21歳、発達障害の娘のグループホーム入居を前に。親子でつくった「大人のサポートブック」に思い出と希望を詰め込んで
監修:井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員
娘のグループホーム探し
娘は、障害のある方の雇用の促進、そして安定を図るために設立された『特例子会社』に勤めていましたが、メンタル面の不調から体調を崩し入社3年目(2020年)に会社を休職しました。
休職から2ヶ月、投薬の調整もあり精神的に徐々に落ち着いていきた娘。休職中でも生活リズムを崩さないために、卒業校や基幹相談支援センター(※)に相談に行ったり、かつて放課後等デイサービスや居場所として通っていたNPO法人などを訪れていました。
※基幹相談支援センターとは障害のある人の支援を行う施設で、全国の市町村に設置されています。
そこで支援者との定期的な面談を重ねるうちに娘は「グループホーム」探しを決意。娘のグループホーム入居に向けた取り組みがスタートしたのでした。
大人のサポートブック
娘がグループホーム入居を前向きに考え始めたのを機に、私たちは転居先の自治体の担当者さんやグループホームの職員さんと情報を共有するための娘のサポートブック(※)を作成することにしました。
※サポートブックとは、支援者に知っておいてほしい、本人に関するさまざまな情報(特徴・接し方・支援方法など)をまとめたツール(冊子)です。
児童・学生向けのサポートブックのテンプレート(雛型)はネット上にも多くあるのですが、成人済の娘に合った内容のものはなかなか見つからず、
以前、基幹相談支援センターの勉強会でもらった冊子「親心の記録®」(発行/一般社団法人日本相続知財センター®本部)は秀逸なのですが、手書きでの記入が大変なのと、情報更新のしづらさが難点でした。
その後「親心の記録®」の内容をネットでダウンロードもできるようになりましたが、PDFなのでやはり手書きの記入や情報の更新には時間がかかります。
そこで私たちは、今の娘に必要と思われる項目を集めたオリジナルの『大人のサポートブック』をパソコンでつくることにしました。
本人がサポートブックをつくることの利点
幸いなことに娘はパソコンでの入力作業が得意です。また休職中で時間に余裕もありました。
なので娘には
・住所、氏名、生年月日や血液型、
・緊急連絡先
・使用している福祉サービスの種類
・現在かかっている病院や飲んでいる薬
・アレルギーについて
・得意なこと、苦手なこと
・趣味
・有効な指示の方法
・身辺自立の程度
などをまとめてもらいました。
この作業は娘が自分自身を改めて知る良い経験にもなりました。
親が作成したもの
保護者の私は
・成育歴※
・病歴
・過去に利用したことがある医療機関と診察券番号
・ヒストリーシート(学校や所属名)
・利用している施設や関係機関の連絡先と担当者
・保護者から見たフェイスシート(日常生活の自立の度合いを示したもの)
などをまとめました。
※生まれてから現在までの出来事(大きな怪我やいじめ、服薬など)を時系列で表にしたもの。成育歴は病院転院時や新たな支援機関にかかるとき、障害年金申請時などにも役に立つので早いうちからつくっておくのがおすすめです。ライフステージ(入園、入学、進学)が変わるごとに情報を更新しておくと良いと思います。
追加や差し替えもできるように
さらにそこに今回は支援者には渡さないけれど、今後の事を考え障害者手帳や障害年金証申請時の書類や診断書、今までの知能検査結果のコピーも付け加えました。
そして、これらの書類を差し替えや追加もしやすいようにバインダーにまとめました。
すると娘のサポートブックは『娘の歴史』といった感じのそこそこ厚い冊子になりました。
そして次のステップへ
6ヶ月の休職期間を終えるころには娘のメンタルは落ち着き、娘は以前と同じ職場に復職しました。
そして2020年1月末、グループホームから直接会社に通勤をする1週間の体験宿泊が決まりました。
コロナ禍ではありましたが、娘のグループホーム入居に向けた動きは着々と進んでいったのでした。
執筆/荒木まち子
(監修:井上先生より)
いよいよ娘さんがお家から出て、生活面でもグループホームでの自立の第一歩を踏み出すということで不安もあると思います。その中で、サポートブックを一緒につくるということは、本人と保護者共に実際の生活をイメージしていくのによいですね。
保護者が書くこととしては、かかりつけの医師の連絡先、お子さんの血液型、持病、調子を崩しやすい病気など医療的な情報も大切です。
重要な情報は、サポートブックとは別に普段身に着けられるタグをつくっておくのがおすすめです。お子さんの名前・血液型・持病、保護者の名前・連絡先、かかりつけ医の名前・連絡先などを記載しておくことで、急なケガや病気などをしてしまったり、被災してしまった場合などに役立ちます。
また、保護者が書く部分もお子さん本人に確認してもらいながら、表現にも気をつけて書くことが重要です。グループホームでの普段の配慮事項に関しては、実際に生活しながら変更したり加えたりしていけるとよいですね。