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喜寿の幕開けは耳鳴りだった ─ 萩原 朔美の日々      

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喜寿の幕開けは耳鳴りだった ─ 萩原 朔美の日々      

—老体からは逃げられない。でも笑い飛ばすことは出来る—

萩原 朔美さんは1946年生まれ、11月14日で紛れもなく77歳を迎えた。喜寿、なのである。本誌「スマホ散歩」でお馴染みだが、歴としたアーチストであり、映像作家であり、演出家であり、学校の先生もやり、前橋文学館の館長であり、時として俳優にもなるエッセイストなのである。多能にして多才のサクミさんの喜寿からの日常をご報告いただく、連載エッセイ。同輩たちよ、ぼーッとしちゃいられません!

連載 第7回 キジュからの現場報告 

 夜中の冷蔵庫みたいな音になったり、製材所のノコギリの音だったり、毎日音色が変化する。

 耳鳴りは、まるでキジュの幕開けを知らせる開演ベルのようにスタートした。処方された薬は効かない。おい舞台監督!早く1ベル止めろよ、だ。

 最近、怠惰な日常にムチを入れるために天から誰かが耳鳴りという使者を寄越したのではないか、と感じることがある。誰だろう。そりゃあ母親に決まっている。(笑)

「まだ小説書いてないの、もう時間ないでしょ」

 と怒っているに違いない。何しろ20代からずっと言われ続けていたから、かえって反抗心が芽生え、今まで書かなかったのだ。

 しかし、キジュになったからといって、いまさら書く気は起こらない。

「やらなくて後悔するより、やって後悔した方がいい」

 とよく言われるけれども、やろうがやるまいが後悔なんぞしたことがないから、問題なしだ。(笑)

 もちろん、いきなり小説にチャレンジすることはあるだろう。後悔とは関係ない。母親からのプレッシャーも関係ない。自然に気持ちが書く方に走り出してしまえば止められないからだ。完成しようが未完で終わろが後悔が起こることはありえない。誰も生まれてきたことを後悔なんて出来ないからだ。なんせ、存在が本質に先行してるんだからしょうがない。(笑) サルトルを読んだのは、20歳の頃だったか。あれ以来、私は自分になんの期待もしないし、一切後悔もしないのだ。

▲筆者と母の萩原葉子さん。前橋敷島公園にある萩原朔太郎詩碑の前で。

第 6 回 認知症になるはずがない
第 5 回 喜寿の新人役者の修行とは
第4回 気がつけば置いてけぼり
第3回 片目の創造力
第2回 私という現象から脱出する
第1回 今日を退屈したら、未来を退屈すること

はぎわら さくみ
エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の館長、金沢美術工芸大学客員教授、前橋市文化活動戦略顧問を務める。 2022年に、版画、写真、アーティストブックなどほぼ全ての作品が世田谷美術館に収蔵された。

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