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大衆演劇の入り口から[其之四十]「大丈夫です!大衆演劇は必ず進化します」おふろcafé湯守座・新社長のアイディア

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((株)温泉道場WEBサイトより) 宮本昌樹社長(左から4番目)、2019年11月のおふろcafé湯守座2周年祭を務めた剣戟はる駒座、おふろcafé湯守座スタッフと。
宮本社長のパソコンには、これまで訪問した劇場・センターがエクセルで一覧にまとめられている。

「大衆演劇ファンの方は今、とても心配されていると思うんです。大衆演劇を公演している一センターの社長として、ファンの方にきちんと考えをお伝えしたい」

四日市温泉 おふろcafé 湯守座(ゆもりざ)」の宮本昌樹(みやもと・まさき)社長は、そう話してくれた。

大衆演劇は、専用劇場の他、センターと呼ばれる温浴施設やホテルで毎日公演を行っている。コロナの打撃を受けても多くのセンターが感染対策をしながら公演を続けているが、一時的に公演を見合わせるところや、中には公演の存続を断念するところもある。この春以降、「公演中止のお知らせ」がたびたびタイムラインに流れてくるようになった。

三重県四日市市のおふろcafé湯守座は、元「天然温泉ユラックス」が2017年8月で閉館し、同年11月にリニューアルオープンした施設だ。2019年4月に宮本社長が就任し、自ら全国の劇場・センター巡りをするほど大衆演劇に惹かれたという。「この機に大衆演劇は必ず進化します」と語る宮本社長の、豊富なアイディアを聞いた。

■「社長、何してるんですか」あちこちの公演地へ

――観劇席数の制限などの条件や、消毒作業などの負荷が増えた上で、センターがこれまでと同じサービスを提供するのは本当に大変だと思うのですが……。

おふろcafé湯守座としては、大衆演劇をやめるつもりはないです。むしろ、これを機に新しいあり方を考えていく方向でいます。エンターテイメントは僕らが人間らしい生活を送る上で、絶対なくならないものですから

――その言葉を聞かせていただけて、本当に嬉しいです!宮本さんはおふろcafé湯守座の社長に就任されて以来、あちこちの劇場へ観劇に行かれるようになったとか。

はい、去年社長になって正直に感じたのは、劇団さんと弊社スタッフの間に距離があるなと。お客様を喜ばせたいというのは同じなんだけれども、劇団さんは劇団さんで、おふろcafé湯守座はおふろcafé湯守座でやっていて、それだと本当に良いものは作れない。だからちゃんと劇団さんとコミュニケーションを取ることから始めたいと思ったんです。でも、僕自身が大衆演劇を全然観ていないのに、一緒にやりましょうっていうのは何か違うなと。そこで、最初に観劇したのは朝日劇場さん(大阪府大阪市)の桐龍座恋川劇団さんでしたね。

――初観劇の印象はいかがでしたでしょうか。

観る前は、知識がないと楽しめないものだと勝手に思っていたんですよ。お芝居の歴史的背景を知らないとわからないかもしれないとか、あとは連続ものの途中の回をやっているのかなとか。でも、全然そんなことはなかったです。普通に誰でも楽しめるんだ!と。以来、色々な劇場へ足を運ぶようになりました。今、全国で行ったことのある劇場・センターは22箇所です。全制覇したいですね。行った所や、これから行きたい所の詳細はエクセルにまとめています。おふろcafé湯守座のお客様にも、ここの劇場が素晴らしいよとか情報を教えてもらうんです。茨城に行ったときは、一日で県内のセンターを三か所回ったことがあります。岩瀬城総合娯楽センターさん(茨城県桜川市)、なか健康センターさん(那珂市)、御老公の湯さん(猿島郡境町)。

――ハシゴまでされるんですね! (一日の中で別の劇場へ移動して公演を観ること)印象的だった劇場・センターさんはありますか?

御老公の湯さんの、縦長の大きな会場には迫力を感じました。梅田呉服座さん(大阪府大阪市)の、ビルの中に劇場が存在しているというのも初めて知ってびっくりしましたね。それから忘れられないのがカッパ王国さん(福島県伊達市)。公演が終わった後、劇団さんが座敷で普通にお客さんと飲んでいたんです(笑)。ローカルな良さを感じて、とても印象に残ってますね (※)。

※カッパ王国は、設備の老朽化を始めとする諸般の事情により、2020年8月31日で閉店。

――印象深い劇団さんは?

たくさんありますが、なか健康センターで拝見した、橘鈴丸座長(橘小竜丸劇団)の独特の世界には驚きました。西欧やゴシック系・モダンバレエなどの要素を取り入れていて、新しいショーのあり方の一つなんだろうなって思います。

橘鈴丸座長 なか健康センターにて宮本社長撮影

ぜひ鈴丸座長に、おふろcafé湯守座で公演してほしいんです。このインタビュー記事で、鈴丸座長の舞台を観て衝撃を受けたということを書いてもらえると、ご本人の目に留まるかもしれません(笑)。

――書いておきます! 劇団さんに、舞台の上から見つかったりしないんでしょうか?

たまに見つかります。むしろ最近はお客様に見つかることがあります。社長、何してるんですかって(笑)。おふろcafé湯守座でやっているときはできるだけ座長に挨拶をするんですけど、他の劇場さんに行くときは黙って行きますね。

――劇場巡りの中で宮本さんが感じられた、大衆演劇のエンタメとしての面白さは?

笑いがあり、涙があり、そしてアドリブが入ったときが面白いですね。映画館だといつでも同じものが観られるじゃないですか。でも、演劇ってその場しかないので。たまに、昨日の夜に飲み会で起きたことみたいなのを芝居に入れてきますよね。そういう、身近な人たちがやっている舞台を身近に感じることができる。その近さがすごく素敵だと感じます。実際、四日市で飲みに行ったりすると、たまに「劇団さん来てたよ」って言われます。関西の文化でいうと、吉本の芸人さんがその辺りを歩いていて普通に挨拶するというような、距離の近さが大衆演劇には残っているように思いますね。

(おふろcafé湯守座ツイッターより) 宮本社長(左)、2020年4月公演を務めた宝海大空座長(左から2番目)。

――コロナへの対応はどのようにされたのですか。

4月7日に東京や大阪などへの緊急事態宣言が出た時点で、色んな考え方を見聞きしていました。劇団さんの中でも公演をやりたいっていう方と、やっぱりここはやめておくべきだっていう方がいました。そのとき最初に思ったのが、劇団側とセンター側で考えが食い違うのが一番良くないと。たとえば、もし僕らが公演をやると言っても、劇団さんはやりたくないとか、あるいはその逆ですね。それから、もし僕が劇団さんの立場だったら、おふろcafé湯守座へ行ったら公演をやるのかやらないのか、収入があるのかないのかわからないという状況はすごく怖いことだなと思いました。そこで、まず劇団さんと話し合って、意志を聞くことにしました。ギャラは公演数に応じてですけど、やっぱり払いたいと思っていましたし。

――4月の公演劇団は宝海劇団でしたね。宝海大空座長とはどんなお話を?

僕らは基本的にはやる方向だけれど、もし三重県から休業要請が出たらすみませんという話をしていました。実際に4月20日に県から休業要請が出たので、4月21日から5月15日まで休館しました。

――休館直前の4月15日に「おふろcafé湯守座オンラインショップ」がオープンし、宝海劇団のTシャツなどのグッズも販売されました。

劇団さんにとって何か実入りが入るチャンスは、できるだけやりました。結果、宝海劇団さんのときは10万円くらい売上があって、お客様に買い支えていただきました。その後も県をまたぐ移動が難しい状況が続いたので、うちの入館券と劇団さんのグッズを合わせて販売していたんですが、劇団ファンの方には喜んでもらえたようです。そこから毎月、少しずつオンラインショップで購入いただけて嬉しいですね。

休館中から、再開後にどれだけ安心・安全な状況を作れるかをずっと模索していました。今後もコロナ対応は難しい問題です。劇団さんの中で感染者を出しちゃいけない、お客様の中でも出しちゃいけない。だけどずっと休業しますっていうやり方にしたら、当然僕たちも劇団さんも食べていけなくなるわけで……そこのバランスをどう取るべきか。

(おふろcafé湯守座ツイッターより) 館内消毒、観劇席の間引き、ロッカーの間引き等の感染対策を行っている。

■おふろcafé湯守座のアイディア①“ジャパニーズショー”

――休館中も、ツイッターで大衆演劇ファンに意見を募ったり、常に新しい道を模索されているのが伝わってきます。おふろcafé湯守座の大衆演劇をもっと盛り上げていくためのアイディアを、ぜひ色々お聞かせください!

まず、ショーは撮影OKということを、お客様全員に知ってもらえるようにしたいですね。というのは、大衆演劇をやっている会場の外から、遠巻きに見ているお客様がやっぱりいらっしゃるんですよ。会場の中に入るのはまだちょっと勇気がいるみたいなんです。その方たちに中へ入っていただくきっかけになるんじゃないかなと。劇団さんの考えによると思うんですが、もしお芝居の撮影も問題ないとおっしゃってくれる劇団さんがいれば、すべて撮影OKにしてもいいんじゃないかなと考えています(※)。

※多くの劇団でお芝居は撮影禁止、ショーは撮影OK。SNS掲載の可否は劇団による。けれどSNS全盛の今、「入り口」という観点ではSNSでの拡散力はとても大きい。

――大衆演劇を知らない方や、若い世代に知ってもらうためには、どんなことが考えられるでしょうか。

やっぱり初めての方にも入りやすいのはショーかなと思うんです。何が適切な表現なのかはわからないんですが、「大衆演劇」っていう四文字よりも、たとえば「ジャパニーズショー」とかの言い方をしたほうが、イメージしやすい方たちもいるのかなって。

――大きく印象が変わりますね!

地味な努力なんですけど、今、少しずつホームページを変えています。大衆演劇を「ショー/演劇」という表記にしたり、若いお客様が舞台を観ているイメージ写真にしたり。それから映画館みたいに、どの席から観られるのかもわかりやすく載せています。もっと初めてのお客様にも楽しみ方が伝わるデザインにしていきたいと思っています。

おふろcafé湯守座WEBサイト。「ショー/演劇」という表記や観劇席の案内が、初めての方に親切な作りだ。

――こういった入り口の部分から変えられているんですね。

かつ、舞台そのもののブラッシュアップも、センターとしてちゃんとやっていくつもりです。新しいショーにチャレンジしたいっていう劇団さんがすごく増えているので、音響や照明には力を入れたいですね。それから、おふろcafé湯守座では時々スタッフが舞台に出させてもらったりするんですが、ここからさらに、お客様自身が舞台に参加できる形を提供していきたいですね。お客様が参加しながら楽しめる場って、なくならないものだなって思うので。

■おふろcafé湯守座のアイディア②オンライン

(おふろcafé湯守座ツイッターより) 2020年5月公演を務めた劇団炎舞メンバーが、おふろcafé湯守座グッズを紹介する動画。手前はおふろcafé湯守座の大衆演劇担当・柿市久子さん。

――おふろcafé湯守座のツイッターで、公演劇団さんが湯守座グッズを紹介する動画を公開されていますね。劇団さんとセンターが協力されていて、心和みます。

おふろcafé湯守座がオンラインをやっていく鍵は二つあると考えています。一つは、劇団さんとファンとのコミュニケーションの機会を増やすことです。

――オンラインでコミュニケーションを増やす……ですか?

もちろん現地でしか味わえないコミュニケーションはあると思うんですが、WEB上でできることとして、たとえば座長に僕が毎回動画でインタビューをしていこうかなと。乗り入れのときにインタビューをさせてもらって、おふろcafé湯守座のホームページに載せるんです。ファンの方にはそれをご覧いただいて、「今月のリクエスト」みたいな感じで演目やショーをリクエストしてもらう。そういう仕組みにできたら良いなと思っています。

――なるほど! コロナで従来の送り出しが難しくなっている今、ファンの方に劇団さんとのつながりを感じていただく手段にもなりますね。

二つ目は、オンラインを通して、入館していただかなくても楽しんでいただけるサービスを作っていくことです。従来、センターはお客様が来てくれて入館料を払ってくれて、初めてお金が落ちる仕組みでした。でもこれからの時代は、そこに縛られずに、新しいサービスを考えないといけない。オンラインショップでの劇団グッズの販売に加えて、将来的には舞台配信を実現したいので、設備投資を進めています。配信で楽しんでいただく、センターにお越しいただいて楽しんでいただく、この両方を実現できるお店にしたいです。

■おふろcafé湯守座のアイディア③地域性とショーを絡める

センターの立場からすると、お客様は劇団さんの追っかけで来てくださる方と、毎日のように通ってくださる方がいます。この両者がたまに館内で話をされているのを見ると、すごく良いなぁって思いますね。コミュニティの場になっているのを感じます。というのは、今までは「大衆演劇のお客様」と「お風呂のお客様」が、別々だったんですよね。ここをちゃんと掛け算して、両方楽しめるようにしたいんです。

――おふろcafé湯守座の中で、お客様が分かれているんですか。

はい、同じ施設ですが、お風呂のお客様は演劇を観ないし、演劇のお客様はお風呂を楽しまないっていう風にされているお客様もたくさんいらっしゃいます。だからそこをミックスさせたいんです。そのために、おふろcafé湯守座でしかできない、地域性と絡めたショーみたいなものができたらいいなと。

――「地域性」ですか?

たとえば、この夏はスクリーンに花火の映像を流す「エア花火大会」をやっていました。従来の花火大会が中止になってしまったので、地域の皆さんに映像で夏を感じてもらおうと。今後はさらに、劇団さんのショーの背景に花火の映像を流していただくとかの形で、劇団さんと一緒にできたらと思います。または、地元の子どもたちの和太鼓に合わせて、劇団さんに演舞をしていただくとか。

――そういった取り組みがあると、地元の方がおふろcafé湯守座っていう場所にすごく愛着を持ちますよね。

センターの強みはそこだと思っています。センターは公演場所であると同時に、地域のコミュニティです。僕らセンターの業界も、大衆演劇が直面している課題と一緒で、お客様に楽しんでいただける、新しいサービスや楽しみ方を常に考えています。今までの良いところを残しつつ、新しいサービスにチャレンジをしていきたい。そのために湯守座を含む、おふろcaféというブランドを作りました。おふろcaféの店舗はすべて、元々お風呂をやっていて経営がうまくいかなくなったお店をリニューアルしたものです。

今後、おふろcafé湯守座は、温泉×大衆演劇の文化を新しい形でお客様に提供する、次世代の「ONSEN×SHOW」のお店としていきたいですね。​

(宮本社長noteより) 2周年祭での口上挨拶。中央が宮本社長。

――最後に、おふろcafé湯守座に乗られた劇団さんの思い出を教えてください。

2019年11月のおふろcafé湯守座2周年祭を剣戟はる駒座さんが務めてくれたとき、初めて僕も舞台の口上挨拶に出させてもらいました。本当に心に残っています。緞帳が上がっていくときは緊張しました。はる駒座さんはすごく優しくて、津川鵣汀(らいちょう)座長と津川祀武憙(しぶき)座長が、僕らの真似をしてくれれば大丈夫です、とりあえずやりましょう!という感じで教えてくれました。

――おふろcafé湯守座から劇団側にご提案をされることも多いのでしょうか。

はい、芝居の題目を日替わりにしてくださいとかのお願いをしたり、僕や大衆演劇担当のスタッフがその都度、話をさせていただいています。僕らセンターとしては、こういうものをお客様に届けたいんだっていうことは、毎回きちんと劇団さんにお伝えするようにしています。それから誕生日公演はちゃんとお祝いしたいので、僕らからも差し入れをさせていただきます。

――常に「劇団さんと一緒に作る」という意識なんですね。

僕は今34歳ですが僕より若い座長さんがたくさんいらっしゃって、すごくチャレンジをされています。僕はセンターの社長の中では、かなり若いほうなのだと思います。座長さんに挨拶に行ったら驚かれることもよくあります(笑)。

若い座長さんたちとお話をさせていただくと、みなさん大衆演劇の業界を背負う立場として、新しいことにチャレンジしていきたいと目をキラキラさせておっしゃっています。みなさんとお話すると、僕もセンターの中では少しでも新しいことにチャレンジしていくのが、業界にとっての役割なんじゃないかなって。すごく頑張らなきゃって思います!シンパシーじゃないですけど、座長さんたちは座長さんたちでそれぞれにチャレンジされていて、僕は僕でチャレンジして、座長さんたちと一緒に作り上げていけたらと思います。

僕は今、おふろcafé湯守座を運営する、(株)旅する温泉道場の代表取締役社長という立場です。27歳のとき、親会社である(株)温泉道場に入社して、色んな施設を経験させていただきました。

今の世の中で、社長をやりたいっていう人はあんまりいないと思うんです(笑)。そうなると、僕らが今当たり前に受けているサービスが世の中からなくなってしまうので、忍びない気持ちがあって、やれる機会があるならやりたいなとおふろcafé湯守座の社長に手を挙げました。温泉道場は埼玉の会社なので関西出身のメンバーってあんまりいないんですが、僕が和歌山出身というご縁もあって、三重県に行かせていただきました。

――記事を読んでいる大衆演劇ファンの方へ、宮本さんからお伝えしたいことは。

おふろcafé湯守座では、お客様・劇団さんたちと、新しい大衆演劇やショーにチャレンジしたいと思っています。道中、たくさん失敗をするかもしれません、お叱りいただくこともあるかと思います。お客様に喜んでいただくために、全力を尽くしていきますので、これからもご愛顧何卒お願いいたします。

おふろcafé湯守座のチャレンジは、公式ツイッターから日々発信されている。下記リンクからぜひフォローしてほしい。

■取材・文=お萩

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