12歳自閉症息子、インフルエンザ検査を断固拒否!体も大きくなって…どうする病院問題【読者体験談】
監修:藤井明子
さくらキッズくりにっく院長 /小児科専門医 /小児神経専門医/てんかん専門医
行き慣れていない場所が苦手な、知的障害(知的発達症)を伴うASD(自閉スペクトラム症)の息子
現在12歳の息子は、3歳の時に知的障害(知的発達症)を伴うASD(自閉スペクトラム症)と診断されています。機嫌が良くても悪くても言葉にならない奇声を発していることが多いです。
マイペースな息子ですが臆病な面があり、賑やかであったり行き慣れていない場所が苦手。
ですから、普段病気になったときは、息子が行き慣れているかかりつけの小児科にかかっています。慣れているとはいっても、病院へ行く前には病院の外観や待合室の写真を見せながら、口頭で病院へ行くことを説明してから行くようにしています。そして、可能なら大人2名で連れていき、診察が終わったら、大人は子どもを連れてすぐ帰る人、会計を済ませる人に分かれるなど、オペレーションにも心を砕いていました。
現在、かかりつけの小児科は先生の都合で一時閉院中。なるべく息子が病気にならないように注意していたのですが、先日、息子が急に高熱を出したのです。
もしかしてインフルエンザ? でもかかりつけ医はお休み……どうする?
学校ではインフルエンザが流行っていたため、真っ先にインフルエンザを疑った私。検査をしなければと思うも、ただでさえ鼻の中を診られるのが苦手な息子が、行ったことがない病院でインフルエンザの検査となったら、大騒ぎ必至です。どうすればいいか悩みましたが、家で診てもらうのが一番良さそうだと思い、初めて往診を頼んでみることにしました。
息子は高熱のためとてもつらそうで、トイレ以外で立ち上がることさえできません。私は(インフルエンザ検査で陽性となれば、抗インフルエンザ薬を処方してもらえるから、それを飲めれば少しは楽になるかな……)と心配しながら息子の看病をしていました。
検査の結果、もしインフルエンザでなければ、解熱さえすれば登校できます。実はその週末は学校の学習発表会でした。できたら参加させてやりたいと思っていたので、私としては息子がインフルエンザ検査をすることは欠かせないことだったのです。ですが……。
検査を嫌がり家中を逃げ回る息子! それを追いかける母……
やがて医師が到着したので私は部屋に案内しました。息子は初めて会う医師に警戒している様子でした。
医師は慣れた様子で「この時期の高熱ですから、インフルエンザかもしれませんね」とすぐ検査の用意を始めてくれました。すると、その瞬間、息子は検査をされると察したようで(ものすごい洞察力!)、いきなり立ち上がり逃げ出したのです! 先ほどまで立ち上がることすらできずぐったりしていたのに……!
(えぇ!?)と私はその素早い動きにびっくりしつつも、息子を追いかけました。私一人ではまったく連れ戻すことができません。息子は家中を逃げ回りました。普段は狭く感じる家が、この時はやけに広く感じました……。
医師はそんな私たちの様子を見て、これは無理だと思ったのでしょう。「お母さん、検査は諦めましょう」と言い、ただ息子の熱が高いこと、周りではやっていることから「見なし陽性」と解熱剤などを処方してくれました。ただし、検査はできていないので、当然抗インフルエンザ薬は処方してもらえませんでした。
私としては、息子にはなんとしても検査を受けてもらいたかったので、がっくり。抗インフルエンザ薬を処方してもらえなかった……、もし解熱したとしてもインフルエンザかもしれないことを考えて学習発表会は欠席しなければ……と。
医師が帰ると、息子はさっとベッドに戻り横になりました。その様子を見て(具合が悪いのに、よくあそこでまで逃げ回れたね……本当に嫌だったんだね……)と思いました。
抗インフルエンザ薬を飲まなかった息子はなかなか解熱せず……
その後程なくして私も発熱、検査を受けたところインフルエンザと判明しました。おそらく息子もインフルエンザだったのでしょう。
私は抗インフルエンザ薬を飲んだのでほどなく快方へ向かいましたが、薬を飲んでいない息子はなかなか解熱しませんでした。1週間以上、熱が上がったり下がったりしていたので、本人もとてもつらかったと思います。
往診はとてもありがたいものですが、往診の先生はお一人でいらっしゃっしゃったので、検査時に嫌がる子どもの場合、その対応をする人手は病院のほうがあると改めて感じました(もちろん、病院にもよると思います)。このままだと、今後息子が病気や怪我をした時、「息子に抵抗されることを考えたら、これくらいなら受診しなくても大丈夫かな」と思ってしまいそうです……。
高学年になり体も私より大きくなってきた息子。このままでは通院や検査はさらにハードルが高くなってしまいます。息子が落ち着いて受診できるように、なにか対策を講じなければと改めて思わされた出来事でした。
イラスト/keiko
エピソード参考/あきこ
(監修:藤井先生)
普段のかかりつけ医院に受診されるときには、写真を用いて見通しを持った声かけをされていたのですね。見通しを持てることで落ち着く場合には、その対応をされるのが良いと思います。中には、病院の写真を見るだけで嫌がるお子さんもいるので、お子さんのタイプにもよります。
私の勤めているクリニックでは、お子さんには嘘はつかず、見通しを伝えます。診察に不安な様子が伺える場合には、写真、絵カードなどで示してから診察や検査を行うこともあります。それでも、不安の全てを解消することは難しいのですが、不安がありながらも診察を受けてくれたことを労い、褒めることを繰り返し行なっています。以前までは、血液検査や注射で大暴れであったお子さんも、だんだんと診察が受けられるように成長する姿もみられます。病院の先生、スタッフの方と協力しながら、落ち着いて受診できる工夫を講じることをお勧めします。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。