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根浜を「ユニバーサルビーチ」に 障害児(者)の海水浴サポート 「やりたい」をかなえる一歩 釜石で発進

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 釜石市鵜住居町の根浜海岸で9日、障害児(者)の海水浴をサポートする初の試みが行われた。同市で障害児の支援活動を行う認定NPO法人Plus One Happiness(プラス・ワン・ハピネス、横沢友樹理事長)が、当事者家族の願いをかなえようと企画。県内から6組の家族が参加し、スタッフの助けを借りながら、海に入る楽しさや喜びを存分に味わった。

 国内で先駆的な取り組みを行う兵庫県神戸市のNPO法人須磨ユニバーサルビーチプロジェクト(木戸俊介理事長)から7人が訪れ、ノウハウを提供。地元の釜石ライフセービングクラブ(菊池健一会長)、医療関係者、ボランティアスタッフらが協力し、サポートにあたった。

NPO法人須磨ユニバーサルビーチプロジェクト(神戸市)のメンバー(水色しまTシャツ)らが子どもたちをサポート


浅瀬からゆっくりと足を踏み入れ、波の感触を楽しむ


 砂浜には、車いすでの移動が可能なビーチアクセスマットが敷かれた。「水陸両用車いす」が用意され、車いすに座ったまま海中に入ることも可能。同車いすは水上での沈み具合が異なる2種類。救難用のライフジャケットを身に付けた利用者は、車いすをはずしてあおむけで水に浮くこともでき、参加家族の意向に合わせて対応した。周辺には参加者専用の更衣室、シャワー、駐車場を設置。ドクターカーも配備した。

砂浜に敷かれたビーチアクセスマットは車いすやベビーカーでの移動も楽々


水陸両用車いす(左)は座ったまま海に入れる。身に付けた救難用ライフジャケットは頭部後方に座布団状の浮き袋があり、車いすをはずして自分で浮くことも可能(右下)


水陸両用車いすは別の種類も(右)。電動車いすを利用する須磨のスタッフがデモンストレーション


 滝沢市から参加した小学4年の男児は腸疾患と自閉症があり、これまで海に入ったことがなかった。波打ち際に座って「バシャバシャ」しながら、砂や海水の感触を初めて味わった。「すごくはしゃいでいましたねー」と母の室岡美幸さん(50)。「こういうサポートがないと、親2人だけで海に連れてくるのはやっぱり怖くて…」と今回の取り組みを歓迎。一歩踏み出す勇気を後押ししてくれる新たな動きに共感し、「私たちだけではできなかったことを動かしてくれるきっかけになる。海だけじゃなく、いろいろな活動に波及していけば」と期待を寄せた。

 神戸市の同NPO活動は、交通事故で車いす生活になった木戸理事長のオーストラリアでのビーチ体験が基になっている。出身地の神戸で活動を始めたところ、他県からも希望者が殺到。「全国の海でできるように」と出張チームを結成し、各地の団体が自走できるようサポートを続けてきた。岩手県では陸前高田市で実現していて、釜石は2カ所目。秋田大介副理事長(49)は「同じ県内でも実施場所が増えれば互いの連携も図れる。単発のイベントではなく、海水浴場開設期間中の土日ならいつでも受け入れるといった態勢づくりができれば、当事者家族も安心して来られる」と本県でのユニバーサルビーチの広がりを願った。

根浜海岸での継続的なユニバーサルビーチの可能性を探る関係者ら(手前)


 今回の企画は、釜石市に暮らす心臓疾患のある女児(4)の母佐々木江利さん(45)の「障害や病気があっても、やりたいことをあきらめたくない」との思いから始まった。佐々木さんは2023年に「バリアフリーでつくる釜石自然遊びの会」を立ち上げ、障害の有無にかかわらず、さまざまな自然体験ができる場を提供。障害児や医療的ケア児への理解を進めることも念頭に活動してきた。最終目標だった根浜海岸での「ユニバーサルビーチ」は、自身もスタッフとして関わるNPOプラス・ワン・ハピネスが構想をまとめ、関係機関、団体の協力を得て実現した。同市ふるさと納税の団体支援制度で寄せられた寄付金が活動費に充てられた。

 佐々木さんは「当事者だけでなくサポートするスタッフも楽しそうで、最高の形で開催できた」と大喜び。佐々木さんの子どもが装着する酸素ボンベは普段、両親が背負うなどしているが、この日はスタッフが持ってくれて心理的負担も軽減。わが子の表情をしっかり見る余裕もでき、「笑顔がキラキラ輝いていた。顔色も悪くならなかったので、本当に楽しかったのだろう」。いつもは「自分たちだけで頑張らなきゃ」という気持ちになってしまうが、「今日はちょっと甘えて皆さんにおまかせできた」と感謝した。

海水浴を楽しむわが子の姿をうれしそうに見つめる佐々木江利さん(右)


 2年越しの夢をかなえた佐々木さんだが、障害児や医療的ケア児を取り巻く環境にはまだまだ課題も多い。「当事者家族とサポートする側が互いにリスクを理解しつつ、できるところまでやってみる。須磨さんのように寄り添ってくれる団体があることは大きな希望。釜石でも関係機関、団体が連携しながら当事者のチャレンジを支えられるような仕組みができれば」と将来像を描いた。

 主催したNPOプラス・ワン・ハピネスは当事者もいる支援者団体。「君の『やりたい』を『できる』に変える」を活動理念に掲げ、「できない」ではなく「やるためにはどうしたらいいかを考える」組織を目指す。自身も障害児の親である横沢理事長(44)は「一つの『できる』が次の『できる』を呼んで、子どもたちの可能性が広がっていく。今回のユニバーサルビーチも今後につながる大きな一歩」と実感する。9月6日には釜石市ふれあい福祉まつりと同時開催で、釜石PITで「ユニバーサルシネマ」も開催予定。医療機器の音や光、子どもの発声、多動などを気にせず、みんなで映画を楽しもうという催しで、もちろん健常児とその家族の鑑賞もOK。同団体が目指す姿の一つは障害の有無などにかかわらず、多様な人たちが互いを尊重し、共に生きていく“インクルーシブ”社会。横沢理事長は「子どものころから同じ空間で過ごし、いろいろな人がいることを知って育てば、障害に対する世の中のハードルはもっと下がるはず」と交流機会の増加も願う。

この日は小野共釜石市長(中)も視察に訪れた。主催NPOの横沢友樹理事長(左)が取り組みについて説明した

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