横浜スタジアム周辺の再開発にみる「スポーツと街」の新しい関係性
なぜ、横浜スタジアム周辺が注目されるのか
近年、スポーツとまちづくりを掛け合わせた「スポーツまちづくり」という言葉が注目されつつある。国内において、スポーツまちづくりという用語が初めて登場したのは、地方創生に関連する国の交付金事業の中で用いられた2017年度となる。現在は、国において「第3期スポーツ基本計画」(スポーツ庁、2022年3月)を策定しており、当該計画に基づき、スポーツを起点・出発点とした各種まちづくり事業が進められている。
特徴としては、スポーツを核として、経済活性化のみならず健康や教育なども関連し、まちづくりとの相互連携や関係性を強化することにより、地域の社会課題を解決しようとする取り組みが全国で積極的に進みつつある状況にある。
このうち、1978年にオープンして以降、横浜市のシンボルの一翼を担ってきた横浜スタジアム(横浜DeNAベイスターズの本拠地)では、2016年より「コミュニティボールパーク化構想」を進めている。
同構想は、「野球ファンのみならず、野球をスタジアムで観戦したことがない人も家族や友人、同僚と気軽に集い、楽しめる場をつくることを目的とし、地域や職場におけるさまざまなコミュニティが“野球”をきっかけに集い、コミュニケーションを育むランドマークになりたいという思いを集約した」ものである。
これまでに、同構想に基づき、スタジアムカラーの統一やビアガーデン、早朝キャッチボール、横浜公園と一体となった祭等の実施など、スタジアムの改修のみならず、スタジアムという閉鎖的な空間から地域に開かれた横浜公園一体となった開放的な空間を活用した取り組みが進められている。
また、現在は、スタジアムのメインスコアボードの大型化に向けた改修工事が2025年8月より進められており、2027年3月に完成を目標としている。完成すると国内最大のスコアボードとなる予定となっている。都市公園として横浜市民の重要な憩いの場といえる横浜公園との調和を重要視した取り組みといえる。
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横浜スタジアムと一体となったまちづくりとは
さらに、横浜スタジアム隣接地にあった横浜市庁舎の跡地において、「横浜市旧市庁舎街区活用事業」が進められている。
この事業では、横浜北仲地区(みなとみらい線 馬車道駅周辺)に移転した横浜市庁舎の跡地を事業地とした大規模な複合再開発である。街区名称を「BASE GATE YOKOHAMAKANNAI(横浜関内)」とし、横浜スタジアムに直結する、オフィス・商業・ホテルが一体となった複合施設として、建築工事が進められている。一部、旧庁舎の行政棟は歴史ある建造物として再活用する計画としており、ホテル・商業に生まれ変わる。JR関内駅南口改札を出ると目の前に広がるのが当該地となっており、交通アクセス性が非常に高いうえにスタジアムと連携した施設となる予定である。
各主用途は次のとおり。
・タワー:オフィス・大学、新産業創造拠点、エデュテイメント施設、商業
・ザ レガシー(旧横浜市庁舎行政棟):ホテル、商業
・ザ ライブ:ライブビューイング施設、商業
・グリーンウォークテラス:商業
・スタジアムサイドテラス:商業
・ビジターフロント:観光案内所
施設内には、スタジアムとの相互連携に関する施設もオープンする。例えば、DeNAグループ直営のエンターテインメント施設となる「THE LIVE supported by 大和地所」は、日本最大級の常設型ライブビューイングアリーナで、施設の中心には、大型LEDビジョンが設置され、野球をはじめとしたさまざまなスポーツの試合や音楽ライブなどのエンターテインメントコンテンツに熱狂しながら飲食を楽しむことができるとしている。加えて、横浜DeNAをはじめとして、横浜のプロスポーツチームのグッズを扱う「BAYSTORE Flagship YOKOHAMA」もオープンする予定となっている。
代表企業を三井不動産株式会社とする複数社では、2025年9月24日に報道発表を行い、当該再開発のオープンを2026年3月19日とすることを発表しており、2026年春には、関内エリアの玄関口となるJR関内駅前の表情が大きく変化することとなる。
「スポーツと街」の新しい関係とは?
横浜スタジアムが推進する「コミュニティボールパーク化構想」では、試合開催日に限らず日常的なにぎわいを創出するため、スタジアムと横浜公園を一体的に活用することを目的としている。従来のスタジアムは物理的な隔たりがあったが、ビアガーデンなどの開催や早朝キャッチボールの開放、さらには公園と連動したイベント実施など、横浜スタジアムを「公園の一部」として、スポーツ機能以外にも活用しつつ、ボールパークとしてコミュニティ形成の拠点性を高めようとする取り組みが進められている。
また、現在、2027年3月に完成が目標とされているメインスコアボードの大型化改修事業についても、プロ野球のみならず、コンサートやさまざまなイベントで多様な演出を可能としつつ、地域の中心施設としてスポーツを軸とした街のにぎわいづくりに貢献することを目的として整備される。このような取り組みにより、スタジアムと公園の境界を曖昧にし、スポーツファン以外も日常的に訪れる空間としての、関内一体の回遊性の向上が図られることとなる。
JR関内駅南口の旧横浜市庁舎跡地では、2026年3月19日のグランドオープンに向け「BASE GATE YOKOHAMAKANNAI(横浜関内)」の開発が進められている。この施設は、駅とスタジアム、周辺市街地を結ぶ「結節点」として、関内地区の人の流れを変える機能を持つ。これまで通過点であった同地が、オフィス、商業、ホテル、大学、ライブビューイング施設といった多様な機能を持つ複合的な「目的地」となることが想定される。
特に、DeNAグループ直営のエンターテインメント施設「THE LIVE supported by 大和地所」や「BAYSTORE Flagship YOKOHAMA」は、試合観戦客の需要を受け持つだけでなく、試合が行われない日でもスポーツやエンターテインメントに関心のある人々を集客する中核施設として期待される。スタジアムというイベント空間と、BASE GATEが生み出す日常的なビジネス・商業空間が直結することで、双方の利用者の相互往来を促進するのではないだろうか。
また、こうした相乗効果は、JR関内駅から横浜スタジアム、横浜公園、さらには馬車道や中華街といった既存の観光地への動線を強化し、エリア全体に通年のにぎわいをもたらすことになるのではないだろうか。完成後には、同スタジアムと公園が日常の「憩いの場」として一体化する。加えて、「BASE GATE」が職住近接と利便性を高めることで横浜へのシビックプライドも育まれるなど、エリア全体の持続的な発展が期待できる。
コミュニティや来訪者にもたらす新たな価値
横浜スタジアム周辺における再開発等計画は、スタジアムの機能改修(ハード)、「コミュニティボールパーク」化構想(ソフト)、そして隣接する、庁舎跡地を活用した大規模複合開発「BASE GATE YOKOHAMAKANNAI(横浜関内)」(まちづくり)の一体で進められている点が特徴である。スタジアムを核として、JR関内駅前の複合施設と連携し、エリア全体の回遊性と都市機能の向上を図るこのアプローチは、スポーツを核とした都市再生の具体例といえる。
これからの都市再生の新しい形?
こうした動きの背景には、スポーツを活用したまちづくりに対する政策的な注目度の高まりがある。スポーツ庁は「第3期スポーツ基本計画」に基づき、スポーツによる地域活性化や社会課題の解決を推進している。さらに政府は、「経済財政運営と改革の基本方針2024」でスポーツ産業の成長促進事業として「スポーツコンプレックスの推進」を掲げており、スポーツ庁も「スポーツコンプレックス推進事業」を立ち上げるなど、国策としてスポーツとまちづくりの連携が加速している。特に、スタジアム・アリーナ改革としての異競技の集合化や異分野の複合化は注目される。なお、「経済財政運営と改革の基本方針2025」においても「スポーツが持つ力を地域・経済の活性化につなげ、『新しい日本・楽しい日本』を実現する。武道・スポーツツーリズムやスポーツコンプレックス・ホスピタリティの推進」を掲げており、今後も継続してスポーツまちづくりは継続して発展していくことが想定される。
近年、北海道の「エスコンフィールドHOKKAIDO」や長崎の「長崎スタジアムシティ」など、新設型のスタジアム・アリーナを核とした複合開発が注目されているが、横浜の事例は、1978年開場という既存の都市インフラを活用し、公有地跡地と連携することで都市機能の更新と価値向上を目指す「既存ストック活用型」のスポーツまちづくりとして、全国的なモデルケースとなり得そうである。