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介護施設のBCP義務化で備えるべき5つのポイント 作成事例と優先業務、報酬改定での減算リスクを解説!

「みんなの介護」ニュース

藤野 雅一

介護施設のBCP策定が義務化

介護施設にとって、事業継続計画(BCP)の策定は喫緊の課題です。2024年度の介護報酬改定でBCPの策定が義務化されることを受け、多くの介護施設がBCP策定に取り組んでいるのが現状です。

しかし、BCPの策定は容易ではありません。厚生労働省の調査によると、感染症BCPを「策定完了している」事業所はわずか29.3%、「策定中である」事業所は54.6%にとどまっていることが明らかになっています。

自然災害BCPに至っては、「策定完了している」事業所は26.8%、「策定中である」事業所は54.9%と、さらに低い水準です。

介護施設がBCP策定に苦慮している最大の課題は、「策定にかける時間を確保すること」です。BCP策定時の課題として、多くの事業所がこの点を挙げています。

この状況は行政も把握しており、都道府県の85.7%、市町村の66.8%が「施設・事業所がBCPの策定に人員や時間をかけられない」ことを課題視しています。

BCPの策定は一朝一夕にはいきません。感染症や災害の発生を想定し、具体的な対応方針を検討しなければならないためです。

介護サービスの特性上、BCPの内容も多岐にわたります。利用者の安全確保や健康管理はもとより、職員の勤務体制、物資の確保、関係機関との連携など、考慮すべき事項は数知れません。

加えて、介護現場は慢性的な人手不足に悩まされており、BCP策定に割ける時間も限られています。目の前の利用者対応に追われる中、中長期的な視点に立った計画策定は後回しになりがちです。

だからこそ、BCPの策定は計画的に進める必要があります。できることから着実に実行し、PDCAサイクルを回しながら、段階的にレベルアップを図るのです。

その過程では、経営者のリーダーシップはもちろん、職員の理解と協力が不可欠です。BCPはトップダウンで策定するものではなく、現場の声を反映させながら、組織全体で取り組むべき課題なのです。

介護事業所におけるBCP策定の作成例・ポイント

では、介護施設はBCPの策定をどのように進めればよいのでしょうか。以下、5つのポイントを解説します。具体的な作成事例や、優先業務の考え方、報酬改定で想定される減算リスクにも言及しますので、ぜひ参考にしてください。

1. BCPの必要性を正しく理解する

BCPは、感染症の流行や自然災害などの緊急事態に備え、事業の継続を図るための計画です。

介護施設は利用者の生命と健康を預かる重要な使命を担っているため、たとえ非常時であっても、サービス提供を継続しなければなりません。BCPは、そのための指針となるものです。

特に近年は、新型コロナウイルス感染症の拡大や、豪雨・地震などの自然災害が相次いでおり、BCPの重要性が増しています。2024年度の介護報酬改定でBCP策定が義務化されるのも、こうした社会情勢を背景としています。

介護施設の経営者や管理者は、BCPの必要性を組織全体で共有し、策定に向けた意識改革を図ることが重要です。BCPを「やらされ仕事」と捉えるのではなく、利用者の安全と事業の存続を守るための重要な取り組みと位置付けるのです。

職員に対しては、BCPの意義や目的を丁寧に説明することが大切です。単に「策定が義務化されるから」というネガティブなメッセージではなく、「利用者を守り、働く場所を守るために不可欠な計画」という前向きなメッセージを発信しましょう。

職員の理解と協力があってこそ、実効性のあるBCPを策定できるのです。

2. BCPの基本的な構成要素を理解する

BCPは、次のような構成要素から成ります。

事業継続の基本方針 重要業務の選定と目標復旧時間の設定 緊急時の対応体制と指揮命令系統 避難場所・避難経路の確保 安否確認の方法 備蓄品の確保 など

介護施設のBCPでは、これらに加えて、以下の点がポイントになります。

感染症予防対策(衛生管理、検温、消毒など) 利用者の健康管理(体調不良者の早期発見、受診・隔離など) 介護サービスの提供体制(通所・訪問サービスの継続、施設サービスの提供方法など) 職員の勤務体制(シフト調整、応援要員の確保など)

これらの要素を盛り込む際は、自施設の実情を踏まえることが重要です。例えば、立地条件によって、想定すべき災害の種類や規模は異なります。平野部に位置する施設と山間部に位置する施設では、BCPの内容も自ずと変わってきます。ハザードマップなどを参考に、自施設に特有のリスクを洗い出すことが肝要です。

また、提供しているサービスの種類によって、BCPの重点項目も変わります。施設系サービスであれば、入所者の安全確保や健康管理に重きを置く必要があります。一方、訪問系サービスであれば、感染症流行時の訪問継続の可否や、職員の感染防止対策が重要になります。

自施設の業態を踏まえ、優先順位をつけながら、BCPの骨格を固めていきましょう。

3. 優先業務を特定し、具体的な対応を定める

BCPの肝は、非常時にも継続すべき優先業務を特定し、その対応方針を具体的に定めることです。

介護施設の場合、以下のような業務が優先業務に該当します。

利用者の生命・健康の維持に直結する業務(食事介助、排泄介助、健康管理など) 感染症予防に不可欠な業務(消毒、検温、換気など) 利用者の不安軽減に資する業務(見守り、声掛け、レクリエーションなど)

これらの業務を滞りなく継続するため、人員配置や物資の確保、外部機関との連携などについて、あらかじめ方針を定めておく必要があります。

例えば、大規模災害発生時には、職員の通勤が困難になることが想定されます。そのような状況下でも、必要最小限の人員を確保するため、あらかじめ近隣在住の職員や、泊まり込み可能な職員を把握しておくことが重要になります。

グループ法人の協力を仰ぐことも事前に検討しておきしょう。シフト編成についても、長期の断水や停電に備え、柔軟に対応できる体制を整えておくことも忘れずに行うようにしてください。

また、感染症の流行時には、消耗品の入手が難しくなることも想定されます。マスクや消毒液、手袋などの備蓄については、どの程度の量を確保すべきかを検討しておきます。優先業務を継続する上で、物資面のリスクを最小限に抑えることが非常時には大切になるのです。

ただし、災害の種類や規模によって、優先業務の内容や対応方法が変わることも想定されます。感染症の流行時と自然災害発生時では、求められる対応が大きく異なります。平時からさまざまな状況を想定し、臨機応変に対応できる知恵を蓄えておくことが肝要です。

4. 訓練を重ね、BCPの実効性を高める

BCPを策定しただけでは、非常時に効果を発揮しません。策定したBCPに基づき、日頃から訓練を重ねることが重要です。

前述の厚労省調査では、BCP「策定完了」事業所のうち、2021年度以降に感染症BCPを策定した割合は91.3%、自然災害BCPは82.2%に上ります。つまり、コロナ禍を機に多くの事業所がBCPを策定したわけですが、肝心の訓練はこれからという段階であることがわかります。

訓練では、BCPに定めた対応要領が実際に機能するかを確認します。うまくいかない部分があれば、速やかに改善を図ります。PDCAサイクルを回すことで、BCPの実効性を高めていくことが重要です。

訓練の種類は、図上訓練と実働訓練の2つに大別されます。図上訓練は、机上でシナリオを設定し、参加者の意見を出し合いながら、対応方針を確認するものです。一方、実働訓練は、実際に避難行動や安否確認などを行い、BCPの実効性を体感的に確認するものです。

両者のバランスを取りながら、段階的に訓練を実施することが望ましいでしょう。初動対応の確認であれば図上訓練から始め、習熟度に応じて実働訓練に移行するといった具合です。訓練を企画する際は、職員の勤務実態を考慮し、できるだけ多くの職員が参加できる日程や時間帯を選びましょう。

昨今は、感染症対策の観点から、大人数での訓練は控えめにせざるを得ません。そのような状況下では、オンラインの活用も一案です。Webミーティングツールを使った訓練であれば、ソーシャルディスタンスを確保しつつ、職員の危機管理能力を高めることが可能です。

訓練が、BCPを実践する力を養う絶好の機会であることを忘れてはなりません。PDCAサイクルを回しながら、継続的に取り組むことが重要です。

5.介護報酬改定の動向を注視し、必要な対応を取る

BCP策定の義務化に伴い、BCPを策定していない事業所には、報酬が減算される可能性があります。

介護施設の経営者や管理者は、報酬改定の動向を注視し、必要な対応を取るようにしましょう。BCP策定の進捗管理を徹底するとともに、義務化の基準を満たすBCPとなっているか、改めて確認することをおすすめします。

特に、2024年度改定で焦点となるのは、BCPの「実効性」という点です。単に策定するだけでなく、実際の運用を想定した内容になっているかがポイントとなります。先述の訓練を重ね、PDCAサイクルを回しているかどうかも、評価の対象になるでしょう。

加えて、地域の関係機関との連携強化も重要なテーマです。大規模災害の発生時など、介護施設が単独で対応するのは難しい場面があります。平時から地域の関係機関と顔の見える関係を築き、非常時の協力体制を整えておく必要があります。

例えば、地域の介護施設同士で、物資や人員の融通に関する協定を締結するのも一案です。サービス提供が困難になった場合に、利用者を受け入れ合う仕組みを作っておくことも検討に値します。地域の関係団体と合同で、BCP策定に関する勉強会を開催するのもよいでしょう。

報酬改定の動向を注視しつつ、BCPの実効性を高める取り組みを進めることが、2024年度改定に向けた備えとなるのです。

訓練の感想や意見を出し合うことも大切

本記事では、介護施設のBCP策定における5つのポイントを解説しました。

BCPの必要性を正しく理解する BCPの基本的な構成要素を理解する 優先業務を特定し、具体的な対応を定める 訓練を重ね、BCPの実効性を高める 報酬改定の動向を注視し、必要な対応を取る

BCPの策定は介護施設にとって喫緊の課題です。とはいえ、策定にかける時間の確保や、具体的な対応方針の検討など、容易ならざる面もあるでしょう。

大切なのは、BCPの必要性を正しく理解し、組織一丸となって取り組む姿勢です。経営者がリーダーシップを発揮し、職員の理解と協力を得ながら、着実に策定を進めていくことが重要です。

その過程では、介護現場の実情を踏まえた発想が重要となります。介護サービスの特性や、利用者の状態像を考慮しつつ、現実的な計画を立てることが求められるのです。机上の空論に陥ることなく、実効性のある対応方針を練り上げる必要があります。

また、BCPの策定は、一過性のイベントではありません。策定して終わりではなく、訓練を重ねながら、PDCAサイクルを回し続けることが重要です。社会情勢の変化や、自施設の実情に応じて、柔軟に内容を見直すことも忘れてはなりません。そして、訓練の感想や気づいた点などは参加者が意見を出しあっていくことが望ましいです。

BCPは、介護施設の危機管理力を示す指標の一つとなります。非常時に、利用者の命と健康を守り抜く備えがあるか。平時から、そのための方策を講じているか。BCPの有無や内容は、介護施設の質を測る一つの物差しになるのです。

今や、BCPの策定は、介護施設の責務と言っても過言ではありません。サービスの継続と、利用者の安全確保は、介護施設に課せられた最大の使命だからです。その使命を果たすためにも、BCPの策定に真剣に取り組む必要があります。

介護施設は、地域の福祉を支える重要なインフラです。その機能を維持し、たとえ有事の際でも、利用者に必要なサービスを提供し続けなければなりません。そのためには、BCPが不可欠なのです。

BCPの策定は、利用者の生活を守り、職員の働く場所を守る営みです。その営みに終わりはありません。介護施設が、地域の福祉を担う砦であり続けるために、BCPのブラッシュアップに継続的に取り組んでいきましょう。

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