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【11/9(日)まで】令和7年秋の有隣荘特別公開 森村泰昌「ノスタルジア、何処へ。」―美術・文学・音楽を出会わせる― 〜 美術と音楽がこだまする空間

倉敷とことこ

【11/9(日)まで】令和7年秋の有隣荘特別公開 森村泰昌「ノスタルジア、何処へ。」―美術・文学・音楽を出会わせる― 〜 美術と音楽がこだまする空間

2025年秋、倉敷美観地区にある有隣荘が特別公開されています。
今回の特別公開で有隣荘は、美術家・森村泰昌(もりむら やすまささんによる展覧会〈「ノスタルジア、何処へ。」―美術・文学・音楽を出会わせる―〉の第二章の舞台となりました

美術と音楽」をテーマに、1970年大阪万博の記憶が呼び覚まされる展示です。

瀬戸内国際芸術祭2025の連携企画にもなっている、令和7年秋の有隣荘特別公開の見どころを紹介します。

「有隣荘」について

有隣荘外観

大原美術館 本館の向かいにひときわ存在感を放つ建物があります。
緑やオレンジの美しい色の瓦屋根をもつ「有隣荘(ゆうりんそう)」は、大原美術館の創設者・大原孫三郎(おおはら まごさぶろう)の別邸として1928年(昭和3年)に建てられました

その名は、論語の一節「徳不孤必有隣」(とくはこならず かならずとなりあり。「徳のある人は孤立せず、必ず理解してくれる仲間が現れる」)に由来しています。

病弱だった妻・壽惠子(すえこ)のために構想された住まいは、やがて倉敷を訪れる貴賓を迎える迎賓館としての役割も担う近代建築となりました。

有隣荘は長らく非公開でしたが、1997年からは展覧会の開催や春・秋の特別公開などが実施され、館内を見学できるようになっています。

美しい色の瓦屋根

特別公開の内容

令和7年秋の有隣荘特別公開メインビジュアル(画像提供:公益財団法人大原芸術財団)

令和7年秋の有隣荘特別公開は、大原美術館 本館・有隣荘・児島虎次郎記念館の3か所で開催されています。

それぞれのテーマは以下のとおりです。

・大原美術館 本館・第一章
「まなざしが、ことばに、こだまする。(美術×文学)」
・有隣荘・第二章
「あやとり、赤い糸。(美術×音楽)」
・児島虎次郎記念館・第三章
「何処から、いずこへ。(美術×美術)」

1階は万博の記憶と《ルネ・マグリットの男》

有隣荘に入ると、美術と音楽が深く交わる空間が広がります。

この会場のテーマは、森村さんが実際に訪れた1970年大阪万博の記憶と、大原總一郎が万博のために構想した「十二面体音楽堂」に着想を得て作られた、陶器のスピーカーから流れる音が響き合う空間芸術です。

洋間のおしゃれな灯り
青い十二面体

1970年の大阪万博に出展された「せんい館」は、大原家が創業したクラレやクラボウなどの繊維会社が中心となって作られたパビリオンでした。森村さんは、この「せんい館」で使われた赤いレーザー光の記憶をもとに、新作《あやとり、赤い糸。》を制作しています。

当時の「せんい館」では、美術家や音楽家が協働し、芸術と科学の融合を目指しました。本展ではその精神を受け継ぎ、「美術」と「音楽」が出会う場として有隣荘に展示されています

大原總一郎ゆかりのスピーカーから音楽が流れる
向かいに大原美術館が見える

洋間から奥の和室へ進むとそこには1970年の万博で「せんい館」にて展示されていた四谷シモン作《ルネ・マグリットの男》が立っています。

約2mもある、ギョッとするほどリアルな風貌の大きな作品。
当時は20体あったそうですが、現在残っているのは4体のみで、今回は大阪大学から借りたそうです。

森村さんは1970年の大阪万博開催当時、実際に「せんい館」を訪れていて、人形の帽子の前面にある穴から発せられていた赤いレーザー光線を覚えていたそうです。

2階は声のこだまとレーザー光線

《M式 ルネ・マグリットの男》床の間は不思議な空間になっていた

《ルネ・マグリットの男》に扮している森村さんの写真から当時を再現するかのようなレーザー光線が出ています。森村さんによれば、当時のレーザー光線はその時代では最先端であったのかもしれませんが、現代のように強い光ではなく、細い光線だったそうです。

また、部屋にあるさまざまな十二面体からは、ささやきのような言葉や声が聞こえてきます。

かつて大原總一郎が夢見た「十二面体音楽堂」をオマージュしたオブジェからも、声や音が聞こえてきます。立つ場所によって、声や音の聞こえかたが変化しました。

日常のようで非日常のようなどこか不思議な感覚に包まれました。「自分がどこにいるのだろう?」と思わず考えてしまうほどです。

森村泰昌さん「55年前の響きがこだまする雰囲気を感じてほしい」

森村泰昌さん・児島虎次郎記念館にて新作
《「何処から、いずこへ。」習作》の前で撮影

森村泰昌さんは、今回の展覧会について以下のように語っていました。

森村泰昌──

今回、大原美術館で展覧会をさせていただくにあたり、まずこの美術館がもつ独特の「香り」に惹かれたんです。明治・大正・昭和の時代、美術、文学、音楽は分かちがたく結びついていました。

その魅力的な世界が忘れ去られてしまうのは、あまりにも惜しいと感じました。
もう一度その時代を振り返り、新しい出会いを生み出せないかと考えたことが、今回の展覧会の始まりです。

そして有隣荘は、私が19歳の時に体験した1970年大阪万博の記憶が核になっています。「せんい館」で見た、ずらりと並んだ《ルネ・マグリットの男》の光景が、今も鮮明に焼き付いています。しかし、55年前の万博の喧騒を再現するのではなく、その記憶が、こだまのように静かに響く空間にしたいと考えました。

2階から聞こえる私の「声」もまた、私にとってセルフポートレートです。有隣荘の佇まいのなかで、美術と音楽が出会った時代の響きを感じていただけたらと思います。

企画を担当した柳沢秀行さんの解説

公益財団法人 大原芸術財団 財団本部付シニアアドバイザーの柳沢秀行さん

企画を担当した公益財団法人 大原芸術財団 財団本部付シニアアドバイザーの柳沢秀行(やなぎさわ ひでゆき)さんは以下のように語っていました。

柳沢秀行──

大原總一郎は、経営者でありながら、日本の近代洋画や民藝運動を支援した文化人で、とりわけ音楽を深く愛していました。

特に、彼が素晴らしいと感じていたのは、森のなかを散策しながら、どこからともなく聞こえてくる鳥のさえずりや風の音に耳を澄ます体験です。その理想を形にすべく、1970年の大阪万博に向けて「十二面体音楽堂」という、先進的な構想を提案しましたが、実現しませんでした。

今回、森村さんは「大原總一郎の夢」に着目されました。
有隣荘にいくつも置かれている「十二面体のオブジェ」は、大原総一郎の構想への応答です。

有隣荘では、ぜひ耳を澄ませてみてください。
建物全体が楽器のように響いています。また、1階と2階では音が変わります。2階では、音楽は消え、代わりにささやきや独り言のような「声」が聞こえてくるはずです。

有隣荘1階の「旋律のある音楽」を経て、最終的には言葉も音楽も解体され、純粋な「音」だけが存在する世界が広がります。

この流れは今回の展覧会を貫く、大切な体験の一つになるでしょう。

有隣荘特別展示は2025年11月9日(日)まで

令和7年秋の有隣荘特別展示は、2025年11月9日(日)まで開催されています。

有隣荘の美しい館内にて、芸術と音楽が重なり合うのはこんなに心地良いのかと感じました。立つ位置により聞こえる音が変わるので、場所を変えて耳を澄ませて音を感じてみるのも楽しいと思います。

大阪で再び万博が開催された2025年に、1970年の大阪万博の記憶を感じるアート空間を堪能しました。大原美術館 本館、児島虎次郎記念館での森村さんのアート作品も素晴らしいのでぜひ鑑賞してみてください。

なお、瀬戸内国際芸術祭2025の共通パスポートで、有隣荘特別公開を1回のみ入場できます。瀬戸内国際芸術祭を満喫されたアートファンはもちろん、特別公開の有隣荘で響き合う美術と音楽、森村泰昌さんのアートを体感したいかたも、ぜひこの機会に足を運んでみてください。

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