週末2日のみの営業に健康と美味しさが手に入るとリピーター続出【ひとぱん工房】(千葉県・市川市)
「リジェネラティブ・ベーカリー」シリーズvol.21
『環境再生型農業』を応援するパン作りをしているベーカリーを紹介するシリーズ。
千葉県・市川市にある「ひとぱん工房」の四ツ谷 仁美シェフにお話を聞いてきました。
2019年12月にオープン。
“都心に一番近い道の駅”「道の駅いちかわ」からほど近く、地元の方はもちろん観光客も訪れる人気のパン屋さんです。
(専用駐車場1台分あり)
土曜・日曜のみの営業で、
・国産小麦&国産ライ麦を100%使用
・沖縄県産の塩「シママース」&鹿児島県産の粗糖を使用、トランス脂肪酸不使用
など、原材料は体に優しくて安心・安全なものを厳選しています。
私が「ひとぱん工房」を知ったのは、昨年夏に参加した
「アグリシステム株式会社」が主催する「北海道・小麦畑ツアー2024」でご一緒したのがきっかけでした。
小麦畑ツアーに参加しようと思ったきっかけは?
21歳のとき、初めて国産小麦のパンを食べてその美味しさに感動し、自分でお店を開くときには絶対国産小麦を使う!と決めていました。
当初は「南のめぐみ」という小麦をメインで使っていたので九州「熊本製粉」さんの工場見学に参加し、製粉会社さんの努力によって安定した粉が供給されることを知りました。
「アグリシステム株式会社」さんのゆめちからをブレンドして使うようになったことで、次は北海道に行って実際に畑を見て触れて、生産者さんのお顔を拝見しながら現場の声をお聞きしたいと参加することに。
広大な畑を前に、収穫前の赤カビ防除や収穫のタイミングを見計らう大変さ、「後作緑肥」という小麦収穫後に緑肥(畑を耕す作物)を育てるなど次世代に健全な土壌を残していくための努力などを直接生産者さんから聞いて、今後のパン作りへの考え方も変わりました。
ライ麦100%のパンに挑戦
ライ麦“ハンコック”の畑も北海道ツアーで見学し、参加していたベーカリーのシェフの方々がライ麦を使った商品に力を入れているのを知り、ツアー後から試行錯誤しながらチャレンジ。
今年1月から販売をスタートさせました。
ライ麦から起こしたサワー種を作るのもライ麦100%のパンを作るのも初めてだったので、最初は失敗。
その様子などは「ひとぱん工房」のYouTubeにもアップしています(笑)
こちらがライ麦100%のパン、“ロブロ”です。
ライ麦は食物繊維やビタミン・ミネラルが豊富、サワー種は乳酸菌が含まれていて整腸効果も見込まれます。
ヒマワリの種、カボチャの種、亜麻仁、砕いたライ麦も加えているので栄養価も高いですね。
販売初日は売れるか不安でしたが、蓋を開けてみたらYouTubeでロブロについて見てくれていた方などが「待ってました!」と買ってくださり、1日6本、土日合計12本ですがほとんどがリピーターさんの購入で完売する人気商品となりました。
完売してしまって試食も出せていないのですが、今までにない味や食感にハマっているというお声もいただいてます。
ライ麦パンを実食
◆ロブロ(写真右)
ライ麦100%と聞くと「酸味がある?」と敬遠される方も多いのですが、ひとぱん工房さんのものは酸味がなく「甘い!」が私を含め試食した友人たち共通の第一印象でした。
種子類のカリッコリッという食感、しっとり&むちむちとして食べていると鼻から種子の香ばしい風味が抜けて広がります。
何もつけずそのままで美味しい。種子類の油分があるからかバターなども不要。
トーストして蜂蜜をかけたら立派なスイーツに。お子様のおやつにもいいなと感じました。
◆カンパーニュ(写真左)
ライ麦を30%、ヤマソーヴィニヨンというブドウから起こした自家製酵母を使用。
クラストからはお味噌のような発酵のいい香り。
クラムはライ麦ハンコックならではの植物の爽やかな香り。
酸味が出ないように作られているので食べやすいですね。
トーストするとクラストからは圧倒的な穀物の美味しさを感じられます。
高加水の食パンに近い味わいです。
ライ麦パン以外にお店で人気のパンもご紹介
上:クロックムッシュ、右:スパイシービーフカレーパン、左:ポルケッタ
◆クロックムッシュ
カリッと焼けたチーズの香ばしさ、表面サクサクのパンは羽毛布団のようなふんわり感も。
たっぷりのベシャメルソースは驚くほど軽く滑らかな口どけで、一枚ぺろりと平らげてしまう美味しさです。
◆スパイシービーフカレーパン
焼きカレーパンです。ガツンとスパイスが効いてかなり辛い!!
でも、単に辛いだけではなく炒めた玉ねぎの甘みなど奥深さを感じます。
辛いのが苦手な方には甘口のチキンカレーもあるそうですよ。
◆ポルケッタ
フォカッチャ生地でしょうか。
ローズマリーなどハーブとガーリックの風味が食欲をそそります。
豚肉は一度茹でこぼしてるのか余計な脂が落ちてさっぱりと食べられます。
ポテトの塩加減もよくて手のかかった一品です。
◆全粒粉あんバター
全粒粉ならではの小麦の美味しさに粒あん、ミルキーなバターがよく合います。
バターを一度外してからリベイクしてまたバターをパンに挟んだのですが、
カリッとした食感と粒あんの組合せはたい焼きを思わせてなんとも美味しい。
全粒粉シリーズにリピーターが多いのも納得です。
◆南のめぐみ食パン
購入した翌日でもしっとりとして適度にもっちり。
さらりとした甘みでお米を食べたような食後感があります。
四ツ谷シェフが「お客様に色々な食材と合わせてご自宅で楽しんでほしい」と考えたパンなので和のおかずなどとも相性が良さそうです。
国産小麦100%のパン屋を開こうと思ったきっかけは?
学校を卒業後、家から一番近い街のパン屋で働いていましたが、パン屋さんになりたいとかもなく、ただただ仕事としてこなしている感じでした。
担当も限られていたのでパン作りが面白いという情熱もなく、パン屋ってこんなものかと思っていたときに、ものすごいパン好きの後輩にパン屋巡りに連れ出され、「えっ、仕事以外でもパン食べるの?」と思いながら当時大阪で超人気のお店に行ったら「なにこれ、同じパンとは思えない!」とその美味しさに衝撃を受けました。
それが国産小麦を使ったパンだったのです。
『国産小麦の美味しさを届けたい、日本の食を支える一助になりたい』という想いが溢れて自分のお店を開くまでになりました。
この出会いがなかったらパン屋さんになっていなかったので後輩には感謝ですね。
衝撃を受けたパン屋の門を叩き、そこ以外のお店と合わせて10年ほどの修業期間を経て現在の場所にお店を開きました。
「ひとぱん工房」という店名の由来
私の名前が「仁美(ひとみ)」なので「ひと」という文字を使おうとは思いましたが、開業にあたって色々な人と出会い「人(ひと)と人とのつながり」の大切さを感じたり、「一(ひと)つ一つ丁寧に仕事をしよう」などの思いを込めました。
粉選びのポイント
国産小麦を使うことは絶対条件で、いろいろ食べ比べてみて好きな味だったのが「南のめぐみ」でした。
スペシャルではなく日常のパンを作りたかったので、あえて個性を出さず合わせるものを選ばず、毎日飽きずに食べられる味の粉を選びました。
ドイツ産だったライ麦を国産ライ麦ハンコックに変更したところ、お店のスタッフさん達が「ライ麦って美味しいんですね」と好反応。
まず香りが爽やかで、噛みしめたときの味わい深さや飽きがこない感じがいいですね。
全粒粉も、石臼挽きで粉の風味を損なわず、ポストハーベスト不使用のアグリシステムさんの「本別町地粉」に移行するところです。
小麦畑ツアー参加後に変化したことは?
国産小麦を使うことで「日本の食に貢献できていればいいなあ」というぼんやりとした意識だったものが「貢献できる!」という確信に変わりました。
あの場にいた全国から集まったシェフ達、その後に参加したリジェネラティブベーカリー勉強会で出会ったシェフ達の日本のこれからの食に対する想いに触れ、
“知らないでは何も始まらない、お客様に知ってもらうために伝えていくしかない!”とYouTubeやSNSで国産小麦やライ麦を使う意義など、より熱量を持って発信しています。
何かを変えていくって誰かすごい人だけがやり遂げるものではないと思うんです。
農家さんの努力を私たちパン屋がパンという形にしてお客様が口にする、というバトンリレー。
パンの消費が増えれば農家さんも生産量を増やせるようになって、よりよい流通が築ける社会に繋がっていくと思います。
これからお店が目指しているところは?
国産小麦の美味しさを普及していくという基本的なコンセプトは変わりませんが、アグリシステムさんに出会って『地球にやさしい』につながるパン屋として、残留農薬のリスクのある輸入小麦を使ったパンを子供たちが何も知らずに食べてしまっていることも今後SNSなどで伝えていこうと思います。
ただ、難しい話は理解されにくいためお客様には「美味しいから買う」というシンプルな選択をしていただきたく、
そのためにはスーパーなどに並ぶパンと価格をそこまで変わらないよう工夫を重ね「同じような値段なら美味しいパンを」と「ひとぱん工房」を選んでもらえるよう価格面も大事にしています。
今は土日しか営業していない小さいパン屋ですが、目標はもう少し規模を大きくして生産量を上げていきたいです。
そうすれば使う粉の量も増やせてより日本の自給率向上に貢献できると思うのです。
安心して買ってもらえる、信頼できるお店でありたいですね。
四ツ谷 仁美シェフ
取材後記
四ツ谷シェフは新商品のアイデアが次から次へと浮かんでくるため現在パンの種類は約100もあるのだそう。
「80種類くらいまで減らさなきゃと思うのですが、来てくれるお客様の“これ食べたかったのよ”などのお声を聞くと減らせず増える一方なんです(苦笑)」と。
小柄な体からは想像もできないほどバイタリティに溢れ、やれることは今やる!と邁進する姿にたくさんのパワーをいただきました。
記事を書いて伝えるという小さなことを積み重ねて日本の食を変えるお手伝いができればと私も思いました。
現在、「ひとぱん工房」では以下のサイトから通販ができるようになりました。
以前は雨の日などどうしてもロスが出てしまい食料を無駄にすることが苦しかったけれど、体制を整えたことで地元の方だけでなく広い範囲のお客様にも届けられるようになったとおっしゃっています。
●ECサイト https://ec.hitopan.net/shop/
●メルカリ https://mercari-shops.com/shops/hZ2SUhTEFGptfTNDyDhjMi
※リジェネラティブ・ベーカリーについては以下をご参照ください。
https://www.agrisystem.co.jp/regenerativerye2023.
SHOP INFORMATION
【店名】ひとぱん工房
【住所】千葉県市川市曽谷3丁目42-15
【電話番号】047-382-5339
【営業時間】8:00~15:00
【定休日】月・火・水・木・金
※写真の商品の種類、価格は、2025年3月現在の情報となります。
※営業時間・定休日は変更となる場合がございますので、ご来店前に店舗もしくはSNSなどでご確認ください。