自然豊かな栃尾地区でへちま製品の魅力を伝える「へちまや」。
草木に囲まれた自然豊かな長岡市の栃尾地区で、東京から移住した女性がへちまを育ています。スポンジをはじめとした加工品を製造し、販売しているんだそう。今回は「へちまや」を営む奈良場さんを訪ね、へちまの魅力やエコライフへのこだわりを聞いてきました。
へちまや
奈良場 香織 Kaori Naraba
1988年東京都生まれ。大学卒業後、JA全農のグループ企業で野菜の流通に携わる。結婚出産を経て2020年に家族で長岡へ移住。農家や畜産研究センターで働いた後、入浴施設で調理の仕事をする傍ら、2022年より「へちまや」を立ち上げへちまの栽培や加工販売をはじめる。小学生の頃から20年近くバスケットボールを続けてきた。
とってもエコなへちまの素晴らしさに、衝撃を受ける。
——奈良場さんは東京のご出身だそうですけど、どういう理由で栃尾地区へ移住したんですか?
奈良場さん:夫には「いつかワイナリーをはじめたい」という夢があったんです。あるとき夫が生まれ育った長岡市のワイナリーがスタッフを募集していることを知って、どうしてもそこで働きながら勉強したいということで移住してきました。
——奈良場さんは、長岡市への移住に賛成だったんですか?
奈良場さん:私もいつか農業をやってみたかったので賛成でした。学生のときから環境問題や農業に関心を持っていて、農業が世のなかの中心にならないと社会はうまくいかないと考えていたんです。だから東京にいた頃は少しでも農業に関わりたくて、JA全農のグループ会社で野菜の流通に携わっていました。
——東京と長岡の栃尾地区では、環境の違いをかなり感じたんじゃないですか?
奈良場さん:私が移住したのは山間部だったから、街灯がまったくなくって夜は真っ暗なんですよ。お化けが出そうで怖かったですね。虫も巨大でビビりました。寝ていたら大きなムカデが脇の下に入っていたなんてこともありましたね。冬には大雪の洗礼も受けて、新車なのにスリップしまくってボコボコになりました(笑)
——いろいろと大変な目にあったんですね。
奈良場さん:でも今ではいろいろなことにすっかり慣れちゃって、交通が不便で飲みにいけないこと以外は平気になりましたね(笑)。東京では物を買って生活するしかできないけど、この栃尾地区では物を作って暮らすことができるんですよ。来てよかったと思っています。
——そのなかでも、へちまを作ろうと思ったのはどうしてなんでしょうか?
奈良場さん:天然素材の家庭雑貨に囲まれた生活を送りたくて、木製の桶や石鹸置きなどを買い集めていたなかで、へちまのスポンジと出会ったんです。その素晴らしさに衝撃を受けたことから、多くの人にへちまのスポンジの魅力を伝えたいと思いました。
——どんなところが素晴らしかったんですか?
奈良場さん:油を吸わず速乾性に優れているので、体を洗う以外にも食器洗いやお掃除と幅広く使うことができるんです。あと繊維がとても強くて丈夫なので長持ちするし、使えなくなったら土に還すことができるエコグッズなんですよ。こんなに便利なものがどうして廃れてしまったのか、不思議でしょうがないくらいです。
——そんなに優れたアイテムなんですね。
奈良場さん:無農薬で作られた国産のへちま製品は生産数が少ないのに需要は大きいので、品切れが続いていたんですよ。それなら私も生産販売しようと思って「へちまや」を立ち上げました。
どのようにへちまを育て、販売しているのか。
——へちまの栽培をはじめるにあたって、どんな準備をしたんでしょうか?
奈良場さん:棚田として使っていた耕作放棄地を譲っていただいたんですけど、しばらく放置されていたせいで草が生い茂っていたんです。それで草を刈って、泥々だった土質の改善も行いました。土質さえ良ければ手をかけなくても育ってくれるので、他所から運んだ土を入れて腐葉土を敷きました。
——へちまを栽培する際に、こだわっていることはありますか?
奈良場さん:自然の力だけで育てたいので、農薬や化学肥料は使っていません。少し離れたところにもへちま棚があって、そちらでも同じように農薬や化学肥料を使っていないんですけど、また違った方法で栽培をしているんです。いろいろなやり方を試してみて、ベストな方法で栽培したいと思っています。
——そうして栽培したへちまでスポンジを作っているんですね。どんなふうに販売しているんですか?
奈良場さん:たくさん作れるわけではないので、自分のもとで販売しているんです。マルシェに出店したり、ネットショップで販売したりしているんですけど、「なかなか売っていないのでずっと探していた」というお客様の声を多く聞いて、へちまの需要を感じています。
——へちまの栽培や加工販売をはじめてみて、難しいと感じることはありますか?
奈良場さん:自分のできる範囲でこだわりを持って栽培や加工をしているものの、もっと大規模にやらなければビジネスにはつながらないというジレンマを感じています。それでも多くの方々にへちまを使っていただいて、その魅力を知ってほしいんです。
竹細工の魅力にも触れ、教室の運営をはじめる。
——こちらの「竹道場 松兵衛」さんというのは?
奈良場さん:空き家になった古民家を使って、先月から竹細工の教室をやっているんです。もっとも、教えているのは私に竹細工を教えてくれている師匠で、私は教室の運営を担当しています。そのついでに「へちまや」の製品も置かせてもらっているんです。
——どうして竹細工を教わることになったんですか?
奈良場さん:使っていないビニールハウスの骨組みを譲ってくれた夫の知り合いが、竹細工を作っていたので教えていただくことになったんです。プラスチック製品が普及するまではどこでも竹細工を使っていたのに、こんなに素晴らしいものがどうして廃れたのか、へちまと同じく不思議に思っています。
——竹細工にも、へちまと同じ魅力を感じたんですね。
奈良場さん:竹細工製品を生活に取り入れることで、いろんな問題の解決につながるような気がするんです。
——なるほど。たくさんの人に「買ってほしい」というよりも「使ってほしい」という思いが強いんですね。
奈良場さん:自宅の庭でもへちまを栽培してもらいたくて、いろいろな方に種を配っているんですよ。自分で育てることで、スポンジとして使うときも大切に使うようになると思うんです。そうして少しでも多くの人にへちまの魅力を知ってもらうと共に、エコライフへの意識を高めてほしいですね。
へちまや
長岡市上塩501 竹道場松兵衛内
9:30-17:00
日月水木金曜休