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第2回新潟国際アニメーション映画祭「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」上映記念 富野由悠季×出渕裕 特別対談(後編)

Febri

TOPICS2024.04.11 │ 12:01

第2回新潟国際アニメーション映画祭「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」上映記念


富野由悠季×出渕裕 特別対談(後編)

2024年3月15日~20日に開催された第2回新潟国際アニメーション映画祭。映画祭2日目となる3月16日、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア(以下、逆襲のシャア)』がイベント上映されることを記念し、監督の富野由悠季氏とモビルスーツデザインを手がけた出渕裕氏によるトークショーが開催された。後編では、『逆襲のシャア』で描かれたシャア・アズナブルをはじめ、アニメにおける「生っぽい人間像」について掘り下げるトークが展開された。

構成/森 樹 協力/新潟国際アニメーション映画祭

アニメクリエイター出渕裕富野由悠季機動戦士ガンダム機動戦士ガンダム 逆襲のシャア

『逆襲のシャア』でのシャアは、嘘ばかりついている

――『逆襲のシャア』に関して、出渕さんが今、思うことがあるそうですね。
出渕 ふたつ思っていたことがあります。ひとつは、シャア(・アズナブル)というキャラクターを再発見、再構築した作品ということです。『機動戦士Zガンダム(以下、Z)』のときに、クワトロ・バジーナという人がいたじゃないですか。あれは失敗作というか、クワトロをいい人にしちゃった。アムロ(・レイ)たちと一緒にしておいたほうが物語として膨らむかもしれないと。でもね、シャアってサイコパスなんです。彼は独善的で、自分でやろうとしていることに対しては手段を選ばなくて、そのうえ共感力がなくて人に嘘をつく。これから『逆襲のシャア』を見ていただくとわかりますが、嘘ばかり言っていますから。交渉のときも、女性や部下に対してもね。もしかしたら、アムロと対決しているラストシーンですら「嘘をついているんじゃないか?」と思うくらいです。
富野 その指摘は初めて聞いたけど――正しいね。つまり、ラストシーンでのシャアとアムロのセリフを作っているときに、じつはそのような感覚があったのを思い出しました。「なんか気持ち悪いな、本当はこういうのを作りたくないんだ」と。時間切れだからしょうがなかった。
出渕 『機動戦士ガンダム』の頃から、シャアってサイコパス気質があるんです。ただ、「カッコいい敵の悪役」みたいなオブラートに包まれているので、それに騙されているんです。
富野 あのファッションがいけないのよね(笑)。それは認める。
出渕 『Z』のときのクワトロ大尉は、主人公を導くような役割で作っちゃった。だから『逆襲のシャア』では『Z』での設定をないことにして、(『機動戦士ガンダム』から)直結させているようなところがある。とはいえ、『Z』も(宇宙世紀)の歴史上にはあるから、昔からの仲間やハマーン(・カーン)のことに触れたりするけれど、富野さんの中では「イヤだな、もうこれには触れたくないな」という気分があったのでは?
富野 それはあったね。

長編映画の面白さは、カットのリズム感で物語が語れること

出渕 ニュータイプというテーマにしても、『機動戦士ガンダム』の中で綺麗にまとまっている。人の革新がこれからどうなるだろうという“余韻”で終わる。余韻があったから美しいのに、続編ではそれを説明しなきゃいけなくなる。『Z』ではそれに困って、ニュータイプにはそこまで触れていない。だからこれは僕の偏見かもしれないですが、富野さんが『逆襲のシャア』でやりたかったのは、生っぽい人間を描くこと。サイコフレームやラストのスピリチュアルでオカルトな展開によって、(ニュータイプに)一応の理屈は付けたよ、という方便で見せているように思います。
富野 方便で見せているのではなくて、まさに方便です(笑)。そういう風にしないと、劇としてつながっていかないだろうというプレッシャーがあったんです。だから、サイコフレームのカットを描いているときも、「困ったな、本当はこういう意味では出したくないんだよね」と。出渕くんが説明している『逆襲のシャア』の解説は、すべて正しい。びっくりしているのは、コンテを切っているときの違和感まで思い出させてくれたことですね。
出渕 富野さんの作品は編集もいいんですよ。みんなあまり指摘しないですが、キャラクターがしゃべっている途中で、次にセリフがあるだろうという部分の頭だけを残して、あとは切る。これで不思議なリズムが出る。
富野 だけど……クソミソに「富野は編集下手だよね」って言っている庵野秀明という奴がいた!(笑)
出渕 でも庵野、『逆襲のシャア』が大好きだからね(笑)。僕も、最初に見たときにちょっと違和感があったんです。1回目じゃわからないことがたくさんある。親切設計ではないから、本来、説明するようなところも全部ダイアローグのやり取りの中に込めている。
富野 それも正しい。じつは今日、あらためて冒頭を見ました。ちょっと忘れていましたが、頭の3~4分の編集、うまいなあと(笑)。
出渕 うまいです。冒頭からこれができるんだ、と。リズムが出るんです。
富野 長編映画の面白さというのは、(カットの)リズム感で物語を語れるということでもあります。そういう意味では、『逆襲のシャア』もそれなりに頑張っているんじゃないか。そこは見てください。
出渕 普通、最初からお話を構築しなきゃいけないと思うと段取ってしまう。だけど、『逆襲のシャア』は段取っていない。(物語を見ていく中で)こういうことがあったのかなとわかる構造になっている。キャラクターの集まり方にしてもそうです。ハサウェイ(・ノア)が宇宙に行くときも、(アデナウアー・パラヤの)愛妾(キャサリン)がね、空港で怒って乗らなかったからハサウェイの分だけ搭乗席が空く。そこで搭乗したシャトルが戦闘に出くわして、父(ブライト・ノア)が乗る船(ラー・カイラム)に拾われて、みたいな展開は本当にうまいです。
富野 僕がうっすらとしか覚えていなかったことを、すべて言葉にしてくれてうれしい。

大人を描くという努力をしなければならない

出渕 ただ、僕はメカデザインをやっているので、自分がデザインしたモビルスーツが戦うのはいいのですが、もう少し(戦闘シーンを)切ってよかったんじゃないかと。
富野 なぜこんなに多いのか自分でもよくわからないけれど、たしかにあと2分切りたかった。戦闘シーンは飽きたら目をつぶっていてください(笑)。
出渕 描きたかったのは生っぽい人間、というところでいうと、とくに女性は素晴らしい。チェーン(・アギ)が出てきますよね。彼女はアムロの恋人で、ヒロインみたいな感じですけど、よく見ていくとイヤな女なんですよ(笑)。虎の威を借る狐のように強い男にひっついて、オクトーバー(・サラン)と話しているアムロの意見に突然「そうよ!」と被せてくる。「ああ、こういう人いるよね」と。女性陣で言えば、ケーラ(・スゥ)やレズン(・シュナイダー)はシンパシーを感じるというか、いい女ですよね。
富野 当然です。『逆襲のシャア』のときに映画の演出家としていちばん考えたのは、アニメに少しはまともな女を出すということです。それは本当に意識しましたね。なんでもかんでもハイトーンの、かわいい声だったら女と思っているのは趣味が悪すぎるんじゃないか、ということを言っています。
出渕 ナナイ(・ミゲル)とシャアがガウンを着て語らうシーンにも力が入っていますよね。あそこを見せたいんだろうなと感じました。
富野 ただ、問題なのは、今こうやって解説してもらってうれしいけれど、困ることもあります。つまり、(見せたいシーンがあるという)演出家の作為が見えすぎていること。それは映画としてはまとまりがない、ということかもしれない。だから、あのシーンはあまり好きではない。ちょっとやりすぎている。
出渕 意図が感じられすぎてしまう?
富野 それに嫌悪感があります。そういうところはもう少し上手にやらなきゃいけない。大人を描く努力をしなければならない。
出渕 細かいところでは、フレームの中に入っている(キャラへの)目配せの仕方も見てほしい。メインでしゃべっている人間に目が行くのは当然ですが、その後ろで演技をしている人にも注目してください。ブリッジでノーマルスーツを着るところでも、本来後ろの奴らは、作画の枚数を抑えるために止め絵でもいい。でも、後ろに映る小さな女の子も着ているから、生活感が増す。
富野 そういった工夫はね、『Gのレコンギスタ』でも一生懸命やりました。

きちんと意識を持てば65歳からでも仕事ができる

富野 出渕くんは、富野から何を言われても我慢してやってきたことがあるわけです。今、64? 65歳か。つまり、定年までやってきた。
出渕 今日、会った瞬間に「若いね」と言われて(笑)。
富野 それは実感します。65歳から『Gのレコンギスタ』を作り始めて、10年くらいやっていて、ようやくのところでちゃんと歩けなくなった。そのとき、大きな病気をしなければ、75歳までは働けるんだなと。じつは10数年前に脊椎管狭窄症というものになって、一歩も動けない瞬間があったんです。そこで気分をクサクサとさせないで、きちんと意識を持てば、65歳からでも仕事ができる。これからは「宮崎、潰すぞ!」と、皆さんが頑張ってください。アメリカの映画界も、アニメがティーンネイジャーのものだけじゃないとわかったのが今年です。ということは、それを受け継いでいくのは皆さんの、そして日本人の仕事じゃないかなと。お子さんのいらっしゃる方は、そういうことをお伝えいただきたい。
出渕 宮崎さんはもう一本作るかもしれないから、富野さんも絶対、もう一本作ってくださいね。
富野 宮崎監督はイチイチ引退っていうけど、僕はまだ言ってないからね(微笑む)。

(2024年3月16日 新潟市民プラザで開催)

富野由悠季とみのよしゆき アニメーション監督、演出家、小説家。『機動戦士ガンダム』や『伝説巨神イデオン』『聖戦士ダンバイン』など、数多くのSFロボットアニメを手がける。最新作は、2019年から2022年にかけて劇場公開された『Gのレコンギスタ』5部作。出渕 裕いづぶちゆたか メカニック/キャラクターデザイナー、アニメーション監督。富野監督作品には『戦闘メカ ザブングル』(メカニカルゲストデザイン)や『聖戦士ダンバイン』(メカニカルゲストデザイン)などに参加。2024年には総監修を手がけたTVアニメ『メタリックルージュ』が放送された。

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