東村山でしかできない5のこと
東京都の北西部、武蔵野台地のほぼ中心部にある東村山市。豊かな自然に恵まれながら、市内には9つの駅を有し、都心へ30分程度でアクセスできる利便性の高さが特徴だ。
住宅都市というイメージが強いが、1935(昭和10)年創業の老舗酒造や、40年近く続くタイ料理店をはじめ、訪れるべき名店が点在。さらにハンセン病患者・回復者の歴史を今に伝える資料館や、武蔵野の原風景が楽しめる緑地など多彩な表情を持つ。ぜひ本記事を参考に、東村山の魅力を改めて知ってほしい。
運命の酒に出合う。
豊島屋酒造
東京都では10軒しかない貴重な蔵元の一つであり、起源となる「豊島屋」は東京最古の酒舗でもある。その歴史は1596(慶長元)年までさかのぼる。豊島屋十右衛門が江戸・神田鎌倉河岸(現在の千代田区内神田)で酒屋兼居酒屋を始め、第12代当主の吉村政次郎が1935(昭和10)年に酒蔵を分社化、東村山に移設したのが、ここ「豊島屋酒造」だ。
武蔵野台地の地下150メートルからくみ上げた地下水を仕込み水として使用。香り高く豊かな味わいの日本酒が、手作業で丁寧に造られている。
ワンコインで楽しめる試飲スペースを設けた直売所「カモシノバ(KAMOSInoBA)」が併設されており、多様な日本酒やグッズが並ぶ。心地よい発泡感が癖になる「NEON」シリーズは売店限定商品なので、迷ったらこれを選んでおけば間違いはない。
老舗は本場の味を踏襲する。
タイ料理レストランサワディー
久米川駅から徒歩3分の場所にあるタイ料理レストラン。創業は1986(昭和61)年で、現在の店主は3代目となる。
年季の入った雑居ビルの階段を上り、扉を開けると、エキゾチックな空間が出現する。オープンキッチンからはナンプラーの香りが漂い、思わず食欲が刺激される。シェフは全員、本国で修業を積んだ経験豊かなタイ人。食材はできるだけタイ産を使用し、料理は日本人の舌に合わせることなく、本場の味を踏襲するのがこだわりだ。
定番から日本ではあまり馴染みのないものまで、幅広いメニューを展開。看板料理はパッタイを薄焼き卵で包んだ「パッタイ・ホーカイ」(1200円、以下全て税込み)。まろやかな卵、シャキシャキの野菜、弾力ある麺のハーモニーが楽しめる。
魚介好きにおすすめなのが「タイのお好み焼き」(1628円)。ムール貝やモヤシを小麦粉生地で焼き上げたタイの屋台名物だ。カリッと香ばしい表面と、ふんわりした中の食感のコントラストが見事で、甘酸っぱいチリソースともよく合う。
テーブル席に加え、窓際には広々とした座敷を用意。グループはもちろん、小さな子ども連れでも安心して過ごせるだろう。
隈研吾デザインのカフェで憩う。
和國商店
板金の折り鶴や壁掛けオブジェを展開する「ウチノ板金」が手がけるカフェ。国内外で人気の高い、美しい折り鶴などの作品も購入できる。
デザインは隈研吾が監修し、印象的な外壁には神社の緑青銅板が再利用されている。設計・施工は、自然素材で高性能住宅の建築を得意とする岡庭建設が担当する。
隈のデザインと、日本が誇る板金の技術を掛け合わせた同店に訪れよう。
知ることから一歩が始まる。
国立ハンセン病資料館
ハンセン病問題に関する中核施設。ハンセン病への誤解と偏見が繰り返されないことを願い、国が1993(平成5)年に「高松宮記念ハンセン病資料館」として、「国立療養所多磨全生園」の隣に設立したのが始まりだ。
常設展示室は、「歴史展示」「癩療養所」「生き抜いた証」の3エリアから成り、ハンセン病を巡る歴史や、隔離政策による人権侵害、偏見、差別の実例などを展示。また「多磨全生園」の寮舎「山吹舎」の一室が再現され、療養所の暮らしがいかに苦しいものであったかを知ることができる。
「ビデオブース」では、国内外の約60人の回復者や関係者の証言映像の視聴が可能。ハンセン病問題への理解を深められるだけでなく、人権問題を自分ごととして考えることができる貴重な場と言えるだろう。
現在、多磨全生園では約100人の回復者が暮らしており、平均年齢は87.9歳。近年では地域との交流も盛んに行われている。両施設ともに、久米川駅や秋津駅などからバスで10〜20分ほど。事前の申し込みは不要で、誰でも見学できる。
武蔵野の自然に癒やされる。
八国山緑地
ジブリ映画「となりのトトロ」に登場する七国山のモデルとなったことで知られる「八国山緑地」は、狭山丘陵の東端に位置する公園。東西約1.5キロメートル、南北約300メートルにわたって広がり、北側は埼玉県所沢市に接する。園内全体がコナラやクヌギを中心とした雑木林となっていて、多様な草花や昆虫を観察できる。
尾根道は適度なアップダウンがあるので、散歩やウォーキングに最適。ヤマザクラやヤマツツジなど、季節ごとに咲く花々を眺めながらリフレッシュできるだろう。
南側にある「ふたつ池」周辺は、バードウォッチングスポットとして人気で、季節の野鳥が見られる。緩やかな斜面には芝生で覆われた広場があり、ベンチや緑台も完備。休憩や食事をするのにピッタリだ。
なお、八国山緑地という名称は、上野、下野、常陸、安房、相模、駿河、信濃、甲斐の8カ国の山々が眺望できたことに由来するとされる。山頂には源氏の武将・新田義貞の武蔵野征討をしのぶ将軍塚が建立されている。周辺には江戸時代の地形や道筋などが残っており、当時の姿を今に伝えている。