ミスすると暴言を吐かれる息子。中学生なのだから親が出ていってもおかしくないか問題
ミスをするとチームメイトに怒られ暴言を吐かれる中学生の息子。ミスした時に言われるのが怖くて後ろ向きになっている。
親世代とは違う複雑な嫌がらせもあって、子ども自身が対応できないから、中学生なら親が出て行ってもおかしくないよね? というご相談。みなさんならどうしますか?
スポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、悩めるお母さんに寄り添いアドバイスを送ります。
(構成・文:島沢優子)
(写真は少年サッカーのイメージ ご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)
<サッカーママからのご相談>
子どもは中学生(14歳)で、クラブチームに所属しています。
今のチームの同じ年の子で、ミスをすると怒ったり暴言吐いたりする子がいます。他の子も数人それに乗っかる子もいるようです。
コーチはベクトルを自分に向けろと話したりするようなのですが全然響く事なくもうチーム自体がそういう雰囲気のようです。
悩みというのは、我が子がミスしたりした時に言われるのが怖くて前を向いたプレーができなくなっている事です。
どんどん、後ろ向きなプレーになってしまっていることに対して、本人もどうしたらいいのかわからなくなっているようです。
我が家は転勤族でいろんなチーム渡ってきましたが、こんなに雰囲気が悪いところははじめてです。
この世代だからなのでしょうか?
前にいたところでは、上の子たちを見ていてもそんな様子はなかったと思うのですが、子どもは、いまさらチームを変えるのは嫌だと言っています(人間関係をまた一からするのが嫌だという理由)
サッカーは好きだから辞めたくないけど、もうその暴言吐くこと同じチームになった日は、楽しくなかったと帰ってきたりするので、こちらもどう声をかけるか悩んでいます。"
最近は学校やスポーツクラブでも親世代とは違う複雑な嫌がらせもあって、子ども自身が対応できることばかりでないと思います。中学生なら親が出て行ってもおかしくないですよね。
親としてどうしたらいいか、アドバイスお願いします。
<島沢さんからの回答>
最近になって中学生の親御さんからの相談が増えたように感じています。
サカイクをわが子が小学生時代から見ていて、中学生になってからでも頼りにしてくださっているのかなと思うと嬉しい限りです。
さて、息子さんがチームメイトから暴言を吐かれるとのこと。お腹を痛めて産んだお母さんからすれば、まるで自分が否定されているような気もしてお辛いことでしょう。お気持ち察します。
そのうえで、お母さんが最後にお尋ねになっている「親としてどうしたらいいか」という視点で、相談の上から順番にひとつずつ答えさせてください。
■全員と馬が合うわけではない、子どもも揉まれて強くなる
まず「ミスしたりした時に言われるのが怖くて前を向いたプレーができなくなっている。後ろ向きなプレーになってしまっている」という相談です。
中学2年生か3年生くらいの14歳で、サッカーでなくても運動部活動をしている子どもでれば一度くらい遭遇する場面かと思います。それぞれ家庭環境も異なり、育ってきた道のりが違うのですからいろんな子どもがいて、馬が合う子もいれば、そうじゃない子もいるでしょう。
そういった負の関係性ですら、みんなで頑張って得た勝利や、ミスをカバーし合った経験などを経て友情が育っていく。そこがスポーツの良いところです。
お母さんは「我が家は転勤族でいろんなチーム渡ってきましたが、こんなに雰囲気が悪いところははじめて」と完全否定されています。しかし、澄み切った川よりも濁った川のほうが魚が育つように、子どもも揉まれて強くなると私は思います。
よって、私がお勧めするやり方は「これは息子の問題だ」と割り切り、あれこれと口出しないことです。
この試練を「息子が成長できる経験だ」ととらえるか、「かわいそうに! 酷い子どもたちね!」と感情的になって終わるかでは大きく違ってきます。
■中学生年代に親が出て行ってあなたの望む方向に行くか、我が子の立場はどうなるかを考えてみて
14歳の男子は、すでに第二次性徴を迎え、射精もすればセックスのことも考えます。こうありたい自分とそうでない自分とのギャップはもちろんのこと、こうあってほしい仲間とそうでない仲間は自分の力ではなかなか矯正できないので余計に悩みは深くなる。息子さんだけでなく、全員が発達途上の思春期まっただ中なのです。
そんなとき、寄り添う親が「こんな雰囲気悪いチームはないわ。前にいたところはそうじゃなかったよね! かわいそうに! ママが言ってあげるよ!」と、仲間たちを呼びつけて叱ったとしましょう。それに、絶賛思春期中の14歳たちは素直に聞くでしょうか。
「そうだ。○○君のお母さんの言うとおりだ。僕らが悪かった。明日から二度と暴言は吐きません!」と頭を垂れるでしょうか? そのあと、息子さんのチームでの立場はどうなるでしょうか? 良い方向に進むでしょうか?
私が知る限りの話ですが、いわゆる「100対1のいじめ」でないケースで、親が出て行ってうまくいった試しはありません。仲間との折り合いはさらに悪化し、何よりも乗り込んだ親の子どもの自己肯定感が下がります。
自分のことを最も理解しているはずの親に乗り込むほど心配をかけ、「この子は自分では解決できない」と見切られたダメな僕、というように自信を持てなくなります。
■本人がチームを変えたくないならひとまず静観して
そもそも、思春期でなくても、大人に言われて強制されたことは浸透しません。彼らが息子さんとの関係性の中で、何かを学び変容を遂げるしかない。もしくは、息子さんがそういったことにタフになれるかどうか。
サッカーは難しいプレーにトライするからミスが生まれます。ミスを怒った子どもに「じゃあ、おまえはミスしないのかよ!?」といつか言えるといいなと私は思います。
しかも、息子さん自身が「いまさらチームを変えるのは嫌だ」と言っているのであれば、「あ、そう。じゃあ、がんばって」と励ます。その際に「もう我慢ならないなと思ったら言ってね。クラブを変えればいいだけのことだしさ」と逃げ道もちゃんと用意してあげてください。
■いじめに近い陰湿さがあるのであれば親の出番、そこの見極めは大事
ただし。息子さんひとりが、もしくは圧倒的に少ない人数がターゲットで、大人数でいじめに近い陰湿さがあるのであれば、息子さんと同行してコーチに相談するべきです。上述した「100対1のいじめ」です。この見極めは重要です。
見極めるためにも、お母さんが「どんな声がけをするか」「何か言わなければ」ではなく、息子さんの気持ちを聴く姿勢をもつことです。
まずは、「いつでも話してね。話聞くよ」と伝え、信頼関係を築くこと。そのうえで「今日はどうだった?」「いじめられなかった?」と質問攻めにせず、「楽しかった?」と尋ねるだけでいいでしょう。表情や態度をつぶさに見守ってください。b
息子さんの希望があれば、指導者に相談するのは構わないと思います。コーチがいう「ベクトルを自分に向けろ」は正解ではありますが、それがどれだけチームに浸透しているかは疑問です。
ただし、そうやって文句を言ってしまう未熟さは誰もが通る道です。コーチ自身がそう考えて、いまは見守っている最中なのかも知れません。
■チームそのものに問題があると判断する前に、した方がいいこと
(写真は少年サッカーのイメージ ご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)
ご存知かどうかわかりませんが、私はこの連載やネット記事、著書などで教育現場やスポーツの不適切指導問題にフォーカスしてきました。
よって、そのような現場にいながら暴力や暴言で子どもを傷つける大人に対しては厳しく対応します。ご相談されてくる親御さんには、その程度によってはその環境からお子さんを遠ざけることをお勧めしています。
今回のケースでは、ご相談文からだけでは判断はしかねますが、チームそのものに問題があると判断するのはまだ少し早いような気がします。
ご自分だけの感情や主観だけで動かずに、まずは家族の中でよく話し合ってください。
島沢優子(しまざわ・ゆうこ)ジャーナリスト。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』『東洋経済オンライン』などでスポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実 そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(カンゼン)『部活があぶない』(講談社現代新書)『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)『オシムの遺産 彼らに授けたもうひとつの言葉』(竹書房)など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著・小学館)『教えないスキル ビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』(佐伯夕利子著・小学館新書)など企画構成者としてもヒット作が多く、指導者や保護者向けの講演も精力的に行っている。日本バスケットボール協会インテグリティ委員、沖縄県部活動改革推進委員、朝日新聞デジタルコメンテーター。1男1女の母。新著は「叱らない時代の指導術: 主体性を伸ばすスポーツ現場の実践」(NHK出版新書)