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多様なテロワールを映し出すフランス産チーズの知られざる世界

料理王国

多様なテロワールを映し出すフランス産チーズの知られざる世界

フランスは言わずと知れたチーズ大国。小さな農家から工場まで、様々な作り手が生み出すチーズは多様性に富み、日本でもファンが多い。今回はチーズプロフェッショナル協会専務理事の鳥海容子さんに、飲食のプロに改めて知ってほしいフランス産牛乳製チーズ6種と、その知られざる世界について教えていただいた。

フランス産チーズの魅力は伝統と革新の融合にあり!

昨今の外食シーンでは、フランス産チーズの主戦場が高級レストランからもっとカジュアルな飲食店やバーなどへ移ってきた。その人気は衰えず、消費量は年々増加している。
「単体で味の完成度が高いフランス産チーズは、料理ほど手をかけずに提供が可能で、そのひと皿で店の価値や満足度を上げられる可能性に満ちています。食のプロとして活用しない手はありません」と鳥海さん。
今回は1200種以上に及ぶフランス産チーズから牛乳製チーズにフォーカス。鳥海さんに今味わいたい6つのチーズを厳選してもらい、その魅力を伺った。

「コンテ 24ケ月」
ハードタイプの大型チーズ。濃厚な風味を味わうため、薄切りや棒状での提供がおすすめ。粒マスタードや黒胡椒、柚子のピールを添えてもよい。

「ブルー・デ・コース」
天然の洞窟で熟成されるブルーチーズ。非常にクリーミーで上質なバターのような口溶け。ミルク感たっぷりの味わいは力強くも上品。

鳥海さんが最初に名を挙げたのが、「コンテ 24ケ月」。このチーズにはAOP(原産地呼称保護)認定がついている。この認定を取るには厳格な規定がある。AOPの獲得は土地の伝統を守ることであり生産者にとって大変な名誉。消費者にとってはそのチーズが高品質で本物の味わいであることの指標になる。AOP認定チーズで最も生産量が多いのはコンテだ。
「コンテは長い歴史がありますが、熟成ものが市場に出回るようになったのは、ここ30年余りのこと。熟成により香りとうま味が豊かに、余韻も長くなる。24ケ月以上熟成されるチーズは生産量全体の1割もないといわれます。熟成士の技術の高さを感じていただきたいですね」。

また鳥海さんが、次世代へ残すために今、最も応援したい牛乳製チーズが、AOP認定の青カビタイプ「ブルー・デ・コース」。世界三大ブルーチーズに数えられる羊乳製チーズ「ロックフォール」の牛乳版だ。
「南仏の石灰大地に自然とできた洞窟の中で熟成され、ミルキーな甘さと青カビの辛さの対比が癖になる希少なチーズのひとつです」。

「サン・ネクテール・レ・ド・サレール」
セミハードタイプ。濃厚で香り豊かなサレール牛のミルクだけでつくるチーズは、しなやかな食感と芳醇かつ重厚な味わいを堪能したい。

「ミモレット・トラディション・レ・クリュ」
オレンジ色と丸い形が特徴のハードタイプ。「レ・クリュ」はとりわけ風味が豊かで、よく咀嚼して食べることでうっとりする余韻が続く。

そして「サン・ネクテール・レ・ド・サレール」は、「チーズそのままの味を一度は堪能してほしい」と鳥海さんが力説する、特別感たっぷりの希少なチーズ。
フランスで国民的AOPチーズ、サン・ネクテールの中でも、サレール種の牛の牛乳100%を使用している。
「サレール牛は、仔牛が側にいなければ搾乳できない繊細な気質。生産に手間と時間がかかり近年のチーズ造りでは敬遠されてきたのですが、MOFのチーズ熟成士、エルベ・モンスさんが昔を懐古し、復活させました」。

原材料のミルクの品質の高さが表れたチーズとして選ばれたのは、「ミモレット・トラディション・レ・クリュ」。ミモレットはその鮮やかなオレンジ色が特徴で日本でもポピュラーなチーズだが、その中でも鳥海さんは無殺菌生乳を用いたものをチョイス。
「チーズの材料は、牛乳と塩、凝乳酵素、乳酸菌。シンプルな材料だけにミルクの質の高さが問われます。よりよいミルクのために牛がストレスなく過ごせるウェルビーイングを追求する生産者も増え、その取り組みは消費者の共感も得ています」と鳥海さん。

農業王国であるフランスでは、従来より持続可能な取り組みへの意識が高く、農薬や化学物質を使わない有機農業などは当然として取り組んできた農家も少なくない。あえてオーガニック認証を表示しないケースも多く見うけられたが、昨今の環境への関心の高まりに伴い、国としても積極的な表示を促している。
「また、製造工程で出る破損チーズをプロセスチーズの原料にしたり、ホエー(乳清)を家畜のエサにしたりという無駄を出さない取り組みは古くから行われてきましたが、持続可能なチーズ作りのために破損チーズやホエーを活用するサステナブルな取り組みは、国をあげて力を入れています。例えばホエーから生まれたバイオエネルギーや再生水は、製造工程での再利用や地域住民への還元など、資源の循環活用が実現しているようです」。

「トム・アフィネ・ア・ラ・ビエール・エ・オゥ・ウーブロン」
繊細な旨味が広がるユニークなチーズは、厚めに切ってむちっとした食感を楽しみたい。ビールだけでなく、白ワインともマッチする。

「アローム・ド・リヨン・オゥ・マール・ド・レザン」
ブドウの搾りかすのプチプチ食感と華やかな香りが印象的な小さなチーズは、カジュアルなシーンに最適。日本酒とのペアリングもおすすめ。

好みのドリンクも多様化する時代。チーズの普及活動と共に、東京・中目黒で酒販店を営む鳥海さんは近ごろ、飲食店での低アルコールの酒、とりわけクラフトビールの需要の高まりを感じている。
そこでクラフトビールとマッチするチーズといえば「トム・アフィネ・ア・ラ・ビエール・エ・オゥ・ウーブロン」。ビールとホップで洗い上げたこのチーズは、むっちりとした食感と、ニンニクを思わせる香りが面白い。
「このチーズのように、AOPではないが、作り手のユニークな発想が表れた個性あふれるチーズもフランス各地で増えている」と鳥海さん。

ちなみに低アルコールの酒と合わせるならば、軽やかな味わいのフレッシュタイプのチーズもおすすめだという。例えば「ブリア・サヴァラン」。まろやかな口当たりと爽やかな酸味で後味がすっきりした「ブリア・サヴァラン」は、「変幻自在の可能性たっぷりなチーズ」。

チーズケーキのような味わいなのでそのまま食べるのはもちろん、マスタードやスパイス、ハーブを合わせたり、丸めてまわりにナッツをまぶして提供したりと、さまざまなアレンジでの変化が楽しめる点も魅力だ。

さらに近年のチーズのトレンドと言えば、黒トリュフやドライフルーツなどをプラスしたアレンジ系チーズが人気だが、とりわけブドウの搾りかすを付けた「アローム・ド・リヨン・オゥ・マール・ド・レザン」は、年末年始にテーブルを華やかにするおすすめのチーズのひとつだ。
「私がチーズの世界にはまったきっかけは30年前、フランス料理店のワゴンサービスで、当時は珍しかった白カビチーズ『ブリ・ド・モー』を食べたことでした。初めての香りや味わいに圧倒されて調べてみると、古くから評価が高く、ウィーン会議で「チーズの王」に選ばれたり、ルイ16世など、名だたる歴史上の人物が愛してやまないチーズとして知られていることが分かった。長い歴史と伝統がある、多様なフランス産チーズの世界をもっともっと知りたくなったのです。今やフランス産チーズは日本で気軽に食べられます。外食でも家庭でも、伝統と革新が入り混じる多様なフランス産チーズを味わってほしいです」。

100年以上の伝統を持ち、作り手の情熱が注がれるフランス産チーズは、工場製(デイリー)と農家製(フェルミエ)がある。それぞれに美点があり、安定した価格と味わいで扱いやすい工場製に対し、搾乳から製造まで単一農家で行われる農家製は、作り手のこだわりや個性が反映される点が好まれている。

鳥海容子とりうみ ようこ

NPO法人チーズプロフェッショナル協会専務理事、JSA認定ソムリエ、シュヴァリエ・デュ・タスト-フロマージュ。銀座・和光を経て、現在は婚家の家業である酒販店・中目黒「Deguchiya」に勤務。仕事を通じてさまざまな食に携わる中で、特にワインとチーズに興味を持つように。国内外を問わず生産者を訪れ、職人の心意気に触れるのが最大の楽しみ。

フランス産チーズの魅力を存分に堪能できるイベントを開催!

CNIEL(フランス全国酪農経済センター)は11月、東京・渋谷でフランス産チーズの魅力を伝えるイベントを開催予定だ。チーズの試食やセミナーなどを通じて、フランス産チーズの品質の高さや、テロワールを映し出す多様な味わいを存分に味わうことができる。

会期:11月23日(土)、11月24日(日)
時間:11:00~18:00
会場:Shibuya Sakura Stage 東京都渋谷区桜丘町1-1(渋谷駅直結)
入場料:無料
主催:CNIEL(フランス全国酪農経済センター) EU協力キャンペーン

詳細はCNIELのインスタグラムをチェック!
https://www.instagram.com/authenticheeses_jp/

text: Yuki Kimishima photo: Hiroyuki Takeda

キャンペーンは、欧州連合(EU)の助成を受けて実施しています。ただし、本記事内に記載されている見解は著者自身によるものであり、必ずしも欧州連合やFranceAgriMerの見解を反映するものではありません。欧州連合や助成機関はここに記載されている情報の使用に起因するいかなる責任も負いません。

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