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Vol.52 スーパーボウルを支える「基地局ドローン」[小林啓倫のドローン最前線]

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Vol.52 スーパーボウルを支える「基地局ドローン」[小林啓倫のドローン最前線]

「空飛ぶ基地局」として機能するドローン

技術の進化とともに、日夜ユニークな活用法が検討されているドローン。そうした活用法の中で、早くから検討されていたのが、「空飛ぶ基地局」としてドローンを使うというアイデアだ。

実際、本連載においても、2018年9月の「5Gがもたらす災害用ドローンの進化」という記事の中で、オーストラリアの大手通信事業者Telstraが取り組んだ「セル・オン・ウィング(Cell on Wings)」というコンセプトを紹介している。これは5G(当時の実験ではまだ4Gだったが)の基地局として機能するドローンを多数用意し、それらを何らかの原因によって通信機能がダウンしている、あるいは一時的に大量の通信需要が発生している地域に派遣して、安定した通信網を構築しようというものだ。

このように、空中基地局という仕組みは、自然災害が発生した際の対策として検討されることが多い。日本でも2020年8月に、ソフトバンクが「災害時に携帯電話の基地局として活用できるドローン」を東京工業大学と共同開発し、デモンストレーションを行っている。

このドローンは地上からおよそ100メートルの高度に浮かべて、半径10キロメートルの範囲に電波を飛ばすようになっており、地上にある車載式の中継アンテナを通じて携帯電話のネットワークと接続する。それにより、この圏内では最大2000人程度が同時通話できるなど、通常の基地局と同等の性能が確保されたそうだ。

飛翔体を使って空中に基地局を設けるというアイデアは、ドローン以外にも気球や飛行船などを使う仕組みが検討・実用化されている。しかし「基地局ドローン」の強みは、何と言ってもその機動力だ。気球を使用する場合、ガスで気球を膨らませる必要があり、災害が発生してから対応したのでは通信を確立するまでに長い時間がかかってしまう。しかしたとえば先ほどのソフトバンクの基地局ドローンでは、最短で1時間以内に基地局の運用が可能になるという。

この機動力を活かして、基地局ドローンの新たな用途が検討されている。それは一時的に大勢の人数が集まる、大規模イベント時の活用だ。

スーパーボウルを守るCOWドローン

つい先日(日本時間で2022年2月14日)、米カリフォルニア州のSoFiスタジアムで開催された第56回スーパーボウル。アメリカンフットボールのプロリーグであるNFL(National Football League)の優勝チームを決めるための決勝戦で、「米国最大のスポーツイベント」とも称されている。NFL公式サイトによれば、昨年行われた第55回スーパーボウルの視聴者数は、米国内だけで9640万人を記録したという。また観客の数も多く、昨年はコロナ禍の影響で2万5千人に制限されたものの、例年6万人を超える人々が直接スタジアムに足を運んでいる。

しかしそれだけに問題になるのが、セキュリティ対策だ。大勢の人々が集まれば、それだけでさまざまな事故のリスクが増し、またそれを狙ったテロ事件も発生し得る。たとえば2013年に米マサチューセッツ州のボストンマラソンを狙って起きたテロ事件では、ランナー約2万7千人、観客約50万人が集まった会場で2度の爆発があり(圧力鍋で作られた即席の爆弾が使われた)、死亡者5名、負傷者299名という大惨事となった。

この際、基地局など無線通信のための施設に被害はなかったものの、現場にいた人々が一斉に携帯電話を使ったために輻輳が発生し、一時的に電話がつながりにくい状態が発生している。それだけでも救援を呼べなくなるなどの問題が起きるが、ボストンマラソンの爆弾テロ事件では、容疑者が映った監視カメラの映像の共有が遅れるという事態も起きている。

こうした状況に備えるため、今回のスーパーボウルで配備されたのが、AT&Tの「COWドローン」である。COWとは雌牛という意味だが、ここでは先ほどの「セル・オン・ウィング」を短縮したものだ。つまり基地局ドローンを実用化し、スーパーボウルという特別な舞台に投入したわけである。

COWドローンはドローン本体と、衛星通信用アンテナとソーラーパネルを備えた輸送用トレーラーから構成されている。この輸送用トレーラーで目的地までドローンを運ぶわけだ。ドローンはテザーでトレーラー内の設備とつながっており、ここから電力を得るとともに、携帯電話のネットワークと接続するようになっている。

今回AT&Tは通常の移動基地局車とともに、3機のCOWドローンをSoFiスタジアムに配備したそうである。幸いスーパーボウルは何事もなく終わったが、万が一の事態には、その役割を十分に果たしていただろう。出番がないのに越したことはないが、こうした技術の進化が、事件や事故が発生した際の被害を最小限に抑えてくれるはずだ。

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