『ジュラシック・ワールド/復活の大地』恐竜が死にゆく理由とミュータント恐竜の背景 ─ ギャレス・エドワーズ監督&脚本デヴィッド・コープ来日インタビュー
『ジュラシック・ワールド』シリーズ待望の最新作『ジュラシック・ワールド/復活の大地』が日本公開となった。監督は『GODZILLA ゴジラ』(2014)や『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)の。脚本には『ジュラシック・パーク』(1993)『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』(1997)のデヴィッド・コープが約30年ぶりにシリーズ復帰を果たした。
原点回帰を試みつつ、新たなる領域にも足を踏み入れた意欲作。短い期間で監督をやり遂げたエドワーズと、この興味深い物語を紡ぎ上げたコープに、THE RIVERでは来日インタビューを実施。“ミュータント恐竜”の真意や、ゴジラやダース・ベイダーといったエドワーズ過去作に登場するキャラクターとの共通点と影響、製作舞台裏のエピソード、そして恐竜を通じて描かれる“映画”への想いを聞いた。エドワースへは、以来、2度目の直接取材だ。
『ジュラシック・ワールド/復活の大地』ギャレス・エドワーズ監督、脚本デヴィッド・コープ 来日インタビュー
ギャレス・エドワーズ:以前お会いしましたっけ?
── はい。前作『ザ・クリエイター/創造者』の時にも取材させていただきました。あの時、来日企画として東京をバスツアーしたの覚えてます?
ギャレス:そうですよね!覚えています!デヴィッドは今回が初来日ですね。僕は前回、屋根のない二階建てのバスに乗って、声優を務めてくれた小さな女優さんと一緒に乗ったんです。彼女のお父さんが日本で有名な方なんですよね。それで、あの映画の撮影地をバスで巡って、トークしたんです。翻訳された完成版の映像を僕も確認したんですが、“あるある”ですけど意味が分からなかった(笑)。いろんなエフェクトがかけられていて、まさに日本のテレビ番組って感じでした。
──バスの中で、揺れながらインタビューしましたよね(笑)。
ギャレス:そうそう!彼女はとても素晴らしかった。
──『ジュラシック・ワールド/復活の大地』では、TーRexが登場する川のシーンが大好きです。原作小説にもある場面ですが、スピルバーグの『ジョーズ』(1975)の系譜を感じました。でもギャレスが以前来日された時、ちょうど『ゴジラ -1.0』(2023)の公開時期で、当時その映画についてもお話ししていました。だから、もしかしたらゴジラからも影響を受けたのではないかと思ったのですが……。
ギャレス:実は、あのシーンの比較映像を見せてもらったことがあるんですよ。
デヴィッド・コープ:どのシーン?
ギャレス:海で、漁船がゴジラに追われるシーンです。でも、僕としてはあれは『ジュラシック・パーク』の1作目で、ジェフ・ゴールドブラムが乗ったジープが前景にいて、Tレックスが追いかけてくるシーンが元ネタです。Tレックスが木をなぎ倒して出てくる。これぞ『ジュラシック』らしいショットです。だから今回のTレックスのシーンでも惹きつけるものにしたく、ジープをボートに置き換え、Tレックスを水中に置いたんです。でも、ゴジラに似ているのもわかりますよ。
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──『ジュラシック・ワールド』シリーズではハイブリッド恐竜が登場し、これは好みが分かれました。フェイクではなく、本物の恐竜が見たいというファンもいました。本作ではさらに恐ろしいミュータント恐竜が登場し、よりモンスター映画らしさに傾倒しています。しかし『ジュラシック・ワールドⅢ』で、アラン・グラントはこう言っています。「ジョン・ハモンドとインジェン社がジュラシック・パークでやっていたのは、遺伝子操作された遊園地のモンスターを作っていたにすぎない」と。人間によって、娯楽や学習のために作られた恐竜。そしてミュータントの怪物。これらの違いとは、一体なんでしょうか?
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デヴィッド:それは最初の原作小説に立ち戻る話ですね。ジェフ・ゴールドブラムが演じたイアン・マルコムは、“彼らは本物の動物ではない”と言います。DNAを改変し、配列の欠損部分を他のDNAで埋めたのなら、それはもう別のものだと。この考え方と言葉によって、我々は“ある時代”について考えることになりました。
『ジュラシック・ワールド』シリーズでは、インドミナス・レックスが登場し、人々は飽きてしまう。彼らは新しくて、大きいものが見たい。スティーブン(・スピルバーグ)と私は、“うまくいかなかった時代というのはどうか”と考えました。どんな科学プロジェクトでも、初めからうまくいくものはありません。何度も試行錯誤が必要なのです。だから、どこまで描けるか、ミュータントの領域にどこまで踏み込めるかを考えました。
製作の後半には、ミュータドンと冒頭のDレックスのタンクにラベルを貼りました。こいつはバージョン7.5ということにしようと。つまり、少し異常に進化してしまっている。ディストータス(Dレックス)はバージョン23.7かな(笑)。明らかに行き過ぎです。バージョン5か6あたりで止めておくべきだったんです。しかし突き進んでしまった。つまり、アイデアの種はマイケル・クライトンの原作小説にすでに存在していて、それを進めただけなのです。
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ギャレス:僕はフィルムメーカーとして、SFをやるときには「アナロジー(類似性)は何か?」と考えるようにしています。モンスター映画をそのままやるのではなく、そこに深い意味があった方が面白い。だから僕としては、この裏にあるメッセージはなんだ?と考えるのです。あなた(デヴィッド)が意識したかはわからないですが、僕はこの生き物たちには“映画”のメタファーのようなところがあると感じていました。彼らには7,500万ドルの製作費もかかっていますしね。
デヴィッド:確かにそうだ。とてもメタ的ですね。損益分岐点があって、それをどうするかという、ビジネスの話です。それこそ第1作で描かれていたことです。テーマパークを作る欲深い人についての映画。劇中にもグッズがあり、現実世界でもグッズが作られた。それが、己の尾を噛む蛇のようになる。そこが面白いんです。
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ギャレス:『ジュラシック・パーク』の1作目でいちばん好きなシーンはまさにそこです。カメラがギフトショップの上をゆっくり通り過ぎるところ。もちろんグッズも作られるでしょう。あの映画は公開前から映画のランチボックスが売られていました。
僕が考えたのは、あなたが執筆した通りで、観客は同じようなエンターテインメントに飽きてしまっていて、だから常に進化させなくてはいけない、ということ。それは顧客側の問題なのに、企業が責められる。『レイジング・ブル』(1980)の脚本家の、ええと……ポール・シュレイダー。彼が最近のインタビューで言っていました。最近はフィルムメーカーがダメになったのか?それとも映画がダメになったのか?「いやいや、観客の方がダメになったんだ」、と(笑)。観客の持つ。そこには、埋もれているけれど興味深いものがあると思うんです。
デヴィッド:つまり君のメッセージは、君たちのせいだ、観客の自業自得だ、ということだね?(笑)
ギャレス:そうです!
デヴィッド:なるほど、まあ良い。それでチケットが売れるかは疑問だが……。僕の仕事もあるから……(苦笑)。
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──Dレックスが登場する場面では、哀れな研究員の1人が扉に閉じ込められてしまいます。あの閉塞感、あの状況、そして赤く光る部屋……。『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)のダース・ベイダーっぽいなと思ったことはありませんでしたか?(笑)
デヴィッド:そうだね、もうやめなきゃ(笑)。母親に、もし僕がショッピングモールかスーパーのガラス扉に閉じ込められて、センサーも反応しなかったらどうする?とよく聞いていました。この質問はよくされるんですけど、自分でもどうしてなのかわからない。
でも、いろんな映画に影響を受けていると思っていて。たとえば『スター・トレック2 カーンの逆襲』(1982)でのスポックの死亡シーン。あれは良かった。それから『アビス』(1989)も良いですね。扉が閉まっていって、どんどん水で満たされていって、1人が出られなくなるところ。すごく悲惨で、こういうシーンでは「あなたは死ぬ、私は助かる、ごめんなさい」とガラス越しに隔てられている。そこにはたくさんの感情が込もる。通常の扉ならそんなことはないけれど、ガラス扉だから、最期の瞬間を見届けることになる。その人の最期を見なくてはならないから、逃げ出すことができない。とても恐ろしいジレンマです。でも、もうやらないようにしよう(笑)
──『GODZILLA ゴジラ』(2014)にもありましたね。
ギャレス:うん、毎回やっていますね(笑)
デヴィッド:あの場面にはとても人間らしい瞬間がありますね。元々脚本にはなくて、彼のセリフは撮影当日に生まれたんです。“頼むからドアを開けてくれ”というね。とても切実な響きで。よくある映画みたいに“ドアを開けてくれ〜!”と叫ぶのではなく、落ち着いて“頼むからドアを開けてくれ……”と訴えるんです。
ギャレス:“ドアを開けてくれ”と、どこまで感情的に言うかどうかは、何度も話し合いましたね。そしてもう扉が開かないとわかったときに、どのようにギアを変えて人間性に訴えるか。そんな状況を見るのは辛いですよね。
キャラクターの背景を組み立てる会話はたくさんありますけど、僕は「コールド・オープン」が好きです。古典的なところでは『ジョーズ』。女の子が海に走っていて、ちょっと酔っ払っている男が追いかけていく。あの彼女はハイスコアを叩き出しています。彼女たちのことは何も知らないのに、すぐに気がかりになる。あのシチュエーションと共感性のためですね。まだ脅威となるもの(=鮫)は見えていないのに、彼女の演技のおかげで心配になる。あれが理想系です。観客の心を瞬時に掴み、ポップコーンを食べる手を止め、息を呑ませる。ずっとああいうことがやれればと思っていました。本能に訴えかけるものです。YouTubeの釣り動画もそうで、車がギリギリ事故を回避して生き延びるような動画。思わず見てしまう。野生のガゼルがライオンに襲われるのを見ているような。そういう映画がうまくいくのは、ついつい見ずにはいられないからですよね。どうしよう、もしも自分がこの状況だったらどうしよう、というやつ。
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ホラー映画だったら、こういう引き込みがやりやすいんだけど、他のジャンルでこれをやろうと思うと、相当頑張らないといけない。 だから、ホラー映画って“初監督作品”として向いているんですよ。あんまり良い脚本が求められないから(笑)。そして本作はピザのようなものだと思っていて、スライスごとにジャンルが違うんです。ホラーもあるし、アクションやアドベンチャーもある。僕にとっては、映画ジャンルの全部乗せって感じです。
──ギャレス、あなたが監督に就任して最初期のミーティングが、オモチャ会社のマテルとのものだったそうです。彼らは映画の公開時期に商品を発売するために、恐竜のデザインを見る必要があった。しかしその当時、あなたはまだ何のデザインもしていない状態だったそうですね。一体、どうやってミーティングを切り抜けたのですか?
ギャレス:そうなんです。最初にユニバーサルのオフィスを訪問したときに、「2週間後にマテルさんが来社されます」と言われて。なんでですかと聞いたら、デザインの確認に来ますと。何のデザインですか?と聞いたら、とにかくあるものをお見せしてくださいと(笑)。
だから、思いっきりバットシグナルを灯しました。それで僕はラッキーだった。すごく才能ある人たちと仕事したんです。みんなにZoomしましょうと伝えて、Zoom画面には多すぎる人がいた。全員に1~2日分の報酬を払うと伝えて、50人くらいの人たちを相手にまとめてブリーフィングしたんです。しかも全員が世界のトップ・デザイナー。そしたら、1日もしないうちにデザインが200案も上がってきた。まるでちょっとしたワールドカップでしたよ。それぞれにフィードバックを返して、また一日デザインしてくれた。そして1週間くらいで、完成版とそう遠くないデザインにたどり着いていました。
でも一番大変だったのは、デヴィッドが書いた生き物。それは動物というよりミュータントだった。あのデザインを作るのは難しかったですね。彼の説明は、タイプライター上で指で打ったものでしたからね。
デヴィッド:僕も頑張って書き表したんだよ!
ギャレス:それを受けて僕は、どうしようかなと。すごく難しいのがいて、マテルさんにはオモチャ化を遅らせられませんかと頼んだものです。9ヶ月くらいかかるから、クリスマス時期にしてくれと。
デヴィッド:ミュータドンだよね?結果、すごくいいものができたね。
デヴィッド:でも、デザインができてみると、どうして二日目くらいに思い付かなかったんだろうと思いました。翼竜と猛禽類を組み合わせたようなものでしたから。あの最終系にたどり着くまでにはかなり長い時間を要したんです。
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──ギャレス、別のインタビューで、この映画の冒頭シーンは『キングコング』のようなモンスター映画の“その後”に対処しているようだと話していましたね。キングコングが街の路上で死ねば、その“あとしまつ”をしなくてはいけないのだと。そして先ほど、本作の恐竜は“映画”のメタファーだとも表現されていました。つまり、かつては巨大で主役だったのに、今では忘れ去られつつある。映画ファンとしては悲しいですが、このメタファーを通じて表現したかったこととは?
ギャレス:その比喩も当てはまりますね。本当はメタファーの意味を言うべきではなかったかも。ちょっと悲しいからね。これはデヴィッドの話題ですね。絶滅しつつあるというアイデアについて。
デヴィッド:そうですね、あれは必要だったと思います。物語の裏には理由やコンセプトを持たせなくてはならない。ここでもやはり、良いアイデアは原作小説から来ています。最初の原作でも、恐竜たちは生き延びられないだろうと見なされていた。世界が違いすぎるからです。同じ世界に連れてこられたわけではない。酸素の濃度も違えば、虫の種類も、ウイルスの種類も異なっている。完全に別世界です。
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でも映画としては、恐竜を再び特別な存在にする必要があった。『新たなる支配者』(2022)のラストでは、恐竜たちがあちこちに行った。私たちの中で暮らす恐竜たちというものを探索していた。クライスラービルに巣を張る恐竜や、ミッドタウンを歩く恐竜、アッパーウエストサイドでアパートを借りている恐竜……。もうそれ以上やることがないと思った。完全に描かれていたし、それで良かった。だから、どうすれば再び恐竜を特別にできるのかと考えました。だから、「恐竜たちはこの惑星で生きていくのが大変だ」というコンセプトにおけるリアリティを尊重した。そうすれば、彼らの存在を希少なものにできると思ったんです。
『ジュラシック・ワールド/復活の大地』は大ヒット公開中。