猛暑で増えて、暖冬で減って。嬉し悲しかき氷!
先日、アイスクリームチェーン「サーティワン」の既存店の売上高が31ヵ月連続で増加している、というニュースもありましたが、この暑さで売れているのはかき氷も同じ。
特に、人気の高い、いわゆる「ふわふわのかき氷」。これに使われているのが、天然氷。山盛りのふわふわ氷に果物が添えられた天然氷のかき氷は見た目もいい。しかも、食べた時に頭がキーンとならないとか。街中でも、天然氷のかき氷店が目につきますし、多くのお店で行列ができています。
冬の寒さを、夏に味わう!!それが天然氷!
しかし、天然氷を作る会社(蔵元)は、昭和初期には100軒近くもあったのですが、機械製氷や冷蔵・冷凍技術の発達もあり、現在は全国で5軒のみ。そのうちの一軒に、氷屋さんの今についてお話を聞きに行きました。栃木県日光市にある、氷屋徳次郎・五代目の山本仁一郎さんのお話です。
氷屋徳次郎・五代目 山本仁一郎さん
「実際に自分が作った氷をお客さんに食べてもらってる。で、日光の自然の力で作った氷なので、一番は冬の陽気を、陽気ってあの寒さですね、あれを天然の氷のかき氷として夏の暑いときに口に含んで、あ~冷たくておいしい!っていう、そういったものを味わってもらえればいいかなと思ってます。
天然氷というのは、表面に落ちた塵や埃を毎日掃除してあげたり、雪が降ったら止むまで雪かきをしてあげたりっていう、1200年前から続く製法で作り上げてますので、そこはずっとこだわってます。
普通に仕事として考えれば、売れた方が良いんですけど、あんまり無いので、決まった量しか私は作れないので、新規のお店さんはもう出す氷が無いので申し訳ないということで、今月もかき氷用の氷を売ってもらえませんか?という電話は来ますが、ごめんなさい、とお断りしてます。」
やはり、この暑さで需要は高い。山本さんのところは、かき氷を食べられるカフェもやっていますが、東京など他の県からもお客さんが来て、週末には行列になるほど。
(氷屋徳次郎の天然氷で作ったかき氷が食べられるカフェ・アウル)
(氷屋徳次郎の天然氷が食べられるカフェ「KASHIWA」の珈琲屋さんのコーヒーかき氷1500円 店舗HPより)
こだわりの天然氷は人気が高く、全国のお店に氷を届けています。
しかし、氷屋徳次郎では、ひと冬に、二つの池で二回ずつ、合わせて160トンと、決まった量しか作れないのでお断りをするほど、注文の電話は絶えません。ちなみに、山梨県にある天然氷の蔵元にもお話を伺いましたが、「新規の問い合わせはとても多いのだけど断らざるをえないんです。」とおっしゃっていました。
日光で、冬に雪じゃなくて雨が降る!!
まさに、この暑さで需要が増えて嬉しい悲鳴!しかし、本当の悲鳴もあるんです。再び、山本さんのお話です。
「ここは夏でも28~9度くらいまでしか、最高でも上がらなかったんですね。でも、今年最高気温32度くらいまでいったので、やっぱり、う~ん、ちょっと暑すぎるよなっていうのはあります。今は特に、冬に雨が降るということがあって、雨が降ってしまうと、熱したガラスに水をかけて割れてしまうのと一緒なものになってしまうので、そういう場合は一から作り直す。日光で冬、雪じゃなくて雨が降ってしまうっていうのは、今まで無かったので、それだけ気温が上がって来たかなって思いますね。
だから、生り物が全然早い時期に生ってしまったりとか、おいしくなる前に腐ってしまったりとか、そういうのがあると思うんですよ。だからウチだけじゃないんですよね、困ってるのは。氷の場合は成長しない(笑)。厚さが足りないとか、そういう風になってしまったり、あと、柔らかい氷になってしまうので、商品ではなくなってしまうっていうのはあります。」
夏の気温が高くなれば、氷が売れるからいいけれど、温暖化は夏だけじゃないですからね。冬の気温が上がってきていることで、困っているんです。
11月頃から池の土作りを始めて池の水を綺麗にして、気温が下がって来る1月、氷が張るのを待つ。氷が張り始めたら、そこから二週間、毎日表面を綺麗にして面倒を見ながら、塵や埃の無い、無色透明の氷を作ります。
(山本さんたちの氷作りの様子。氷屋徳次郎の会社HPより。)
天然氷は、まさに自然の力に委ねられているんですね。先代、四代目は挨拶の際、いつも「I am ice-farmer、私は氷農夫です。」と言っていたそうですが、まさに農業。だから、雨は本当に悩ましい!雨は氷を溶かすし、雨には塵や埃が入っているので、それが割れた隙間に入ってしまうと、もう商品としては使えなくなるので、氷を割って、最初から作り直し・・・。
氷ができないほど気温が下がらないわけではないが、今までに無かった暖かさが急に来てしまう、というのが、ひと冬に何回か起きるようになっているんです、と。ひたひたと温暖化が来ている感じが伝わりますよね。
このままいけば、天然氷のかき氷は無くなってしまうかも・・・
これから天然氷はどうなるのか?山本さんのお話は、ちょっと寂しくなるものでした。
「やっぱり作ってる時に暖かくてダメになってるっていうのは、色んなところから発信されてるので、やっぱりそれは気になります。先代からずっと続いてたことなので、やっぱりそれを守っていきたかったんですけど、人間の進化と共に、なかなかね、それは止められないものだから、暑くなればなるほど、もしかしたらこの文化が無くなっていくかもしれない。だから、今のうちにみなさんに楽しんでもらいたいなって。なくはないですね、今の気温の上がり方でずーっといってしまったら、たぶんそういう風になっちゃうだろうなと思ってます。(暑いから食べたいのに!)そうなんですけどね、もしかすると10年後、私は天然氷を作れない、かもしれないので、今がチャンスかもしれません。」
枕草子にも出てくる、天然氷のかき氷。しかし、このままいくと無くなってしまうかも・・・。
天然氷は、とても硬いので鉋で削ったように、うす~く削れる。だから口に入れるとふわっとしていて、頭がキーンとなる前に溶けてなくなるからキーンとならないんですって。自然の力ってすごいですね(無くなってしまう前に食べておきたいですね・・・)
(TBSラジオ『森本毅郎スタンバイ』取材・レポート:近堂かおり)