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夏の終わりのエバーグリーン ② 山下達郎「さよなら夏の日」35年前の曲が色褪せない理由

Re:minder

1991年05月10日 山下達郎のシングル「さよなら夏の日」発売日

スリー・ストーリーズ by Re:minder
夏の終わりのエバーグリーン ②
さよなら夏の日 / 山下達郎

「さよなら夏の日」は、1991年5月10日にリリースされた山下達郎21作目のシングルである。この曲は、山下達郎がガールフレンドと地元の遊園地、としまえんのプールに行った夏の日の思い出がモチーフになっているそうだ。全ての演奏を自分1人で行った初めてのシングルでもあり、それゆえ思い入れの深い楽曲だと自身のラジオ番組『山下達郎のサンデー・ソングブック』でも語っている。

さて、今回は「さよなら夏の日」が、なぜ時を経ても色褪せることのない名曲なのか… つまり、なぜエバーグリーンと称されるのかを音楽的な部分と、歌詞の世界観という2つの側面から考えてみたい。 それでは早速いってみよう!

語りかけるようなメロディと、リズムが織りなすやさしさと慈しみ


まず、音楽的な側面から探ってみる。注目したいのは、語りかけるような歌詞と余白のあるメロディだ。ここ数年、世間を賑わす楽曲の多くはBPMのテンポも速く、どの曲もエネルギッシュな印象が強い。SNSやインターネット、あるいはアニメタイアップなどの影響もあるだろうが、定められた秒数のなかに言葉とメロディがてんこ盛りだ。

対して、この「さよなら夏の日」は、呟くようなフレーズにあわせたゆったりとしたメロディによって、空に架かった虹のような壮大なパノラマを聴く人の心に思い浮かべさせてくれる。奇抜さを排除した覚えやすいメロディライン。美しいコードワークと後半の転調… 楽曲として素晴らしい構成であり、シンプルな演奏ながらもガッチリと心を掴まれてしまう。

前述したように、「さよなら夏の日」は、全ての楽器演奏を山下達郎自身が行っている。演奏に使われた楽器はどれも普遍性の高いもので、シンセベースにしても至ってシンプル。打ち込みによる高速フレーズや突飛な音色が使われることなどもなく、飛び道具はハンドベルくらいである。奇を衒うことのないシンプルなサウンドは、この後何十年経とうとも聴く者にすんなりと受け取られるはずだ。

移ろう季節の先にある未来へのエール


さて、歌い継がれている名曲は多々あるけれど、時代を感じさせない歌詞とはどういうものなのだろう…。続いては、歌詞の世界観についてみてみよう。

ふつうの17歳なんか、ひとりもいない(KDDI / 2001年)

夏はハタチで止まっている。(サントリー / 1984年)

これは、広告界の巨匠・秋山晶さんのキャッチコピーであり、どちらのフレーズも “そうだよなぁ…” と感慨に耽ってしまう。ずいぶん前の広告だけれど言葉に古くささはなく、それどころか瑞々しさまで感じてしまう。なぜなら、この2つのキャッチコピーは、どちらも “大人の視点から思い起こした丸ごとの青春” をギュッと凝縮した言葉だから。これ、生きることを積み重ねてきた大人だからこそ、発見できた気づきなんだよね。

そう、「さよなら夏の日」も同じだ。大人の俯瞰した視点からこそ見えてくるものだってある。たとえば、「♪時が止まればいい」の部分。このシーンを大人の視点で見れば、切なさだけではなく、過ぎゆく時間を漂う2人の愛しさの感情に気づくことができるだろう。漠然とした未来への不安に揺らぐ少年少女に愛おしさが湧き上がってくる。

 さよなら夏の日
 いつまでも忘れないよ
 雨に濡れながら
 僕等は大人になって行くよ

夏が終わり、2人は大人になっていく。憧憬と感傷… そして小さな希望。このサビの一節は “いつまでも子どもではいられなかった…” という大人目線から紡ぎだされた言葉。そう、山下達郎が思うジュブナイルの全てがここに凝縮されている。繰り返されるこのフレーズは、大人へと成長した自分から、あの日の2人へ語りかける慈しみであり、移ろう季節の先にある未来へのエールでもある。

大人に向かって駆け上がる虹の架け橋

「ずっと」なんてないことを、こどもたちは夏から教わる。(天神イムズ / 2003年)

これは、宝島社などのユニークなコピーで知られる前田知巳さんのキャッチ。そしてこれこそが「さよなら夏の日」の本当のテーマではないか。この曲がなぜエバーグリーンになり得たのかを一言でいえば、子どもから大人へと変わりゆく人間の成長に焦点を当てたから。つまり普遍性の高い “青春” をテーマに描いたからに他ならない。

“夏の日” とは、誰しもがが思い浮かべるそれぞれの “あの日” であって、それは大切に心に刻まれた青春の1ページ。そして、この曲が素晴らしいなと思うのは、“夏の日の終わりに未来を見せた” こと。「♪ごらん 最後の虹が出たよ 空を裸足のまま駆けて行く」という歌詞は、情景の美しさと同時に、大人へと向かって行く少年少女の希望と勇気を表している。そう、「さよなら夏の日」は、遠い日の花火ではない。誰もが経験する大人への入り口。大丈夫、あのときの漠然とした未来は、虹の架け橋でちゃんと “今” と繋がっている。

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