自閉症息子は誰にでも「マブダチ対応」!?人との距離感、空気が読めず交流学級で空回り…【専門家からのコメントも】
監修:初川久美子
臨床心理士・公認心理師/東京都公立学校スクールカウンセラー/発達研修ユニットみつばち
幼稚園での人間関係
スバルは穏やかで優しく、裏表がなく純粋で、「自分はこれが好き」という芯があり、人懐っこく誰にでも話しかけ仲良くなろうとするフレンドリーな性格です。……というのは嘘ではないのですが、それにASD(自閉スペクトラム症)の特性を絡めて幼稚園でのコミュニケーションに当てはめると様子が違ってくるのです。
仲良し同士で集まって独自のルールがある遊びをしているグループにマブダチのような顔をして加わろうとし、それを相手が嫌がっていてもニコニコとその場に居座ります。車や国旗など自分が興味のある分野の話になると相手のリアクションなどお構いなしで、一方的にまくし立てるように話し始めます。家でも幼稚園でもはじめての場所でも誰が相手でも態度を変えず、常に「スバル」のままなのです。
何度か遊んだことのあるお友達といる時のコミュニケーションは若干ましになるのですが、それでも「おままごとしよう。私お母さんね」「私は赤ちゃんね」に対し「スバルはハイブリット車ね」と、かなりズレた返答をしていました。
年長になると気の合うお友達ができ、手当たり次第突撃しなくても毎日楽しく過ごせるようになりました。この期間にスバルのコミュニケーション能力は格段に上がりました。とはいえ「コミュニケーションに難あり」の域からは出ることはありませんでした。
そんなお友達とも幼稚園を卒園したらお別れになり、小学校からは新しい人間関係が始まるのでした。
特別支援学級(自閉症・情緒障害クラス)のクラスメイト
小学1年生になりスバルは特別支援学級(自閉症・情緒障害クラス)へ就学しました。
そこは特性は違えど同じように困り事を抱えた子ども達が集まったクラスでした。もちろんそうじゃない子もいますが、圧倒的にコミュニケーションが苦手な子が多い集まりで人間関係はどうなることかと思いましたが、人の話を聞いているのかいないのか、会話になっているのかいないのか、お互いに自分の話したいことを話す感じで楽しく過ごしているようでした。
交流学級での過ごし方
特別支援学級では楽しく過ごせているスバルでしたが、交流学級でのコミュニケーションは難航していました。
スバルにとっては「クラスメイト=友達」なのでマブダチのように話しかけてしまうのですが、交流学級のクラスメイトからしたら特別支援学級から時々通ってくるだけのスバルはお客さん的存在なので少し壁があるのです。馴れ馴れしいし、何を言っているか分からないし、あとやたら距離が近い。そんな存在であるスバルと交流学級のクラスメイトとの間の壁はますます高くなっていくのでした。
いわゆる「空気が読めない」立ち振る舞いをしてしまうスバルですが、人の顔色はなんとなく読めるので「人との接し方を何か間違ってしまったらしい」ということは分かりました。そして何を間違えたのか分からないまま挽回しようと、さらにグイグイと迫ってしまうのでした。
憧れのクラスメイト
入学してしばらくしてからスバルに憧れの人ができました。スバルの特別支援学級でのクラスメイトであり、同じ交流学級に通うたっくんです。
たっくんはスバルと同じで、初対面の人にもマブダチのように接するタイプでありながら、相手との間の壁を楽々と乗り越え、仲良くなるのが上手なのです。穏やかなスバルとは対照的に、たっくんの言葉は少々乱暴で行動はアクティブでトリッキーでスポーツ万能。「オレについて来い」なんていうカリスマ性にスバルは憧れました。家でもたっくんの話をよくするようになりました。
自分を見失ったスバル
ある日、いつものように下校時間にお迎えに行くと交流学級のクラスメイト数人とスバルが一緒にいました。しかしなんだか様子がおかしく、慌てて近づくとスバルは「走ろうぜ」「オレについて来い」「オレはA組(特別支援学級)のスバルだぜ!覚えておけ!」「ボールは友達」と脈絡なく言葉を並べていました。
このセリフはたっくんがよく使うセリフでした。
スバルの顔は焦っていて、交流学級のクラスメイトたちの顔は戸惑っていました。その状況から仲良くなろうと話しかけたもののうまくいかず、友達づくりが上手なたっくんの真似をした……というのが手に取るように分かりました。
もちろんたっくんは脈絡なくこのセリフを言っているわけではなく、前後に文脈があってこその決め台詞として使っています。脈がない相手に挽回しようと更にしつこくしてしまうスバルとは違い、たっくんは相手に脈がないと感じた時の引き際が上手なのです。
セリフだけ真似しても、スバルとは何もかも違うたっくんのようにはなれないのです。私が声をかけると、交流学級のクラスメイトたちはほっとした表情で帰って行きました。スバルは焦った表情のまま2、3歩追いかけ、立ち止まり「帰ろっか」と私の手を握りました。
スバルらしく
私は言葉を選びながら「幼稚園の時の仲良しの友達も、公園で意気投合して2時間も遊んだあの子も、誰の真似もしていないスバルのままで好きになってくれたんだよ」と話しました。
そしてスバルの良いところを思いつく限り言いました。友達の良いところを学ぶのは大賛成ですが、スバルにはスバルの魅力がたくさんあるのです。
この件を機にスバルは、まだ仲良くなっていない子と距離を置くようになりました。それはトラウマからくるものでしたが、初対面でマブダチのように振る舞うことも、一方的にまくし立てるように話すこともなくなりました。
するとたっくんと仲良くなるようなアクティブなタイプとは違う、穏やかな遊びを好む子たちと自然と仲良くなっていきました。そんな経験をたくさんして、一方的にまくし立てるように話さないことや、適切な距離感などのコミュニケーションを少しづつ少しずつ学んでいきました。
まだまだハラハラするトークを繰り広げるし年相応のコミュニケーション能力とは言えませんが、最近は距離感を意識しつつ、それでいて無理なく背伸びせず自分らしく人と付き合えているなと感じます。
執筆/星あかり
(監修:初川先生より)
スバルくんの同級生とのコミュニケーションの経過のエピソードをありがとうございます。幼稚園の頃のまくし立ててしまう感じ、「マブダチのように」居座ってしまう感じ。そして、特別支援学級(自閉症・情緒障害クラス)での思い思いに好きなことを話しているコミュニケーション。どちらも共感的に読まれる保護者の方は結構いらっしゃるのではないでしょうか。
そんなスバルくんが憧れの子ができ、その子のコミュニケーションスタイルを真似してみたという出来事。結果としてはうまくいきませんでしたが、真似してみること自体はとても大事なことで、自らそのやり方を取り込んでやってみたのは成長だと感じます。上手に友達関係を築ける子を真似してみること自体は良いのですが、お子さん本人が真似するとなると、確かに目立つ言動をそのまま取り込んでみることとなり、大人から見るとたっくんの引き際など、子どもからは見えづらい別の要素が成功の鍵なのにそこには自力では気づけないがゆえに、失敗してしまうこともあるだろうと思います。
憧れの子ができた際には、その子の言動のどこが素晴らしいか、どこを真似したらよさそうか大人が一緒にその憧れの子を観察して、ここがいいねとか具体的に視点を伝えてあげると良いと思います。あるいは、いわゆるSST(ソーシャルスキルトレーニング)のように、「仲間入り」の段階、仲間に入って一緒に遊ぶ段階それぞれの汎用性の高いフレーズや立ち振る舞いと、そして引き際(うまくいかないなと感じたら、どうするかという具体的な行動)を伝えてあげるのも良いと思います。
生活場面で実際に試行錯誤する段階で、そうした助け舟としてSST的なアドバイスがあると入りやすいだろうと感じます。そのあたり、学校の中ではどんなふうにコミュニケーションを取っているのか、先生方とも連携しながら一緒に取り組んでいけると良いだろうと思います。友だちが欲しい、仲良く遊びたいという気持ちが芽生えた際にそこに取り組めると良いでしょうし、また、相手のある話なのでいつもいつもうまくいくわけではありません。うまくいかなかったときもあることをどう想定し、大きな傷とならないために(また改めてトライできるように)どうしてゆくのがいいのかといったあたりも、先生方と相談できればと思います。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。