地方でも都内でも進む 農を守る新しい動き
高齢化や人手不足などで、この20年で農業を担う人は半分以下になり全国で農家が減っています。その危機の中で、地方でも都会でも「農を守るための新しい動き」 が広がっています。
移住者も生む「農泊」の現場
そのひとつが栃木県・大田原市です。ここは関東でも有数の「米どころ」なんですが、実は 「観光資源が少ない町」 でもありました。そこで生まれた発想が「観光がないなら、農業そのものを観光資源にしよう」というもの。農家に泊まって暮らしごと体験してもらう「農泊」に力を入れていて、いまかなりの人気となっています。大田原市商工観光課の古田修一さんのお話です。
大田原市商工観光課 古田修一さん
大田原市、那須塩原市、那珂川町、那須町の４市町の農家さんにご協力いただいていますが、合わせて、登録農家さんは180件程度ございます。毎年新たな受け入れ農家さんも仲間入りしてます。宿泊者数は年々増加して、令和5年度、グリーンツーリズム事業での交流人口がおよそ1万2000人と過去最高の人数となっており、それ以降、令和6年度、今年度令和7年度も同じような水準で推移してます。農泊がやりたくて、東京とか都市部の方から移住された方や実際に農泊を体験して、この地域の魅力を知っていただいて住みやすさを体感して家族で移住を決めた方など、そういった事例がございます。
農泊の中心は、小学生から高校生までの教育旅行です。だいたい200人規模の団体がやってきて、5～6人ずつ各農家に分かれて2泊3日。泊まるのは、農家さんの母屋の空いている和室。昼間は収穫し、夜は、一緒に家庭料理を作って、同じ食卓を囲む。「農業体験」というより「農家の暮らしを丸ごと体験する」という形。この「農泊」が今では予約も取りにくい状況になるくらいの人気だそうです。大田原では「観光地がない町だからこそ、農と暮らしを丸ごと見せる観光で勝負する」。そんな挑戦が続いていました。
東京の農地 今はどうなっている？
そうした「農」を守る動き、東京でもあります。いまは「ビルとマンションばかり」というイメージが強いですが、
都内にも農地はあります。ただ、その実態を聞くと、すごい勢いで農地が減っています。東京都産業労働局・農業振興課の渋谷圭助さんのお話です。
東京都産業労働局 農業振興課 渋谷圭助さん
実際に畑を耕している面積では6000ヘクタールです。農地の面積って国が発表していますが、一番古いのが1970年昭和45年で、そのとき東京都が1万8600ヘクタールになっています。だから、今の3倍ぐらいで、今は3分の1ぐらいに減っているって感じですね。全国順位でいうとおそらく47位、最下位ですね。東京の場合はもうはっきり言って開発ですね。農地から例えばマンションとかビルとか道路とか、そういった交通インフラだったりとか、住宅インフラだったりとかそういったところに変わっていく開発行為が主な理由ですね。
現在、23区では練馬区や江戸川区に農地が多くほとんどが畑で、販売額トップは「トマト」。作付面積が一番多いのは「小松菜」です。
農地は作物だけじゃない？
都内では55年前の3分の1になるほど減ってしまっていますが、なぜ、東京に農地が必要なのか。再び、東京都産業労働局 渋谷さんに聞きました。
東京都産業労働局 農業振興課 渋谷圭助さん
農地は物を作る以外の価値がございます。例えば、災害が起きたときに、一時避難する場所ですとか、能登半島の地震が起きたとき一時的な避難場所として農地を活用したという事例があります。一晩ビニールハウスの中で寝たという話も聞いておりますので、そういった活用が都内でもできるんじゃないかなと思っています。都内には大きなハウスを設置している農家さんもいますし、井戸もあるし、あんまり大きな電力ではないけど発電機能もあるということで、例えばスマホの充電ができるとかそういったことにも使えるかと思いますので、一時的な避難場所として農地を活用していただくってのは非常にいいのかなっていうふうには思っています。
井戸があり、ビニールハウスのような屋根もあれば、太陽光パネルで、スマホを充電できるくらいの電源が確保できる。災害対策として農地は活用できるので、東京都は「防災にも使える井戸」を掘る農家に対して、掘削費用や水質検査費を補助しています。この10年ほどで、都の支援で掘られた井戸は、およそ300か所。府中市、小平市、杉並区などに多く整備されているそうです。
（TBSラジオ『森本毅郎スタンバイ』取材・レポート：森本茉菜）