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子どもの入院 親の付き添いで「食事がない」「眠れない」 実体験に基づく過酷実態とは

コクリコ

子どもが突然入院したとき、ママやパパの付き添い環境は、それは非常に過酷なものです。自身の入院付き添いの経験から、入院している子どもとその家族を支える活動を続ける認定NPO法人キープ・ママ・スマイリングの光原ゆきさんに、子どもの入院付き添いの実態について、実体験をもとに語っていただきました。全3回の1回目。

子どもの入院付き添い 親の過酷な実態とは

ある日、突然起こる子どもの入院。小さな子どもが病気やケガで入院するだけで、ママやパパの不安や心配は計り知れません。ところが、子どもが入院したときの苦労はそれだけではありません。多くの場合、子どもの入院は親の付き添いが求められます。そして、その環境は非常に過酷なものです。

今回は、自身も2人の子どもの出産と同時に病児のママとなった、認定NPO法人キープ・ママ・スマイリングの理事長・光原ゆきさんに、子どもの入院付き添いの実態について、実体験をもとに語っていただきました。

光原ゆき
認定NPO法人キープ・ママ・スマイリング理事長。1996年一橋大学卒業後、株式会社リクルートへ入社。先天性疾患を持つ娘を出産後、育児休暇中に亡くした経験から、2014年11月に現団体の設立、理事長に就任。病児と家族の応援の輪を広げるため、企業や学校、イベントなどで講演も多数行っている。

生後すぐ「今日からお母さんも泊まってください」

私自身、2人の子どもを出産しましたが、2人とも先天性の疾患を持って生まれてきました。2009年に長女を出産したときは、生まれたその日に「すぐに手術をしないと命が危ない」と言われ、生まれた日の夜中に救急車で大学病院に搬送されました。

そして生後5日目に大きな手術を受け、その後なんとかICUから個室に移ることができました。しかし、個室に移ったその日から「今日からはお母さんも一緒に泊まってください」と言われて、私の入院付き添い生活がスタートしたのです。

産後約半年間 ほぼ付き添い生活に

私は初めてのことなので何もわからずに、言われたとおりに子どもと一緒に病院に寝泊まりする生活を始めました。そこから約半年間はほとんど自宅に帰ることもなく、子どもにチューブでミルクをあげたりオムツを替えたり、おしっこの量を量って看護師さんに報告したりなど、さまざまなケアをしながら病院で過ごしました。

このときは、とにかく我が子のことが心配なので自分のことなど、考える余裕もなかったですし、こういうものなのだと現状に疑問を持つことはありませんでした。

子どもが眠っている時間だけ買い出しに行ける

画像提供:キープ・ママ・スマイリング(イラスト協力:ひいらぎ舎)

しかし、そうは言っても子どもに付き添って病院に寝泊まりする生活は、非常に厳しく過酷なものでした。

例えばつらかったことの一つに、食事の問題があります。入院時、子どもには病院食が出ますが、付き添いの親には食事の提供がないことがほとんどです。

そのため、ママたちは子どもが眠っているわずかな時間にコンビニや売店に行き、子どもが寝ている間に急いでご飯を食べなければなりません。2~3日ならばそれでもなんとかなりますが、私のように何ヵ月も入院が続く場合、とても自分の体がもちませんでした……。

寝返りもできない狭くて硬いベッド

子どものベッドに一緒に眠ることも。  画像提供:NPO法人キープ・ママ・スマイリング(イラスト協力:ひいらぎ舎)

また、睡眠が十分に取れないのもつらいことの一つでした。付き添い入院では、病院によっては多くは有料で簡易ベッドを借りられますが、スペースがなく、狭くて硬いベッドがほとんどです。特に私は出産後すぐだったので、寝返りをうつスペースもない小さなベッドでひどい腰痛に苦しみました。

次女は長女よりも重い病気に

さいわいにして、長女はその後退院し、私も仕事に復帰。そして3年後には、2人目を授かることができました。

ところが、次女は妊婦健診の時点で、長女よりもさらに重い病気を持っていることがわかったのです。大学病院でも「これまで手術例がない」と言われるほどでしたが、手術してくれる医師を紹介いただき、次女も生まれてすぐに手術を受けました。

しかし、一度の手術で治るような病気ではなく、その後も複数の病院で入院生活を送ることに。そして、私も2度目となる入院の付き添いをすることになりました。

スティックパンで3食過ごすママたち

子どもの入院中、経済的負担を少しでも軽くしようと、自分の食費を節約しようとする保護者も少なくありません。  イラスト/古屋あきさ

2度目の付き添いで驚いたのは、病院ごとに付き添い入院の親が置かれている環境とルールはまるで違うということです。

付き添いするか、しないかを選べる病院もありましたが、多くは当然のように親の付き添いが求められました。また、食事やベッド、シャワーなどの生活環境も大きく違いました。

ある病院では、お金を払えば保護者も病院のご飯を食べることができました。当時で1食700円ほどかかりましたが、温かいご飯が食べられるのが何よりもありがたかったのを覚えています。しかし、周囲の付き添いのママたちを見ていると、一日2食だけしか食べていなかったり、スティックパンで3食過ごす人もいました。

いくら子どもの医療費は無料といっても、家庭と病院と2つの場所での生活が長くなると、経済的な負担は小さくありません。そのため、せめて自分の食費は節約しようと思うママたちが多かったのだと思います。

親用のシャワールームがない

シャワーの有無も違いの一つです。ある病院ではシャワールームがなく、入院時に病院近くの銭湯の地図を渡されただけでした。しかし、病気の子どもは少し泣いただけで酸素濃度などが下がってしまうこともあります。

そのような子どもを置いて、銭湯に行くのは至難の業です。結局、その病院に付き添い入院している間は、夜間カーテンの影で体を拭くだけで何日も過ごさなければなりませんでした。

保育士が配置されている病院も

一方で、とてもありがたい環境の病院もありました。それは、小児科病棟に保育士などを配置している病院です。

保育士がいれば、親が医師と治療の話をする間、子どもをみていてもらうことができます。あるいはシャワーを浴びている間など、安心して任せることができます。
病棟に保育士がいるかどうかで、付き添っている親の負担が天と地ほど違うのを実感しました。

次女が生きた証を残したい

こうしてさまざまな病院で付き添い入院をしながら治療に取り組んでいましたが、残念ながら、次女は1歳の誕生日を迎えることなく亡くなってしまいました。それからしばらくの間は、どうやって朝、目が覚めて1日を生き延びたのかもわからないほど、絶望と深い悲しみの中で過ごしました。

悲しみのなかで、「次女が生まれた意味があったと思いたい。その意味をこれから自分で作っていこう」と考えるようになりました。

そこで思い出したのが付き添いの日々です。入院付き添いの過酷な状況を、少しでも改善につなげることにこれからの時間を使おうと思いました。

私自身が体験してわかったことは、付き添い入院の問題は医療の狭間で取りこぼされているということでした。

日本の小児医療は、間違いなく世界でもトップレベルです。実際、非常に難しい病気を持って生まれた長女は、その後元気に成長し、今では中学3年生になりました。

もしも今から20年、30年前だったら、長女の病気も治ることができなかったかもしれません。

自分を責めてしまうママやパパたち

その一方で、付き添い入院の状況は何十年も変化していないのです。

理由の一つは、子どもが病気になってしまったママやパパの多くは、心のどこかで「私のせいだ」と自分を責めてしまうから。私自身、子どもに病気が見つかったときは「私が働きすぎたせいだ」などと自分を責めました。

その結果、親たちが付き添い入院生活の実態について「社会課題」として声をあげることがないまま何十年も過ぎてしまったのです。

だからこそ、実態を知る誰かが伝えなければならない──。そう考えて、NPO法人を立ち上げて活動をスタートしました。

───◆───◆───

2人の娘さんの付き添い入院生活から、付き添い入院の過酷さを知ったという光原さん。

次回2回目では、どうして子どもの入院に付き添いがこれほど過酷な環境になってしまうのか、子どもの入院環境の背景にある問題について教えていただきます。

取材・文/横井かずえ

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