「AIで頭悪くなる人はもともと馬鹿」大塚あみが切り込む“AI万能感”の罠
生成AIを使えば使うほど、人は考えなくなってしまうのではないかーーそんな懸念が、静かに広がっている。
2025年4月にマイクロソフトとカーネギーメロン大学が発表した調査では、生成AIを日常的に使う知的労働者の一部で批判的思考力が低下する傾向が報告された。確かに、AIに文章やコードを書かせることに慣れてしまえば、自分の頭で考える機会が減るのではないかという不安は、多くの人にとって実感を伴うものだろう。
The Impact of Generative AI on Critical Thinking: Self-Reported Reductions in Cognitive Effort and Confidence Effects From a Survey of Knowledge Workershttps://www.microsoft.com/en-us/research/publication/the-impact-of-generative-ai-on-critical-thinking-self-reported-reductions-in-cognitive-effort-and-confidence-effects-from-a-survey-of-knowledge-workers/
この「生成AIを使うと頭が悪くなる問題」をめぐる声に対して、実際に生成AIを使い倒してきた当事者はどう感じているのか。
今回話を聞いたのは、『#100日チャレンジ 毎日連続100本アプリを作ったら人生が変わった』(日経BP刊)の著者・大塚あみさん。
自らを“生成AIに育てられた第1世代”と称する彼女の答えから見えてきたのは、生成AIによる「思考停止」そのものよりも、「AIさえ使っていれば将来なんとかなる万能感」に酔う危うさだった。
合同会社Hundreds代表
『#100日チャレンジ 毎日連続100本アプリを作ったら人生が変わった』著者
大塚あみさん(@AmiOtsuka_SE)
2023年4月、ChatGPTに触れたことをきっかけにプログラミングを始める。授業中にChatGPTを使ってゲームアプリを内職で作った経験を、23年6月の電子情報通信学会・ネットワークソフトウェア研究会にて発表。その発表が評価され、24年1月の電子情報通信学会・情報ネットワーク研究会における招待講演を依頼される。23年10月28日から24年2月4日まで、毎日プログラミング作品をXに投稿する「#100日チャレンジ」を実施。その成果を24年1月に開催された電子情報通信学会・情報ネットワーク研究会(招待講演)、および電子情報通信学会・ネットワークソフトウェア研究会、 2月にスペインで開催された国際学会Eurocast2024にて発表した。24年3月に大学を卒業後、IT企業にソフトウェアエンジニアとして就職。24年9月、国際学会CogInfoComにて審査員特別賞受賞。24年12月、合同会社Hundredsを設立。25年1月、著書『#100日チャレンジ 毎日連続100本アプリを作ったら人生が変わった』(日経BOOKプラス)を出版しベストセラーとなった
目次
AIの登場で自分の馬鹿が露呈しただけ生成AIでサボろうとするほど、逆に頭を使うAIやってれば人生安泰。その幻想が最大のリスク結局は、地道な成果物の積み重ねをできるかどうか
AIの登場で自分の馬鹿が露呈しただけ
ーー「生成AIを使うと考えなくなる」、「頭が悪くなる」という声に対して、率直にどう感じますか?
生成AIを使うから考えなくなるんじゃなくて、もともと考えない人が生成AIを使い始めただけじゃないですか?
昔から、ネット検索したものをコピペするみたいなことは普通にありましたよね。AIになっても構造は同じですよ。生成AIの出力がまだ稚拙だから「考えてない人の浅さ」がすぐにバレやすくなったとは思います。
ーーAIが出てきたから新しく起きた問題ではない、と。
そうですね。そもそも現状の生成AIよりうまく書ける人なんて、人口の10%くらいだと思います。大多数の人にとっては生成AIに書いてもらった方が、分かりやすくてちゃんとした文章になる。
もともと思考力がない人が、AIに頼って中途半端な出力で満足しているだけで、思考力の低下をAIのせいにするのは違うと思いますよ。
ーーとはいえ、日常的にAIを使っていると「思考停止するんじゃない?」という不安もありますが……
最近私はClaude Codeを使って開発しているんですが、buildやlintでエラーが出ないことを確認して、そのままプッシュするみたいな進め方は、思考停止と言えるかも知れないです。
文章を書くのも同じで、最近は使うプロンプトがほとんど決まっているので、覚えているものをそのまま書いて送るだけの時は「まあまあ思考停止かもな」と思います。
でも、それはごく一部の場面にすぎません。AIに任せれば楽できるんじゃないかと思われがちですけど、実際は楽をしようとしても全然楽にならない。まだAIの性能はせいぜい“上位10%”程度ですからね。
私自身は作家なので、文章力はおそらく上位1%、もしかすると0.1%の領域にいると思っています。だからChatGPTの文章を読んでも「これはすごい」と思ったことはありません。どれも手直しが必要で、毎回「めんどくさいな」と思いながら直してます。
思考停止させてくれるなら、させてほしいくらいですよ。
生成AIでサボろうとするほど、逆に頭を使う
ーーむしろ生成AIを使うことで、思考するシーンが増えたという感覚もありますか?
どうでしょうか。確かに、単純作業をAIが引き受けてくれるようになったので、例えばバグを修正するときでも「どう直すか」というロジックやアプローチそのものを考える時間は増えました。
コードを書くときも同じです。アルゴリズムの細かい実装を考えるより、例えば「クリーンアーキテクチャをどう導入するか」「なぜそのアーキテクチャが必要なのか」といった根本的な部分に目を向けざるを得なくなったと思います。
ーーそうやって物事の仕組みや根本を考えるようになったのは、何かきっかけがあったんですか?
なんでしょうね。たぶん、生成AIと出会ったときに「どうやって宿題をサボろうかな」って考えてた頃から、あんまり変わってない気がします(笑)
宿題をサボるにしても、「どう指示すれば先生にバレないか」とか「どう仕上げれば自然に見えるか」とか、いろいろ工夫するんですよ。ChatGPTが出る前なら、人に読書感想文やらせるにしても、どう頼めばうまくいくか考えるとか。
そういう“ズルの仕方”を考えるのが、結果的に考える練習になってたのかもしれませんね。
ーーただ「サボる」と聞くと、一般的には「0から考えない=頭が悪くなる」というイメージもあります。
まあ、そう言われるのも分かりますけど……そのレベルのサボりは、もう経験済みというか。
バグ直しにしても、最初は「とりあえずAIに丸投げして答えもらえればいいや」ってやり方を試したんです。でも結局、それじゃうまく動かない。
だから今はまず「これの原因はこうなんじゃないか」って自分でアタリをつけてから聞くんです。で、一緒に解いていく。そういう感じなんですよ。だから「考えずに丸投げ」っていうのとはちょっと違う。
生成AIって、言ってしまえばExcelの関数みたいなもの。便利だけど、勝手に全部やってくれるわけじゃない。こっちが状況をちゃんと伝えないときちんと動かないんです。
でも、全部の状況を細かく伝えるなんて現実的じゃないし、だからこそ「どこを切り取って説明すればいいか」を考えないといけない。そこはどうしても頭を使わされますね。
AIやってれば人生安泰。その幻想が最大のリスク
ーー大塚さんご自身は「生成AIに育てられた第1世代」と称されていますが、同世代の若手を見ていて、「その使い方は危ないんじゃないか」と思うケースはありますか?
生成AI自体が危険ってことはあまりないと思います。今のAIはセキュリティー面もしっかりしていて、危ないことをやろうとすると止められるようになってますし。
「AIの言うことを鵜呑みにするな」とか「AIへの指示出しの精度を上げる」とか、もう何度も言われてることを守っていれば大丈夫じゃないですかね。
むしろ問題なのは、使い方より、今の生成AI界隈にはびこってる空気感にあるというか……。
ーーというと?
「生成AIをキャッチアップし続けていれば人生うまくいく、変わる」みたいに本気で信じてる人が多すぎるんです。AIで思考力が落ちるとかいう話より、私はむしろその万能感の方に危うさを感じます。
実際、イベントやミートアップに行くとそういう人ばかりですよ。懇親会に行くと、参加者の3割くらいは“LLM無職”ですし(笑)
ひたすら情報ばかり追って、地道な開発はしてない。でもそういう人たちが今はインフルエンサーとしてもてはやされている。実態を知ってる側からすると「いやいや……」って感じです。お金も稼げてなくて、貯金を切り崩して生活してる人がほとんどですから。
本当にうまくいくのは、せいぜい上位2〜3%だけじゃないですか? 残りの人は収入ゼロのまま「明るい未来が来るはず」と信じて走り続けている。一昔前の、意識高い系ブームを見てる感じです。
ーーご自身は、そうした人たちと一緒に見られることはありませんか?
多分端から見たら、私も派手にやってるように見えるんでしょうね。でも実際はめちゃくちゃ地に足がついていると、自分では思ってます。
受注開発で稼いで、本も売れてる。noteやXだってちゃんと収益につながってる。だからサブスクの請求書も払えてるわけです。
要は「実体のある活動」をしているかどうか。そこが決定的に違う。
勉強すること自体は悪くないです。でも「情報をキャッチアップして人脈作ってるだけで、最先端にいるように見えるから将来安泰」って考えてる人が多すぎるんですよね。
AIを使えばホームページの一つくらい、一日二日で作れる時代なんだから、成果物を作るなり「お金につながる活動」をしていないと、いくらAIを追いかけても危ういと思います。
結局は、地道な成果物の積み重ねをできるかどうか
ーー実体のある成果物を生み出せているかどうかが、「AIを追ってるだけで淘汰される人」と「ちゃんと生き残れる人」の分かれ道と言えそうですね。
そうですね。多くの人は「自分がどう成長するか」しか見てない。でも社会から見たときに「この人は何をしてきたのか」と示せなきゃ意味がないんです。
本人は「毎日情報収集して勉強してる」って思ってても、外から見れば、ネットで調べてXに投稿してるだけ。朝出勤してYahooニュース読んで帰るのと大差ない(笑)。それじゃ「仕事してる人」には見えないですよ。
だから本来は、自分の学習だけじゃなくて「外からどう見えるか」まで考えないといけない。実績をどう示すか、その証拠をどう残すか。この視点が抜け落ちている人が多い。
特に社会人経験の少ない若い人ほどそうじゃないかな。まあ、私もまだ24ですけど(笑)
ーーとはいえAI界隈のキラキラしている感じを見ていると、そっちの世界に踏み入れたくなるのも分からなくはないというか……
「AIで仕事がなくなるかもしれない」「AIを使えない人材は解雇される」ってニュースを見て、不安になるのは当然です。ただ、その危機感が「毎日キャッチアップしてれば大丈夫」みたいな安易な方向に流れてるのが問題。
実際に評価されるのは、毎日のSNS投稿じゃなくて「成果物」なんです。賞を取った、本を出した、実際にプロダクトをリリースした、論文を書いた……そういう「形に残る結果」がある人だけがキャリアをつないでいける。
私だって本を一冊出しただけで、頻繁に取材が来るわけですから。社会は結局、結果でしか見ません。
ーー社会はそれほど甘くない、ですね。
逆に言えば、毎日ちゃんと開発やってる人はそれだけで何の心配もない。変に不安になる必要はないと思います。「このままじゃ未来がない。早くAIの世界に行かなきゃ」なんて、焦らなくていい。
AIで仕事が全部なくなるなんて、少なくとも日本企業のペースでは15年くらいはないですよ。慌ててAIの世界に飛び込んでも、思ったほど状況は変わらないんじゃないですかね。
だから、自分がやってきたことを文章に残しておくといいと思います。履歴書でもポートフォリオでもいい。生成AIに渡せば整理してくれるし、自分のブランディングにもなる。
そうすれば、最悪今の仕事がなくなったとしても、再就職できると思います。地道な実績の積み重ねは、こういう所で真価を魅せるはずです。
撮影/桑原美樹 取材・文/今中康達(編集部)
●書籍紹介
『#100日チャレンジ 毎日連続100本アプリを作ったら人生が変わった』(日経BP刊)
怠け者の大学4年生がChatGPTに出会い、ノリでプログラミングに取り組んだら、
教授に褒められ、海外論文が認められ、ソフトウェアエンジニアとして就職できた。
大学4年の春。授業でChatGPTを知った私は、宿題をサボるためにその活用法を編み出した。
プログラミングにも使えることを知り、出来心で「#100日チャレンジ」に取り組み始めた。
毎日1本、新しいアプリ(作品)を作り、X(旧ツイッター)に投稿するというものだ。
暇つぶしで始めたそれは、過酷な挑戦であると同時に、日常的な興味と学び、そして飛躍をもたらした……。
ーー Z世代の著者によるAI駆動型プログラミング学習探究記 ーー
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