Yahoo! JAPAN

夏休み明けの不登校は突然!?「明日学校に行きたくない」と言われたら…休む基準、介護休暇、親の役割を不登校ジャーナリストが解説

LITALICO発達ナビ

夏休み明けの不登校は突然!?「明日学校に行きたくない」と言われたら…休む基準、介護休暇、親の役割を不登校ジャーナリストが解説

夏休み明けの不登校は突然。予防策はない「自分が無理をしていたという表出」

LITALICO発達ナビ牟田暁子編集長(以下――):夏休み明けは特に不登校が増える時期と言われていますね。夏休みの過ごし方は不登校と関係があるのでしょうか?

石井しこう氏(以下石井):夏休み明けは、1年のうちでも一番不登校が増える時期だと言われています。しかし、不登校になるのは夏休み中の過ごし方が原因ではありません。多くの場合、1学期あるいはその前から続く学校生活の中で苦しんでいたことが、休み明けに急に噴出するのです。
保護者の方の中には、お子さんが不登校になるとご自身を責める方が多くいらっしゃいます。しかし、子どもは子どもで必死に自分の人生を生きているので、親のせいではないと、きちんと切り分けて考えることが大切です。

――「学校に行きたくない」という理由が本人から語られないことも多いですね。

石井:そうですね、不登校の子どもに理由を聞くと、多くの場合「分からない」と答えます。これには、いくつかの理由が考えられます。
一つは、いじめを受けていたり、正直に言うことができない場合です。また、発達の特性や情報処理の困難さから、何が原因か整理がつかないという意味で「分からない」という子もいます。ショックなことがあって、その部分の記憶が欠落している子もいるのです。
「分からない」と答えられたからといって、解決できないと絶望する必要はありません。やるべきことは、ただ本人が生き生きできる場所を探すことです。

休ませていいのかの判断にチェックリストを使う。休みが長期に及ぶ場合は介護休暇を

――休ませたほうがいいタイミングの見極めはどうすればいいでしょうか?

石井:新刊『小学生不登校 親子の幸せを守る方法 400人の声から生まれた「親がしなくていいことリスト」』でもご紹介していますが、NPOの方たちなどと一緒につくった「学校休んだほうがいいよチェックリスト」を活用することをおすすめしています。このチェックリストでは、身体症状や学校でのトラブルなどの項目に当てはまるかどうかで、休ませるべきかどうかの指針が分かります。特に身体症状が見られる場合は休みのサインです。

――どれくらい休ませればよいのでしょうか?

石井:「心のインフルエンザ」にかかったと思ってください。インフルエンザにかかったら短くても3日間は体調不良がありますよね。学校は1週間くらい休む必要があります。心にダメージが溜まっていない子は、3日や1週間も休めば「家にいるのが限界だ」と感じて、行きたくなることが多いです。
それでも本人が「苦しい」「行きたいけど行けない」と言っている場合は、その後3週間くらい休んだほうがいいと考えています。

――親が仕事を休む必要がある場合、どうすればよいのでしょうか?

石井:保護者の方もその際に、介護休暇を取ることができます。正規雇用の就業規則には介護休暇が含まれており、自分の親だけでなく子どもにも使えます。しかも1人ずつ使えるんです。厚生労働省の資料によると、個別の状況に応じて不登校も介護休暇の適用範囲内となりうるとなっています。

もし上司に相談しても聞いてもらえない場合は、人事部に相談すると動いてくれることもあります。この3週間の間に、近隣やインターネットでどんな支援があるか情報を集め、居場所を探してほしいと思います。

――なるほど。介護休暇が取れるんですね。でも、そのまま子どもが不登校になったら、親は離職すべきでしょうか?

石井:不登校の親が見てきた結論として、「離職はしない」という考え方が重要です。子どもが不登校になっても、親が家にいることと学校への行きやすさは関係ありません。むしろ、親が仕事を辞めてしまうと、そのつらさや不満を無意識に子どもの不登校と結びつけてしまうことがあるため、避けたほうがいいでしょう。

不登校は、目には見えない心のダメージが原因です。それを家でずっと見つめ続けることは、親にとってもつらいことです。学校に行かせることで心身の不調が必ず起きるリスクがあるなら、留守番させるリスクと天秤にかけてみる。安全対策をしたうえで留守番させるリスクのほうを取ったほうが子どもの心身の安定・安全のためにはいいと考えられる場合もあるでしょう。対策をした留守番やフリースクールなどを活用することを検討すべきです。

まず児童精神科医や教育支援センターへ。学校とのやりとりは工夫を

――不登校になった際、保護者は具体的にどう行動すればよいのでしょうか?

石井:まず、児童精神科医や教育支援センターに相談し、専門家の意見を聞くことがおすすめです。また、学校とのやりとりで親が疲弊しないように、学校への連絡係を母親以外の人にするのがいいです。

学校の担任の先生と親の間には「見えない壁」が存在します。親はわが子を唯一無二の存在として見ますが、先生にとってはクラスの約30分の1の存在です。この視点のずれが摩擦を生むことも多いので、担任の先生が親と同じ視点だと期待しないことが大切です。

また、学校との連携には「紙」を使うのが効果的です。電話やアプリではなく、手紙やファクスでやりとりをすることで、重要な内容が確実に伝わります。

「石井がそう言っていたので」と言って、分担を始めてみてください。
そして、以前の記事でもお話ししましたが、「雑談」をすることも非常に重要です。私自身もフリースクール時代に雑談を通じて、喜怒哀楽を取り戻しました。雑談は脳のエクササイズになり、子どもが「自分はここにいてもいいんだ」という安心感を育み、失敗に強い力がつきます。

高校、大学での不登校は?通信制など多様な選択肢

――小学生の不登校が急増していますが、高校や大学での不登校についても教えていただけますか?

石井:はい。小学生の不登校はこの10年で5倍と増加している一方で、中学校と高校の不登校の数を比較すると、高校では7割程度減少するというデータがあります。これは、通信制高校など、多様な選択肢が広がったためだと考えられます。

しかし、高校や大学で不登校になるケースも存在します。これは、それまでの苦しみが爆発した状態であることが多く、新しい環境が問題なのではないこともあります。このような場合、何よりもまず「安全基地」が必要だと言われます。
安全基地とは、子どもが心から安心できる居場所のことです。就労移行支援や通信制の大学、趣味のコミュニティなど、家の中、外を問わず、本人が安心して過ごせる場所が一つあれば、そこを拠点に新しいことにチャレンジできるようになります。

「いまこの瞬間に笑顔があるか」を指針に

――最後に、お子さんの不登校で悩んでいる保護者の方へ、メッセージをお願いします。

石井:保護者の方は、お子さんの不登校に直面して、本当に毎日よく頑張っていらっしゃると心から思います。あなたは決して一人ではありません。
私が最も大切にしているのは「いまこの瞬間に笑顔があるか」という視点です。長期的な不安よりも、今この瞬間の子どもの表情を見てください。登校と不登校は「行ったり行かなかったりを繰り返すもの」と理解し、どっしりと構えることで、子どもも安心できるのです。

社会全体は少しずつ変化しているので、将来、学校に通わない多様な学び方が当たり前になる時代がくるでしょう。それが当たり前になるまでは、正直想像しづらいかもしれません。しかし、子どもと親が笑顔でいられる道を優先し、焦らず、今できることに目を向けて、新しい道を見つけていってほしいと思います。

――ありがとうございました。

(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。

【関連記事】

おすすめの記事