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【コラム】SNS投稿時代に一石! ジブリパークの「撮影禁止」について考える

ロケットニュース24

愛知県長久手市、広大な公園内にスタジオジブリ関連施設が点在する「ジブリパーク」。

楽しみ方はいろいろあるが、見どころは「サツキとメイの家」「地球屋」など、作品世界を再現した実物大建築物だろう。しかし「どんな部屋があるのかな」「どれくらいリアルなのかな」と事前に調べたときに、SNS上にほとんど写真がないことに気づくかもしれない。これらの建物内部は完全に写真撮影禁止。

その代わり総合展示施設「ジブリの大倉庫」には、実物大ジオラマのなかで登場人物になりきって写真を撮れる「ジブリのなりきり名場面展」がある。

初めてジブリパークを訪れた筆者。このメリハリに感嘆してしまった。コンテンツ保護のための撮影禁止ではなく、体験価値を守るための最善策と思えたからだ。

※以下「どんな展示があるか」に文章上で一部触れています。ネタバレを避けたい方は先に進まず戻ってください。

(1)写真を撮るために人が滞留しない

撮影禁止のもっとも実際的な利点は、言うまでもなく「奇跡の1枚」を撮るための人々が滞留しないことだろう。

控えめに言って、展示はどこも「最高に写真映えしそうなスポット」ばかりだった。背景にしたらそのまんま作品の登場人物になれるし、生活用品のディティールなんて何百枚撮っても足りないのでは、というくらいだ。

だからこそ。

建物はどこも「実際の家サイズ」なので、決して広くない。もしひとりでも写真を撮るために立ち止まっていたら、大渋滞が起こるだろう。撮影を不可にするだけで、動線がものすごくスムーズになる。

また、必然的に動画ライブ配信者が存在し得ないのもメリット。特に迷惑行為がなくとも、ライブ配信は周囲に不安を喚起することが多いと思う。私たちメディアも、撮影時には「不安や不快に思っている人が必ずいる」と肝に銘じなければいけないが、カメラがないだけで場に安心感が生まれることを実感する。

(2)目の前のことに集中できる

写真が撮れない、つまり手にスマホを持っていないとどうなるか。自然と目の前のことに集中するようになる。ジブリパークで素晴らしかったのが、多くの場所で「展示物に手を触れてもいい」ということ。

これは勇気ある決断だ。破損もするだろうし、展示物を持ち帰ってしまう人がいないとも限らない。いろいろなリスクはあっても、来場者の善意を信じるという強い信念だろう。

「サツキとメイの家」では、押し入れを開けると家族全員分の布団とパジャマが出てくる。タンスには、ちょっと防虫剤の匂いのするお父さんの服が入っている。劇中さながらに二階への階段を探して回れるし、メイちゃんの帽子も見つかる。発見の連続で、「自分で見つけた!」という満足感が湧き上がる。

スマホのディスプレイを通さないぶん、五感が鋭敏になる。手に持ったメイちゃんの服の小ささ、押し入れのきしみ、古い食器がかもしだす生活感……実体験として鮮やかに記憶に刻み込まれる。

ドキュメンタリー番組『ジブリパークができるまで。』で、宮崎吾朗監督が「実際に生活しているように洋服をたたみ直したりして、どんどん触ってあげるといい」とスタッフに話していた。それが「家を生かす」ということなのだろう。

驚くことに、「サツキとメイの家」は薪でお湯を沸かせたり、かまどでご飯を炊けたり、実際に生活できるように作られているそう。神は細部に宿る。

(3)ネタバレしない

一億総フォトグラファー時代、どんな場所も、どんな催しも、簡単にインターネットを通じて疑似体験ができる。「現地でしかわからないことがある」とは思いつつも、動画や画像が放つインパクトは、私たちメディアが誰よりも知るところだ。

しかしジブリパークの多くの展示は室内撮影禁止なので、どんな部屋があるか、どんなものが見られるか、公式発信以外の前情報がほとんどない状態で現地へ行く。

いわばネタバレなしで現物に直面するので、出会ったものひとつひとつに新鮮な驚きがある。特に実感したのが「ハウルの城」だ。明るい屋外から薄暗い城内に入ったときのヒヤリとした空気感。目が慣れてくると、作中そのままの雑然とした生活用具や魔法小物の物量に圧倒される。

触ることのできないエリアだが、小物、音、光、動きで緻密に再現されたハウルの寝室は必見だ。アニメーションという二次元でしか見たことのなかったものが、重量感や質感をともなって目の前にあることに感動してしまう。

ジブリパークには特殊効果満載のライドアトラクションがあるわけでも、きらびやかなショーがあるわけでもない。しかし「空間づくり」へのこだわりや、造り込みのすさまじさは世界規模のテーマパークをしのぐと思う。

・SNS発信を前提とする現代型テーマパークの功罪

テーマパークの役割は、用意された演出を楽しむ「世界観にひたる場」から、SNSを中心とした「発信の場」へと変化している。テーマパーク側でも、時代に合わせて運営方針をアップデートしているはずだ。

かつてディズニーリゾートで行われていた大晦日のカウントダウンイベントに毎年参加していた筆者。ある頃から急速に潮目が変わったのを感じた。

それまではチケット入手こそ少し苦労するものの、インパークさえしてしまえば、ショー鑑賞、限定メニューの飲食、お正月アイテム購入など、特に攻略プランなどなくても一通りのイベントを楽しむことができた。それぞれの入園者のやりたいことが、適度に分散していたのだと思う。もちろん行列はあったが、並びさえすれば目的は達せられるので、先を争うものでもなかった。

ところが、ある年から様子が変わった。入園直後にもかかわらずお正月アイテムの棚はからっぽ、特別メニューは軒並み完売、イベント鑑賞はキャストが声を張り上げて場所取りの人々を整理するような険しい空気。

おそらく「自らの体験を発信する」というSNS文化や、転売で利益を得るビジネスが始まった時期なのだと思う。やりたいこと、欲しいもの、食べたいものを手に入れるには、努力して勝ち抜かなければならない、という世界線が生まれた。

それはテーマパーク側にとっても悪いことではなくて、SNSで拡散されたり、グッズの希少性が高まったりするのは、ファンの熱量の裏返しだ。そのため現在のテーマパークは「参加型・発信型体験」を前提に設計されているとされる。

ジブリパークは、写真を撮って楽しむ場所/写真なしの五感で体験する場所を、明確に区分している。写真OKの「ジブリのなりきり名場面展」は開園から長蛇の列で、これもまた楽しそうだった。写真を撮りたい人も、興味がない人も、どちらも否定しない理想的な棲み分けではないだろうか。

執筆・イラスト:冨樫さや
Photo:RocketNews24.

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