全海洋生物の30%以上を支える<サンゴ礁> たった水一杯で国内の「造礁サンゴ」ほぼ全てを把握可能に?
「サンゴ礁」は地球上でも屈指の生物多様性に富んだ生態系の1つとされ、全海洋生物の30%以上を支えていると言われています。
近年、海水温上昇によりサンゴの白化が発生しサンゴ礁の崩壊が進行。サンゴ礁を守るためには、まずどのようなサンゴが生息しているのかを把握することが重要です
従来、サンゴ礁の調査ではダイバーが現地を訪れ、種の識別や記録を行う手法などが用いられてきました。しかし、この手法では時間と専門的な知識を要するほか、制度的な限界があるといいます。
こうした中、沖縄科学技術大学院大学のマリンゲノミックスユニットを中心として研究チームは、海面の海水サンプルだけで国内のサンゴ礁85属のうち83属を検出できる手法を確立。国内の造礁サンゴのほぼ全属を効率的に把握することを可能としました。
この研究成果は『Galaxea, Journal of Coral Reef Studies』に掲載されています。
生物多様性に富んだ生態系「サンゴ礁」
サンゴ礁はサンゴや有孔虫などの石灰質の死骸が、長い年月をかけて積み重なったものです。
地球上でも屈指の生物多様性に富んだ生態系として知られています。
実際、サンゴ礁に生息する魚や無脊椎動物は数多く存在し、サンゴ礁は海洋の僅か0.2%を占めるにすぎないものの、全海洋生物の30%以上を支えているとか。
また、サンゴ礁は海岸の防波として機能するほか、漁業資源の維持などの役割も担っており、我々人間の生活に欠かせない存在でもあります。
従来のサンゴ調査は熟練ダイバー頼り
豊かな生態系を育み、世界中で何百人もの人々の生計支えるサンゴ礁ですが、近年、海水温上昇により広範囲でサンゴの白化が進んでいるとのことです。
サンゴ礁を守るためには、まずそこにどのようなサンゴが生息するのかを把握することが重要とされています。サンゴ礁の調査では熟練のダイバーが現地のサンゴ礁を訪れ、種の識別、変化の記録するといった時間と専門的な知識を要する手法が用いられてきました。
また、水中映像技術の進歩で、より広範囲のサンゴ礁の把握が可能になったものの、これらの手法では制度や効率面での限外があります。
例えば、ダイバーによる調査では活動時間と水深の制約があり、10~20メートルの範囲は調査できても10キロメートルや100キロメートルに及ぶ調査は不可能です。
環境DNAによる造礁サンゴの把握
こうした中で、沖縄科学技術大学院大学(OIST)のマリンゲノミックスユニットを中心とした研究チームは一般財団法人沖縄環境科学センター、琉球大学、沖縄美ら島財団、宮崎大学、九州大学との共同で、海面の海水サンプルのみで、国内で確認されているイシサンゴ属を検出できる手法を開発しました。
従来、照合に必要なサンゴのDNAデータベースは不完全であり、日本海域には約85属の造礁イシサンゴが生息しているとされていますが、国際的な機関が保有する既存のデータベースでは約60属のデータしか登録されておらず、約25属が検出対象から漏れていたといいます。
この研究では、これらの問題を解決するために22属のイシサンゴを収集。ミトコンドリアゲノムの配列が解析されました。
また、地域変異による誤判定を避けるために、別の12属についても再度シーケンス。これにより、日本で生息が確認されているイシサンゴ85属のうち83属を検出できるeDNAバーコーディングシステムが確立されたのです。
このシステムによって琉球列島全体のイシサンゴの多様性が明らかになり、これまで見逃されてきたサンゴの属も検出。沖縄本島沿岸には、これまで考えられていた以上に多様なサンゴが存在している可能性が示されました。
サンゴ礁保全への活用に期待
サンゴというとこれまでは南に分布するイメージでしたが、近年は海洋生態系が変化しており、東京湾の入り口でも確認されているようです。
こうした変化に対応すべくサンゴ礁のモニタリングは必要不可欠であり、今回、開発された革新的な技術が世界各地で活用されることが期待されています。
(サカナト編集部)