オンライン授業で強いストレス…ASDの娘、通信制大学で「カメラオフ」の合理的配慮を申請
監修:森 しほ
ゆうメンタル・スキンクリニック理事
睡眠障害と感覚過敏があり、通信制大学へ
わが家の娘・いっちゃんはASD(自閉スペクトラム症)があります。
感覚過敏があり、周囲の音や人の動きに気を取られやすい特性があります。また、一つのことに集中すると周囲への注意がおろそかになりやすく、一人での外出には不安があります。
さらに、毎日少しずつ睡眠時間帯がずれていく非24時間性の睡眠障害もあり、決まった時間に起きて登校することが難しいため、進学先には通信制大学を選びました。
自宅で自分のペースで学べる通信制なら、大きな困りごとはないだろう。親子ともにそう考え、大学には障害があることを伝えていたものの、特に合理的配慮をお願いすることはありませんでした。
2年生になって見えてきた困りごと
実際、大学1年生の間は大きな問題もなく過ごせました。
昨年夏の課外授業で、作業時間中に「寝る時間」が来てしまい、寝落ちして昼寝をさせてもらったことはありましたが、それ以外は大きなトラブルもなく、本人も「通信制は楽でいい!」と言っていました。
ところが2年生になり、Zoom授業が増えた頃からぼやき声が聞こえるようになりました。
「授業中、誰が話しているのか分からなくなることがある」
話を聞くと、画面に映る複数の人の動きが気になり、先生の話を聞きながら内容を整理することが難しいのだそうです。
※ZoomおよびZoom(ロゴ)は、Zoom Video Communications, Inc.の米国およびその他の国における登録商標または商標です。
特にほかの学生の顔がたくさん並ぶ画面で、「誰が自分を見ていて、誰が見ていないのか分からないのが怖い」と言います。
私が「カメラをオフにしたら?」と聞くと、「カメラはオンにしておくように言われているから」との返事。
授業を受けられないわけではないけれど、強いストレスを感じながら参加していることが分かりました。
合理的配慮の対象では?
はっきりしない部分もありますが、ASD(自閉スペクトラム症)の特性からくる感覚過敏や情報の取捨選択の難しさが関係しているようなので、合理的配慮の対象になるのではないか?と思いました。
「学校にカメラオフにさせてって頼んでみたら?合理的配慮があるから多分大丈夫だよ」
と伝えるも、娘はしぶーい顔……。
「でも、もう2年生だし……」
「言うなら年度初めの面談の時だったんじゃない?」
「どうして困るのか、うまく説明できないし……」
どうやら、このまま我慢してやり過ごすつもりらしいのです。
娘は昔から、困っていても自分から助けを求めることがあまり得意ではありません。
「どうせ無理だろう」
「無理なお願いをして相手に負担をかけたくない」
そんなふうに考えてしまうところがあります。
そこで私は、「申請を認めるかどうかを決めるのは大学の仕事なんだから、調べるだけ調べてみたら?」と、言いました。
娘はしぶしぶ学校のWebサイトを開いたのでした。
大学のWebサイトを見てみると……
大学のWebサイトには、ちゃんと障害学生支援に関するページが用意されており、合理的配慮の具体例の中に娘の状況にぴったり当てはまる内容を発見できました。
オンライン授業で、顔出しによるコミュニケーションに心理的・感覚的な困難がある場合、カメラをオフにして受講できるという配慮です。
娘は「今から申し込む!」と、すぐに申請用のWebフォームを開きました。
大学側があらかじめ具体的な配慮例を示してくれていたことで、「自分だけが困っているわけではないんだ」と感じられ、積極的になれたのかもしれません。
学籍番号や必要事項を入力し、申請はあっという間に完了しました。
支援につながるためのハードル
娘の場合は入学時に障害者手帳の写しを提出していたため、それをもとに審査が行われ、数日後には許可の連絡が届きました。
今回、私が便利だと感じたのは、申請がすべてWebフォームで完結したことです。
発達障害のある人の中には、電話が苦手だったり、窓口で相談することに大きな負担を感じたりする人も少なくありません。
娘も「夜中でも思い立った時に申請できるのは助かる」と話していました。
通信制大学ならではの仕組みかもしれませんが、支援そのものだけでなく、支援につながるための手続きも利用しやすくなっていることが大事だなと実感しました。
執筆/寺島ヒロ
「困っているのに、自分から助けを求めることが難しい」というお悩みは、発達障害のある方に限らず、多くの方が抱えています。ASD(自閉スペクトラム症)など発達障害の傾向のある方では特に、「困っていることを言葉にまとめる」「相手に相談する」「断られたらどうしようと考える」といった過程そのものに大きなエネルギーが必要となったり、そもそも「何をお願いしていいかも分からない」という状態であることも少なくありません。
そのため、「相談してください」と言われても、「何を相談すればいいの?」「どんな配慮があるの?」「これはわがままじゃない?」と、不安ばかりが膨らんでしまいます。
実は、この「何をお願いしていいか分からない」という状態こそ、支援が必要なサインでもあります。
合理的配慮は、本人が最初から最適な答えを持っていることを前提とした制度ではありません。本来は、学校や職場と一緒に「どんな工夫なら学びやすいか、働きやすいか」を話し合いながら決めていくものです。
今回のケースでは、大学が具体的な合理的配慮の例をWebサイトに掲載してくれていましたね。
「こんなお願いもしていいんだ」と分かるだけで、相談への心理的ハードルは大きく下がります。
「困ったら相談してください」ではなく、「こんな配慮があります」「こんな相談方法があります」と具体的に示されて初めて、本当に利用しやすい制度になります。
おそらく大学は、ほかにも同じようなことで困っている学生をみて、相談する中で工夫を重ねてきたのだと思われます。そういった蓄積のない大学であれば、大学側が支援したいと考えていても、具体的にどのような配慮ができるかを示すことが難しいかもしれません。
ですので、もし「何を相談したらいいか分からない」と感じているなら、「どうしてほしいか」まで考える必要はありません。まずは「困っている」という事実を大学側に伝えることです。
学生相談室、障害学生支援室、学生支援センターなどが窓口になることが多くあります。どこへ相談すればよいか分からなければ、教務課や学生課に「相談先を教えてください」と聞くだけでも十分です。
本人が相談することが難しい場合は、保護者がまず問い合わせても構いません。「本人が相談すること自体にハードルがあります」と伝えれば、それも大切な情報になります。最終的な手続きは本人が行うことが多いですが、最初のきっかけを家族が作ることは決して珍しいことではありません。
また、「こんなことお願いしたらわがままかな」と悩む必要もありません。合理的配慮は、特別扱いを求める制度ではなく、学ぶ機会を公平にするための制度です。
オンライン授業ではカメラをオフにしたい席を出入りしやすい場所にしたい静かな場所で試験を受けたい口頭ではなくメールで連絡したい
こうした配慮ができるかどうか、お困りのときにはぜひ相談してみてください。
どのような配慮をしてほしいのか分からない場合、「こうしてほしい」と提案できなくても大丈夫です。
「オンライン授業でカメラをつけることがとても苦痛です。何か方法はありますか?」という一言だけでも十分です。一緒に方法を考えることも、大学側の大切な役割だからです。
さらにおすすめなのが、「困りごとメモ」を作ることです。
スマートフォンのメモなどに、「どんな場面で困るか」「どんなときに疲れやすいか」「どうなると少し楽になるか」を書き留めておくと、自分でも整理しやすくなりますし、相談時にはその画面を見せるだけでも伝えられます。
助けを求めることは、決して簡単なことではありません。だからこそ、その負担を本人だけに任せるのではなく、学校や職場、家族、医療者が「相談しやすい仕組み」を作ることが大切です。
合理的配慮は、誰かを甘やかす制度ではなく、一人ひとりが安心して学び、働き、本来の力を発揮するための大切な社会の仕組みです。一人で抱え込まず、「困っています」の一言から始めてみてくださいね。 (監修:医師・公認心理師 森しほ先生)
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。