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具象彫刻ながら現代アートとしてのメッセージが込められた「ロン・ミュエク」展(森美術館)

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具象彫刻ながら現代アートとしてのメッセージが込められた「ロン・ミュエク」展(森美術館)

 2026年4月29日(水・祝)、「ロン・ミュエク」展がパリ、ミラノ、ソウルを巡回し、森美術館で開幕した。世界的に注目される現代アーティストの作品に出合う楽しみを提供してくれるのが森美術館の展覧会である。

 
 1958年オーストラリア生まれの彫刻家・ロン・ミュエクの作品は具象彫刻でありながら神秘で、驚きとともに頭の中を活性化させてくれた。彫刻家というと、ロダンやミケランジェロ、舟越保武などを思い浮かべてしまうが、石や木などの素材を彫ったり、刻んだり、粘土のような素材を盛り上げてゆく塑像とはまったく違う。シリコーンや樹脂など革新的な素材を使って人間を表現しているのだ。言葉では語りつくせない独特の世界があり、生々しさの中に孤独感が漂っていた。

 ミュエクの経歴を辿ると面白い。映画・広告業界で20年以上働いたのち、1990年代半ばから彫刻の制作を始めた。ポルトガル人画家パゥラ・レゴの絵画とともに、ミュエクの彫刻《ピノキオ》(1996)が、ロンドンのヘイワード・ギャラリーでの展覧会に展示されたことが現代美術界へのデビューになった。翌年他界した父親を小さく表現した《死んだ父》が注目を集め、以来世界各地の権威ある美術館で作品を発表する。近年ではソウル、オランダのハーグ、直近ではシドニーで個展を開催している。日本では2008年に金沢21世紀美術館で回顧展が開催されて以来、2度目の個展である。十和田市現代美術館では高さ4メール近くある《スタンディング・ウーマン》が常設されている。

 ミュエクは寡作である。一作品を制作するために、数か月、時には数年を要するので、過去30年間に制作された作品の数は49点しかなく、本展ではミュエクの主要作品を中心に、11点が展示されている。そのうち6点が日本初公開である。

 会場に入って最初に目にするのは、《枝を持つ女》。肉づきのいい裸の中年の女性が木の枝の束を抱えているが、持ちづらそうにのけ反っている。髪を振り乱し、体にはひっかき傷がある。ミュエクは何を伝えたかったのだろうかと、素朴な疑問がわく。中年の女性が抱えている枝は彼女の持つ「悩み」なのだろうか、答えはわからない。

ロン・ミュエク《枝を持つ女》2009 年 所蔵:カルティエ現代美術財団
展示風景:「ロン・ミュエク」森美術館(東京)2026 年

 圧倒されたのは、巨大な中年女性がベッドに横たわっている《イン・ベッド》。長さ6.5メートル、幅約4メートル。その彼女の視線の先には、ある不安と寂しさを感じさせる。表情だけだはない、シーツの質感などもリアルだった。大きな存在感ゆえに哀しい世界観が漂う部屋だった。

ロン・ミュエク《イン・ベッド》2005年 所蔵:カルティエ現代美術財団 展示風景:「ロン・ミュエク」韓国国立現代美術館ソウル館、2025年 撮影:ナム・キヨン 画像提供:カルティエ現代美術財団、韓国国立現代美術館

 
 日本初公開となる《エンジェル》は、初期の代表作で、ミュエクが脚光を浴びるきっかけとなった展覧会にも展示された。よく目にする絵画のエンジェルは、優しく可愛らしい子どもの顔立ちなのだが、大きな翼を背中につけた男性の表情は、悲しげに物思いにふけっていて、「天使」のイメージを覆している。

ロン・ミュエク《エンジェル》1997年 個人蔵 画像提供:アンソニー・ドフェイ(ロンドン)

 少々不気味な感じがする横たわった男の《マスクⅡ》という作品。これは眠りに落ちた作家自身の顔を約4倍の大きさで表現したものだという。死に顔なのかとも思えるほど静かな表情だ。表面から見ると生身の人間なのに背面は空洞で、この男性が存在しているのか、そうでないのかと問いかけられるようである。マスクは「仮面」を意味するが、私たちが社会の中で誰もが被っている「仮面」があることを意味しているのだろうか。

ロン・ミュエク《マスクⅡ》2002 年 個人蔵
展示風景:「ロン・ミュエク」森美術館(東京)2026 年

 そして、白い頭蓋骨の彫刻100点が積み重なる《マス》である。本作も日本初公開である。2017年にオーストラリアのメルボルンで発表されて以来、展示会場ごとに異なる形で展示されてきた。広い会場に置かれた頭蓋骨の中を進むのは、背筋が寒くなるような思いがするのは、いま世界で起きている戦争や虐殺、あるいは自然災害による〝死〟を連想してしまうからだろう。タイトルの「マス(Mass)」には、山のように積み重なったもの、大量のものや集団、カトリック教会のミサなど、様々な意味があるという。この100点の白い頭蓋骨の中にいると、人類の歴史や、生命の儚さを感じずにはいられない。

ロン・ミュエク《マス》2016-2017年  所蔵:ビクトリア国立美術館(メルボルン)、2018年フェルトン遺贈 展示風景:「ロン・ミュエク」森美術館(東京)2026 年

 その他にも《チキン/マン》、《ダーク・ブレイス》、《ゴースト》、《買い物中の女》、《若いカップル》の各作品が、計算された空間に配置されている。私たち鑑賞者は、ミュエクは何を考えてこの作品を制作したのだろうかと思考を巡らせることだろう。

 現代アートを目の前にして、「これは何なの?」と戸惑うのは、実は正しい反応のひとつだということをある書籍で目にした。現代アートは、技術の高さや作品の美しさを競っているのではなく、コンセプトや問いかけを重視しているという。私たち観る側が身構えることはないのだ。

 一点一点の作品は、森美術館の広い空間でなければ、ロン・ミュエクという彫刻家のメッセージを受け止めることができないかも知れない。天空の会場を後にしながら森美術館と共催のカルティエ現代美術財団に敬意を表していた。

(コモレバ編集部)

「ロン・ミュエク」展
会期:2026年4月29日(水・祝)~9月23日(水・祝)
会場:森美術館 (港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ53階)
開館時間:10:00~22:00(火曜日のみ17:00まで)会期中無休
     8月11日(火・祝)、9月22日(火・祝)は22:00まで (最終入館は閉館の30分前まで) 
お問い合わせ:050-5641-8600

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