うつ病を疑われることも珍しくありません。しかし、高齢者の場合は、往々にして「歳のせい」で片づけられることがあります。あるいは、「物忘れが始まった」「着替えをしなくなった」「風呂にも入らなくなった」といった場合、「ついにうちの親もボケちゃった」という具合に、認知症を疑われることでしょう。


しかしこの中には、かなりの確率で、高齢期のうつ病の人が含まれています。


うつ病、特に高齢者のうつ病は、早期発見、早期治療が大切な病気です。その理由の一つは、放っておくとどんどん症状が悪くなり、最悪の場合、治らなくなったり、自殺につながったりするからです。おさらいになりますが、うつ病の原因には、脳内の神経伝達物質であるセロトニンの減少があります。例えば、うつ病になると食が細くなり、セロトニンの材料となるたんぱく質を摂らなくなることがあります。すると、もともと減っているセロトニンがさらに不足して、うつ病がどんどん悪くなっていきます。


また、うつ病になって十分な睡眠がとれなくなると、またもやセロトニンが枯渇していきます。その上、うつ病のせいで悲観的なことばかり考えていると、余計に症状が悪くなるという悪循環が生じます。重症化すると、自殺という形で命が奪われかねません。このことも、覚えておいてほしいと思います。


もう一つの理由は、うつ病で脳内のセロトニンが足りない状態が続くと、脳の神経細胞が傷つき、そのためにうつ病が治りにくくなりますし、高齢者の場合は、認知症につながることがあるからです。こういうことを避けるためにも、早期治療が必要です。高齢者のうつ病は、「薬が効きやすい」という特徴もあります。そういった意味でも、できるだけ早く治療に結びつけて、本人の苦しみを取ってあげることがとても大切です。



家族にできることは異変に気づくこと


ということで、肝になるのは、やはり早期発見です。


同居しているのであれば、まずは日ごろと「様子が違うことに気づく」ことが重要でしょう。歳を取れば、「食が細くなる」のは一般的ともいえますが、「急に食が細くなった」のならば、うつ病の可能性が高いですし、そうでなくても胃腸の具合が悪いのかもしれません。「夜中に何回も目を覚ます」というのも、同じです。「顔つきが暗い」というのも、普段よりそう見えると周りの人が感じるならば、やはりうつ病の徴候です。「普段と様子が違う」あるいは「1カ月前とは様子が違う」と感じたら、とりあえずうつ病の可能性を考えて、精神科や心療内科に連れて行き、受診をすすめるといいでしょう。


同居していなくても、数カ月に一度は会っているなら、「前回来たときと変わっている」と感じたら注意が必要です。前回会ったときと違い、「物忘れがひどい」「着替えもしなくなった」「風呂も入っていないようだ」という症状が見られる場合、「認知症になったのだろう」と思う人が多いかもしれません。しかし、認知症、特に高齢者の認知症はゆっくりと進むものです。物忘れが始まってから、「風呂に入らない」「着替えもしない」という状態になるまでには、通常は5年くらいかかります。つまり、数カ月前は、物忘れもなかったし、着替えもちゃんとしていたというのなら、認知症ではなく、うつ病の可能性が大きいのです。


高齢者の場合、数カ月で急に様子が変わるということは意外に少ないものです。仮にうつ病でなくても、別の病気にかかっている可能性もありますので、一度医師に受診する価値はあると思います。


数年に一度しか会わないという場合は、前回会ったときと比べて、加齢による衰えが生じたのか、うつ病などの病気が生じているのかは、一見すると分からないかもしれません。こういった際に頼りになるのは、近所の人です。「ある時期くらいから急に外出をしなくなった」とか、「だんだんやせてきたようだ」「表情が暗くなった」という情報が得られた場合は、やはり精神科や心療内科に連れて行くことをおすすめします。近所づきあいがあまりなくて、情報を得られない場合は、表情や態度に関して、次のような変化に気づいたら、うつ病を疑ってください。


・顔つきが暗い。いつも悲し気な表情をしている
・顔色が悪い
・表情がない
・以前と比べて、食欲が落ちている
・服装や身だしなみに無頓着になった
・会話の際、反応が鈍くなったようだ
・会話が減った、言葉数が少ない
・とにかく元気がない
・動作がやけにゆっくりだ


以上のようなことが複数ある場合、すでにうつ病の可能性があります。家族の第一の仕事は、早期発見、早期治療と心得て、異変を見逃さないようにしてください。


うつに気づいたら家族がすべき5つのこと


次に、うつ病の疑いがあって精神科や心療内科を受診したり、いま、現実にうつ病の診断を受け、治療も受けている場合の家族の対応についてお伝えしたいと思います。


【1】病院に連れて行く
先のような異変に気づいたときは、まずは精神科や心療内科の受診をおすすめします。その際は、「お父さん、前と比べて、顔つきも良くないし、ご飯もあまり食べていないみたいだから、心配なので病院に行こうね」という風に声をかけ、あえて精神科や心療内科に連れて行くことは伝えず、連れ出すのが賢明でしょう。


治療がスタートしたら、基本的には、プロである医師にまかせます。診断はもちろん、薬の選び方にしても、患者との接し方にしても、担当医を信頼するのが原則です。ただし、高齢者を診慣れていない医師の場合、正確な診断ができないこともあります。私の経験から考えると、若い人に出すのと同じ感覚で薬を処方すると、高齢者には効き過ぎてしまい、逆によぼよぼになってしまうこともあるので要注意です。医療機関を選ぶ際は、都市部の大きな病院ではなく、地域の高齢者を診慣れた医師を選ぶことが肝要です。かかりつけ医でもいいのですが、日本ではまだまだ精神科関係の知識が乏しい医師が多いのが実情です。そのため、やはり、精神科や心療内科を受診するのがいいでしょう。


【うつ病を疑ったら、まずは病院へ】
うつ病の疑いを感じたら、まずは精神科や心療内科の受診をすすめます。その際は、家族が付き添って行くといいでしょう。


【2】薬をしっかりと飲ませる
高齢者のうつ病は抗うつ薬での治療が効くことの多い病気ですが、薬の効果はすぐに出るわけではありません。治療を始めた当初は、あまりうまくいっていないように見えても、1カ月くらい薬を飲み続けると、症状が回復してくるというのが通常のパターンです。さらに具体的にいうと、最初の2週間くらいはあまり効果が出ず、それ以降に効き始めるのが一般的です。ですから、最初のうちは、多少、「だるい」「胃腸の調子が悪い」と訴えても、胃薬などを足して様子を見ながら、「きちんと薬を飲んでもらう」、そのサポートが家族の一番大切な役割になります。


間違えて薬を多く飲んでしまったり、飲んだふりをして全然薬を飲んでいないということを避けるため、服薬開始から2カ月くらいは、できれば一緒に住んで、きちんと薬を飲むように見守ってもらうことが理想です。


【3】患者の代わりに相談を
問題は、1カ月くらい経っても、あまり薬が効いてこない、かえって調子が悪いという場合です。うつ病の薬はかなり多くの種類がありますので、一つの薬が合わなくても、別の薬が効くことは珍しくありません。「薬を飲んでも良くならない」とか、「調子が悪い」なら、別の薬に変えてもらうのが原則だと思います。しかし、うつ病の場合、患者さん本人は「薬が効いていないようだ」「薬を飲むと調子が悪い」といったことを医師に強く伝えられないケースが多いものです。


そこで、本人に代わって、家族が医師に状況を伝えるといいでしょう。もちろんそのためには、1カ月くらいは様子を見る必要がありますが、それでも様子が変わらなければ、やはり薬の種類を変えてもらうように相談するのが、家族の仕事だと思います。

【4】医者選びは家族の仕事
ここで、頑固な医者とそうでない医者の差が出てきます。例えば、患者の様子を報告して薬の変更を相談しても、薬の種類を変えてくれないような頑固な医者ならば、次の医者を探した方がいいでしょう。ポイントは、「医者選び」は家族の大切な仕事だということです。なぜなら、うつ病の患者さんには、次々と医者を選ぶ元気もありませんし、判断力も普段より落ちていることが多いからです。


ただし、例外もあります。あれこれと薬を試してみても、一向に効かないというケースです。その際に試せることがあります。男性の場合は、男性ホルモンや甲状腺ホルモンの量を調べる検査です。これらの数値があまりに下がっている場合は、多少、うつ病の薬を飲んでも、まったく症状が改善しない例も珍しくありません。こういったケースの場合、適切なホルモンの補充治療で症状が改善することも多いので、まずは担当医に検査をお願いすべきでしょう。女性の場合、検査データはあまり役立ちませんが、試しに男性ホルモンを薬などで増やすと、元気になることがあります。相談しても取り合ってもらえない場合は、次の医者を探すことをおすすめします。「医者選び」で、もう一つ問題となるのは、患者側の訴えを「素人の考え」と決めつける医者の存在です。例えば、物忘れと併せて、前述のようにいろいろな症状が急に起こっているので、「うつ病の薬を試してほしい」と希望しても、MRI検査で脳の萎縮が見られるから、認知症だと決めつける医者は、確かにいます。しかし、高齢者の場合、誰でも脳が萎縮するものなので、それだけで認知症と決めつけるべきではありません。また、認知症の初期には、2割くらいの患者さんがうつ病も合併するとされています。


しかし、治療によってうつ病が治り、初期の認知症だけになると、症状がかなり改善する例が多いのも事実です。ですから、うつ病の薬を試すだけ試してみるというのは決して間違った選択とは思えないのですが、頑固に聞き入れてくれない医者がいることは、私もときどき耳にします。


薬が効かないときに、通電療法(※)やTMS(経頭蓋磁気刺激治療)など、薬以外の治療法も試すことができるものですが、これも医者の積極性次第です。家族としては、できるだけいろいろな医者に当たってみて、いろいろと試してくれたり、調べてくれたりする医者を探すしかないように思います。家族がどれだけ熱心に動くか次第で、「医者選び」が変わると言えるのです。


※脳に電気刺激を与えて、うつ病などの精神疾患の症状を改善させる治療法。



【5】患者と医者の相性を確認
高齢者のうつ病に関しては、カウンセリング治療を行う医者は少ないものです。しかし、カウンセリングを大事にしている医者の方が、「患者に対して、どんな声掛けや接し方をすればいいのか」といった家族に対してのアドバイスも適切なことが多く、やはり貴重です。また、高齢者のうつ病の場合、職場復帰のスケジュールや休養の取らせ方が問題になることは多くありませんが、少なくとも、こういったアドバイスを家族にしてくれる医者は、信頼がおけると思います。逆にそうでない医師は、高齢者の治療に向いていない気がするので、あまりおすすめできません。もちろん、薬だけ出して、あまりカウンセリングをしない医者でも、「どのような薬の飲み方がいいか」「どのように休養させればいいか」などのアドバイスが的確な医師は、決して少なくはありません。


高齢者のうつ病の場合の医者選びの最大のポイントは、「実際に良くなっているか」と、「患者本人と医者との相性」です。家族から見ると「愛想の悪い医者」「積極的に薬などを変えようとしない医者」であっても、患者さんの具合が良くなっているのなら、やはり良い医者なのだと考えるべきです。また、世間で評判が良くなかったり、家族にきちんとした説明をしてくれない医者であっても、患者さんが気に入っており、「あの先生と話していると楽になる」という場合は、その医者に賭けてみるというのは賢明な判断だと思います。


ただし、いくら患者さんが気に入っていても、半年くらい通ってみて改善が見られない、逆に症状が悪くなっているようなら、医者を変えてみるという手はあると思います。


【医者選びは、家族の仕事】
うつ病の場合、「医者を探す」「医者を選ぶ」「医者とのやりとりをする」などは家族の役割と心得ておきましょう。



自殺をさせないために重要な家族の仕事


うつ病という病気で、一番あってはならないことであるのに、かなり多い結末が自殺です。一般的にうつ病の患者さんの1割くらいが実際に自殺を試み、1%くらいが本当に自殺を遂げてしまうとされています。本当に亡くなってしまった場合、家族の方がPTSD(※心的外傷後ストレス障害)のようになってしまったり、そこまでいかなくても相当なトラウマを受ける可能性があります。あるいは、罪悪感に苛まれることもあるでしょう。


実際、親や配偶者の自殺の後、うつ病になってしまう人は少なくありません。高齢者の場合、亡くなったからといって、収入などの物理的な問題は少ないかもしれませんが、やはり心理面の影響は大きいものです。


自殺を図って、亡くならなかったとしても、かなり重い後遺症が残ることは珍しくありません。高齢者の場合、大量に睡眠導入剤のような向精神薬を服用した場合、若い人と比べ物にならない後遺症が残り、意識障害が続いたり、ボケたようになってしまうことも珍しくありません。あるいは、飛び降りやその他の方法で自殺を試み、一命をとりとめたとしても、骨折や硬膜下血腫になってしまい、その後、寝たきりや要介護状態になることは珍しくありません。


※ 死のレベルの心の傷を体験した後、その体験の記憶が自分の意志とは関係なくフラッシュバックのように思い出されたり、悪夢に見ることが続き、不安や緊張が高まったり、辛さのあまり現実感がなくなったりする状態。



(1)薬をきちんと飲んでいるか確認する


うつ病の人の3~5割の人は、「自殺したい」「早く死にたい」という気持ちをもっているとされますが、そういった気持ちを行動に結び付けないようにさせることが大切です。
一つ目の重要な自殺予防策は、抗うつ薬をきちんと服用しているかのチェックです。以前、紹介した新潟県の松之山町(現在の十日町市)のケースでも、地域の高齢者を精神科医療に結び付けるだけで7割以上の自殺の減少があったように、やはり薬の力には大きなものがあります。
一方で、高齢者の場合、間違えて1度に2回分、3回分の薬を飲んでしまった際の副作用も強いものになります。そのため、やはり家族による薬のチェックは大切なのです。



(2)身辺整理を始めたら危険信号


さて、うつ病の人は、かなりの確率で死にたいと思ったり、死を意識したりするものですが、その気持ちがだんだんと強くなってくると、それが行動や言葉に現れるものです。


例えば、身辺の整理です。「ちょっと大掃除をしないといけないと思って」などと言って、身辺のものを整理するのは、うつ病の人の場合、相当危険な信号と言えます。うつ病でない人だとしても、高齢者の場合のこういった行動には、一応気をつけたほうがいいですが。


特に、自殺という言葉を実際に口に出したり、「死にたい」という言葉が出てきた場合は、厳重な注意が必要です。「死にたいといって自殺した人はいない」「かまってほしいだけ」などと勝手なことを言う人がいますが、「自殺」を口にして自殺しない人は確かに大勢いますし、パーソナリティ障害の人には、しょっちゅう「自殺をする」と脅しをかけて周囲を振り回す人がいますが、うつ病の診断を受けていない人も含めて、自殺をほのめかす人のほうが、そうでない人と比べて、何十倍も自殺のリスクが高いのは事実なのです。


自殺を実際に口に出さなくても、危険信号と考えられるのは、次のような言葉です。


「いなくなりたい」
「早くお迎えがきてほしい」
「(亡くなった)お父さん(お母さん)のところへ行きたい」


あるいは、唐突に次のような改まった挨拶をするときもかなり危険です。


「息子(娘)のことを今後もよろしくお願いいたします」
「お世話になりました」


他に、行動面で次のようなことが見られるようになった際も要注意です。


・思い出の場所を尋ねる
・不自然なくらい、明るくふるまう
・勝手に治療を中断してしまう
・感情が不安定になったり、怒りっぽくなる
・ささいなことでトラブルを起こす
・酒量が増える


この中で、「勝手に治療を中断してしまった」という場合は、「治療がうまくいっていない」と本人が思っていて、「もう自分は治らない」とやけを起こしている可能性が高く、意外と危険なサインなのです。



(3)自殺を防ぐために効果的な声掛け


では、このような言葉や行動が出た場合に、家族はどう接したらいいのでしょうか? まずは、この手の話から逃げないことです。「そんなこと言わないで」のひと言は、優しさから出た言葉でも、「やはり自分は邪魔な人間なのだ」と思ってしまう可能性があるからです。
若い人でもそうなのですが、こういう場合は、「どうしたの?」「いつもと違うよ」というような感じで、こちらが聞く姿勢を示すのが原則です。そのうえで次のような言葉をかけるといいでしょう。


・あなたには、生きていてほしい。絶対に死なないでほしい
・あなたは、私にも、家族にも、とても大切な人なので、とにかく生きていてほしい
・あなたが生きているだけで幸せ。あなたはいるだけでいい
・あなたが死んだら、私はとても悲しい
・自殺したいと思うのは病気のため。必ず治る病気なんだから
・自殺しないと約束してほしい


このような言葉をいきなり伝えるより、まずは徹底的に話を聞いて、会話の中に入れられるタイミングで言うようにするといいでしょう。


これまで上げてきた言葉や行動が出るといった緊急時には、主治医と相談して入院を考えてもいいですし、入院しない、あるいは本人が拒否する場合は、なるべく一人にさせておかない、窓のカギをしめておく、ひもや刃物は探さないと見つからないような場所に置くなど、少しでも自殺のリスクを下げることが大切です。


万が一、まだ医者に行っていないという場合は、徹底的に話を聞いてから、「やっぱりいつもと違って、おかしいよ。一緒に行くので、医者に話を聞いてもらいましょう」というようにして、医者に連れて行くようにするといいと思います。これも話を十分聞いてからでないと、逆効果になることもあるので気をつけてください。


高齢者のうつ病というのは、何度も書いてきましたが、薬の効きやすい病気です。この時期を乗り切って、死ぬことさえ避けられれば、かなりの確率で1~2年で元の状態に戻ることが期待できます。とにかく、全身全霊で自殺を食い止めてください。

うつ病の患者に言っていけないこと、接し方で知っておきたいこと


よくうつ病の患者さんに「頑張れ」という言葉を使ってはいけないといいます。確かにその通りで、頑張りたくても頑張れなくなってしまう病気がうつ病なので、頑張れない自分を責めてしまい、余計に落ち込んでしまう可能性が大きいのです。


ただ、うつの症状がそれほどひどくない状況ならば、できそうなことは自分でやらせてみることでいい方に働くこともあります。もともと患者さん自身が「頑張らなくちゃ」というのが口癖で、それほど重く受け取られないとか、「最近は頑張れなくてね」と本人がフランクに返答できる関係性であれば、言っていい場合もあります。いずれにせよ、いろいろな言葉をかけたときに、どう感じているかを普段より厳しくチェックしておくことは大切でしょう。



(1)うつ病の人へのNGワード


うつ病の人は、「自分は邪魔者だ」とか、「人に迷惑をかけている」と思っていることが多いので、「おじいちゃん(おばあちゃん)は生きているだけで嬉しい存在なのだ」と伝えて、家族の温かさを感じさせるというのも賢明な対応でしょう。元の状態を知る家族からすると、「これもできなくなった」「あれもやらなくなった」という姿を見て、哀しくなったり、イライラしたりする気持ちは分かります。しかし、例えばインフルエンザで熱を出している人に、いつも通りの状態を求める人はいないでしょう。相手は病気なのだということを忘れずに、「病気なのだから仕方がない」「おいしいものを食べて休んでもらおう」と接することが肝要です。


その他、NGワードを列挙しておきたいと思います。
・私だって、つらいのよ(本人が迷惑をかけていると思わせるのはNGです)
・ダラダラしてばかりいたら、余計悪くなるよ(「頑張れ」と言ってはいけないのと同じ理由です)
・いろいろと身体のことばかり気にして神経質すぎるよ(これは病気のせいです)
・もっと苦労している人もいるよ(患者さんを否定していることになります)
・パーッと遊んだら治るよ(そんな甘いものでない病気です)
・くよくよしないで(これも病気のせいです)
・たまには笑顔を見せて(これができないからうつ病です)
・買い物くらい行けば(行ってくれればいいでしょうが、行けないと余計落ち込みます)



(2)プレッシャーを与える言葉、判断を求める言葉もNG


「早く元気になってね」というのも優しい言葉のようで、本人にプレッシャーを与えることが珍しくありません。同様に「いつになったら治るのよ」もNGワードと言っていいでしょう。
夕食などで「何が食べたい?」と聞くのも危険です。このレベルの判断力もなくなってしまうのがうつ病の怖いところなのです。「鮭を焼いたので、夕飯は鮭でいい?」と提案型で尋ねるほうが無難です。


「ちょっと散歩に行かない?」「お茶でも飲みに行かない?」などと誘う声かけも注意が必要です。うつ病の回復期に、少しずつ外に連れ出そうというのならば、こういった声掛けは悪くないのですが、まだそこまで良くなっていない場合は、患者にとってかなりのプレッシャーになってしまいます。うつ病の人は、「行きたくないな」と思っていても「行かないと悪い」と思ってしまいがちだからです。風邪で発熱してだるくて動けない状態のときに、休むことのできない状態を想像してみてください。うつ病の人にとっては、それと同じぐらいつらいものなのです。



(3)否定的な言葉はNG。できなくても責めないことが大事


基本的には、否定的なことばはNGと考えてください。
うつ病の人は、子どもと違い、叱られることで矯正はできません。逆に自責の念が強くなるだけです。毎日のようにご飯を残してしまうとしても、「食べられなくてつらいね」といたわりのことばをかけるくらいで、ちょうどいいのです。「また、食べなかったの」という言葉はNGです。逆に食べられるようになったら、「食べられたね」と、喜んであげるのが望ましい対応です。ただ、それをあまり強調すると、食べることにプレッシャーを感じてしまうこともあるので要注意です。


いろいろと気をつけないといけないことが多いので、大変だと思われた方も多いでしょう。ただ、命がかかっていることなので仕方がないことをご理解ください。


とはいえ、若い人のうつ病と比べると、薬が効きやすいのが高齢者のうつ病の救いです。本人だけでなく、家族も、「いつまでたっても治らないのでは」と思うことの多い病気ですが、高齢者の場合は、数カ月のうつ状態の後に、嘘のように元気になることは珍しくありません。


とにかく焦らず、期待を持ち続けて、患者さんをなるべく刺激しないようにして待つことが大切なのです。ただし、本人の前では、あえて期待を示さないほうが得策でしょう。このような見守りと薬などの治療で、高齢者のうつ病は治ることが多いのですが、一方で再発をしやすい病気であることを忘れてはいけません。特にカウンセリングを受けていない場合は、かなり再発率の高い病気です。再発の場合も、早期発見・早期治療が原則です。そのチェックも家族の役割です。


また、高齢者のうつ病の場合は、加齢によるセロトニン不足が背景にあることが多いため、薬は医者が大丈夫と言わない限り、やめないほうがいいと思います。再発に早めに対応するためにも、薬を飲み続けるためにも、良くなったと思ってからも医者に通い続けさせるのが得策だと思います。



【今回のまとめ】


・家族が老人性うつ病かもと思ったら、まずは「異変を見逃さない」。
・うつ病に気づいたら、精神科か⼼療内科を受診させる。
・患者の代わりに医者選びや治療法を判断するのも家族の仕事。


構成/寳田真由美(オフィス・エム) イラスト/たつみなつこ


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