「北斗の拳」「力王」パロディかと思いきや?予想を裏切る大快作『ボーイ・キルズ・ワールド:爆拳壊界流転掌列伝』
『ボーイ・キルズ・ワールド:爆拳壊界流転掌列伝』ついに公開
アクション映画ファンが拳を握りしめながら待っていた異形の一作『ボーイ・キルズ・ワールド:爆拳壊界流転掌列伝』 が、ついに9月19日(金)より全国公開となる。
聴覚と声を失った青年“ボーイ”が、家族を殺した独裁者ヒルダ・ヴァンデルコイとその一族への復讐に挑む姿を描く本作。主演は『IT/イット』シリーズで怪演を見せたビル・スカルスガルド、監督は長編映画初挑戦のモーリッツ・モール、そして製作は『スパイダーマン』三部作のサム・ライミが務める。
物語自体は地獄、でもポップでエグいアクションが最高に楽しい
物語の舞台は、資本主義を煮詰めたような独裁ディストピア世界。年に一度の粛清(公開処刑)イベントが行われる全体主義国家で、その様子はテレビ中継される。かつて少年ボーイの家族も粛清の犠牲となり、彼は怪しいシャーマンに拾われ、超スパルタで格闘スキルを仕込まれながら育った。
青年ボーイは終始“無言”なのだがムッツリ地味男というわけではなく、頭の中ではテンション高めに一人語りしている。これは自分の声を忘れてしまったボーイが幼少期に遊んだ格闘ゲームの記憶から作り出したイケボ、という設定(声優のH・ジョン・ベンジャミンが担当)。そのため、とくにアクションシーンでは「ラウンドワン、ファイト!」とか「フェイタリティ!」などとゲームネタで饒舌になる。
記憶に新しいところでは2022年のジョン・ウー監督作『サイレントナイト』でジョエル・キナマンが声なき主人公の悲壮な復讐劇を演じていたが、本作は舞台設定が地獄なわりに物語としては全体的にポップ。言い方を変えれば“アゲ方向に狂って”いて、サム・ライミが気に入った理由がよく分かる。作品全体のキモであるアクションシーンも、激しい格闘戦から残酷な切り株ショット、銃火器による虐殺、めちゃくちゃ痛そうなキッチン凶器バトルなどなどバラエティ豊かだ。
アクロバティックかつコミカルな格闘シーンを手がけたのは、数々のハリウッド大作に参加してきたファイト・コレオグラファー(アクション振付師)のダヴィド・シャルタスキ。彼は中ボス的な敵キャラの一人として出演もしていて、ノリノリで(エグ目の)やられっぷりを自ら披露してくれているので要注目だ。
ウケ狙いパロディじゃない! ぶっ飛びアクションと狂気の映像美
海外メディアでは「物語を犠牲にしている」的な評もいくつかあったが、アクション映画ファンならば本作があえて端折った部分は脳内で補完できるので、基本的に無問題だろう。むしろ本作のディストピア設定は“荒唐無稽”で片付けられない程度には既視感があるし、独裁者のメディア利用などは現代社会のトレースと言っても差し支えない程度に現実世界が崩壊していて気分が滅入る(映画にはなんの責任もない)。
そんな本作は、たとえばクラウドファンディング企画の低予算SFアクション等と比較されがちのようだが、当然ながら映像的にもアクション的にも一線を画すクオリティの高さ。主人公の成長~ステージクリア型、クズい権力者へのリベンジ劇という構成は「北斗の拳」や「力王 RIKI-OH」などを彷彿させるものの、そこにウケ狙いのパロディとか今っぽくクールなバージョンを作ろうといった意図がなく、クソがつくほど真面目にアクション愛を注ぎ込んでいるところに好感が持てる。
ボーイの内なる声を過剰に感じることもあるが、このナレーションは他キャラクターへのツッコミや物語全体のガイド的な役割も果たしているので、タイトさをキープする意味でも取っ払うわけにはいかなかっただろう。そして、イマジナリーフレンドのようにたびたび登場する亡き妹の幻影(?)のチョケた印象がガラッと変わる終盤シーン、からの盛大なちゃぶ台返しには(ボーイと共に)言葉を失うはずだ。
バッチバチの腹筋と長い手足を活かしたフレッシュなアクションを披露するビルスカ、これまでのホラー/ロマンス作品とは異なる魅力を開花させたジェシカ・ローテ、最後の最後に最大の見せ場が用意されているルヒアンと、主要キャストの魅力も最大限に発揮された本作。アクションはもちろん、ややネタっぽい第一印象をまるっと覆す終盤の展開から、まるで某MCU作品のようなポストクレジットシーンまで見逃し厳禁だ。
『ボーイ・キルズ・ワールド:爆拳壊界流転掌列伝』は9月19日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開