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柿澤勇人×鴻上尚史『ハルシオン・デイズ2020』対談 「芝居を観終わった頃には“明日も元気に生きよう”という気持ちになっていただければ」

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(左から)鴻上尚史、柿澤勇人

2020年10月31日(土)より東京・紀伊國屋ホールにて、12月5日(土)より大阪・サンケイホールブリーゼにて、鴻上尚史作・演出『ハルシオン・デイズ2020』が上演される。

本作のテーマは、絶望と救済、そして希望。四人の登場人物が妄想・幻影・虚構と向き合いながら、目まぐるしく展開していく物語だ。2004年に初めて上演された本作は、2011年のロンドン公演を経て、「今だから」届けたい作品として2020年版として上演される。

主演を務めるのは、ミュージカル『フランケンシュタイン』や現在放送中の連続テレビ小説「エール」で注目を集め、舞台だけでなくテレビドラマなど幅広く活躍している柿澤勇人。柿澤と鴻上は惜しくもコロナ禍の影響で上演中止となってしまった『スクール・オブ・ロック』でタッグを組む予定だった間柄。改めて手を組んで本作をやるきっかけや、本作のテーマなどについてたっぷり語ってもらった。

ーーまず、この『ハルシオン・デイズ』を2020年版でやろうと思ったきっかけから教えてください。

鴻上:いろいろな事が複雑に絡み合っているんですけど、なかでもいちばんはコロナ禍で大人数の芝居が出来ない事があります。それでなくても今年は芝居が2本中止になってしまいました。過去上演した『ハルシオン・デイズ』初演時は「人間の盾」でイラク戦争に反対する話だったんですが、ふと、目に見えない敵である「自粛警察」と戦う幻想を持つ男の話にしたら今やる意味があるのでは、と思ったんです。

今年の2月にイベント等の開催について中止や延期など規模の縮小対応が求められ「(芝居が)できないかも……」という不安が沸き、さらに4月に緊急事態宣言が発令されたとき、さらに不安が高まり、その後SNSなどの荒れ方を目にして本当にやっかいな時代になったなあと感じました。だからこそ今このテーマでやる意味があるなって。でも初演よりはもっと楽しい芝居にしたい、エネルギーのあるものにしたいとも考えました。元々僕は芝居を観て劇場を後にする時に、観る前より元気になってほしいと思うスタンスなんです。今回は特に「生きる」「生きようぜ」という気持ちになってほしいですね。

鴻上尚史

ーー柿澤さんは、鴻上さんのお芝居に出演をオファーされた時、どんな心境でしたか?

柿澤:ちょうど鴻上さんが日本版脚本と演出を務める『スクール・オブ・ロック』が中止になり、さらにその前には『ウエストサイドストーリー』も中止になって、今年は舞台上で芝居をする事はないだろうと正直思っていたんです。そんなときにお声をかけていただいて、嬉しかったです。初演の映像も見せていただいて4人だけのストレートプレイという点にも惹かれたし、テンポも良くてエネルギーがあって笑える芝居に魅力を感じました。
一方でコロナ禍の現代に話の舞台を移すこと、また自死……自殺志願者というテーマもあって。誤解してほしくはないのですが、自死は今タイムリーなテーマではあるんですが、その前にこの企画があったんです。その後自分の友人や、近しい人が自死を選んだという事で精神的にズンときまして。それで「鴻上さん、僕この芝居出来るかな? 結構しんどいテーマなので……」って正直に相談したんです。すると「字面で見ると自死を扱っているけど、『生きろ』『死んじゃだめだ』というテーマだから。観て楽しんで、ハッピーになる芝居だから」と背中を押してもらってこの作品に挑む事となったんです。

ーー今、稽古が始まった所ですが、手応えや心境はいかがですか?

柿澤:僕の役に関してはすごくピュアな人で。ピュアな故にコミュニケーションが取れなかったり心が病んでしまい妄想をする人。そうなってしまうくらい心が綺麗な人なんだろうなって思います。客観的に見るとかわいくもあり、可愛そうな人でもある。愛おしい人だなって思います……(鴻上に向かって)解釈、合ってますか?

(左から)鴻上尚史、柿澤勇人

鴻上:うん、合ってる合ってる(笑)。割とカッキーっぽいなって思うよ!

柿澤:えー! 嘘だあー(笑)!!

鴻上:嘘じゃないって。引き受けなくてもいい事をたくさん引き受けてしまうその誠実さはカッキーにあると思うんだよね。振り返ると『スクール・オブ・ロック』ではなにもしていない状態で中止になってしまったんです。本読みもしていない状態。だから『スクール・オブ・ロック』をカッキーでやると決まってから、それまでカッキーが出ていた芝居を2本観に行ったんです。その印象があって「『ハルシオン・デイズ』の原田雅之役に合うな……」って感じたんです。俳優さんっていろいろなタイプの人がいるので陽気で能天気な人だと雅之役は合わないんです。でもカッキーなら誠実に悩んでくれそうだと感じてオファーしたんです。

柿澤:(照れながら)でもどの作品でも悩んでますよ。映像でも舞台でもめっちゃ楽だった! という役は一つもなくて。それが仕事でもあるので。ただ、僕にとっては新しい役ですね。僕はどっちかに振り切っている役が多いんです。猟奇的な殺人者や愉快犯とか、シャーロック・ホームズとかフランケンシュタインとか。今回、普通ではないですが、ニュートラルな役は久しぶりだなって思います。

『フランケンシュタイン』なんて1幕は屈折した天才科学者で科学の力で人間を生み出そうとして結果怪物を生み出してしまう。2幕は全く違う役でその怪物を痛めつける劇場の支配人役……。演出の板垣(恭一)さんからは「カッキー、とりあえず虐待して!」って言われたので、もうめちゃくちゃにしてやろうとつばを吐いたりしたりしていたら、板垣さんから本番中に「あの、カッキー……僕は大好きなんだけどさ、プロデューサーサイドから苦情が入って。あの演出は辞めよう」って言われてしまうくらい振り切った役でした(笑)。板垣さんは以前鴻上さんの演出助手をやっていたという事もあり、何度か板垣さんと飲みに行ったとき、既に『スクール・オブ・ロック』に出る事が決まっていたので板垣さんは「鴻上さんとカッキーは合うと思うよ。言いたい事も全部受け止めてくれるから」と言ってくれてたんです。

鴻上:そんな話をしていたんだ! もっと早くその話してよ(笑)!

(左から)鴻上尚史、柿澤勇人

ーー稽古場では皆さんどんな様子で過ごしていらっしゃるんですか?

鴻上:稽古場ではカズさん(石井一孝)なんていっぱい喋るじゃない? 喋りが止まらないんですよ(笑)。

柿澤:今日も睡眠薬の話をしていた時、僕も何種類かは知っていたんですが、カズさんはどんどん話をし続けて稽古時間が終わってしまいそうになり話を阻止したんです(笑)。

鴻上:それは座長として正しい選択だね(笑)。今回の出演者で言うなら皆個性が違っていて。須藤蓮くんはフレッシュなキャラで、舞台が2本目なので、いろいろと伝えてます。僕は自分でいうのも何ですけど、ものすごく教師体質で、育てる事が好きなんです(笑)。さんざん教えても成長しない相手だとがっかりするけど、彼はしっかり成長しているから何も疲れないですね。

柿澤:鴻上さんは役者でもあるから、実演が凄く上手いんですよ。

鴻上:そこ記事に書いておいて! 上手い割に最近全然役者としてのオファーがないんだから(笑)。自分で言うのもなんですが、僕凄く上手いんですよ(笑)! 多分演出家としての僕にビビっているんじゃないかなあ。役者の時はどんな変な演出をされても全部聴くのに!

柿澤:アハハハハ。そして南沢(奈央)さん。凄く真面目ですね。鴻上さんが言う言葉をちゃんと自分の中で処理して芝居に出してくるんです。でも芝居の外では多分人見知り。僕も人見知りなんですがそれ以上かなって感じます。

柿澤勇人

鴻上:人見知り同士が会話しているのを見るのが凄く楽しいんです(笑)。恥ずかしがり屋さん同士がお互いを知り始めて会話しているようで「お、始まった始まった」って思いながら眺めています。

柿澤:蓮くんは鴻上さんに「ここはこうだろう? こっちのほうが良いと思わないか?」などと言われているのをなるほどなるほどと思いながら聴いているんですが、カズさんは何してるんだろうと見ると壁に向かって延々と自分の台詞を口にしていて(笑)。で、休憩時間になると蓮くんはふにゃふにゃ自由にしていて。奈央さんと共通認識を持っているんですが、「僕ら二人、マトモだよね」って(笑)。

鴻上:それは二人がマトモというよりほかの二人が変すぎるんだよ(笑)。奈央ちゃんよりはカッキーのほうがマトモだと思うけどね。奈央ちゃんは4年前に一緒に舞台をやったんだけどあの時から上手くなりましたね。4年前はまだ少し迷いがあったのかな。自分なりに大人になったんだと思います。人見知りはあいかわらずだけどね(笑)。

柿澤:今、稽古後の飲み会や本番後の打ち上げが出来ないじゃないですか。僕は酒飲みなので、それも含めて演劇という気持ちでいたんですけど。それができないのがじれったいですね。

鴻上:僕も稽古初日には飲み会をしてその後も必要な時にはやっていたんだけど、今はそれができないからね。それこそ須藤くんみたいな緊張して現場に来る子たちにとってそういう場がないのは残念だと思います。

(左から)鴻上尚史、柿澤勇人

ーー今回SNSがテーマの一つになっていますが、お二人ともSNSについてのメリット、デメリットはどのように感じていらっしゃいますか?

鴻上:僕は天国と地獄が同時に在る存在だと思っています。天国という意味では知らない情報をすぐ誰かが教えてくれる場所。オランダの友達が「先日じいちゃんが買った屏風の絵の脇に書いてある文章が読めないから教えてくれ」って言われたんですが、ものすごい崩し字で。それの写真を撮ってSNSにあげて「誰か詳しい人教えてほしい」とアップしたら一時間もかからず答えが寄せられて。誰の絵でいつの時代ので、その文は中国の詩の一節で、って。しかも画風から観てこれは模写です、とまで教えてもらって。なんてすごいなって思ったんです。
が、その反面僕は炎上上級者なので(笑)、炎上のたび、心が折れてます。例えばコロナ禍で「自粛要請するなら休業補償とセットだ」という発言ですね。これには「普段偉そうなことを言っているのに結局は金か」などとものすごい反発がきた。中には「演劇が全部なくなっても、次の日にどこかの大学で劇団が生まれているから」という書き込みが来た時「ああ、蓄積って事を全く無視するんだなあ」と。僕たちがこんなに頑張っているのに何の意味がないというのか、と。結構心が折れましたね。SNSって便利だけど、同時にグサッとくるものなんです。

柿澤:僕は逆にSNSはやりたくないんです。今やっていますが、それも会社やマネージャーから「カッキー、Twitterやろう!」って言われて「やだやだ」と断っていたんです。ボロがでるし、酒飲んで下ネタとか言っちゃったりするかもしれないし。職業的にもあまり普段どうしてるかとか言いたくないなって。イメージを大事にしている訳ではないですが、結局SNSの自分は本来の自分じゃない気がして。そもそもアナログ人間なのでログインの仕方を教わるんですが、一度やってみて訳わからなくなって「ああっ! もういい!」ってそれっきりやらなくなっちゃうんです(笑)。だから携帯電話でネットを眺めるくらいです。作品がどのような反応をされているか、は調べますけどその流れで自分への意見もつい目に入ってしまいますね。情報を受け取るツールとして使っていますが、本当にそのくらいです。

ーー最後になりますが、本作への想いを。

鴻上:僕なんかはただの夢物語ではなく、現実を見ながらそれにがっぷり取り組んだうえで、エネルギーを届ける作品のほうが元気になると思うんです。よくこんなに個性豊かな4人が集まったと思うし、それぞれのキャラクターにこんなに合っている人が揃うとは思わなかった。すごくパワーアップした作品になったと思いますよ!

柿澤:僕自身も久しぶりの舞台です。劇場に来ていただき、芝居って楽しいなと僕も思いたいし、皆さんにも感じていただきたいです。色々抱えた四人が集まりますが、単純に四人で飯を食うだけでもこんなに面白いんだっていう「匂い」を楽しんでいただきたいです。観終わった頃には「明日も元気に生きよう」という気持ちになっていただければと思います。

(左から)鴻上尚史、柿澤勇人

取材・文=こむらさき 撮影=武田敏将

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