ASDの青年とその妹の日常を描く 安田章大&のん主演『平行と垂直』小林聖太郎監督インタビュー
兵庫県出身の安田章大さん・のんさんがダブル主演を務める映画『平行と垂直』が、8月28日に全国公開されます。
本作は、自閉スペクトラム症(ASD)の青年とその妹の日常を、“特別なもの”としてではなく、ごく普通に生きる「ひとりの人」として描いた作品。メガホンを取った小林聖太郎監督にインタビューを行い、作品づくりで大切にしたことや主演2人の魅力、作品に込めた思いを伺いました。
<あらすじ>
⾃閉スペクトラム症の⼤貴(安田章大)と、兄を幼い頃から⽀えてきた妹の希(のん)。兄妹は幼い頃に⺟親を亡くし、ネグレクト気味の父親から距離を置き、二人で懸命に⽣きてきた。~中略~ カウンセラーの仕事をしている希は恋⼈からプロポーズを受け、⼀抹の不安を抱えながら兄と共に、婚約者の両親に会いに東京へ⾏くことに…。
――初めて脚本を読まれたときのお気持ちを教えてください。
プロデューサーの佐藤現さんからお話をいただいて、第2稿くらいの脚本を読んだと思うのですが、センシティブな題材だったので、「自分が本当にこれを撮るべきなのか」「撮る資格があるのか」という自問から始まりました。
20年ほど前に助監督として携わった作品で、ASDについて調べたり、当事者の方に取材でお会いしたりした経験や、友人のお子さんにASD傾向のある方がいて身近に接する機会はありましたが、自分自身に深い当事者性があるわけではなかったので、失礼な描き方になってしまわないかという不安があったんです。
――最終的に監督を引き受けた理由は何だったのでしょうか。
一緒により良いものへと育てていける可能性を感じられたことが、一番大きかったです。誠実に向き合えば、この作品にはまだ発展できる余地があると思いました。
映画では、例えば『レインマン』のように、特別な能力を持つASD当事者が描かれることが比較的多いと思います。でも今回は、そうではない人物を描くことに意味があると感じました。
ASDだから特別なのではなく、ごく普通にそこにいる“ひとりの人”として描くことで、ASDをより自然に受け止めてもらえればと思ったことも、引き受けた理由のひとつです。
――物語の中心となる大貴と希を演じた安田さんとのんさんについて、役者としてどのような魅力を感じられましたか。
安田さんは、人としてとてもオープンでフラットなところが魅力だと思います。それはお芝居にも表れていますし、現場での在り方も含めて、とても信頼できる存在でした。
言葉で説明するのは難しいのですが、現場全体の足場になってくれるような安心感があって、非常に頼もしい俳優だと感じました。
一方、のんさんはとても繊細で細やかな感性を持ちながら、朗らかさや強さも同時に備えている方です。これまでは映像を通してしか拝見したことがありませんでしたが、今回初めてお会いして、その印象を裏付けるような魅力をたくさん感じました。
――映画を拝見して、希の立場に感情移入しながら観ていました。特に、父親とのやり取りは、家族という関係の複雑な側面を強く感じさせられる場面でした。
父親の行いを文字にすると、本当にひどい男なんですよね…(笑)。でも、実際にそこに存在すると、どこか愛らしさもある。それが逆に物事をややこしくしているんです。
貧困をはじめ、さまざまな困難を抱えた状況でも、人との関係は簡単に割り切れるものではありません。それは脚本の山野海さんが描かれていたことでもありますし、僕自身もそこに共感しました。
――恋人の雅也との関係も含め、希の家族に対する考え方には胸が痛くなる場面もありました。そうした部分について、監督と山野さんで話し合われたことはあったのでしょうか。
直接そういう話をしたわけではありませんが、家族というものは一色ではないし、何か一言で定義できるものでもないという感覚は、お互いに共有していました。
例えるなら、「肝臓と膵臓の間にある組織」のようなものというか…(笑)。何とは言い切れないけれど、確かにそこに存在しているもの。それが家族なのかなと思っています。
――劇中では大貴と周囲の人たちとの関係や、その中で起こる出来事も描かれていますが、思い入れのあるシーンがあれば教えてください。
やっぱり、同じ職場で働く須賀のおっちゃんでしょうか。大貴やASDについて全部を理解しているわけではないけれど、感覚として分かっているというか、自然に受け入れている感じがあります。彼を取り巻く環境におけるバッファーのような存在ですよね。
ああいう人がそばにいてくれるかどうかで、その人の生活のしやすさや困難の大きさは変わると思うんです。
――大貴に懐く女の子・紗奈を演じた河野咲良さんをはじめ、子役の皆さんのお芝居がとても自然なところも印象的でした。
いわゆる「子役らしい芝居」があまり好きではないので、オーディションでは「ダンスが得意です」「何でもできます」といった器用なタイプの子よりも、肩の力が抜けていて、普通にいる子がいいと思っていました。
大貴の幼少期を演じた髙田幸季くんは、安田さんもお会いした中京大学の辻井正次先生のところに行って勉強したり、ASDをテーマにした作品やドキュメンタリーを観たり、現場に入る前から役づくりの準備を重ねてくれていました。
幼少期も含め大貴の出演した全シーンに監修の方がベタづきしてくださったので、一つひとつ細かく指示を出すというよりは、現場でリラックスして演じられるよう、気を配りました。
――物語の主な舞台は堺市の綾之町商店街ですが、脚本の段階から決まっていたのでしょうか。
脚本では「大阪の商店街」としか指定されていませんでした。佐藤プロデューサーが以前、堺でフィルムコミッションの方と仕事をされたことがあって、「とても協力的な街だ」という話を聞いていたので候補にしました。
その後、シナリオハンティングで堺を訪れ、脚本の山野さん、佐藤プロデューサーと一緒に自転車で街を回る中で、「あの商店街がいい」という話になりました。
――のんさんの関西弁も印象的でした。関西弁ならではの軽快な語り口のおかげで、適度に肩の力を抜いて作品と向き合えたように感じたのですが、そうした空気感も意識されていたのでしょうか。
お金を払って映画を観てもらう以上、ずっとしんどいことばかりを見せ続けるのも、観る側にとっては大変だと思うんです。だから、観やすさや楽しさも作品の中に織り込みたいという気持ちはありました。それは僕自身の好みでもあります。
これがコメディかと言われると、それも少し違う気がしますし、「喜劇とは何か」と考えると簡単には言えませんが、少なくとも、笑いが自然に生まれる作品にはしたいと思っていました。
――監督は大阪のご出身ですが、堺や兵庫県の思い出についても教えてください!
小学生の頃は浜寺公園のプールへ行ったり、古墳を見に行ったりすることはありました。でも、「堺の街」をじっくり巡ったのは今回が初めてだったかもしれません。自転車で街の中を走り回って「こんな場所もあるんだ」と発見する時間はとても面白かったです。
兵庫県は、高校・大学時代によく神戸へ遊びに行っていました。今は違いますが、中学生の頃までは阪神タイガースのファンで、甲子園にもよく通っていましたね。
――今は違うんですか?
中学3年のときに阪神が優勝して、一気にファンが増えたんですよ。それまでは、ガラガラのヤクルト戦をアルプススタンドでのんびり観るのが好きだったんですけど、急に人が増えてしまって。
その後、弱くなったらみんな離れていくのを見て、「それもどうなんやろう」と思ったのと、高校に入ると何でも野球部中心という空気にも違和感を覚えて、それ以来、野球ファンではなくなりました…(笑)。
――最後に、読者の皆さんへメッセージをお願いします!
この作品は、一見すると真面目で重たい映画のように見えるかもしれませんが、実はそうでもありません。あまり構えず、気軽な気持ちで観に来てもらえたらうれしいです。この映画を観たことで、少しでも生きづらさが減る人がいたらいいなと思っています。
映画『平行と垂直』は、8月28日より全国ロードショー。県内では『kino cinema 神戸国際』(神戸市中央区)、『MOVIXあまがさき』(尼崎市)他で上映されます。
作品情報
映画『平行と垂直』
2026年8月28日(金)T・ジョイ梅田 他 全国ロードショー
<出演>
安田章大 のん
伊島空 高山トモヒロ 谷村美月 福田転球 芦川誠 早織 久保田磨希 河野咲良 髙田幸季 武藤凪 林英世/神野三鈴 菅原大吉
<スタッフ>
監督 小林聖太郎
原案・脚本 山野海
音楽 富貴晴美
主題歌 浮 with 安田章大「話そう」
企画 安田章大
企画プロデュース 佐藤現
プロデューサー 樫﨑秀明、竹下新悟
撮影 大塚亮
照明 藤井勇
<配給>
東映ビデオ
公開劇場(兵庫県)
kino cinema 神戸国際
MOVIXあまがさき
シネ・ピピア(9月18日から公開)
イオンシネマ加古川