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【熱海土石流から3年】3年経った今も避難生活を続ける世帯も。現地の状況、生活再建の実態は?原因究明に関する新たな可能性とは⁉

アットエス

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「熱海土石流から3年」。先生役は静岡新聞の川内十郎論説委員です。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2024年7月16日放送)
  
(山田)7月3日で発生から3年という熱海の土石流ですけど、またいろいろ新しいことがわかってきたと。

(川内)28人が犠牲になって住宅100棟以上が損壊した非常に大規模な土石流から、7月3日で3年が経過しました。現地の復興復旧の現状や課題、原因に関することで新しくわかってきたことについてお話したいと思います。

私は3年前の発生の日、たまたま静岡新聞の1面のコラム「大自在」の執筆担当ということで朝から出社していました。雨が非常に激しくなってきて不安感を高めていた矢先、土石流の一報が飛び込んできました。山田さんも記憶にあるかと思いますが、家や車、電柱を飲み込みながら猛スピードで市街地に流れ込むまさに黒い塊の映像というのは、非常に衝撃的だったと思います。

(山田)結構早い段階で、SNSでも上がりましたよね。

(川内)そうですね。あれは今のネット時代を反映したかなと思いますが、住民提供の映像が世界中を駆け巡りましたね。

その日も、その次の日も私は土石流で「大自在」を書き、さらに発生から1年、2年、先日の3日の3年目の節目の「社説」も担当しました。発生から関わる巡り合わせを思い、ずさんな開発行為に対して、県と市が適切な対応を取っていれば防げたこの「人災」を追いかける責任を感じています。

(山田)川内さん、実際に現地に行かれたそうですね。

(川内)私も節目には現状を見に行かなければという気持ちがあり、7月7日に現地に行ってきました。

(山田)どうでした、現状は。

(川内)家の土台だけがむき出しになっていたり、まだ痕跡が色濃く残っていました。それから、雑草が目立ち、被災地の殺伐感をよけいに高めていました。暑さでぐんぐんまた伸びているかもしれません。

現場を見て改めて、非常に急な傾斜で、ここの開発には慎重さや万全な防災対策が求められるということを実感しました。

伊豆山温泉には「走り湯」の言い伝えがあります。急傾斜の山中から湧き出た温泉が海に飛ぶように走り落ちるということです。実際に「走り湯」という横穴式の源泉があって、そこは今でも実際にお湯が沸いていますが、海岸に向かって走るように湯が横に飛び出したという話をまさに実感する現場でした。

(山田)そのくらい、急斜面なんですね。

(川内)被災地の復旧の鍵となる、逢初川の拡幅や道路整備の工事は遅れています。逢初川の拡幅工事は県が進めていて、30年に一度の豪雨に耐えられるための拡幅です。あと、両側に市道を造る工事は市が進めていますが、2024年度末に終える予定が用地取得などの遅れがあって2026年度末に変更されたんです。買収率は、県の担当する河川工事で58%、市が担当する道路工事で75%です。あと、工事区間にJRの線路が通っていて、JRとの協議にも時間がかかっているという状況です。

用地取得の遅れは、買収の交渉を巡って、市と県が一部の地権者との間で信頼関係を築けないまま膠着(こうちゃく)状態に陥っていることが原因になっています。住民説明会を重ねることなどによって概ね理解を得られてはいますが、主な地権者を含む一部の被災者が、「対話が足りない」「住宅用地が減る」などと主張し計画に反対姿勢を示しています。

宅地整備の方針を巡って、市が住民に説明不十分なまま一方的にやり方を変えたりしたという経緯もありました。被災地と信頼関係を築きながら復旧復興を進めたり、精神面の支援やコミュニティづくりなど生活再建を後押ししたりすることは、行政の姿勢として最も重要だと思います。

(山田)おっしゃる通りですね。

(川内)単にハード面を整備すればいい、急げばいいということではなく、やっぱり信頼関係なくして本当の再建や復興はないと思いますね。

被害の大きかった区域で生活再建した人は少数

(川内)その状況を反映するように、市の6月20日のまとめでは、一時132世帯227人を数えた避難住民のうち、旧の警戒区域、つまり一番被害があったりとか懸念されたりする区域で生活再建した帰還者は22世帯47人にとどまっているんですね。

(山田)少ないですね。

(川内)そうですね。もう少し内訳をいうと、伊豆山以外の市内再建は57世帯81人、市外再建が21世帯36人ということです。地元への帰還を希望しているうちの32世帯63人が行政の支援を受けた避難生活というものを継続している状況です。

先ほどお話した復旧復興工事の遅れですが、熱海市は、工事の再延長の可能性も否定していないんです。2年遅れていると話しましたが、さらに延長する可能性もあります。

基盤整備が完了していない状況では帰還を判断するのも難しいだろうし、工期が長期化するほど帰還者が減って伊豆山の再生にも影響が出かねないということを、県や市は十分に認識していただきたいです。これ以上の遅れがないように、信頼関係も築きながら、ここは行政が責任を持ってやっていただきたいと思います。

(山田)信頼関係は、災害が起きてからではなく起きる前からつくっていかなきゃいけないものなんですけどね。

(川内)防災も含め、行政の住民とのコミュニケーションづくりは、まさに南海トラフ巨大地震が懸念される静岡県にとっても大事な話であり、事前に構築された信頼関係が、万が一発災したときもその後の復旧の大きな力になるのではないかと思います。

盛り土に隣接した地域の乱開発が原因⁉

(山田)もう一つ解説をいただきたいのが、最近になって新たにわかってきたことについてです。

(川内)ここはポイントになるところです。大規模土石流というのは届け出の3倍を超える高さ40m以上と推定される盛り土がそのまま放置されて、豪雨をきっかけにその盛り土が起点になって引き起こされたのですが、ここにきて、その起点の隣接流域の乱開発や不十分な管理によって、盛り土に大量の表流水が流れ込んで土石流が発生した可能性が浮上してきたんです。

静岡新聞が独自の取材で報じ、7月10日に静岡地裁沼津支部で開かれた、遺族と被災者が盛り土の現旧所有者らと県、市に損害賠償を求めた訴訟の口頭弁論でも、原告側の弁護団が主張しました。
 
 これまでの論点だった盛り土そのものではなく、隣接流域の開発による水の流れに焦点を当てたということです。

(山田)はあー。

(川内)発生原因を調べた県の検証委員会も、隣接流域からの水の流れ込みの痕跡は確認できなかったとして、表流水の盛り土への影響、つまり隣接流域の開発と土石流の関係を否定しているんですね。盛り土の下の地盤からの大量の湧水を吸い込んで、盛り土がドロドロになって崩れたというのが県の検証委員会の結論なんです。

(山田)われわれも聞いた説明は、これですよね。

(川内)しかし、この隣接流域からの水が流入する状況を、静岡新聞は取材を通じて専門家にシミュレーションしてもらったんですが、斜面の3カ所から、約4万3200トン、小学校のプール115個分と推定される水が、隣接の流域から盛り土の先端部分に流れ込んで、先端部分の土砂崩壊がまず起きたと。この専門家は、逢初川流域の降雨だけでは、盛り土崩壊に必要な水量の半分程度で、隣接流域の表流水の流入が無ければ崩壊に必要な水量に達しなかったと分析しています。

急斜面に造成された盛り土の先端は重力が集中し、非常に崩れやすい状況であり、先端の崩壊をきっかけに後背地の盛り土が段階的に崩れ、全体の崩壊に至ったと考えられています。隣接流域の開発をおこなったのは同じ系列の業者で、盛り土に先行されて行われていました。
 
(山田)なるほど。

(川内)こういう業者の乱開発があったんですけど、では県の対応はどうだったのでしょうか。ここは非常に大事なところですが、静岡新聞の取材では、県は、崩落した盛り土付近の開発に関して、規制の力が強く、下流域の住民の命を守る目的が明確な「砂防法」の適用を満たす可能性がありながら、緊急性が低いとして適用を先送りしたことがわかったんです。

県は、土石流の発生を懸念していました。これは文書にも残っています。

(山田)そうなんですね。

(川内)起きるかもしれないのに、砂防法の適用を先送りしたんですね。適用の可能性があり、土石流の発生の懸念もしていたということは、核心部分だと思うんですけどね。

この部分の検証は、第三者委員会や県の内部検証でも、ほとんど行われてないんです。真相究明の本気度が疑われると言わざるを得ないですね。

ある専門家は、「開発の責任を追及されるのを恐れて県が、不合理な地下水説を主張した可能性を検証する必要がある」と指摘しています。つまり、隣接流域からの表流水が影響しているということになれば、人災の要素が非常に高いということになるからです。

(山田)ちょっと変な質問ですけども、誰が悪いってなるんですか。

(川内)もちろん、行為者に一義的責任はあると思うんですが、阻止できた可能性があるという意味で言えば行政の責任もそれに劣らず重いんではないかと思います。こういう指摘がある中で、これから民事訴訟以外の場でも、県に何らかの動きがあるかもしれません。

土石流については静岡県警も、法的責任の所在とともに過失の有無を焦点として業務上過失致死容疑などの立件を視野に捜査を進めています。土地の現旧所有者らだけでなく、県や市の職員まで捜査対象を広げていて、一部の職員には20回以上の任意聴取を行ったということです。

家族や友人を失った人たちの悲しみは、たった3年で癒えるはずはありません。しかし、被害者が少しでも前を向いて、2度と悲劇を繰り返さないためには、発生原因や行政対応の真相を明らかにすることが欠かせないと思います。もちろん、静岡新聞も総力で取材を続けます。現在進行形の出来事であることは間違いありません。

(山田)静岡新聞もこれから追っていくので、ぜひ皆さんチェックしていきましょう。今日の勉強はこれでおしまい。

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