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選び抜く言葉 紡ぐ短歌と物語 クリエイターたておきちはる(大槌) 釜石でギャラリー展

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 「大丈夫 今日の私は幸せよ 昨日と明日を抱きしめ囁く」。“今”感じた思いを伝える言葉を選び抜いてつないだ短歌や文章、紡ぎ出したその世界をイメージさせるような写真などを並べたギャラリー展「昨日、今日、明日」が釜石市大町の市民ホールTETTOで、12日まで開かれている。

 釜石・大槌地域で活動する作家を紹介する同ホール自主事業の「art at TETTO(アート・アット・テット)」。12番目として今回ピックアップしているのは、大槌町を拠点に活動するクリエイターたておきちはるさん(34)。短編小説、エッセイ、絵本などを執筆する傍ら、町内の情報を伝えるフリーランスのライターとしても活動する。

たておきちはるさんと、銀河鉄道をモチーフにしたデザイン「車窓」


 自身の活動はインターネット上の「Instagram(インスタグラム)」や「note(ノート)」で紹介するが、地域でじかに見てもらうのは初めて。会場には、ギャラリー展のために書き下ろした「軽い読み物 5月の空を泳ぐヤツ。」のほか、短編小説やエッセーなど4点を並べる。

書き下ろしの短編小説などが並び、自由に読むことができる


 子どもの頃から文章を書くのが得意だと感じていたが、進学先に選んだのは演技や脚本を学ぶことができる京都造形芸術大(現京都芸術大)。在学中から映画や舞台の現場に立ち、自主制作・公演を行い、卒業後は東京で活動した。東日本大震災後に仮設住宅で暮らす母親を心配しUターン。町役場や観光協会で働く傍ら、「演劇を通じた心の復興」を目指す町民活動にも関わり、脚本担当や演者としての活動は続いた。

 休職中だった昨年、町外の職業訓練校でグラフィックデザインを学んでいる時に、講師や同期生から刺激や助言を受け、さらっと読めて不思議な世界が味わえる「ショートショート作品」を執筆。4000字以内との規定がある「第20回坊っちゃん文学賞」(愛媛県松山市主催)に初めて応募し、最終審査に残った「純愛の繭」が佳作を受賞した。

 執筆に取り組む中で、より短い文学「短歌」の世界に興味を持つようになった。理由は「思いを表現するのに効果的な言葉を勉強したかったから」。何か言葉が思いつくたびメモに残していたら、日常を切り取る短歌が自然と紡がれた。

作品を瓶やケースに入れたり貼ったり、見せ方を工夫する


 会場の至る所に散りばめているのは、そんな日々を切り取った言葉たち。「君のこと深く知らない 君が持つ光度と照度と輝度は知ってる」は、職訓校での学びと仲間への思いをつづった作品。湧き出た言葉を表現するような写真を添えて見せる。古里の風景が多いが、旅先で印象に残った光景も写す。ギャラリー展のチラシで使ったデザイン画「車窓-iwate-」(ポスター3連作)も展示。「銀河鉄道の夜」をモチーフにした作品で、「車両を書かずに伝えられる最少の表現」を模索した。

充実した学びの時間を表現した作品は「まぶしさ」をうたう


たておきさんが吐き出した思いを来場者がのぞき込む


正方形の原稿用紙(9マス×6行)に収められた超短編小説「54字」


 「つらい時でも短歌にすれば作品になる。そうすると、つらさも無意味じゃなくなる」とたておきさん。自身の心の平穏にもつながる作品を見た人たちが、「しっくりくる何かを持ち帰ってもらえたら。受け取ったような気がするものが何かは分からずとも、ちょっとうれしい拾い物ができるような時間を思い思いに過ごしてほしい」と期待する。

会期中には「物語のたね」を探すワークショップもあった


訪れた人との交流も楽しんだたておきさん(中)


 受賞作は「癖になる文章で、何度も読み返したくなる。危うさの中に官能的、幻想的な表現があり、純文学のような品もある」といった評価を得た。そうした言葉は、自身の作風を振り返る機会になった。「より等身大で、気負わず書いていこう」。こぎれいな文章にしがちだったが、思い返すと「あやしい話が好き」だった。そんな“好き”を表に出すべく、短歌と文章、写真、デザイン、イラストを組み合わせた作品づくりをこれからも続ける。

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