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【あがきたの魅力見つけ隊コラム・光兎(こうさぎ)の宿あらかわ荘料理長 佐藤匠さん】地元食材を使った料理で町おこしに挑む若手料理人|関川村

日刊にいがたWEBタウン情報

 

あがきた地域には、海、山、川の豊かな自然と、ほっとくつろげる温泉、お花見の名所や思いっきり遊べる公園など、魅力的で立ち寄ってみたくなるスポットがたくさんあります。

でも、それだけではありません。これらの素材を引き出す「ヒト」。
地域で活躍する「ヒト」のお話から、この地域のよさ・素晴らしさをお伝えします。

お話を聞いた人

光兎(こうさぎ)の宿 あらかわ荘
料理長 佐藤 匠さん

【プロフィール】
1996年、関川村生まれ。
新潟市内の調理師専門学校を卒業後、上京。
東京赤坂にある老舗料亭、菊乃井で8年間修業する。
その後、新潟に戻り、村上の料亭、能登新で働きながら、実家である創業200年を超える老舗旅館、光兎の宿 あらかわ荘でも料理を担当。
現在は料理長として腕を振るう。
2024年、「新潟ガストロノミーアワード」若手シェフ部門受賞。

うさぎ伝説の残る関川村でうさぎ尽くしの宿を営む

―光兎の宿 あらかわ荘はどんな旅館ですか?

関川村の高瀬温泉にある創業200年余りになる温泉宿で、父で4代目になります。
私は料理長として働いています。
2014年に建物をリフォームして、屋号も「あらかわ荘」から「光兎の宿 あらかわ荘」と変えました。

関川村には、「ある日、月のウサギが山の上に降り立ち、麓にあった関川村をとても気に入り、そのまま守り神として残って村に恩恵を与えてくれた」という「光兎伝説」があり、光兎山や光兎神社もありますので、言い伝えにあやかって名付けました。
古代檜(ひのき)を使った天然温泉の大浴場と、源泉かけ流しのふたつの貸し切り浴場をご用意しています。

玄関脇には、愛らしい3匹のウサギがお出迎え

―ウサギの置物がたくさん飾られていて、びっくりしました。

皆さん、驚かれますね。もともと母がウサギ好きで、ウサギを2匹飼っています。
祖母は弥彦村出身ですが、弥彦村にも「うさぎ伝説」があり、ウサギの置物を持っていたこともあって館内に飾るようになりました。
かわいらしいグッズを見つけるとすぐに購入するのでどんどん数が増えてしまい、僕自身もいくつあるか分からないんですよ。

館内にはウサギの置物があちこちに

おかげ様で、全国からウサギ好きのお客さまが訪れてくださいます。
特に、兎年の時はすごかったですね。

光兎神社にお参りをして、うちに泊まってくださる方が多かったです。
ウサギや犬も一緒に泊まっていただけますので、連れていらっしゃる方もいますね。

季節ごとに変えているという、ウサギの展示。今はひな人形が多く飾られている

老舗料亭での修業を経て、
地元食材をいかした「地元の味」を追求する

―料理の道へ進もうという思いは、ずっと変わらずにあったのでしょうか。

僕は4人兄弟ですが、男はひとりだけだったので、なんとなく「ゆくゆくは実家を継がなきゃいけないかなあ」という思いはあり、調理の専門学校へ進みました。
卒業後は先生の紹介で老舗料亭の赤坂 菊乃井さんで修業できることになったのですが、そんなぼんやりとした甘い考えのまま入ったものですから、当たり前ですけど打ちのめされましたね。

日本料理の世界では、先輩の言うことは絶対。
半端な覚悟ではやっていけない厳しい世界ですが、僕はあまり器用なタイプではなくて、覚えるのにも時間がかかるほうです。
やる気もなくて不器用なので、いつも叱られてばかりいました。
教える先輩方も根気が必要だったと思います。技術だけでなく、精神面も徹底的に鍛え直していただいた感じですね。

菊乃井さんでは、マニュアル人間にならず自分でいろいろと考えながら仕事をするようにと、自主性を重視した教育を授けていただきました。
レシピも全部公開して、誰でも見られるようになっていて、料理人としての将来を見据えた育て方をしていただいたと感じています。

厳しかった修業時代の思い出を話す佐藤さん

―忘れられないエピソードもあったとか?

修業を始めて2年目、焼き場の補佐につきました。
焼き場はお客さまに面した場所にあって、排煙のための大きなダクトもお客さまから見えるんです。
そのダクトの掃除も僕の担当だったのですが、あるお客さまが「ダクトの中まですごくきれいにしてあったから、気持ちよく食事ができたよ」と言ってくださり、先輩から「お前のおかげやな」と褒めていただいたことがありました。
些細なことでも、いつもしっかりやっていれば認めてもらえるものだな、とうれしく思ったことが心に残っています。

―料理人としての心がまえを教えていただいたのですね。

菊乃井さんでの経験のおかげで、今の自分があると思っています。僕のバイブルと言っても過言ではないですね。
今も心の中には厳しくやさしく教えてくださった先輩方がいて、常に叱咤激励してくれます。
「これでいいのかな」と迷ったときに、「ああ、あの先輩ならこれはダメだと言うだろうな」とか。

日本料理のトップクラスのお店ですから、そこで学び得た基準は今もこれからも僕の中で重要なものさしになっていると思いますし、そのおかげで自信を持って仕事ができています。
本当に修業させていただくことができて幸運だったと思いますね。

有名店で修業した経験を土台に作られる珠玉の料理

―2024年には、「新潟ガストロノミーアワード」の若手シェフ部門で受賞されました。

「新潟ガストロノミーアワード」は、料理のおいしさだけでなく、地域の食材や関連産業などとの連携も含めて総合的に評価される賞です。
受賞の知らせを受けたときは、まさか自分が賞をいただけるなんて信じられなかったですね。
そして、指導してくださった先輩たちや同業の方、食材を提供してくれる農家や漁師の方、食べに来てくださるお客さまなど、皆さんへの感謝が止まらなくて、うれしかったですね。

―地元、関川産の食材を使った料理が評価されたと伺いました。

地元関川産のしいたけを使った『しいたけ餡茶碗蒸し』を特に高く評価していただきました。SHKという会社が販売している関川産のシイタケは、菌床栽培で完全に手作り。非常に香りが高く、大ぶりでおいしいんです。
うちでは、低温調理してお刺身で出したりしています。
会社に併設する直売所で販売もされているので、関川村を訪れることがあったらぜひ寄っていただきたいですね。

この会社では、干しシイタケもすべて手づくりで生産しています。
この干しシイタケを戻して、戻したダシと砕いたシイタケを焼いてペースト状にして餡を作り、『しいたけあん茶碗蒸し』というものを作って出品しました。
トリュフにも負けないおいしさだと自負していますが、審査員の方からも「滋味深い味わいには、若き料理長の郷土に対する熱量を強く感じる」とお褒めの言葉をいただきました。

―地元の生産者さんとの強力タッグから生まれた逸品ですね。

まさにそのとおりですね。
SHKさんの『あらかわ生しいたけ』は、室温・湿度・水などの生育環境を最適な状態に管理したハウス内で生産しているので、大きくやわらかく、栄養価も高くて、「新潟県きのこ品評会」で「特用林産振興協会長賞(生しいたけ部門 1位)」を受賞したほど。
アミノ酸含有量は、一般の国産生シイタケの約1.8倍といわれています。
受賞できたのも、こうしたすぐれた生産者が作る、地元のおいしい食材のおかげだと感じています。

香り高く、肉厚でおいしいという地元企業SHKの『あらかわ生しいたけ』

―受賞後、変わったことなどはありますか?

お客さまに、「やっぱりガストロノミーアワードを受賞しただけあっておいしいね」と言っていただくようになり、何よりも自分自身の意識改革になりました。
うれしい反面、ほかの受賞者の皆さんを見て、「ここで満足していられないな。もっと頑張らないと」と刺激も受けました。

また、ガストロノミーアワードを通して、多くのすぐれた料理人の方々と知り合いになれたことも財産です。
人脈が広がり、今でもお付き合いがあって、さまざまな意見交換をさせていただいて、料理の幅も広がりそうです。

地元の方が楽しく集まれる場を提供したい

―旅館のなかで食堂も営業されているとか。

冬は雪がすごくて、村内の方は遠くまで何か食べに出かけることが難しいので、冬の間だけ期間限定で営業しています。
お手頃価格でうちの本格的な味を楽しんでいただける場を作りたいということと、みんなが集まれる場にしたいというふたつの想いから営業を始めました。

外からのお客さまよりも、まずは地元の方に来ていただきたいと思っています。
「うちの地元にもこんなおいしいお店があるんだ」と感じて、少しでも関川村を好きになっていただけたらうれしいですね。

冬季限定のこうさぎ食堂で人気の『鴨しゃぶ定食』。茶碗蒸し、小鉢、漬物、味噌汁付き
ウサギの形のもなかがかわいらしい『黒わらび餅』。山形県小国町産のわらび粉を100%使用

関川村にはまだ開拓されていない魅力が眠っている

―関川村にはおいしい食材がたくさんあるんですね。

高校生までこの村で過ごしていた時は、「何もない村だな」と思っていたんですが、東京で修業して戻って来て、この村のすごさを実感しました。
お米ひとつとっても、ほかのどこで食べたお米よりも格段においしいんですよ。

修業先の料亭では、京都の水で取ったおダシでご飯を炊いていました。
週に一度、トラックで京都の湧き水をわざわざ取り寄せていたのですが、そこで炊いたご飯よりも関川村のご飯のほうがおいしい。
やはりその地で育ったお米を、その地の水で炊くという組み合わせは抜群に相性がよくて、おいしくなるんです。

うちでは、地元のお米を敷地内にある井戸の水で炊いていますが、この井戸水が甘くて本当においしいんです。
関川村の水で炊いた関川村の米というのは、ここでしか食べられないものです。
「新潟ガストロノミーアワード」では、そんなところも評価していただけたのかなと思います。

旬の地元の味覚を楽しめるお弁当も人気

―関川村のお米は、どんなものですか?

『光兎米』というお米があります。
岩船産のコシヒカリですが、豚や鳥などの家畜の糞ともみ殻を混ぜ、完熟させて作った肥料を入れた土で栽培し、光兎山の清流を田んぼに引き込んで育てている、まさに関川の地に根付いた米です。
これをブランド化して販売するようになりました。

光兎山の清流で育てられた『光兎米』。あらかわ荘の売店でも売られている

『光兎米』ができたのは10年くらい前。
このあたりの農家の方が、ここ10年くらいで作ってきました。
地元の農家の方々と一緒に新しい伝統を作っていくのもすてきなことですね。

―関川村は水にも恵まれているのですね。

日本でもトップクラスのきれいな水だと思います。
農作物に水は切っても切れないものなので、ありがたい話です。
子どもの頃には気づかなかったけれど、東京に出て、水のおいしさにも気づきました。

―料理長として働くうえでのご苦労は?

こちらに戻ってきていちばん苦労したのは、仕入れ先の確保でしょうか。
僕が戻ってくるまでは、お刺身に新潟県産の魚をほとんど使っていなかったんです。
県外の養殖鯛などを使っている状況に悶々としていたのですが、「せっかく新潟の旅館に来てくださったお客さまには、やはり地元の魚を食べていただきたい」と、仕入先を開拓することから始めました。

まず、村上の能登新さんで修業していた際に知り合いになった漁師さんにお願いして、船で捕ってきた地物の魚をそのまま仕入れさせていただけるようになりました。
ただ、日本海は荒れやすいので、漁師さんだけに頼っていると入手できないこともあって苦戦していましたが、昨年秋、同じく村上市の割烹 新多久さんから魚屋さんをご紹介いただき、今では完全に地物の魚のみを提供できるようになりました。

漁師さんから仕入れた4.7キロの見事な鯛

―この時期にはどんな魚がおすすめですか?

冬の時期でおいしいのは、タラですね。
タラをお刺身にして出すと、皆さんびっくりされます。捕ってきたものをすぐに下ろして、塩をして、余分な臭みを取るので、タラ本来の香りとうまみがとても濃厚。
荒れた海で育っているので脂がよくのっています。
湯引きにして出していますが、プリプリでおいしいですよ。

ブリもおいしいですね。
うちでは2週間くらい熟成させてからお出ししているので、臭みも一切く、全身に脂が回っているので、お肉かと思うような濃厚な脂と甘みを楽しめます。

―お休みの日はどんなふうに過ごされていますか?

料理関係の本を読んで勉強したり、近所を散歩したり、カフェ巡りが趣味なので、村上のほうまで足を延ばすこともあります。
また、夫婦でクレーンゲームが好きなので、新発田まで出かけることも。
あのヒリヒリ感がたまらないんですよね。
ついついお金をつぎ込んでしまうので、ちょっと危険な趣味ですけど。

―地元の好きな場所やおすすめのお店を教えてください。

飲食店なら、レストラン メイクさんの『ハンバーグ定食』が大好きで、よく行きます。
小学生の頃からずっと食べているので、店に入ったとたんに、「ハンバーグでいいよね?」とお店の方に聞かれるくらい(笑)。

子どもの頃から通っているというレストラン メイクの『ハンバーグ定食』

おすすめスポットは、丸山大橋ですね。
この時期には、朝早く行くと雲海が見られます。
春は桜並木、夏は新緑、秋は紅葉と四季を通して違う趣を楽しめます。
桜の時期もほとんど人が訪れないんで、穴場中の穴場。ぜひ一度いらしていただきたいですね。

四季折々の表情を楽しめる丸山大橋
月の使者と考えられるウサギが金の光の雫とともに山に降り立ったという伝説をもつ光兎神社
金箔を貼りつけてお参りすると願いが叶うといわれる『金箔兎神像』

―今後の夢や展望を聞かせてください。

村内にジビエの食肉処理場が造られることになったので、地元の方たちとアイデア出しなどをしているところです。
うちの旅館では、村上からイノシシをいただいて、今もジビエ料理を提供しています。
このあたりは餌もいいのか、臭みが全然なく、ほかの生き物にはない食感と味と香りがあるように思います。
とても魅力的な食材ですので、ジビエを使った料理の可能性が広がりそうです。

また、すぐそばの荒川ではカジカやアユ、イワナといった川魚のほかに、モクズガニが捕れます。
海のカニとは違ったおいしさがあって、ブランド化できたらと考えています。

ほかにも天然のキノコや山菜など、関川村にはおいしいものがいっぱいあるんですよ。
でも残念ながら、村民の方はそれが当たり前だと思っているので、その魅力に気づいていません。
そうした地元の食材を新しい魅力にできる可能性がありますし、世界で勝負できる村だと思っているので、それを目指していきたいですね。

細やかな技が光る、盛り付けも美しいひと皿

―関川村の食が世界で認められることを思うと、ワクワクしますね。

ただ、食材を守るための問題もあります。
朝日村でマスを養殖している方がいらして、そこのマスはこれまで食べたことがないくらいおいしかったのですが、高齢のため廃業されてしまうんですよ。
もう悲しくて、悔しくて。取引先でもう二度とこういったことを起こしたくないと思いました。

いい食材にはそれに見合った価格をつけるということをしていかなければ、農業や水産業はどんどん衰退してしまいます。
どんなにいいものを作っても、安く買われてしまうようでは、第一次産業の方の地位の向上は望めません。
関川村のお米だって消えてしまう可能性もあるわけで、それを阻止することが自分の使命だと感じています。

「関川村の食をもっと広く発信していきたい」と話す

食を通して地域の魅力を伝えるというのは、料理人にしかできない仕事です。
農家の方のモチベーションアップにもつながりますし、今は後継者不足が問題となっているので、若い方々が農業をかっこいい仕事だと思えるようになって、若い方々でも稼げるような仕組みづくりを考えていきたい。
それも料理人の責務かなと感じています。

ここの温泉街もかなり寂れてしまっていますが、全盛期以上に復活させることが最終目標です。
先人が残してくれた遺産を守りつつ、いろいろなことに挑戦して新しい伝統を作り、関川村を守り抜いていくことが大切だと思います。
そんな夢に向かって、日々の業務をコツコツとやっていきたいと思っています。

光兎の宿 あらかわ荘

住所
関川村湯沢308
電話番号
0254-64-2118 
リンク
https://arakawaso.com/

備考
冬季限定のこうさぎ食堂は、~3月31日(月)11:00~14:00。
定休日は水・木曜(臨時休業あり)、火曜は要事前予約。

光兎神社

住所
関川村宮前39-4
電話番号
0254-64-0095
リンク
https://kousagi-j.jp/

レストラン メイク

住所
関川村大字下関916
電話番号
0254-64-2374
営業時間
11:00~14:00/17:00~19:30
休み
火曜

SHK

住所
関川村大字上関2-11
電話番号
0254-64-0391
休み
直売所は無休
リンク
https://shk-kinoko.com/

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