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【東京都内】中央線沿線のラーメンおすすめ6軒。そこに在ることが何よりも愛おしい、あの街の一杯

さんたつ

好日5_ラーメン

「今日、ラーメン食べたいな」。そんな時にサッと足が向く、行きつけはありますか? ここ10年のラーメン界は、一度の体験に懸けたような、エッジの効いた店ばかりもてはやされてきました。でも、ラーメンってもっと日常的な食事だったはず。食べたい時にすぐ行ける店こそ、大切にしたい。今回巡るのは、激戦区・中央線の沿線民が憩う6軒。特段何もない日でも、おいしい一杯が食べられる。いつもそこに在ることが、何よりも愛おしいのだ。

丸幸

帰りたくなる、記憶に残る優しさ『好日』【東中野】

煮玉子らあめん800円をはじめ、価格はすべて開業当時のままだというから驚きだ。
「お客さまを見送るとき、できるだけ声をかけるの」と店主の宗松さん。

「以前は、夫と国分寺でラーメン店を営んでいたんです」とは、店主の宗松由美子さん。その後、自分たちの本当にやりたい店を作るために店を閉め、東中野の自宅ガレージを改装して準備を進めた。しかし、間もなく開店というところで、ご主人が突然他界。それでも宗松さんは決意を固め、2001年に開業した。

「この辺、人通りが少ないから、最初は大変だったんです」と、からりと笑うが、着実に客足を増やし、2015年から3年連続で『ミシュランガイド東京』のビブグルマンを獲得するまでになった。

手書きの品書きや思いが店内のそこかしこに。
ビブグルマン受賞時のトロフィーも、さりげなく飾られている。

看板のらあめんは「体に優しい食材を」と、化学調味料を使わない。丸鶏と鶏ガラ、シイタケ、昆布、煮干しのあっさり醤油スープをひと口飲めば、その滋味深さに体全体がふっとゆるむ。麺は弾力のある自家製の中太ストレート。すすればツルリと喉を抜けていく。終始軽やかな優しい味わいで、これは、スープまで完飲してしまうやつだ。

煮玉子ちゃーしゅうつけめん1000円。つけダレは酢が効いていて、爽やか。
ランチには、モヤシナムルかミニチャーハンを付けられる。

それにしても、女性のひとり客や家族連れが多いこと。「人生初のラーメンをウチで食べたというお子さまも多いんですよ」と、宗松さん。開業当初は赤ん坊だった子が、大人になって家族を連れて来ることもよくあるという。それはきっと宗松さんはじめ、スタッフの皆さんの圧倒的な包容力が成せる技だ。

「いろいろなことがあったけれど、今日までやってこられたのは、皆さんのおかげです」。ここは、多くの人の記憶に刻まれ続ける、“帰ってくる”そんな場所なのだ。

長年店を支えるスタッフと。
子供連れも大歓迎で「ごちそうさま」を言えたらごほうびが!

『好日』店舗詳細

好日(こうじつ)
住所:東京都中野区東中野1-53-7 MKハウス1F/営業時間:11:30~14:30・17:30~20:30(土は昼のみ)/定休日:日・月/アクセス:JR中央線東中野駅から徒歩1分

喧騒ごと味わうのが、この店の流儀『らーめん太陽 高円寺店』【高円寺】

Cセット(らーめん・半チャーハン)1000円。透明度の高い煮干しスープは食材のエキスたっぷり。
夜の帳(とばり)が降りれば、白い看板が周囲を照らす。昼から通し営業だが、深夜0時を超えるあたりがピークというのが、高円寺らしい。

純情商店街の一番手前の横路地に入ると、目に留まる白い看板が目印。のれんをくぐれば、店内に漂う煮干しの香りが鼻をくすぐる。店主の尾島カウさんが開業して、2024年でちょうど45年。年季の入った木の設(しつら)いがなんとも味わい深い。「最初の頃は人も雇っていなかったから、お客さんに手伝ってもらってたのよ」と、和やかに微笑(ほほえ)む。

店主の尾島カウさん。「スタッフもお客さんも、みんな家族だと思ってる」と、ニッコリ。江古田にも店舗があり、尾島さんは両方の店を行き来する。どちらの店舗でも常連衆と会うと必ず声をかけられる名物お母さんだ。

まずは普通のらーめんかなと思うも、壁一面の品書きに心惑わされていると「煮卵付けるのがおすすめよ」。ええい、言われるままにトッピングを足して、半チャーハンも付けてしまえ!

琥珀色のらーめんのスープは、開業当初から常に研究を重ねていて、現在も進化中。煮干しがガツンと香ばしいが、出汁に含まれる野菜の甘みで味わいに丸みがあって、ホッとする後味。「『スープ多めにして』ってリクエストするお客さんもいるのよ〜」と、尾島さん。

麺は普通盛りで180gと、食い甲斐(がい)があるのもうれしい。一方のチャーハンはパリッと塩と胡椒が効いていて、らーめんのスープを呼び込むこと。このらーめんとチャーハン、相思相愛だな……。

つまみメニューも豊富で、中でも手包みのジャンボギョーザ5個700円は、らーめんに並ぶ人気。ビールやサワーを飲む手が止まらない。

そうしている間にも、店にはどんどん客が入ってくる。カップルやバンドマンと思(おぼ)しき若者たち。瓶ビールを注ぎ合いながら、終わりの見えぬ議論に花を咲かせているおっちゃんたちもいる。なんか、高円寺という街をギュギュッと詰めこんでいるような店内だ。この騒がしささえ、心地よい。

『らーめん太陽 高円寺店』店舗詳細

らーめん太陽 高円寺店
住所:東京都杉並区高円寺北3-22-12/営業時間:11:00~翌2:00/定休日:無/アクセス:JR中央線高円寺駅から徒歩1分

飾らない温かさに、腹も心もつかまれる『えのけん』【阿佐ケ谷】

みそラーメン900円。素朴ながら、丁寧な味わいにハマる。

青梅街道を歩いていると、ひと際目立つ真っ赤な看板。店名のフォントとマスコットキャラクターが昭和感を醸し出していて、たまらなく惹(ひ)かれる。

元々は1970年に中野坂上で『どさん子らーめん』のフランチャイズとして創業。「当時は北海道みそラーメンが大ブームでねえ。みんな喜んで食べていたもんさ」と、目を細めるのは創業者の川上昇さんだ。2003年に独立移転し、現在、昼は昇さんが、夜は息子の匡志さんがそれぞれ店を切り盛りする。「最初はみそと塩と正油だけだったけど、お客さんのリクエストを聞いていたらいろいろ増えちゃった」。スタミナラーメン、冷やしラーメンなど、多彩な品揃えの独自路線に進化を遂げた。

大量のオーダーを一気にさばく匡志さんの動きは、アクション映画のごとし。
中華鍋から立ち上る野菜を炒める香りに、どんどん食欲が湧いてくる。
大きな鉄鍋で焼かれるパンチの効いたギョーザ(6個600円、4個400円)も名物。「毎日300個は手包みしていますね」と、匡志さん。
ラーメンのスープを使ったえのけんライスカレー(大900円、小450円)も人気だ。

看板のみそラーメンは、豚骨と豚足、鶏ガラベースに特製の味噌ダレを加えたスープで、とろりと濃厚。たっぷりと麺に絡ませて食べれば、コク深い風味が口の中を直撃。微(かす)かな辛味が後を追って箸が止まらない。

また、個人的に推したいのはスタミナラーメンだ。どどんと盛られた大量の野菜炒めの旨味が醤油スープと混じり合い、甘みが増している。タマネギのシャキシャキ感、ニラの香り、すべてが調和して、元気が湧いてくる味だ。

スタミナラーメン1100円。

気づけば、カウンターもテーブル席も満席に。学生と思しき青年や家族連れ、仕事終わりの会社員など、老若男女ホクホクの笑顔があふれている。腹が減ったら食べに来る。素朴だけどグッとくる。ここにいる全員、ガッツリ胃袋つかまれてるぜ。

『えのけん』店舗詳細

えのけん
住所:東京都杉並区成田東4-34-12/営業時間:11:30~15:00・18:00~翌0:30/定休日:日/アクセス:JR中央線阿佐ケ谷駅から徒歩10分・地下鉄丸ノ内線南阿佐ケ谷駅から徒歩4分

凛とした仕事ぶりと気さくさが同居する『ら~めん髙尾』【荻窪】

ワンタンメン700円。ナルトが「昔懐かしい中華そば」の風情を醸す。
老舗町中華「新京」の跡地に開業。

周囲が薄紫に染まる黄昏時(たそがれどき)。荻窪駅南口から仲通り商店街をしばし歩き、横路地に逸(そ)れるとポップな青い外観が目に留まる。店の前を通ると「どうぞ〜」と、きっぷのいい挨拶が。足を踏み入れると、店主・高尾龍一郎さんが懐っこい笑顔でニッコリ。

都内の有名店で修業を積み、2021年にこの地で独立開業した。品書きに目を通すと、トッピングの豊富さと、ら〜めん500円の文字に驚かされる。「気軽に食べてもらいたくて」と、高尾さん。いやはや、ワンコインって、今どき中々ないですよ。

カウンターは、高尾さんの手づくりだという。
玉子にメンマ、もやし、わかめ、コーン、海苔など豊富なトッピング(各50~100円)が用意されており、自分好みにカスタマイズできるのが楽しい。

人気のワンタンメンを注文するや否や、ピリッと表情の引き締まる高尾さん。手慣れた平ざるで麺とワンタンを湯切りし、ふわりと盛りつけていく。眼前に差し出された丼が、醤油の芳香を放つ。

ひと口すすると、鶏の旨味と野菜の甘みが溶け込んだ出汁が、キレのあるタレと調和しているのを実感。このスープがコシのある自家製麺に絡み、後を引く。ワンタンもツルリと口の中に運べば、絹のような舌触りに頬が緩んでしまった。

つまみのまかないチャーシュー皿300円は、どぶ漬けスタイルでキンキンに冷やされた瓶ビール各種と一緒にいきたい。

一気に平らげ、ふと店内を見渡すと、お会計をしているお兄さんが、高尾さんと親し気に話していた。

「あの方、すぐ近くでバーをやられているんですよ。よく来てくれて、ありがたいです」。近辺は飲食店が多く、開店前の腹ごしらえに来る人も多いそう。自分好みにトッピングした一杯をサクッと食べて仕事に行くって、ぜいたく! その日の残りの時間、元気に頑張れるに決まっている。

『ら~めん髙尾』店舗詳細

ら~めん髙尾
住所:東京都杉並区荻窪5-9-17/営業時間:11:00~14:00・17:00~21:00/定休日:水/アクセス:JR中央線・地下鉄丸ノ内線荻窪駅から徒歩5分

塩も醤油もつけ麺も、誰かの定番の味『らーめん たきたろう』【三鷹】

塩ラーメン800円。手前は店主の吉久さんが専門店から作り方を聞いた、西安風味タレの自家製水餃子400円。
「少しでも目立つように」と、独特のファサード。

「子供の頃、田舎のおじさんに連れられて食べたラーメンがおいしくて。それで大好きになったんです」とは、店主の吉久さん。成人後は営業職でバリバリ働いていたが、少年時代の原体験が忘れられず、30歳の節目に転職。修業を積み、2004年に三鷹の住宅地で開業した。

ラーメン好きが高じて店を開いた吉久さん。「好きなことができて、幸せです」。

特に評判の品は、塩ラーメンだ。目の前に運ばれてきた瞬間、煮干しの香りが鼻を抜け、食欲をそそる。ストレート麺は、どことなく冷や麦を思わせるツルシコ感が心地よい。喉を通り抜けると、追って小麦の風味がふわり。スープを含めば、沖縄シママースのまろやかで滋味深い味わいがしかと残り、次のひと口を誘う。このままでも十分だが、テーブルに置かれた粗挽き胡椒を加えて味変してみるのも一興。味がさらに引き締まる。

塩も醤油も原材料を吟味。
煮干しは時期ごとに産地を替える。
麺は醤油、塩、つけ麺で使い分けている。

また、塩と双璧を成す人気の醤油は、小豆島産丸島醤油を使う。「醤油はパスタのアルデンテをイメージして、麺が少し固ゆでです」と、吉久さん。こちらは塩の麺よりコシが強く、噛(か)み応えアリ。口の中を小麦の香りが包み込み、醤油の芳醇な風味とベストマッチ。これもリピートしたい一品だなあ。

醤油ラーメン700円。少し固ゆでの麺と醤油の風味が香しい。

さて、昼営業も間もなく終了という時間だが、駆け込みで入ってくる客が絶えない。入るや否や、みんな流暢(りゅうちょう)に注文を伝えている。「お気に入りを見つけたら、毎回同じものを召し上がる方が多いですね」。それぞれの品にちゃんと個性があるから、一人ひとりの“いつもの味”が、ここにはあるんだ。

店内にはスタッフから贈られた絵が飾られている。
最近、見る機会が減ったラムネも秘かな人気。

『らーめん たきたろう』店舗詳細

らーめん たきたろう
住所:東京都三鷹市下連雀4-16-47 三鷹第二城山ハイツ1F/営業時間:11:00~15:00/定休日:月/アクセス:JR中央線三鷹駅から徒歩9分

それぞれのひと時に、じんわり寄り添う『丸幸』【武蔵境】

ラーメン600円。麺は自家製の卵麺と国産そば粉入り中華麺から選ぶことができる。
店はマンションの1階に位置する。

元々は1995年に立川で創業。2年後の97年に、武蔵境店を開業した。「父と母と兄と一緒に、家族経営でやっていました」とは、店主の蒲谷幸大さん。長らく2店舗体制だったが、2019年に立川店が閉店し、武蔵境店のみに。現在は幸大さんが店に立ち、兄・友二さんが製麺を担当する。日曜日には、店内のテレビで競馬を流しているなど、昔ながらの風情がいい。

創業当時から変わらないというラーメンは、タマネギのみじん切りがのっているのが特徴だ。これって、巷(ちまた)で「八王子ラーメン」と呼ばれているものでは?

「当初、父は特に意識せず、ラーメンにはタマネギが入っているもの、とのせていたんです。『八王子ラーメン』と呼ばれるようになったのは、だいぶ後からですね」と、幸大さん。

鶏ガラとゲンコツベースのスープはやや野趣が強めながら、タマネギが溶け込んでこっくり甘みが深い。自家製卵麺と相性抜群で、どんどん進む。それに舌の上でほろりと崩れるチャーシュー。これ、たまらんやつですわ。

瓶コーラ、缶ジュース、棚に並ぶ雑誌などは、開業当初から変わらぬ風情。
最近は数量限定でモツ煮込み700円を始めた。軽めのつまみかと思いきや、驚きのボリューム! お酒を頼めばおまけでメンマが付くので、即席晩酌セットが出来上がってしまった。これを平らげてから、ラーメンで締めるのもいいかも。

「顔見知りのお客さんは多いですよ。けれど、あんまり深入りはしないですね」

幸大さんは、黙々とラーメンを作る。一方、客たちはテレビを観たり、新聞を読んだり、ビールでつまみをつついたり、思い思いのスタイルで待つ。一人ひとりに流れている時間は違う。でも、ひとたび丼が差し出されれば、みな一様にラーメンと向き合う。そうだ、ラーメン屋ってそういう空間でいいんだ。

『丸幸』店舗詳細

丸幸
住所:東京都武蔵野市境2-14-12 スイングマンション1F/営業時間:11:00~15:00・17:00~22:00(土は11:00~22:00、日・祝は11:00~20:00)/定休日:火/アクセス:JR中央線武蔵境駅から徒歩2分

取材・文=どてらい堂 撮影=高野尚人
『散歩の達人』2024年11月号より

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