「歯磨きイヤ!」と逃げる子どもに! 歯磨きが好きになる絵本3選[絵本の専門家が選出]
“歯磨きの絵本”のおすすめとして、『むしばいっかのおひっこし』『わにさんどきっ はいしゃさんどきっ』『がいこつさん』を紹介。絵本コーディネーター・東條知美氏が厳選。連載「子どもの本のプロが選ぶギフト絵本」第16回。
【▶画像を見る】虫歯菌一家が主人公!『むしばいっかのおひっこし』絵本は、子どもへの贈りものに最適なアイテム。とはいえ、ぴったりな1冊を選ぶのは、なかなか難しいもの。連載【子どもの本のプロが選ぶギフト絵本】では、絵本の専門家が、プレゼントにふさわしい絵本をセレクトします。第16回は、絵本コーディネーターの東條知美(とうじょう・ともみ)さんが、おすすめの“歯磨きの絵本”をご紹介。
歯磨きしないと虫歯一家が住みついちゃうかも!?
子育てをしていると、歯の生え変わりや虫歯など、お子さんの「歯」の悩みも多いですよね。
4月18日は「よ(4)い(1)歯(8)の日」。ということで、今回は“歯磨きの絵本”をご紹介します。楽しく読みながら、お子さんが自分の歯に関心を持ったり、歯を大切にしようと思える絵本は、プレゼントにもきっと喜ばれるはずですよ。
最初にご紹介するのは、『むしばいっかのおひっこし』(講談社)。主人公は、なんと虫歯菌の家族「むしばいっか」。お父さん、お母さん、子どもがふたりの4人家族で、人間の歯を棲み家にしています。彼らにとっては、歯磨きしない歯こそが素敵な家。食べカスがないと、とても暮らしていくことはできません。
『むしばいっかのおひっこし』(作:にしもとやすこ/講談社)
ここのところ、歯磨きのせいで食べるものがなく、いつもお腹をすかせている、むしばいっか。ある日、新しい家を「むしば ふどうさん」に紹介してもらうことにしました。
引っ越し先は、お菓子が大好きな人間の子どもの歯。ケーキやクッキー、チョコレート、パフェにアイス、おだんご。何を食べてもまったく歯を磨かないので、むしばいっかにとっては大豪邸! お腹がペコペコの親戚のおじさんを迎えるために、穴を掘って、新しく部屋を作ることだってできます。
さらには、広い屋上まで完成。自慢のマイホームでパーティーを開くのです。
「ピアノの リズムで、ガン ガン ガン!」
「たいこの リズムで、ズキ ズキ ズキ!」
「うたと ダンスで、ガンガン ズキズキ ガンガン ズキズキ!」
こんな家族が住みついてしまい、たまらないのは家主である人間の子どもです。泣きながらお母さんと歯医者へ行くのですが、果たして、むしばいっかの運命は──?
虫歯菌を主人公に描いたユーモアあふれる一冊。「歯磨きをしないと虫歯になっちゃうよ~」「痛いよ~」と怖がらせるのは簡単ですが、お子さんが経験したことのない虫歯をイメージするのは難しいもの。この絵本なら、「虫歯菌を喜ばせると、とんでもないことが起こってしまう」と、楽しく読みながらイメージできるのではないでしょうか。
*読み聞かせ 4さいくらいから
*ひとり読み 6さいくらいから
同じ“どきっ”でも意味が違うからおもしろい
次にご紹介するのは、数々の名作を生み出してきた絵本作家・五味太郎さんの『わにさんどきっ はいしゃさんどきっ』(偕成社)。発行は1984年と40年以上前ですが、今でも決して古びない、子どもたちに大人気のロングセラー絵本です。
描かれているのは、虫歯が痛いわにさんと歯医者さんが繰り広げる、診察室を舞台にしたワンシチュエーションドラマ。異なる立場のふたりが、違うことを思いながらも同じ場面で同じ言葉を発するという、愉快なストーリーです。
『わにさんどきっ はいしゃさんどきっ』(作:五味太郎/偕成社)
歯が痛いわにさんは、足取り重くイヤイヤ歯医者へ向かいます。
「ゆっくり あそんでいたいけど いかなくちゃ いけないね」
一方、遊びに夢中だった歯医者さんは、患者がやってきたことに気づきます。
「ゆっくり あそんでいたいけど いかなくちゃ いけないね」
そうしてふたりは、診察室で対面します。
「どきっ」
「どうしよう……こわいなあ……」
「でも がんばるぞ」
わにさんが怖がっているのは、もちろん歯の治療。でも歯医者さんだって、鋭い歯を持つわにさんを治療するのが、実は怖いのです。同じ「どきっ」「がんばるぞ」でも、こんなに意味が違うっておもしろいですよね。
ふたりの心理は、表情豊かに描かれた絵から読み取れます。言葉と絵の両方があるからこそ、小さなお子さんでも、このドラマをスリリングに楽しく読み進められるのですね。絵本ならではの魅力をじっくりと堪能できる一冊ではないでしょうか。
無事に治療を終えて、ほっとしたわにさんと歯医者さんですが、やっぱり歯を抜かれるなんてイヤですよね。最後のふたりの言葉、きっとお子さんにもメッセージとして届くと思います。
「だから、はみがき、はみがき。」
*読み聞かせ 3さいくらいから
*ひとり読み 5さいくらいから
最後にわかる「忘れていること」とは?
大好きな五味太郎さんの作品からもう1冊、最後にご紹介するのは、『がいこつさん』(文化出版局)。主人公の「がいこつさん」と、語り手との掛け合いで展開される絵本です。
「がいこつ」という存在の意味するところを、ふと思い出させるようなやり取りもあり、大人も思わず笑ってしまう、どこかシュールな雰囲気が漂います。実際に声に出して読むと、よりおもしろさが感じられるので、読み聞かせにもおすすめですよ。
『がいこつさん』(作:五味太郎/文化出版局)
よく眠れずに、目を覚ましてしまったがいこつさん。何だか気になることがあるようです。
「──なにか 忘れているような気がする……」
「なにを忘れているのでしょうか。ちゃんと思い出さないと いつまでたっても ねむれませんよ。」
「──それもそうだな。」
がいこつさんは、忘れていることを思い出そうと、考えを巡らせながら散歩に出かけます。洗濯を忘れていたかな。電話をかけることだったかな、それとも、手紙かな……。
「──病院に 予約してあったかな。」
「まさか。がいこつさんに 病気するところ どこもない。」
「──それも そうだな。」
語り手の言葉にいちいち納得し繰り返される、がいこつさんの「それもそうだな」。このひとことが、物語によいリズムを生み出しています。
そうして、デパートにやってきたがいこつさん。店中を歩き回っても、やっぱり思い出せません。一体、がいこつさんが忘れていることとは──?
読み手をぐっと物語の世界に没入させる展開は、実にお見事。この記事を読んだみなさんでさえも、今回のギフト絵本のテーマが何だったのかすっかり忘れて、絵本に入り込んでしまうかもしれませんね。
ま、最後の最後に思い出せるので、問題ないのですがね。
──それも そうだな。
*読み聞かせ 3さいくらいから
*ひとり読み 5さいくらいから
この3冊を読んで、ぜひお子さんには歯磨きを好きになってもらえたらと思います。
取材・文/星野早百合