【20年ぶりに変わった新紙幣】偽造防止技術は世界最高水準!景気対策効果も?「諭吉が飛んでった」は死語に⁉尽きない話題をあれこれ語る!
静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「20年ぶりに変わった新紙幣」です。先生役は静岡新聞の高松勝ニュースセンター専任部長です。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2024年6月24日放送)
(山田)今日は新紙幣の話題ですね。
(高松)話のタネにと、現在の紙幣をここに持ってきました。近年は20年ごとに紙幣のデザインが変更されています。今の紙幣になった前回は2004年。その前が昭和の1984年です。われわれの世代は、1万円札が福沢諭吉、5000円札が新渡戸稲造、1000円札が夏目漱石だったこの時(1984年)の紙幣になじみがありますよね。
(山田)夏目漱石の1000円札のイメージがありますよね。
(高松)自分はいまだに野口英世より夏目漱石の1000円札の方が印象が強いですね。
(山田)夏目漱石の1000円札、良かったですよね。
(高松)今回、7月3日をもって1万円札は渋沢栄一に変わります。
(山田)福沢諭吉は1万円札を2シーズン担当したわけですね。長かった。
(高松)少し恐れているのは、数年後とかに「諭吉」が1万円のことだということが通じなくなるんじゃないかと。
(山田)「諭吉が飛んでった」とか(笑)
(高松)「それ何ですか?」と言われてしまう典型的な「おやじトーク」になりそうですね(笑)。
金額表示はなぜ洋数字になった?
(高松)新紙幣について説明すると、新1万円札の肖像は実業家渋沢栄一、5000円札が樋口一葉から教育者の津田梅子、1000円札は近代日本医学の父と言われる北里柴三郎です。日本銀行が発行するので「日本銀行券」と言います。
当たり前の話ですが、紙幣が価値を持つのはその国の信用があるからです。信用を維持するには偽造を防がなければなりません。紙幣はある意味国力の象徴で、偽造防止の技術は国力を反映しています。長年、日本はこの偽造対策が世界で最も進んでいると言われています。
(山田)透かしとかですよね。
(高松)そうですね。今の紙幣も透かしが入っていますね。今回、回転するように肖像が映る「3Dホログラム技術」を世界で初めて採用しています。
(山田)すごいですよね。ホログラムの中に人物の顔がありますもんね。
(高松)加えて特徴的なのは、われわれの世代は金額の数字は「一万円」などという漢字表記をイメージしますが、今回は主な表記が洋数字になりました。これはかなりの変化ですよね。
(山田)デザイン的には賛否があるんじゃないですか。
(高松)よく言われているのはインバウンド対策ですよね。これだけ海外の方が多く日本に来るようになった中で、ぱっと見た瞬間にいくらなのかが分かるようにと。
(山田)数字のフォントも含めてちょっとポップな感じがしますね。
紙幣のデザイン変更がもたらす光と影とは?
(高松)紙幣のデザイン変更は景気対策的な効果も若干あります。膨大な量の両替機などの機械、システムの交換費用がかかります。機械メーカーにとっては20年に1回訪れる特需になります。多くの受注が発生し、試算によっては1兆円規模のお金が動くとも言われています。もうかる企業がある一方で、問題になっているのは、中小企業や飲食店など両替機や券売機などを多く使わなければいけない事業者の負担です。
(山田)そうか、券売機なども変えなければいけないですよね。
(高松)銀行や公共交通機関などはライフラインでもあるので比較的早く対策に動いていて、業界団体によるとおおよそ大丈夫という話になっていますが、難しいのはコインパーキングや飲食などの業種です。
(山田)コインパーキングの中にはまだ新500円への対応も追いついてないところがあったりしますからね。
(高松)業界団体の調査によると、新紙幣への対策が済んでいるコインパーキングは全国の半分ぐらい。飲食店はそれよりも少し低いという見方があるようです。
機械を1台換えるのにもかなりの金額がかかります。飲食店にとってはただでさえ原材料が高騰し、仕入れコストや人件費が上がっている状況なのに、そこへ来てさらなる設備更新は厳しいという悲鳴に近い声が出ています。
(山田)補助金のようなものはあるんですか?
(高松)自治体の中には補助金制度を用意しているところもあるようです。そもそも新紙幣に対応した機械は品薄で争奪戦になってしまっているので、メーカー側も増産体制で対応を進めていますが追いついていません。しばらくは飲食店や小売店、自動販売機などでは若干の混乱が続くのではないでしょうか。ただ、旧紙幣がまだ大量に出回っていて、すぐにすべてが新紙幣に変わるわけではないので移行期的な話とは思います。
紙幣のデザインが変わった1984年と2004年の間には、2000年の沖縄サミット開催に合わせて2000円札が発行されました。
(山田)紫式部でしたっけ?
(高松)裏面が「源氏物語絵巻」「紫式部日記絵巻」で、表面が沖縄の守礼門です。2000円札の発行も景気対策の一環とも言えます。
(山田)手にすると、ラッキーな感じがしました。
(高松)新しいお札を発行するというのは信用創造に加え、消費意欲を刺激したりみんなが話題にしたりすることで、ある種の景気対策のような側面もあります。
(山田)確かにね。
キャッシュレス進む中、「なぜ新紙幣」の声も
(高松)それでも、若い人に話を聞くと「なぜ紙幣を出すのか。もうキャッシュレスでいいでしょ」と言われることがあります。
海外に比べると、日本はキャッシュレスの比率がまだまだ低く、先進国では最低レベルにあります。経済産業省の統計では、キャッシュレス決済の比率は4割に満たないぐらいなんですが、海外は5割、6割を超えるような高い数字の国も多いと言われています。
また、国の基軸通貨をデジタルにするという議論が始まっています。中国の人民元や米ドル、ユーロなどで話が進んでいます。日本も財務省が「デジタル円」を試験導入する検討を始めています。
通貨自体をデジタル対応にしていこうというグローバルな動きがある中で、「まだ紙幣なの?」という意見は確かにあります。ただ、キャッシュレスを促進する一方で、日本人はお札が好きだという部分もありますね。
(山田)お札、好きですよね。
(高松)この両立をどう進めるかという課題もあります。もしかしたら、今回の新紙幣をほとんど目にすることなく過ごす若い世代が出てくるかもしれません。
(山田)世の中に馴染むにはもうしばらく時間がかかるでしょうからね。
(高松)国は3年間で約70億枚発行するとしていますが、世の中に広まるには時間がかかります。すでに日常生活で財布を持たない、現金を全く使わないという人も一定数いますので、一昔前のように、「新紙幣になって世の中が変わる」という雰囲気とは違っているのかなとも思います。
(山田)でも、やっぱりお札はあってほしいな。
(高松)日本のお札は世界一精巧だと言われていますし、日本人にとって、紙幣は触った感じも含めて工芸品だという観点もありますよね。
(山田)確かに。
(高松)お札を文化品や芸術品だとする見方は日本らしいなと思います。
新紙幣の動きが経済動向を測る鍵
話を経済的な面に戻すと、日本はいわゆる「タンス預金」も多いと言われています。確かにキャッシュレスも進んでいますが、お札がさまざまなところを動いていくということも経済の成長には大きいんです。
今回の新紙幣がきちんと世の中を回るのか、それとも回らずに経済が沈滞するのか。それを測る意味でも、新紙幣が動き、新たなデザインになった渋沢栄一、津田梅子、北里柴三郎の顔が多くの人の目に触れるということがとても大事になってきます。
(山田)僕は大きな買い物はクレジットカードを使いますが、2万円ほどの買い物はお札を使うようにしています。
(高松)へぇー。なぜですか。
(山田)1000円以下は電子決済を使いますが、2万円の会計を「ピロリン」などといった音だけで終わらせてしまうのが嫌なんです。お金の重みがない感じがしてしまって。
(高松)なるほど。金融教育的な部分にもつながりますね。キャッシュレスの推進はとても大事ではありますが、お札を通じてお金の価値とか、稼ぐというのは大変なことなんだというような話を家族でするということはありますよね。
(山田)そうですね。そのうち、高松さんが今日持ってきてくれたこの野口英世の1000円札とかが恋しくなってくるのかもしれませんね。
(高松)そうですね。
(山田)では、この1000円札をお預かりして。
(高松)いや、いや。ということで、話にオチがつきました(笑)
(山田)というわけで、今日の勉強はこれでおしまい!