【東京都内】中央線沿線のラーメンおすすめ6軒。そこに在ることが何よりも愛おしい、あの街の一杯
「今日、ラーメン食べたいな」。そんな時にサッと足が向く、行きつけはありますか? ここ10年のラーメン界は、一度の体験に懸けたような、エッジの効いた店ばかりもてはやされてきました。でも、ラーメンってもっと日常的な食事だったはず。食べたい時にすぐ行ける店こそ、大切にしたい。今回巡るのは、激戦区・中央線の沿線民が憩う6軒。特段何もない日でも、おいしい一杯が食べられる。いつもそこに在ることが、何よりも愛おしいのだ。
帰りたくなる、記憶に残る優しさ『好日』【東中野】
「以前は、夫と国分寺でラーメン店を営んでいたんです」とは、店主の宗松由美子さん。その後、自分たちの本当にやりたい店を作るために店を閉め、東中野の自宅ガレージを改装して準備を進めた。しかし、間もなく開店というところで、ご主人が突然他界。それでも宗松さんは決意を固め、2001年に開業した。
「この辺、人通りが少ないから、最初は大変だったんです」と、からりと笑うが、着実に客足を増やし、2015年から3年連続で『ミシュランガイド東京』のビブグルマンを獲得するまでになった。
看板のらあめんは「体に優しい食材を」と、化学調味料を使わない。丸鶏と鶏ガラ、シイタケ、昆布、煮干しのあっさり醤油スープをひと口飲めば、その滋味深さに体全体がふっとゆるむ。麺は弾力のある自家製の中太ストレート。すすればツルリと喉を抜けていく。終始軽やかな優しい味わいで、これは、スープまで完飲してしまうやつだ。
それにしても、女性のひとり客や家族連れが多いこと。「人生初のラーメンをウチで食べたというお子さまも多いんですよ」と、宗松さん。開業当初は赤ん坊だった子が、大人になって家族を連れて来ることもよくあるという。それはきっと宗松さんはじめ、スタッフの皆さんの圧倒的な包容力が成せる技だ。
「いろいろなことがあったけれど、今日までやってこられたのは、皆さんのおかげです」。ここは、多くの人の記憶に刻まれ続ける、“帰ってくる”そんな場所なのだ。
『好日』店舗詳細
好日(こうじつ)
住所:東京都中野区東中野1-53-7 MKハウス1F/営業時間:11:30~14:30・17:30~20:30(土は昼のみ)/定休日:日・月/アクセス:JR中央線東中野駅から徒歩1分
喧騒ごと味わうのが、この店の流儀『らーめん太陽 高円寺店』【高円寺】
純情商店街の一番手前の横路地に入ると、目に留まる白い看板が目印。のれんをくぐれば、店内に漂う煮干しの香りが鼻をくすぐる。店主の尾島カウさんが開業して、2024年でちょうど45年。年季の入った木の設(しつら)いがなんとも味わい深い。「最初の頃は人も雇っていなかったから、お客さんに手伝ってもらってたのよ」と、和やかに微笑(ほほえ)む。
まずは普通のらーめんかなと思うも、壁一面の品書きに心惑わされていると「煮卵付けるのがおすすめよ」。ええい、言われるままにトッピングを足して、半チャーハンも付けてしまえ!
琥珀色のらーめんのスープは、開業当初から常に研究を重ねていて、現在も進化中。煮干しがガツンと香ばしいが、出汁に含まれる野菜の甘みで味わいに丸みがあって、ホッとする後味。「『スープ多めにして』ってリクエストするお客さんもいるのよ〜」と、尾島さん。
麺は普通盛りで180gと、食い甲斐(がい)があるのもうれしい。一方のチャーハンはパリッと塩と胡椒が効いていて、らーめんのスープを呼び込むこと。このらーめんとチャーハン、相思相愛だな……。
そうしている間にも、店にはどんどん客が入ってくる。カップルやバンドマンと思(おぼ)しき若者たち。瓶ビールを注ぎ合いながら、終わりの見えぬ議論に花を咲かせているおっちゃんたちもいる。なんか、高円寺という街をギュギュッと詰めこんでいるような店内だ。この騒がしささえ、心地よい。
『らーめん太陽 高円寺店』店舗詳細
らーめん太陽 高円寺店
住所:東京都杉並区高円寺北3-22-12/営業時間:11:00~翌2:00/定休日:無/アクセス:JR中央線高円寺駅から徒歩1分
飾らない温かさに、腹も心もつかまれる『えのけん』【阿佐ケ谷】
青梅街道を歩いていると、ひと際目立つ真っ赤な看板。店名のフォントとマスコットキャラクターが昭和感を醸し出していて、たまらなく惹(ひ)かれる。
元々は1970年に中野坂上で『どさん子らーめん』のフランチャイズとして創業。「当時は北海道みそラーメンが大ブームでねえ。みんな喜んで食べていたもんさ」と、目を細めるのは創業者の川上昇さんだ。2003年に独立移転し、現在、昼は昇さんが、夜は息子の匡志さんがそれぞれ店を切り盛りする。「最初はみそと塩と正油だけだったけど、お客さんのリクエストを聞いていたらいろいろ増えちゃった」。スタミナラーメン、冷やしラーメンなど、多彩な品揃えの独自路線に進化を遂げた。
看板のみそラーメンは、豚骨と豚足、鶏ガラベースに特製の味噌ダレを加えたスープで、とろりと濃厚。たっぷりと麺に絡ませて食べれば、コク深い風味が口の中を直撃。微(かす)かな辛味が後を追って箸が止まらない。
また、個人的に推したいのはスタミナラーメンだ。どどんと盛られた大量の野菜炒めの旨味が醤油スープと混じり合い、甘みが増している。タマネギのシャキシャキ感、ニラの香り、すべてが調和して、元気が湧いてくる味だ。
気づけば、カウンターもテーブル席も満席に。学生と思しき青年や家族連れ、仕事終わりの会社員など、老若男女ホクホクの笑顔があふれている。腹が減ったら食べに来る。素朴だけどグッとくる。ここにいる全員、ガッツリ胃袋つかまれてるぜ。
『えのけん』店舗詳細
えのけん
住所:東京都杉並区成田東4-34-12/営業時間:11:30~15:00・18:00~翌0:30/定休日:日/アクセス:JR中央線阿佐ケ谷駅から徒歩10分・地下鉄丸ノ内線南阿佐ケ谷駅から徒歩4分
凛とした仕事ぶりと気さくさが同居する『ら~めん髙尾』【荻窪】
周囲が薄紫に染まる黄昏時(たそがれどき)。荻窪駅南口から仲通り商店街をしばし歩き、横路地に逸(そ)れるとポップな青い外観が目に留まる。店の前を通ると「どうぞ〜」と、きっぷのいい挨拶が。足を踏み入れると、店主・高尾龍一郎さんが懐っこい笑顔でニッコリ。
都内の有名店で修業を積み、2021年にこの地で独立開業した。品書きに目を通すと、トッピングの豊富さと、ら〜めん500円の文字に驚かされる。「気軽に食べてもらいたくて」と、高尾さん。いやはや、ワンコインって、今どき中々ないですよ。
人気のワンタンメンを注文するや否や、ピリッと表情の引き締まる高尾さん。手慣れた平ざるで麺とワンタンを湯切りし、ふわりと盛りつけていく。眼前に差し出された丼が、醤油の芳香を放つ。
ひと口すすると、鶏の旨味と野菜の甘みが溶け込んだ出汁が、キレのあるタレと調和しているのを実感。このスープがコシのある自家製麺に絡み、後を引く。ワンタンもツルリと口の中に運べば、絹のような舌触りに頬が緩んでしまった。
一気に平らげ、ふと店内を見渡すと、お会計をしているお兄さんが、高尾さんと親し気に話していた。
「あの方、すぐ近くでバーをやられているんですよ。よく来てくれて、ありがたいです」。近辺は飲食店が多く、開店前の腹ごしらえに来る人も多いそう。自分好みにトッピングした一杯をサクッと食べて仕事に行くって、ぜいたく! その日の残りの時間、元気に頑張れるに決まっている。
『ら~めん髙尾』店舗詳細
ら~めん髙尾
住所:東京都杉並区荻窪5-9-17/営業時間:11:00~14:00・17:00~21:00/定休日:水/アクセス:JR中央線・地下鉄丸ノ内線荻窪駅から徒歩5分
塩も醤油もつけ麺も、誰かの定番の味『らーめん たきたろう』【三鷹】
「子供の頃、田舎のおじさんに連れられて食べたラーメンがおいしくて。それで大好きになったんです」とは、店主の吉久さん。成人後は営業職でバリバリ働いていたが、少年時代の原体験が忘れられず、30歳の節目に転職。修業を積み、2004年に三鷹の住宅地で開業した。
特に評判の品は、塩ラーメンだ。目の前に運ばれてきた瞬間、煮干しの香りが鼻を抜け、食欲をそそる。ストレート麺は、どことなく冷や麦を思わせるツルシコ感が心地よい。喉を通り抜けると、追って小麦の風味がふわり。スープを含めば、沖縄シママースのまろやかで滋味深い味わいがしかと残り、次のひと口を誘う。このままでも十分だが、テーブルに置かれた粗挽き胡椒を加えて味変してみるのも一興。味がさらに引き締まる。
また、塩と双璧を成す人気の醤油は、小豆島産丸島醤油を使う。「醤油はパスタのアルデンテをイメージして、麺が少し固ゆでです」と、吉久さん。こちらは塩の麺よりコシが強く、噛(か)み応えアリ。口の中を小麦の香りが包み込み、醤油の芳醇な風味とベストマッチ。これもリピートしたい一品だなあ。
さて、昼営業も間もなく終了という時間だが、駆け込みで入ってくる客が絶えない。入るや否や、みんな流暢(りゅうちょう)に注文を伝えている。「お気に入りを見つけたら、毎回同じものを召し上がる方が多いですね」。それぞれの品にちゃんと個性があるから、一人ひとりの“いつもの味”が、ここにはあるんだ。
『らーめん たきたろう』店舗詳細
らーめん たきたろう
住所:東京都三鷹市下連雀4-16-47 三鷹第二城山ハイツ1F/営業時間:11:00~15:00/定休日:月/アクセス:JR中央線三鷹駅から徒歩9分
それぞれのひと時に、じんわり寄り添う『丸幸』【武蔵境】
元々は1995年に立川で創業。2年後の97年に、武蔵境店を開業した。「父と母と兄と一緒に、家族経営でやっていました」とは、店主の蒲谷幸大さん。長らく2店舗体制だったが、2019年に立川店が閉店し、武蔵境店のみに。現在は幸大さんが店に立ち、兄・友二さんが製麺を担当する。日曜日には、店内のテレビで競馬を流しているなど、昔ながらの風情がいい。
創業当時から変わらないというラーメンは、タマネギのみじん切りがのっているのが特徴だ。これって、巷(ちまた)で「八王子ラーメン」と呼ばれているものでは?
「当初、父は特に意識せず、ラーメンにはタマネギが入っているもの、とのせていたんです。『八王子ラーメン』と呼ばれるようになったのは、だいぶ後からですね」と、幸大さん。
鶏ガラとゲンコツベースのスープはやや野趣が強めながら、タマネギが溶け込んでこっくり甘みが深い。自家製卵麺と相性抜群で、どんどん進む。それに舌の上でほろりと崩れるチャーシュー。これ、たまらんやつですわ。
「顔見知りのお客さんは多いですよ。けれど、あんまり深入りはしないですね」
幸大さんは、黙々とラーメンを作る。一方、客たちはテレビを観たり、新聞を読んだり、ビールでつまみをつついたり、思い思いのスタイルで待つ。一人ひとりに流れている時間は違う。でも、ひとたび丼が差し出されれば、みな一様にラーメンと向き合う。そうだ、ラーメン屋ってそういう空間でいいんだ。
『丸幸』店舗詳細
丸幸
住所:東京都武蔵野市境2-14-12 スイングマンション1F/営業時間:11:00~15:00・17:00~22:00(土は11:00~22:00、日・祝は11:00~20:00)/定休日:火/アクセス:JR中央線武蔵境駅から徒歩2分
取材・文=どてらい堂 撮影=高野尚人
『散歩の達人』2024年11月号より