「え、私がADHD!?」息子の個人面談でまさかの指摘…病院を受診してみると
監修:室伏佑香
東京女子医科大学八千代医療センター 神経小児科/名古屋市立大学大学院 医学研究科 生殖・遺伝医学講座 新生児・小児医学 博士課程
子どもの個人面談で指摘された私のADHD(注意欠如多動症)⁉
去年、小学3年生だったきいちゃんの個人面談で、担任の先生からきいちゃんはダウン症という特性だけではなく、発達障害(ADHD/注意欠如多動症)の特性もある可能性を指摘されました。
しかも、きいちゃんだけではなく私まで……(!)。
これにはさすがに驚いてしまいましたが、でも、きいちゃんだけではなく、私自身にも思い当たるふしはたくさんありました。
それは、
忘れ物が多い。時間や場所を間違えてしまうミスも多々ある。
掃除がとーっても苦手
人と話していても時々、全く違うことを考えてしまう
……などなど、ADHD(注意欠如多動症)の特性とあてはまる点が、私にもあったからです。
「きのこちゃんってADHD(注意欠如多動症)なんじゃないの?」と言われたことも……
実は、今でこそ「発達障害」や「ADHD(注意欠如多動症)」という言葉や診断名は世間一般に浸透していますが、私の子どもの頃にはなかった「言葉」でした。私が大人になってから、発達障害という言葉が一般的にも使われるようになり、私も耳にすることが増えました。「大人の発達障害」という言葉を聞いたのも、私が大人になってからでした。
知人から「きのこちゃんってADHD(注意欠如多動症)なんじゃないの?」と言われたこともあり、「え?どういう意味?」と思ったこともあります。
でも、ADHD(注意欠如多動症)のもう一つの傾向である「多動」が、のんびり屋の私にはあてはまりませんでした。なので、おっちょこちょいだけど、これは性格なのかもなあ……と、とくに病院で受診することがなくここまできてしまったのです。
それが……まさか自分の子どもの個人面談で、また向き合う日がくるとは……‼
病院で簡易的な検査を受けてみる
担任の先生から、「気になるようでしたら専門の先生にご相談されてみてもいいかもしれません」とアドバイスいただき、自分のことだけならまだしも、きいちゃんにも関連することなので、病院でまずは私が簡易的な検査を受けてみることにしました。
すると、結果は……
多動はほぼなく、不注意がかなり高い不注意優勢のADHD(注意欠如多動症)傾向が強いという結果に……!!
この時はショックというよりも、自分なりにADHD(注意欠如多動症)のことを調べていたので「やっぱりなあ……」という感想でした。
女性の場合は多動傾向が出ない人もいて、私のように自他ともに見過ごされてしまう人も多いようです。
主治医によると、ADHD(注意欠如多動症)は遺伝する可能性もあるとのことでした。
(※)ADHD(注意欠如多動症)の遺伝について:現段階では親からの遺伝が原因となって発現する可能性を確率によって表すことはできませんが、ゼロであるとは言い切れないと考えられています。
そういえば……と、幼いころの記憶がよみがえります。
私の母は、私以上に掃除が苦手で、いつも何か物を探していて、「(物が)ない、ない」が口癖の人でした。
子ども心に、母はなんでそんなに物を失くすのが不思議で仕方がなかったのですが、今、私は母とソックリになっているのです。
「母よ、あなたもADHD(注意欠如多動症)だったのか……」と、ある意味謎が解けてスッキリ(?)しました……。母は母で、自分でもどうしようもなく、困っていたんだな、と……。
薬は飲む?飲まない?「不注意改善」と「仕事」どっちをトル⁉
診断のあとは、治療方針の話になりました。ADHD(注意欠如多動症)の症状(頭の中が忙しい、忘れ物が多い等)を抑えるのに何種類か薬があることを医師が説明してくれました。でも……その薬を飲むと、クリエイティブさが減少するかもしれないという説明も。
なんでも、ADHD(注意欠如多動症)の特性として、クリエイティブな能力がとても高い場合もあるとのことでした。
私は無意識に、その特性の恩恵を受けて仕事にしていたのかもしれません。
クリエイティブな能力がなくなるということ、それは私の仕事にとっては致命的なことになる……それはとっても困る!!!
……ということで医師とも話し合い、投薬はせず、このまま経過観察することになり、現在も薬を服薬せずに生活しています。
きいちゃんに関しても、まだ年齢も低いのと、別の病院でも診ていただいたところ、そこまで多動傾向は見られないということで、服薬などせずに様子を見ています。
でも、お子さんによっては薬を飲むことで多動や衝動の傾向が抑えられて、いい方向にいくお子さんもいらっしゃるようです。
その子その子の症状、体質にあった治療法、または治療しないなどの選択があると思いますのでそこは医師と連携をとって見ていくのがいいと思います。
自分に特性が合ったことにびっくりしたけれど……
きいちゃんの個人面談から、まさかの自分の特性に大人になってから直面することになった私ですが、今まで自分はどうして他の人ができることができないのか、どうしてこんなに忘れっぽいんだろうと自分を責めていたことが、それは自分の性格や怠慢からではなく、そういう特性なんだと割り切れるようになったことが一番良かったことだと思っています。
今でも、きいちゃんだけではなく、その親である私、そして家族全体を気にかけてくださり、さまざまな援助をくださった担任の先生にとても感謝しています。
執筆/星きのこ
(監修:室伏先生より)
ご自身が診断を受けられるまでの経緯やお気持ちを詳しく共有してくださり、ありがとうございます。近年は発達障害(神経発達症)の理解が進み、成人になってから診断を受ける方も増えてきています。診断を受けたことで「できない自分を責める」気持ちが軽くなり、「それは怠慢ではなく特性なんだ」と受け止められるようになったことは、とても大切な変化ですね。
診断によるこのようなメリットは大人に限らず、お子さんにとっても同じです。成長とともに周囲との違いに気づき、「どうして自分はできないのだろう」と自己肯定感が下がってしまうことがあります。その時に周りの大人が特性を理解できていないと、「どうしてこの子は周りと同じようにできないのだろう。ここで厳しくしつけなければ甘やかしになってしまうかもしれない」と、お子さんの将来を想うばかりに、不安や焦りが強くなってしまうこともあるかと思います。子どもは大人の感情を敏感に受け取りますので、結果として自己否定的なとらえ方が強まり、抑うつや不登校、心身症、反抗的な言動といった二次障害につながることもあります。一方で、「このような特性があるから、ここは無理強いをせずに、本人ができるような工夫をしてあげよう」、「毎日安心して過ごせて、自身の力を発揮できる環境で学習できるように発達支援施設や学校を選んでいこう」と環境を整えることができれば、自己肯定感を保ち、挑戦する力や自分から支援を求める力が育ちます。診断を受けていなくても特性を理解して支援することは可能ですが、診断を受けることで主治医や支援者からの直接の情報だけでなく、本などの情報にもアクセスがしやすくなりますし、園・学校の先生、発達支援施設の支援者などとお子さんの特性や支援の仕方を共有しやすくなります。
ADHD(注意欠如多動症)の薬物治療については、これによって生活がしやすくなり、自己肯定感も向上し、情緒も安定して過ごせるようになったというお子さんが多くいらっしゃるのも事実ですが、副作用が生じることもあり、脳に直接作用するお薬になりますので抵抗感をお持ちの親御さんもいらっしゃることと思います。私が薬物治療を検討すべきと考えている状況の例として(特性の内容、困りごとの程度などによりケースバイケースなのですが)、自己肯定感の低下が強い場合、衝動性による他害や物の破壊が目立つ場合、飛び出しなど事故につながるリスクが高い場合、その他二次障害のリスクが高い場合などです。
親子で共に特性を受け入れ、工夫しながら生活していけることは、お子さんにとって大きな強みになります。これからも担任の先生や医師と連携しながら、安心して過ごせる日々を積み重ねていけるよう応援しております。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。