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中森明菜「歌姫」1994年にリリースされた “昭和のカバーアルバム” 記念すべき第1作

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1994年03月24日 中森明菜のアルバム「歌姫」発売日

中森明菜の名カバーアルバム「歌姫」


1994年にリリースされた、中森明菜の名カバーアルバム『歌姫』のアナログ盤が1月24日に発売された。明菜が93年にMCAビクター(現:ユニバーサル ミュージック ジャパン)に移籍して以降、リリースされたアルバムが、昨年11月29日発売の『UNBALANCE+BALANCE+6』を皮切りに次々とアナログ発売されており、本作もその第3弾としてリリースされるものだ。

実質的には2002年にリリースされた『歌姫(スペシャル・エディション)』のアナログ化である。このスペシャル・エディションには、千住明らによる演奏の “インストゥルメンタル・ヴァージョン" もボーナストラックとして収録されており、こちらも今回アナログ収録されることになった。

総勢50名のフルオーケストラでの演奏を収録


プロデューサーは飯田久彦と川原伸司、そして明菜自身。数百曲に及ぶ候補曲の中から、9曲に絞られた収録曲は、60年代から70年代に発表された女性シンガーによるポップス。最も古い作品では1966年に発表された園まりの「逢いたくて逢いたくて」、最も新しいところでも1979年12月発売の山口百恵「愛染橋」である。

千住明の編曲による、総勢50名のフルオーケストラでの演奏を同時録音で収録。明菜は86年のアルバム『CRIMSON』や87年のシングル「難破船」に通じる、穏やかで、囁くように歌いかける歌唱法をとり、しっとりと情感を込め、繊細な女性心理を歌っている。『歌姫』を、アナログ盤の温かみのある音で聴いてみたいというリスナーは多かったのではなかろうか。

管楽器の如く、温かさに満ちている明菜のボーカル


抑制された繊細なボーカルは緊迫感に溢れ、一見、平坦に聞こえる歌い方も、ところどころで思い溢れるかのような感情表現をみせ、まるで目の前に彼女が立って、囁いているかのような臨場感がある。優美なストリングス・アレンジと相まって、明菜のボーカルもまるでフルートやビオラのような管楽器の如く、温かさに満ちている。聞き手の心の奥底まで入り込んでいくかのような歌は、アナログ盤で聴いた際にその凄みが際立つであろう。

前作に当たるオリジナル・アルバム『UNBALANCE+BALANCE』がかなり力の入った作品であったため、少し肩の力を抜いた形で、カバー集を考えたと、川原プロデューサーは語っている。だが、確固たるオリジナルのスタイルが存在する楽曲ばかりのため、明菜による独自の解釈での歌唱に至るまでは相当な苦労があったとも。

オリジナルとは異なる世界を現出


収録曲のうちのいくつかは、オリジナルシンガーのために書かれたパーソナルな作品である。「愛染橋」はもともと、山口百恵が婚約発表をしたため、プロデューサーの酒井政利が作詞の松本隆に “結婚を迷っている女性の歌を” という意図で書かれた曲だった。

「ダンスはうまく踊れない」も、作者の井上陽水が、歌唱者である石川セリの気持ちを引くために30分で作りプレゼントした曲と言われている。同様に「終着駅」は歌い手の奥村チヨが、お色気歌謡ばかり歌わされるのに辟易していたところ、ディレクターの草野浩二より「こんな曲があるよ」と提示された曲で、大人の愛と別れを歌うその曲に奥村は飛びついたと言われている。石川セリも奥村チヨも、その曲を契機として、作曲者と結婚に至ったこともあり、プライベートな色も強い楽曲なのだ。

こういった楽曲も、明菜は独自の解釈でオリジナルとは異なる世界を現出させている。この中では異色に思えるカルメン・マキ&OZの「私は風」も、ロック的解釈を一度横に置き、歌詞を読み込み、自身のものにしていった経緯が一聴してわかるのだ。

明菜の卓越したボーカル・コントロール


スローな曲が多く、全体には平坦な印象を与えかねない『歌姫』だが、岩崎宏美「思秋期」におけるバラディアーとしての上手さと、荒井由実「魔法の鏡」のボサノバタッチのアレンジに乗せた軽やかな解釈では、いずれも明菜の卓越したボーカル・コントロールが際立つ。

純正歌謡曲と、ニューミュージック系の楽曲が混在しているのも興味深い。1965年生まれの中森明菜はこれらの楽曲を幼い頃から並列で聴いてきた、あるいは耳にしてきたと思われ、その原体験があるであろう彼女が、両ジャンルの曲を歌うことで、アルバムのトーンに一貫性が出ているのだ。

J-POPという総称が定着し始めたのも、『歌姫』がリリースされた1994年前後の数年間であり、歌謡曲と非・歌謡曲がJ-POPの称号の元に融合されていく過程の中で、この『歌姫』がリリースされた意味は大きい。歌謡曲も、自作自演者の楽曲もリスナーが並列に聴く時代が訪れ始めていたからだ。

94年の明菜の立ち位置そのものであった「片想い」「愛撫」


当時、このアルバムの発売同日には、収録曲の中から「片想い」をシングルカット。カップリングで収録されたのが、前述の『UNBALANCE+BALANCE』に収録されていた「愛撫」である。松本隆と小室哲哉によるこの曲は、典型的な小室サウンドのダンスビートに乗せ、低域を強調するクールでセクシーなボーカルの傑作。トレンドのダンスビートを取り入れた新曲と、過去の楽曲を独自の解釈で再生しようと試みた2曲のカップリング。曲調も歌唱法も、作られた時期も、全くタイプの異なる2曲だが、どちらも中森明菜の現役感を示すものであり、94年の明菜の立ち位置そのものであったと言える。

新たなスタイルの楽曲を次々と自身のものにしてきた80年代の明菜は、歌謡曲の可能性を大きく広げていき、この「愛撫」でも自身のシンガーとしてのキャパシティを拡げ、新たな歌謡曲の可能性を提示してきた。それと同時並行して、先達の女性歌手たちの名曲に新鮮な息吹を吹き込んでいる、そんな印象も受けた。一度は評価が固定された楽曲を、自身の解釈で歌うことで、歌そのものに自身の思いを投影させる。明菜がこの盤で挑んだことは、結果として彼女に「歌姫」の称号を与えることとなった。

「歌姫」の企画は2002年に『-ZEROalbum-歌姫2』、03年に『歌姫3〜終幕』とシリーズ化され三部作となり、さらには演歌、フォーク、ムード歌謡のカバーアルバムを発表。2015年には『歌姫4-My Eggs Benedict-』を発売するなど、昭和の歌謡曲を掘り下げていくカバーアルバムのシリーズは、明菜による昭和歌謡史の再構築とも受け取れる。繊細に、丁寧に歌い込まれた昭和の名曲たち。アナログ盤で聴くことにより、リスナーにも新たな発見がきっとあるはずだ。

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