リスキリング=学び直しではない。専門家・後藤宗明さんに学ぶ、生存戦略としてのリスキリング
2026年、ビジネスシーンでは「リスキリング」という言葉が当たり前のように飛び交っています。しかし、その実態はどうでしょうか。
「将来のために、AI関連のビジネスについて勉強しなきゃ」
「でも仕事が忙しくて、休日に勉強する余裕なんてない」
そんな焦りを感じている方も少なくないでしょう。実際、マイナビ転職が2025年10月に行ったアンケート調査(※)では、リスキリングの「経験あり」と答えた人が全体の2割程度に留まりました。
なぜ、これほどまでにリスキリングは自分ごとになりづらいのか。そして、技術やビジネスのトレンドが刻々と移り変わるこれからのビジネスシーンにおいて、生き残るためにどんなリスキリングをすべきか。
日本におけるリスキリングの第一人者であり、一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表の後藤宗明さんにお伺いしました。
監修者
後藤 宗明(ごとう むねあき)
早稲田大学政治経済学部卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)入行。グローバル人材育成を行うスタートアップをNYにて起業、米国の社会起業家支援NPOアショカの日本法人設立に尽力。米国フィンテック企業の日本法人代表、通信ベンチャーの国際部門取締役を経て、アクセンチュアにて人事領域のDXと採用戦略を担当。
2021年、日本初のリスキリングに特化した非営利団体、一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブを設立。2022年、AIを利用してスキル可視化を含むリスキリング・プロセス支援を行うSkyHive Technologiesの日本代表に就任。石川県加賀市「デジタルカレッジKAGA」理事、広島県「リスキリング推進検討協議会/分科会」委員、茨城県リスキリング戦略アドバイザー、経済産業省「スキル標準化調査委員会」委員、リクルートワークス研究所 客員研究員を歴任。政府、自治体向けの政策提言および企業向けのリスキリング導入支援を行う。著書『自分のスキルをアップデートし続ける「リスキリング」』は読者が選ぶビジネス書グランプリ部門賞受賞。2025年9月に新著『リスキリング【人材戦略編】』を上梓。
リスキリングは「学んだだけでは完結しない」
経済産業省が公開しているリクルートワークス研究所の定義によると、リスキリングとは「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」。つまり、「スキルの獲得」「仕事に生かすこと」を前提としたアクションであることが分かります。
しかし、後藤さんは「日本において、リスキリングは『学ぶこと』と見なされがち」だといいます。
「これは『学び直し』と訳されるケースがあることにも起因していそうですが、学ぶだけではリスキリングの要件を満たしません。私が客員研究員として関わったリクルートワークス研究所の定義(上記)にもある通り、学んだ後に仕事に生かすことを見据えてスキルを身に付けることではじめてリスキリングと言えます。
そして、リスキリングが盛んな欧米の会社ではもっぱら、従業員個人ではなく、会社が主導して行うものです。会社が従業員に身に付けてほしいスキルを示し、従業員はそのスキルを『就業時間内に』『業務の一環で』身につける。
日本ではしばしば、就業時間外に好きなことを学ぶ『生涯学習』と一緒くたにされますが、欧米だと両者は明確に区別されています。
もちろん従業員自身が身に付けたいスキルを考え、主体的にスキルを獲得していくボトムアップのアプローチも、個人のキャリアを成長させる上では大事です。が、私としては、会社が経営戦略や事業計画と紐づけて『うちではこんなスキルを身に付けられます(今後はこういうスキルを身に付けてほしい)』と従業員に宣言することが何より重要だと感じます。とはいえ、現状そのような姿勢を示す企業は限られていますが」
だからこそ、今回の調査で、教育訓練休暇給付金制度の活用意向が3割にとどまったことについても「当然の結果」だと分析します。
《画像:「教育訓練休暇給付金制度の活用意向」を聞いたアンケートの結果》
《画像:「休暇を伴うリスキリングに対する職場の反応予想」を聞いたアンケートの結果》
「今はあらゆる業界で人手不足ですから、会社に『休みを取って勉強しに行きます』とはなかなか言い出しづらいのでしょう。
少し話が逸れるかもしれませんが、このアンケート結果を見て、日本は今後、リスキリングを業務に組み込む会社と、個人の自主性に委ねる会社で、成長速度にどんどん差がついていくのかもしれない、と感じました。
成長を続ける企業は、役員から従業員までが業務の一環で新たなスキルを身に付けようとしています。
例えばある大手IT企業は2023年より「生成AI徹底理解リスキリング」というプログラムを業務に組み込み、AI人材の育成に積極投資しています。また、ある大手商社も2021年にDX(デジタルトランスフォーメーション)に関する社内研修を始め、DXを通じた業務効率化、事業創出に取り組んでいます。
やはり会社側が『就業時間外で自主的に学んでください』というスタンスでは、リスキリングはなかなか進まないのかもしれません。
個人の立場でも、給与をもらいながらリスキリングできる会社に身を置くのと、自腹を切って新しいことを学ばなくてはならない環境に身を置くのとで、スキルの格差が広がっていくはずです」
リスキリングできる環境を探すためのコツ
ただそうは言っても、今いる会社がリスキリングの環境を用意してくれない場合もあるでしょう。企業規模や現場の事情もさまざまな中で、すべての企業がすぐに制度を整えられるわけではありません。その場合、個人はどう動くべきでしょうか。後藤さんは「リスクの低いアクションから順に実践していきましょう」と、具体的なステップを提示します。
「まずは会社に『業務としてリスキリングできる環境の構築』を提案してみる。それが難しいなら、副業や兼業などを通じて外部で新しいスキルを獲得できないか模索する。
就業規定などで副業や兼業が禁じられている場合は、ボランティア(例えばNPOのWeb制作など)で実戦経験を積んでもいいでしょう。
もし今の環境でどうしても実践の機会が得られない場合は、『学びと実践の両方に挑戦できる会社を探す』いう選択肢も、キャリアを成長させる一つの方法です。
いずれのステップにおいても重要なのは、デジタルやAI、グリーン(脱炭素)、宇宙開発といった『成長中のビジネス』との繋がりを意識すること。そして先ほども少し触れましたが、リラーン(学ぶ)だけで終わらせないことです。新しいことを学んで、実践して、はじめてスキルになりますから。
例えば、Webマーケティングの知識を3か月学んだだけの人を、企業はおそらく『即戦力』として採用しませんよね。でも、学んだことを実践する場を自ら設け、実績を作った人なら話は別です。学ぶだけでなく『どう実践機会を確保するか』までセットで考えると、リスキリングからキャリア構築までの道のりがより鮮明になります」
リスキリングできる環境を求めて転職をする場合、どんなことを意識すればよいでしょうか。最近は転職サイトなどでも「資格取得支援制度あり」「書籍購入支援あり」などの求人特集も見かけますが、後藤さんは転職面接で使える「ある質問」を教えてくれました。
「いつもアドバイスしているのは、自身が即戦力として貢献する姿勢を示した上で、『この会社に、リスキリングやアップスキリング(スキルアップのこと)できる環境はありますか?』と面接で聞くことです。
もし『オンライン講座を提供していますよ』と言われたら、さらにこう聞いてください。『それは就業時間外にやるものですか? それとも、仕事としてやるものですか?』と。
ここで嫌な顔をされるようなら、その会社でリスキリングの機会は得づらい(自ら獲得していく必要がある)かもしれません。逆に、嫌な顔をせず堂々と答えてくれる会社は、リスキリングの環境を整備している可能性が高そうです。キャリアの成長を望むなら、やはりこうした会社をこそ選ぶべきです。
先ほど紹介した2社の事例のように、就業時間内に学ぶことを奨励し、そのための環境を整えている会社には、自ずと優秀な人材が集まり、企業も成長していきます」
リスキリングを成功させた“石川県の伝統的な製造業”
一方、リスキリングを「従業員が新しいスキルを就業時間内に、業務の一環で身につけること」だと定義した場合、会社側や上司・先輩の立場としては「人員が余るのではないか」「転職されやすくなるのではないか」と不安に感じるかもしれません。
こうした不安に対して、一つの解を提示しているのが石川県のある樹脂メーカー。従業員100名以下の中小企業でありながら、後藤さんいわく「日本でも指折りの、リスキリングを成功させている会社の一つ」だと言います。
「この会社は、ロボットを導入して製造プロセスの6割を自動化しました。そうすると普通なら人が余るはずですが、実際は直近の数年間で従業員数は増えているんです。
なぜか。自動化によって手が空いた従業員たちがリスキリングを行い、別の成長分野で新しい仕事を創り出しているからです。さらに、新しいスキルを持った人たちが転職してきている。
もちろん、新たな環境を求めて転職する人もいたのかもしれませんが、そうした人材を手放さないように会社側が給与アップや事業成長を止めなかったからこその現状と言えますよね。リスキリングの環境を整えることで、人が育ち、人が集まり、会社が成長するという最高のサイクルが生まれています。
そしてこの事例が素晴らしいのは、リスキリングに対する経営層のスタンスです。
例えば、専務ご自身がWeb広告の運用やロボットの操作などにチャレンジする。だからベンダーとの価格交渉もできるし、何より従業員にスキルの習得過程を教えられる。管理職やリーダーの皆さんにとってチームの成果が上がるのは好ましいことですし、20代、30代の若い世代は、こういう環境に身を置けばキャリアの成長につながると思いますよ。
リスキリングの環境がある会社に身を置くこと。それは今後、ビジネスパーソンとして重要な生存戦略の一つになってくるはずです」
リスキリングは「会社の経営戦略」の一環であり、ビジネスパーソンにとって会社選びの軸とすべきもの、という後藤さんの考え方を新鮮に感じる方も多いのではないでしょうか。
リスキリングをキャリア成長の原動力とするためにも、まずは今の環境で声を上げ、それが叶わぬなら、学びと実践を両立できる「次の船」を自ら探す。
新しいスキルを身につける道のりは、一度に大きく変わる必要はありません。できる範囲で小さな一歩を積み重ねることで、確実に未来の選択肢は広がっていきます。
そのアクションこそ、AI時代における真のキャリア自律の始まりと言えるのかもしれません。
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( https://tenshoku.mynavi.jp/ft/salary/?src=mtc )
【出典】
※マイナビ転職「リスキリングに対する意識調査」( https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/careertrend/26/ )
取材・編集:はてな編集部
制作:マイナビ転職
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