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「クマがいたら走って逃げて」は超危険! 夏山へ行く子に伝える「4つの基本」と親の「防御方法」[専門家が解説]

コクリコ

「クマがいたら走って逃げて」は超危険! 夏山へ行く子に伝える「4つの基本」と親の「防御方法」[専門家が解説]

東京都が、現在は禁止しているツキノワグマの狩猟を、約20年ぶりに解禁する方向で検討しているなど、連日クマを巡るニュースが後を絶ちません。

「夏のキャンプは十分気をつけるべき」と警鐘を鳴らすのは、20年以上クマの生態を研究してきた岩手大学農学部の山内貴義准教授。特に夏は、キャンプや川遊びを楽しむ機会が増える一方で、クマの活動がもっとも活発になる時期でもあります。

もし、親子の前に突然クマが現れたら──。親はどう対応し、子どもは何を覚えておけばいいのか。引き続き、山内貴義准教授に伺いました。

▶画像 「自由研究おたすけイベント」の賢い探し方

●山内貴義(やまうち・きよし)
岩手大学農学部 地域環境科学科准教授(野生動物管理学研究室)。農学博士。クマをはじめ大型野生哺乳類の生態や、人と野生動物が共存するための科学的根拠に基づく保護・管理手法を研究。明治大学農学部卒業後、東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了。岩手県環境保健研究センター主任研究員を経て現職。

クマから身を守る4つの基本

クマは本来、臆病で人を避ける動物です。しかし、人間の突然の行動によって興奮し、防御のための攻撃に転じることがあります。そのため、驚かせない、興奮させないことが大前提です。

「クマを見ても、『大声を出さない』『走らない』という約束を、子どもと必ずしてください。『ギャー!』とか『クマだ!』と叫んだり、あわてて走り出したりするのがもっとも危険です。

子どもが取り乱しそうなら抱き寄せて落ち着かせ、必要に応じて口もとを手でおおうなどして、とにかく大声を出させないこと。急な動きや大声でクマを刺激しないことが何より大切です」(山内准教授)

クマが生息する森の様子。見通しが悪い場合は、クマが近くにいてもお互い気づきにくく“ばったり遭遇”が起こりやすい。  写真提供:山内貴義

そのうえで重要になるのが、クマとの距離です。遠くで見つけた場合と、近距離で遭遇した場合では、取るべき行動は異なります。

◾遠く(100m以上先)にクマを見つけたとき
すぐに襲ってくることはほとんどありません。クマの様子を見ながら静かに後ずさりしましょう。

後退する際の共通ポイントは、岩や木などの“障害物”を間に挟むこと。障害物を利用して、クマが一直線に突進できない状況をつくることが、身を守ることにつながります。

◾近距離(数十m)で遭遇したとき
数十m先にクマを見つけた場合も同じです。もし、まだこちらに気づいておらず、近寄ってきた場合は、手を振ったり穏やかに声をかけたりして、人間の存在を知らせましょう。人間だと認識すれば、多くは自らその場を離れていきます。

逃げない、またはこちらに興味を示してきた場合は、クマ撃退スプレーを構えながら静かに後ずさりしましょう。

「私が以前、遭遇したクマは、ドングリを夢中で食べていて、こちらが声をかけてもその場を離れませんでした。ホイッスルを吹いて近づくと唸り声を上げたため、それ以上近づくのは危険と判断。目的地まであと10分の場所でしたが、Uターンし、1時間以上遠回りをして下山しました。無理に進まず、引き返すことも大切です」(山内准教授)

◾至近距離で遭遇したとき
小さな子どもと一緒なら抱きかかえ、大声を出さずに落ち着いて後退してください。クマ撃退スプレーがあれば準備をする……というのが理想ですが、実際は、あ然としている間にクマが去っていくことも多いです。

それでも突進してきた場合、時速40~50kmで走るクマから逃げ切ることは、“人類最速の男”ウサイン・ボルトでも不可能です。いちばんは、クマ撃退スプレーを使うこと。それも難しい場合に、最後の手段となるのが「防御姿勢」です。

「両手を首の後ろで組んで頸動脈を守り、うつ伏せになって体を丸めます。子どもの体格や状況によって可能であれば、親は、子どもにおおいかぶさるようにしてください。リュックを背負っている場合は、プロテクター代わりになります」(山内准教授)

山内准教授が小学校で行っているツキノワグマ防除対策の出前授業の様子。いざというときのために、親子で防御姿勢の練習をしておきたい。  写真提供:山内貴義

クマは、一撃を加えた後にそのまま立ち去るケースも少なくないとか。

「クマの攻撃は、比較的短時間で終わることが多いとされています。攻撃中は反撃したり、立ち上がって逃げようとせず、防御姿勢を崩さずに攻撃が止むまで凌ぐことが重要です」(山内准教授)

子どもに状況別の対応を教えても、いざという場面で判断するのは難しいでしょう。山内准教授は、子どもには①「大声を出さない」②「走らない」③「後ろへ下がる」④「襲ってきたら、防御姿勢」という基本だけを繰り返し伝えておけば十分だと話します。

「これらを親子で何度も確認しておくだけで、いざというときの行動は大きく変わるはずです」(山内准教授)

クマとの遭遇は、ある日突然起こります。だからこそ、親子で共通の行動を決めておくことが何よりの備えになります。

子どもの被害はまれだが油断できない

実は、子どもがクマに襲われるケースは非常に少ないといいます。このテーマは講演会などでも必ず話題に上がるそうです。

「私が知る限り、約25年前に岩手県で、自転車に乗っていた中学生が後ろからクマに押し倒されて負傷した事故はありました。しかし、子どもが被害に遭った事例は国内ではほとんど聞いたことがありません」(山内准教授)

被害者の多くは60代以上であり、なぜ子どもの被害はまれなのか、その理由は分かっていません。

ただし、海外では子どもが被害に遭う事例も複数報告されています。親子連れや学校行事中の集団がクマに襲われたケースもあり、子どもだから安全というわけではありません。

「2009年に岐阜県の乗鞍岳畳平バスターミナルで、クマが観光客や従業員など10人を次々に襲って重軽傷を負わせた事故のように、何らかのきっかけでクマがパニックや興奮状態に陥った場合は話が別です。

そうなると、ターゲットを特定せず、目の前にいる人間を次々と無差別に襲撃する危険性があるため、子どもであっても決して例外ではないでしょう」(山内准教授)

こうした被害を防ぐためには、正しい知識と適切な備えが欠かせません。さらに山内准教授は、「クマはただ恐ろしい動物」というイメージだけで終わらせてほしくないと話します。

「近年、市街地に出没するクマは『アーバンベア』と呼ばれ、あたかも新しい生態のクマが誕生したかのように報じられることがあります。でも、クマ自身は何も変わっていないんです」(山内准教授)

なぜ、人とクマが遭遇する機会がこれほど増えたのか。私たちはこれからどう向き合っていけばいいのでしょうか──。

次回は、小学校での出前授業も行う山内准教授に、子どもといっしょに考えたい「野生動物や自然との向き合い方」について分かりやすく解説していただきます。

取材・文/稲葉美映子

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