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小学校では宿題を「ほぼ放置」!?ASD兄妹、高校・大学ではどうなった?

LITALICO発達ナビ

小学校では宿題を「ほぼ放置」!?ASD兄妹、高校・大学ではどうなった?

監修:初川久美子

臨床心理士・公認心理師/東京都公立学校スクールカウンセラー/発達研修ユニットみつばち

宿題なんかやってる暇がないータケルの場合

わが家の長男タケル(ASD/自閉スペクトラム症・現在25歳)には、幼稚園生の頃から毎日のルーティンを決めるという癖がありました。

「何時にこれをやる」と決めているのではなく「これの次にこれをやる」という形式なので、学校から帰ってくる時間が遅くなったり予定外の用事で出かけたりと、どこかで「作業」が長引くと宿題までたどり着けないということがよくありました。宿題の方を先にやればと言っても、それはダメなのです。タケルにはこの順番でなければという確固たる理由があるのです。

そこまで厳しくやることを決めているのに、タスクをやり残したまま寝かせてしまうのは比較的容認できるようです。「やろうと思ってたのにもう眠い……」とブツブツ言っていることもありますが、だからといって眠いのを我慢してやるということもありません。そもそも宿題の優先順位がタケルの中で高くなかったのでしょう。

体調や気持ちの不安定さもある

子どもの発達障害あるあるかもしれませんが、体調を崩しやすかったり情緒が不安定になったりすることも多いです。

本人にまあまあやる気があって、自分から宿題の前に座っても、数分で体をグニャグニャーンと揺らしながら床に倒れ込んでしまうこともありました。「何をしているの?」と言いたくなりますが、本人も「ボク、今どうなってるの?」という顔をしながら床でタコ踊りをしていました。

体を倒して背中や手足が伸びると「ちょっと気持ちいい」と感じ、動かすことに集中してしまって、そのうち宿題のことを忘れてしまうみたいです。放っておくとそのまま寝てしまうことも。多分疲れているのに自分で気がついていなかったんだなと思うので、そういう時は大抵そのまま寝かせていました。

夏休みの宿題は8割マッハで片づけて2割残す

妹のいっちゃんの場合は、毎日のプリントなどはしぶしぶやっていました。しかし、休んだ時の物は貯めがちで、提出期限ギリギリになってから、お兄ちゃん(この頃は成長し中学生になっていたので)に見てもらいながらやるというのが定番でした。

この「ちょっと面倒になると途端に手が出なくなる」傾向は、夏休みの宿題により顕著に現れます。いっちゃんは、最初に簡単にできそうな8割を一気にやってしまい、あとは完全に宿題の存在を忘れて過ごす。そして残った苦手な2割を最後の1日(と、次の週末)で「ヒイヒイ」言いながら取り組む──そんな感じでした(これを読んで「うちもそう!」と思う方も多いのではないでしょうか!)。

宿題は別にしなくても……と思っていた母

子どもたちが宿題をできないことに対して、私が何か働きかけをしたのかというと、実はほとんど何もしていませんでした。

私は……これはあくまで個人的な意見なのですが「宿題は別にやらなくてもいい」と思っています。「宿題」が出ない国も多いと言いますし、文部科学省が示す学習指導要領にも「宿題」という文言はありません。私が教員をやっていた時も「宿題の意義は、学校外での学習の習慣づけと締め切りを守る練習にある」と言われていました。確かに大事なことですが、それを身につける方法が「宿題」のみということもないでしょう。

子どもたちは、普段は学校や教科書で学んでいるのだし、自分が興味を持って追求していることもある。遊びから学ぶことだって大事です。特に発達障害のある子どもたちは、療育センターに通ったり、心身の不調で倒れていたり泣いている時間もあるので、ほとんど反復練習ばかりの小学生の宿題に時間を使うのは勿体ない、少なくとも学習全体の中では優先順位が低いと感じていました。

もちろんできそうなら取り組んでもらいますが、眠いのを無理してまでやらせたり、寝ているのを起こしてまで「やりなさい」とは言いません。わが家では、小学4年生くらいまでは宿題などの提出物はほとんど締め切り前には出せていなかったと思います。

小学校の先生からは「おうちできちんと提出ができるように指導をしてあげてください」「宿題をやるよう声がけをしてください」などと言われることもありましたが、子どものキャパシティ的にギリギリに見えましたので、基本的には家庭での判断を優先していました。

でも子どもたちは「宿題の提出期限は守りたい」

こんなにゆるゆるに育てたにもかかわらず、子どもたちは成長とともに少しずつ変わっていきました。

息子のタケルは中学生になってから「提出物はちゃんと出す」と自分で決め、学校で宿題も終わらせてくるようになりました。終わるまで学校から帰らないルールを自分に課したので、親のほうは電車を逃した息子を迎えに行く手間が増えて大変でしたが、高校を卒業する頃には自分の作業ペースをつかみ、自分で提出期限を考えて行動できるようになりました。

娘のいっちゃんは不登校が始まり、宿題用のプリントやドリルに加えて、授業プリントにも自宅で取り組むようになりました。1日に12時間眠るロングスリーパーなので学習時間は多くはありませんが、調子が良いときに集中して一気に進められるので、結果的に提出率は爆上がりしました。娘は毎日決まった時間に少しずつ……というのが、ほかの「お仕事(動画や音楽制作など)」を分断されるのでどうしても苦手だったんですね。

通信制の高校を出て、現在は通信制の大学に通っていますが、いっちゃんは、よく「いつも期限までにちゃんと提出して偉いね」と褒められると言っていました。「締め切りまでには提出するもんでしょう?」と娘は不思議そうに言います。でも実際には、登校して周囲の人と一緒に取り組むほうが期限を守れるという人も多いように感じます。誰が見てなくてもきちんと提出できるのはASD(自閉スペクトラム症)の娘の特性も影響しているのかもしれません。

できない日があってもいい

こうして振り返ってみると、不思議なもので、親はとてもゆるく育てたのに、子どもたちは自宅学習と提出ができる人に育ちました。もちろん全員がそうなるわけではないとは思いますが、「子どもの頃から宿題を提出させないと、将来も締め切りを守れない」というわけではないように思います。

小学校低学年の頃のわが子たちは、そもそも「締め切りを守る」という概念を理解できていなかったように見えました。大事なのは「宿題や締め切りが大切だと理解させること」よりも、「提出までのスケジュールを一緒に組むこと」「それを守れるようにサポートすること」なのだと感じます。心がけや根性でどうにかなるものではありません。体調や気持ちの波を考慮し、その子に合ったやり方を見つけることが必要なんじゃないかなあと思います。

執筆/寺島ヒロ

(監修:初川先生より)
宿題をめぐる長期的な経過と保護者としての思いのシェアをありがとうございます。ヒロさんの書かれている通り、発達障害のあるお子さんは特に宿題に取り組むことが難しいことが多いですね。そもそも学校で疲れ果てていたり、帰ってきたら自分の時間がようやく始まると思って学校のことをすっかり考えなくなっていたり。タケルくんのようにこだわり(ルーティンを重んじる気持ち)があったり、別のことで気を取られやすいと宿題との相性はすこぶる悪いなと感じます。
宿題に関して、ヒロさんの考え方(「宿題は別にやらなくてもいい」)を読んで、共感された方も、逆にちょっと引っ掛かった方もいるかもしれませんね。宿題をやって(家で復習・演習して)ようやく学校での学習が定着するタイプのお子さんもいます。ただ、宿題に取り組むことの苦痛が相当大きい子もいるので、そのあたり注意は必要です。宿題をめぐって、お子さんが学習全般を拒否するようになるのも、親子関係にひびが入るのも、そして疲れ果てるのも違うだろうとは感じます。
個人的には、「宿題は先生と子どもとの約束」だと思っているので、お子さんに適した量を先生とお子さんとで話し合って、課してくれるといいなと願っています。“みんな”と同じ量でなくとも、集中が続く時間でできるもの、反復を嫌うタイプの子にはその反復量を減らしたもの等、少し調整するだけで取り組みやすくなり、また、約束したものをきっちり出していくことで先生からのポジティブなフィードバックもお子さんに入っていくのではと感じます。
ヒロさんが最後に書かれていた『大事なのは「宿題や締め切りが大切だと理解させること」よりも、「提出までのスケジュールを一緒に組むこと」「それを守れるようにサポートすること」なのだと感じます。』に私も同意します。締め切りの大切さ等はある程度成長しないとわからない面もあります。大事だからとわかったところで、そこまでの道のりがお子さん本人にとって険しすぎると感じれば取り組みづらいでしょう。何かタスクがある際に、どう取り組めばよいのか、そのスケジュール管理も含めて、お子さんが学び身につけていく大事な事柄だと思います。宿題という1つのきっかけを通じて、将来さまざまな場面で出会う各種タスクへの取り組み方を保護者がお子さんに教える(一緒にやってみる)ということでもあると感じました。

(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

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