中高生の意外な共感ポイント 湊かなえ 東野圭吾 辻村深月…「大ヒットミステリー」で思春期のモヤモヤ解消?
出版ジャーナリスト・飯田一史が選ぶ、中・高校生へ向けた「ミステリー小説」選書。『変な家』、『かがみの狐城』、『告白』、『マスカレード』シリーズ、『ガリレオ』シリーズ、『天久鷹央』シリーズなど。(連載12回目)
【▶画像を見る】第66回講談社児童文学新人賞を受賞した『放課後死体クラブ(仮題)』って?「スマホばかりで、うちの子は全然本を読まない……」と悩む保護者の方は多いのではないでしょうか。しかし、思春期特有のモヤモヤした感情や本音を描いた作品であれば、中高生も驚くほど本の世界に没頭します。出版ジャーナリストの飯田一史さんは、「心の発達段階によって、ミステリー小説に求めるものは大きく変化する」と言います。
そこで今回は今、中学生・高校生に圧倒的に支持されているミステリー小説の魅力を飯田さんに解説してもらいました。
成長に合わせて変化! ミステリー小説に求める要素のおさらい
前回のまとめがあるとスムーズなので、まずはおさらいしますね。
未就学児から小学校低学年、そして高学年と学齢が上がり、発達段階も変わっていくと、ミステリーや探偵ものに求めるものも変化していきます。
図式的にまとめると、探索→ 推理→ 学習要素→ 恐怖、笑い、恋愛 という流れになります。
年齢が低いほど自分で手を動かしたい、参加したいという気持ちが強く、迷路やパズルを探索するものが好きで、そこからだんだんと推理して謎を解くものへと関心が移っていきます。
そこから中学年、高学年と進むと、理科などの学習要素があるものや、怖さ・笑い・恋愛要素など、感情に訴えかける要素があるミステリーに変わっていきます。
自分で純粋に「謎」「推理」を解きたいということよりも、謎を解くのは子どもながらに大人顔負けに活躍する主人公たちに任せて、お話にハデさを求めていく、と言ってもいいかもしれません。
中学生・高校生がミステリー小説に求める「複雑な感情」とは?
では中学生、高校生と進むとどうなるでしょうか。
学校読書調査を見る限り、中学生と高校生でミステリーの読書傾向にそこまで大きな違いはありません(一部の人気タイトル、人気作家に特に集中しているので)。
強いていえば、中学生のほうが恐怖や笑いといった比較的プリミティブな感情に訴えかける内容をより好み、高校生のほうがなかなか人に打ち明けにくい内面、ギョッとするような本音を描いた作品を好む印象があります。
言い換えると、扱っている感情・気持ちが、中学から高校に進むにつれて、シンプルなものからより複雑になっていきます。
具体的に中高生に人気のタイトルを見ていきましょう。
『変な家』『変な絵』シリーズ 著:雨穴
2020年代に圧倒的に、頭ひとつどころかふたつも三つも抜けて小中高生いずれにも支持されているのが、ウェブライターでYouTubeでも活動する雨穴による『変な家』シリーズです。『変な絵』も人気ですね。
『変な家』著:雨穴(飛鳥新社)
『変な家』ってホラーでは? と思った人もいるかもしれません。ただ、不自然な間取りの謎に迫っていくストーリーですので、広い意味ではミステリーでしょう(本の帯にも初期には「間取りミステリー」と書いてありました)。
この作品がヒットした理由はいろいろな切り口から語ることができます。ただ、「年齢・発達段階によってミステリーに求めるものが変わる」という観点から言うと、
・小学生:読み終えても作中に残された謎から「自分で解きたい」という参加欲求を満たしてくれる・小学高学年~中学生:猟奇的な事件が関わっているのではという展開は、「怖さ」が味わえる
・中学生~高校生:「なぜそんなことをしたのか」という、いわゆるホワイダニット的な部分の掘り下げに悲痛な心情を織り交ぜている
といった具合に、それぞれの学年に刺さるものがあります。
それから雨穴作品は本を読み慣れていない人でも読みやすいように工夫されています。例えば、
・あまり地の文がなく、ほとんどが会話で進む・誰が話しているのか、話者が文頭に明示される
・大事なポイントは太字で書かれる
・間取りはもちろん、それ以外にも、それまでの推理や事件の経緯をときどき取りまとめる図版が挿入される
といった、ほかの小説ではあまり見られない特徴があります。雨穴作品にはYouTube版もありますが、動画を観るのとそんなに変わらない感覚で読める文字ものになっています。
『かがみの孤城』著:辻村深月
雨穴作品の次に中高生に人気のミステリーは『名探偵コナン』小説版なのですが(特に中学生から支持が厚い)、前回紹介したので割愛させていただくとして、その次は辻村深月『かがみの孤城』です。こちらは「このミステリーがすごい! 2018」で、国内ランキング8位になっています。
『かがみの孤城』著:辻村深月(ポプラ社)
不登校の子どもたち7人が、ふしぎな城に集められ、解けば願いが叶うという謎に挑み、家族や仲間と衝突しながらも、一歩踏み出すまでを描いた感動的な一冊。また、城にある謎以上に、登場人物たちが当初は見せていなかった部分を徐々に見せていくことで、それぞれのキャラクターの内面に関わるエピソードが重要な作品です。
これも「ミステリーなの? ヒューマンドラマでは?」と思う方もいるでしょうが、辻村深月さんはミステリーの新人賞「メフィスト賞」の出身で、デビュー作は『冷たい校舎の時は止まる』という、ファンタジー要素のある学園ミステリー(『かがみの孤城』にも通じる部分がありますね)。
ミステリーといっても、どんな謎なのか、どんなふうに謎を解くのか自体よりも、事件や謎解きにかかわる人たちの行動や、考えが読み手の胸を打つことのほうに、若い読み手はより価値を感じると思います。
『告白』『母性』著:湊かなえ
女子に特に人気が高いのが、湊かなえの『告白』です。高校生女子は『母性』もよく読んでいます。
『告白』著:湊かなえ(双葉社)
『母性』著:湊かなえ(新潮社)
湊作品では、たとえ普段思っていたとしても人の口からはなかなか聞くことがないような剝き出しの言葉がズケズケ、ズバズバ書かれているのがすごいですよね(これは辻村さんの作品もそうですね)。
思春期になると大人の言うキレイごと、建て前、学校空間における茶番めいたお作法の要求にうんざり、イライラするものです。湊作品はそういう虚飾をぶっ壊すような言葉が視点人物たちの一人称で語られます。だから噓偽りのない本当の気持ちが読み手に対して直接語られているような感覚になります。
『告白』は、教師と生徒の話であり、母と娘の話でもあり、『母性』も母と娘の話ですが、中高生女子の、友だちにも家族にも言いにくい悩みや真情が描き込まれていることが熱い支持につながっているのではないでしょうか。
『マスカレード』シリーズ、『探偵ガリレオ』シリーズ 著:東野圭吾
全世代に人気ではありますが、東野圭吾作品も中高生、とくに高校生が支持しています。数あるシリーズのなかでは、『マスカレード』シリーズと『探偵ガリレオ』シリーズが同じくらいの人気で2トップ。
『マスカレード・ホテル』著:東野圭吾(集英社)
『探偵ガリレオ』著:東野圭吾(文春文庫)
小学校高学年くらいになると、謎を自分で「解く」楽しさから、探偵役によって「解かれる」ことで意外性を楽しむようになっていきます。
読者が自分では解くのがむずかしくなるくらい謎が複雑になり、物語も謎解き自体にくわえて、他の要素がミックスされるようになります。読者がミステリーに求めるものも、シンプルなものから複合的になり、細分化していきます。
その次がやはり同じくらいの人気で『加賀恭一郎』シリーズ、『ラプラスの魔女』シリーズが3位、4位、さらに空いて『クスノキの番人』シリーズが5番目です。
東野作品は終盤にたたみかけるようにして泣かせる展開を用意していることが多いですが、その悲痛さは10代の心も摑んでいます。
『卒業』 著:東野 圭吾(講談社文庫)
中・高校生の男子と女子それぞれに人気の作品は?
最後は中・高校生の男子と女子、それぞれに特に人気の作品を紹介して終わりにしたいと思います。
中学生に人気の近作としては結城真一郎『#真相をお話しします』、青柳碧人『赤ずきん』シリーズがあります。
『#真相をお話しします』著:結城真一郎(新潮文庫)
『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』著:青柳碧人(双葉社)
前者はミステリーながらギョッとするような人間の怖さ、後者は童話をパロディにした笑いが魅力の作品ですね。高校生に人気のタイトルとしては、知念実希人『天久鷹央』シリーズ、米澤穂信『古典部』シリーズがあります。
『天久鷹央の推理カルテ〔完全版〕』著:知念実希人(実業之日本社文庫)
『氷菓』著:米澤穂信(角川文庫)
前者は毒舌で傲慢な主人公の探偵役・天久の意外な弱さが垣間見えるシリアスなエピソードや、患者との悲痛な死別。後者はいわゆる「日常の謎」に、思春期らしい心の叫び、青春の苦みが描かれている点が高校生に特に響くのではないでしょうか。ちなみに『古典部』シリーズは、圧倒的に男子に人気です。
逆に女子から絶大なる支持を得ているのが日向夏『薬屋のひとりごと』ですね。中華風の宮中を舞台に起こる事件を、薬マニアの女性主人公・猫猫が解いていく作品です。
女性同士のギスギス、女の生きづらさ、クセ強で食えないキャラの数々など、語り出したらキリがない魅力が詰まっています。
『薬屋のひとりごと』著:日向夏/イラスト:しのとうこ(主婦の友社)
以上、中高生に人気のミステリーを紹介してきましたが、大人向けの各種ミステリーランキングやミステリーの賞の評価軸とは、必ずしも重ならないポイントで作品を選んでいると言えるでしょう。
センシティブな、揺れ動く「気持ち」に訴え、モヤモヤを抱えているけれども吐き出せない「悩み」「本音」「想い」を描いてくれることを、ミステリーに対しても重視しています。
もっとも高校生にもなると、一人ひとり好みが細分化して「合う/合わない」も激しくなるため、ピッタリくるものを見つけるのは難しいのですが、作品探しやオススメの参考にしてみてください。
文/飯田一史