初潮前後の女の子に知ってほしい 初潮前の「おりもの」の変化とは 産婦人科医が【子どものフェムケア】を解説
「子どものフェムケア」について産婦人科医・海老根真由美先生に取材。初潮前後に増える思春期のおりものの役割やケア方法など(全2回の1回目)。
5人に1人はコンドームをまったく使っていない! その理由とは?「おりものが気になる」「匂いが強いかも」「シートを使ったほうがいいのかな」。そんな疑問や不安を抱えている子どもや親は少なくありません。また、月経前におりものが増えて、不安になることも。
そもそもおりものとは何なのか、どんな役割があって、どのようにケアすればよいのでしょうか? 「白金高輪海老根ウィメンズクリニック」院長の産婦人科医・海老根真由美先生に、初潮前後の女の子に知っておいてほしいポイントを教えてもらいました。
おりものの役割は「清潔を保つ」「受精を助ける」こと
──そもそも、おりものとはどのような役割を果たしているのでしょうか?
海老根真由美先生(以下、海老根先生):おりものというのは、腟(ちつ)や子宮から出てくるネバネバした分泌物のことです。女性ならば誰にでもあるものですから、時期によって量などが変化しても、あまり心配する必要はありません。
おりものの役割は大きく2つあります。ひとつは、「膣の中を清潔に保つ」役割です。おりものの匂いをかぐと、ちょっと酸っぱい匂いがすると思います。これは、おりものの中に含まれる細菌の働きで、おりものが酸性になっているから。膣の中を酸性にすることで、雑菌の繁殖を防いでいるのです。
もうひとつは、「受精を助ける働き」です。おりものは、生理と生理の間にある排卵期にもっとも量が多くなります。これは、受精を助けるためです。排卵期にはとろみのあるおりものが多く出ることで、精子が子宮に到着するのを手助けしているのです。
初潮前はおりものが増えるのは女性ホルモンの影響
──初潮の前に、おりものが増える気がします。これはどうしてですか?
海老根先生:一般的に、おりものは初潮の1年ほど前から日常的に出てくるようになります。そして、初潮の前になると急におりものが増えることもあります。初潮が近づくとおりものが増えるのは、女性ホルモンが増えることと関係しています。
女性ホルモンが増えると、それまでは固く閉じていた膣が少しずつ開いてきます。大人になる過程で膣が開いてくると、どうしてもそこに雑菌が入りやすくなります。その雑菌を防ぐために、おりものが増えてくるのです。
初潮前は膣炎や膀胱炎に要注意!
海老根先生:この時期は膣内に雑菌が増えやすいので、膣炎や膀胱炎になりやすい傾向があります。膣炎とは、膣の粘膜に炎症が起きてしまうことです。膣内に病原体が入り込んだり、特定の病原体が過剰に増えたりすると、膣内の環境が乱れて膣炎になってしまいます。
膣炎になると、デリケートゾーンにかゆみや痛みが出たり、おりものが変化したり、嫌な匂いのおりものが増えたりします。膣炎は、多くの場合は放っておいても治りません。婦人科などを受診して、抗菌剤を使って治療します。
また、膀胱炎は、尿をためる場所である膀胱に炎症が起こる病気です。膀胱炎になると、おしっこをした後もおしっこが残っている感覚になったり(残尿感)、何度も何度もトイレに行ったり(頻尿)、おしっこをするときに痛みを感じたりします。やはり、抗菌薬の投与などによって治療します。
写真:Paylessimages/イメージマート
ちょっとしたストレスが引き金になることも
──初潮前は、膣炎や膀胱炎に注意が必要なのですね。
海老根先生:はい。なお、初潮前だけではなく、3~4歳の小さな子どもも膣炎が多いといわれています。はっきりとしたデータはありませんが、おそらくこの時期の子どもに膣炎が多いのは、トイレと公園遊びが理由ではないかと思います。
3~4歳というと、自分一人でトイレに行って、ひとりでおしりを拭き始める時期ですよね。ですから、どうしてもきれいに拭けていないことが多くなります。同時に、公園などに行けば、お尻を地面にぺたんとつけて遊ぶため、雑菌が入りやすくなることも。こうした理由から、この時期は膣炎が増えるのではないかと考えています。
ただ、私自身は膣炎について、ちょっとした「風邪のようなもの」だと考えています。どうしてかというと、それだけ女性にとっては“身近な病気”だからです。
昨年(2024年)、私のクリニックで調べたところ、1年間で約3000人が“おりものの異常”で受診していることがわかりました。つまり、1日に10人受診していたことになります。
女の子は、試験勉強や部活、受験などのストレスによって、膣内の環境が乱れて膣炎になることも珍しくありません。ちょっとでも「おりものの匂いが気になる」「デリケートゾーンがかゆい」など不快な症状があれば、気軽に婦人科を受診してもらえたらと思います。
「正常なおりもの」と「異常なおりもの」の見分け方
──「正常なおりもの」と「異常なおりもの」の見分け方について教えてください。
海老根先生:一般的には、正常なおりものは次のような状態です。普段から自分や子どものおりものの状態を知っておくと、「ちょっと変だな」などと、おりものの異常に気づきやすくなりますよ。
【正常なおりもの】
色:透明、乳白色、クリーム色、下着などに付着して時間が経つと黄色に変化匂い:ほとんどないか、少し酸っぱい臭い
性状:ややねばり気がある
──おりものが気になるときのケアについても教えてください。
海老根先生:基本は、シャワーでていねいに洗い流すことです。それによって、デリケートゾーンの表面は清潔に保つことができます。ただし、膣の中までは洗うことができないので、膣の中のトラブルはやはり婦人科を受診したほうが安心です。
また、おりものが気になっておりものシートを使いたいと思う人もいるかもしれませんが、実はおりものシートは逆効果になることがあります。
カビや雑菌が繁殖するには、一定の湿度と温度が必要です。ですが、おりものシートをつけることで、かえってショーツの中が蒸れてしまい、カビや雑菌が繁殖しやすい環境になってしまうのです。
写真:アフロ
海老根先生:また、生理用ナプキンやおりものシートの多くには、水分をしっかり吸収するために「高分子吸収ポリマー」という素材が使われています。これは石油から作られたもので、プラスチックの仲間です。
プラスチックの過剰な使用は近年、環境問題の面からも、女性の健康への面からも、好ましくないとされています。ですから、おりものシートを使いすぎるのは考えものです。
初潮前後の女の子で「いつ生理が来るかわからないから不安」といって、ずっとナプキンやおりものシートをつけているケースがあります。しかし、ナプキンなどをつけっぱなしにすることで、ショーツの中が不衛生になっているおそれも。
それよりもむしろ、ショーツ自体が水分を吸ってくれて、ナプキンやタンポンが不要になる吸水ショーツのほうがお勧めです。急な生理でもあわてなくてすみますし、ナプキンのように蒸れる心配もないため安心ですよ。
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初潮前の女の子にはおりものが増える仕組み、そして、初潮前には膣炎や膀胱炎が起こりやすいことを教えていただきました。
次回2回目では、月経前の不調である月経前症候群(PMS)について、引き続き海老根先生に教えていただきます。
取材・文/横井かずえ
海老根先生の「フェムケア」は全2回。
※2回目は公開時よりリンク有効