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【ばけばけ】残酷な現実も"笑って"やり過ごしてきたが...トキ(髙石あかり)がどうしても耐えられなかったこと

毎日が発見ネット

【ばけばけ】残酷な現実も"笑って"やり過ごしてきたが...トキ(髙石あかり)がどうしても耐えられなかったこと

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今回は「ますます光る作劇の巧さ」について。あなたはどのように観ましたか?



※本記事にはネタバレが含まれています。



髙石あかり主演の朝ドラ「ばけばけ」第6週「ドコ、モ、ジゴク。」今週はトキ(髙石あかり)と後の伴侶・ヘブン(トミー・バストウ)との"馴れ初め前夜"のような展開が描かれる。



まず驚くのは、ヘブンが「異人」だからではなく、「個人」としてかなり変わり者であること。水木しげる夫妻をモデルとした『ゲゲゲの女房』の茂さんなども変わり者ではあったが、比にならない。



新聞記者で教師の経験がないヘブンは緊張した様子で中学校に初出勤する。授業は英語だけで行う、聴きとって会話できるよう努力しろと生徒達に言うヘブン。かなりハードルの高い要求だが、「本物の英語」に触れ、生徒達は目を輝かせ、大盛り上がり。まずは好感触の教師生活のスタートだが、早速もめごとが起きる。ウメ(野内まる)の目の病を心配し、花田旅館の主(生瀬勝久)に医者に連れていくよう言っていたのに、今も連れて行っていないことを知ると、自分が片目を失明したこともあり、「メ、イシャ!」を連呼。約束を破ったと言い、「ジゴク、ジゴク!」と繰り返す。用意されていた高級旅館を無視して自分で勝手に花田旅館に滞在し始めたくせに、錦織(吉沢亮)に「決める、下手!」と苦情を言う身勝手ぶりを発揮する。



振り回されるのは錦織で、花田旅館を出ると言うヘブンのために宿を探さなければならず、そうなると身の回りの世話をする人が欲しいということで、「女中」探しまでさせられることに。



しかも、江藤知事(佐野史郎)からは、女中は「どっちもできる(昼も夜も)」ほうがいいという下衆な提案をされ、顔をひきつらせつつ、女中探しに奔走する。



そんな中、女中に立候補するのが、遊女・なみ(さとうほなみ)だ。トキや新聞記者・梶谷(岩崎う大)を探偵に雇って、ヘブンの好みをリサーチする。当時、異人の女中は「ラシャメン(異人の妾)」と言われ、人間じゃないと言われ、悪口を言われ、石を投げられ、木に縛り付けられて、挙句の果てに耐え切れなくなって海に身を投げる人もいると言い、怯えつつも、家族を養うために覚悟を決めるなみが切ない。



だが、決死の覚悟で手作りの弁当も持参し、名乗り上げたが、ヘブンの返事は「いいトモダチでいましょう。ごめんなさい......」。なんとヘブンは武士への憧れから「士族の娘」を希望し、農民の娘は雇えないというのだ。異文化憧れが強いとはいえ、なかなかのろくでなしである。しかも、授業中に英語で「あの旅館の主人は酷い男だ、女中さえ見つかれば」「一体あの男(錦織)は何をしているのだ」と言い、生徒達に書きとらせる。異文化交流という環境下による怯えや苛立ちはあるにせよ、元来持っているように見える繊細さと気の短さとねちっこさのある、相当面倒くさい人間だ。



「橋の北側」の暮らしを夢見るのは、なみだけではない。サワ(円井わん)は貧乏暮らしの中で念願の小学校教師にようやくなれたが、それでも賃金は月4円で、まだまだ今の生活から抜け出せない。トキに至っては、借金取りが他界し、その息子(前原瑞樹)がさらに厳しく取り立てに来るようになり、日々のしじみ売りと内職に精を出すが、借金は一向に減らず。



松野家の日々の活力・しじみ汁からは、しじみの身がなくなり、「なして?」と司之介(岡部たかし)に問われると、「ひとつ残らず売っちょるからでございます。ひとつ残らず売らないと、暮らしていけないからでございます。わかってごしない」。誰とも目を合わせず、キレ気味の早口で薄笑いを浮かべてよどみなく言う髙石の芝居が実に良い。かくして、「士族の娘」としてトキに白羽の矢が立つことになる。



錦織に提示された額は、月20円。花田旅館のウメの給金は月90銭で、女中としては破格の条件だ。家族のためにもと錦織に勧められたトキだが、「家族のために」断り、「馬鹿にせんでごしなさい!」と憤りを見せる。



しかし、家族のために一度は異人の女中を断ったトキの心を動かしたのは、実母・タエ(北川景子)が物乞いをする姿を目にしたことだった。



お姫様で何もできなかったタエは、夫・傳(堤真一)が亡くなり、織物工場が倒産した後、松江を去っていた。それなのになぜ?



物乞いになっても背筋を伸ばし、凛とした佇まいで座るタエは、施しを受けても頭を下げないため、顔を叩かれ、施しも取り上げられる。しかも、司之介が働く牛乳屋の社長のもとに三之丞(板垣李光人)が現れ、働かせてくれと言う場面を司之介は見てしまう。何ができるかと問われた三之丞は、「人を使うこと」と言い、社長にしてくれという無茶苦茶ぶりだ。三之丞はとっておきの印籠のように「雨清水家の人間です」と言い、「格」を持ちだすが、当然怒られ、追い払われる。ここまでは世間知らずの坊ちゃんのトンデモエピソードの悲哀と笑いが漂っていた。



しかし、トキは再会した三之丞からこんな悲しい事情を聞く。織物工場が倒産した後、屋敷と家財を売ったタエと三之丞は親戚の家に身を寄せたが、親戚も貧しく、お金を入れないといけないため、三之丞なりに働いていた。しかし、タエに「雨清水家の人間なら、人に使われるのではなく人を使う仕事に就きなさい」と言われたのだ、と。三之丞が世間知らずだったのではなく、今も「雨清水家」を背負わされていたのだ。トキは自分の家に来るよう勧めるが、それを三之丞は断る。タエの実娘で、三之丞の姉だからこそ、そこにすがりたくないという誇りがあるのだろう。



しかし、トキはある日、タエが物乞いで頭を下げる様を見てしまう。あの気高いお姫様だったタエが頭を下げる、誇りを捨てる姿を。そこで、トキはヘブンの女中になる覚悟をし、錦織に申し出るのだ。



今週は様々な「カネ」の価値が登場した。異人の女中は、月20円。ウメの給金は月90銭。異人の教師・ヘブンは月100円で、サワは月4円。異人の女中はサワ5人分で、ヘブンはウメの111人分以上。もうわけがわからない。



馬鹿にするなと錦織に言い放ったトキだが、サワに女中の条件が「20円だって」と話すときには、つい笑ってしまう。「しじみのむき身」が1合4銭で、それはフミ(池脇千鶴)が丑三つ時から丁寧に殻を剥いたものというときのフミも、やっぱり笑っている。トキが母と二人で1カ月かけて仕上げた内職仕事も、50銭いくかいかないかで、それを言ったときも聞いたサワも、「く~っ」と脱力して笑ってしまう。もう笑うしかないのだろう。



実際に手足を動かし、汗水流して働く医療福祉運送など、日常生活を維持する上で不可欠なエッセンシャルワーカーのほうが低賃金という不条理は、今の時代も同じ。お金っていったい何なんだろう。



松野家の貧しさは、個々の負担の濃淡はあれど、家族みんなで背負う苦悩と笑いでやりすごせても、母が誇りを捨てる姿は耐えられなかったトキの哀しさ。一方で、「ジゴク、ジゴク」とわめくヘブンのもとに行く覚悟をするトキの「ジゴク」の決意。朝ドラでこんな馴れ初めを描くのを見たことがない。



人生の悲哀を笑いたっぷりに描くふじきみつ彦の作劇の巧さがますます光る週だった。


文/田幸和歌子

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