プリンで世界をかわいくしたい!cafe「庭とブンガク」から、家でも簡単にひっくり返せる無添加のプリンが誕生
倉敷市老松町に古民家をリノベーションしたカフェがあります。連日、ランチやカフェの利用でにぎわうcafe「庭とブンガク」です。過去2回、倉敷とことこで取材しました。
店を営むのはパティシエの中原詳介(なかはら ようすけ)さん。
「新しいプリンができたんですよ。ぜひ来てください」と中原さんから連絡が入った流れから、筆者は店の取材をさせてもらうことに。
「cafe『庭とブンガク』といえばプリン」と想像するファンも多いなか、新たなプリンが誕生したとは。
わくわくしながら店に向かいました。
本と日本庭園に囲まれたカフェ
倉敷駅近くの住宅街にあるcafe「庭とブンガク」。今は店舗を構えていますが、「まぜこぜ菓子店」の名で、三輪車を押しながらお菓子を販売するところから生まれた店です。2022年にはリニューアルをし、内装が大きく変わりました。
店内には、日本庭園に向かって設けられたカウンター席や大きな本棚があります。
至るところに小さな本棚もあり、まるで店全体が本に囲まれているよう。席によって、雰囲気も異なります。
これまで、販売方法を変えたり、店のリニューアルをしたりしてきたcafe「庭とブンガク」。新しいプリンが生まれたのも自然な流れなのかもしれません。
家でもかわいく食べられるプリン
これまで、店では2種類のプリンを提供してきました。昔ながらの硬めな「硬めプリン」と口溶けの良い「なめらかプリン」です。どちらもひっくり返し、かわいらしい姿で提供されます。
cafe「庭とブンガク」に限らず、カフェや喫茶店ではプリンを注文するとひっくり返った状態で運ばれてくるので、その姿になんの疑問も抱かないでしょう。しかし、家で手作りプリンを食べるときは、容器のままスプーンですくって食べるのでは。
「プッチンプリンのように、家でも店で買ったプリンをひっくり返して、かわいい姿で食べてほしい」との想いで、これまでのプリンを改良した中原さん。家でも簡単にひっくり返せるようになりました。
可愛すぎるプリン(硬めプリン)
レトロプリンの硬めのプリンは、テイクアウト用のメニュー名だと「可愛すぎるプリン」、店内では「硬めプリン」です。
可愛すぎるプリンは、ひっくり返しかたが書かれたイラストを添えて販売しています。イラストがかわいらしいですが、容器は非常にシンプルです。ひっくり返してさらに見た目をかわいくしましょう。
店長の中原さんが、やりかたを実演してくれました。コツは素振りをするように、身体を勢いよくひねること。
遠心力によって、容器からするりとプリンが落ちるのだとか。ひねるのは1回で十分です。
ひねった後は、プッチンプリンの要領で容器を逆さまにして器に盛るだけ。カラメルソースのかかったプリンが出てきました。容器に入ったままを食べるより、ひっくり返したフォルムのほうがかわいいですね。
店内用の「硬めプリン」の盛り付けにしてもらいました。トップに生クリームと真っ赤なサクランボが載って、ますますかわいい見た目に。
硬めな仕上がりですが、口に入れるとなめらか。卵のやさしい風味が口に広がります。ボリュームがあるので、プリンをしっかり食べたいならこちらのプリンが良いかもしれません。
カラメルはほろ苦で、プリンとの味のバランスがちょうど良い。見ても食べても満たされる一品でした。
クレームランヴェルセ(なめらかプリン)
もうひとつのプリンは、テイクアウト用のメニュー名は「クレームランヴェルセ」、店内では「なめらかプリン」です。原材料でもっとも多くを占めているのが生クリームなのは驚き。卵は、可愛すぎるプリンは全卵を使用するのに対し、クレームランヴェルセ(なめらかプリン)は卵黄のみだそうです。
クレームランヴェルセもひっくり返せるのですが、形を保つのがぎりぎりなほど、やわらかいため専用のヘラを使って容器から出します。ふちに沿ってヘラを入れて……するり。カラメルソースのかかったプリンが出てきました。
こちらも、店内用の「なめらかプリン」の盛り付けに。生クリームがたっぷり使われている、ぜいたくなプリンです。
可愛すぎるプリンより、すっとスプーンが入ります。食べる前から、よりなめらかなのが伝わってきました。口に運ぶと、つるんとした食感。世の中にこれ以上なめらかなものが存在するのかと思うほど。すぐに口のなかで溶けていきます。バニラが香る上品なプリンです。
見た目は似ていますが、味も食感も違う、さらに進化した2種類のプリンを堪能しました。プッチンプリンのように特殊な容器ではない場合、ひっくり返すにはゼラチンが必要なのだそうです。しかし中原さんは無添加で、家でも簡単にひっくり返せるよう、研究を重ねました。失敗を繰り返し、構想から完成まで3年ほどかかったといいます。
気軽にテイクアウトできる「まぜこぜ菓子店」
今までは、店内でテイクアウト用に焼き菓子やケーキを販売していました。2024年から店の車庫に車を置いて、そこで販売するように。店名は、美観地区の三輪車時代のものと同じ「まぜこぜ菓子店」です。
車は、まぜこぜ菓子店をはじめるために購入したのだとか。車内に冷蔵のショーケースを設置し、冷蔵品も販売。上のショーケースには焼き菓子があります。まさに小さな菓子店です。
各種ケーキのほか、可愛すぎるプリンとクレームランヴェルセも購入できます。
中原さんによると「プリンバターサンド」もおすすめとのこと。アーモンドが香るクッキーで、バタークリームとプリンが混ざり合ったクリームをサンド。フルーツは季節によって変わります。
プリンの変わり種のスイーツといって良いのでしょうか。たっぷりのクリームでカロリーは高めですが、好きになったら最後。掴んだ心を離さない罪深いスイーツです。
まぜこぜ菓子店は基本的に無人なので、購入品が決まったらボタンを押して店員を呼びましょう。
店内に入らず、その場で買い物ができるので、大変便利です。
スイーツの改良、店のリニューアルなど進化し続けるcafe「庭とブンガク」。店長の中原詳介さんに話を聞きました。
行商から店を構え、ランチやスイーツを提供するcafe「庭とブンガク」。人気のプリンを改良し、アップデートしています。店長の中原詳介(なかはら ようすけ)さんに話を聞きました。
かわいいプリンを家でも食べてほしい
──なぜ2種のプリンをアップデートしたのですか?
中原(敬称略)──
プリンといえば、「硬い」とか「なめらか」っていう食感を表現しますが、今はやはりSNSとかでビジュアルがすごく大事ですよね。でも、ひっくり返したレトロプリンは結局お店に行かなきゃ手に入らないし、そこで食べないといけません。もしくは、お店でひっくり返した状態で販売しているものはあります。
少し前に僕がインターネットでプリンを販売したときに、お客さんがInstagramに載せてくれたことがあります。プリンをきれいに抜こうとして「失敗した」といって、ぐちゃぐちゃな状態が載っていて。もうこれは大変だと思いました。
前々から、プッチンプリンのようにできないかなと思っていまして。プッチンプリンは容器の形状によってひっくり返せます。容器がないからそれはできないんですけど、ゼラチンの入ったプリンってブンって振ったら遠心力で抜けるのをご存じですか?くるんと回るときれいにパカッと抜けるんです。
でも、それができるのはゼラチンがあるプリン限定で、卵を焼き固めたものだと表面が焼けて容器にくっつくのできれいに抜けません。ゼラチンなしのプリンが一切抜けないかといったら、たまにできるものがあって。何かの拍子で抜けるものは、きっとできるんだろうと思ったんです。
温度やレシピを変えながら改良した結果、1万個に1個ぐらい抜けないものがあるかもしれないんですけど、ほぼ100%抜ける状態になりました。スタッフが試しても全部できたので、誰でも手軽にレトロプリンが楽しめる商品を販売できるようになったんです。
──ゼラチンが入っていないのに、抜けるプリンができたのですか?
中原──
そうです。完全に無添加で、凝固剤や安定剤、植物性油脂や香料、着色料などを一切使っていません。2024年5月から販売をはじめました。
なんていうんですかね、これはひとつの社会問題なんですよ。かわいいプリンが手元にないっていう社会問題。この社会問題を解決したくて可愛すぎるプリン(硬めプリン)を作りました。容器に入った状態を写真には撮らないじゃないですか。やはり逆さにした形じゃないといけないんですよ。
ゆっくり買い物ができる「まぜこぜ菓子店」
──店先に車がありますが、お菓子を販売しているのですか?
中原──
2024年4月から「まぜこぜ菓子店」をはじめました。うちの店が靴を脱いで上がらないといけないので、持ち帰りのために来られる人にとって、ハードルが高いなと思って。それをなんとか解消したいと思ったときに、車庫へ持ち帰り用の店ができたら良いなと思ったところから誕生しました。今まで玄関から注文するかたもいらっしゃって、靴を脱ぎたくないかたはけっこういるようです。
──まぜこぜ菓子店をどのように利用してほしいですか?
中原──
気軽に立ち寄っていただければ、と。
基本的には無人で、ボタンが置いてあるだけです。ボタンを押していただくとスタッフが出て来る仕組みなので、人目を気にせず買い物ができます。ゆっくり選んで決まったら押してください。もしくは欲しいものがないな、と思えばそのまま立ち去っていただければ。店員がいるという変なプレッシャーもなく、商品をゆっくり見られます。
車はまぜこぜ菓子店のために購入して、DIYしました。冷蔵ショーケースを入れているので、プリンもここで購入できます。
移動できるので、イベントがあれば主催者さんからお呼びいただけるとうれしいですね。
プリンの探究を続けたい
──さまざまなことに挑戦され続けていますが、今後の目標はありますか?
中原──
プッチンプリンのようにひっくり返せる容器の開発をしたいですね。一番の問題はお金で、1000万円単位の話になると思います。開発するだけではなく、商品を消費するだけの販売力もないといけないです。お金があるだけじゃなくて、販売経路もしっかり確保した状態にならないと挑戦できません。
容器は缶詰バージョンも考えています。缶詰を作るにはそれなりの設備が必要なので、こちらにもお金がかかりそうです。でも実現できると輸出ができます。日本のプリンとして、海外に行ってほしいなと思っていて。キャッチコピーは「プリンがあれば世界はかわいい」ですね。
缶詰があれば、どんな場面でもプリンが用意できるじゃないですか。山や街の景色にかわいさはないですよね。でも、プリンと写真を撮ると、たちまち景色がかわいくなる。プリンがあると世界はかわいいんです。
──開発にはリスクがかかるのに、その意欲と熱意はどこから来るのですか?
中原──
好きなことに説明ができないんですけれども、一番しっくりくる話があります。僕が20代の頃に絵を描いている人に「なんでそんなに絵を描くんですか?」って聞いたことがあって。すると、汚い話ですけど「トイレと一緒だよ」って言われたんですよ。内面にあるものを排出しているだけ。
僕もまったく同じで、エネルギーがあるとかないとかではなく、自分が向く方向に歩いているだけのことなんです。自然な行為で、それがすごいという感覚は一切ないです。ただ、到達するまでは、すごく困難なのはわかるんですけどね。
おわりに
三輪車での販売から始まり、店舗を構え、人気のプリンをアップデートし続けるcafe「庭とブンガク」。新たな挑戦をしたくてもなかなか動き出せない筆者は、中原さんに尊敬の念を覚えます。次々と新たな試みを意識しているわけではなく、ごく当たり前に捉えている点も驚きました。
現状に満足せず、次のステップに進み続ける中原さん。きっと新しい容器の開発の夢も実現することでしょう。cafe「庭とブンガク」のプリンが海外に飛び立ち、世界をかわいくする日が来るのが今から待ち遠しいです。